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ハイも、リュウも、作者的にとても、お気に入り。
魔界での最重要人物は、マビルと兄のアイセル、及び弟のトーマですが。
これで、約4500文字、あと二万文字はOK。
・・・頑張れ私。
部屋を出たリュウには気づくことなく、ハイは優しく正面からアサギを抱き締めた。
力の加減が出来たらしく、今回はアサギも苦しくなさそうである。
暫し、ハイは口を開かなかった。
何か言おうと躊躇しているわけでもなく、ただ、アサギの温もりを確かめる。
「えーっと・・・ハイ、さ、ま?」
初めてアサギが名前を呼んだ、戸惑いがちに名前を呼んだ。
それが嬉しくて、思わず身体を跳ね上がらせる。
人に名前を呼んでもらえることが、これほどまでに嬉しいことだなんて、誰が思うだろう。
「無理を言ってしまって、すまないとは思う。だが、私はアサギと共に居たいのだ。絶対にアサギを傷つけないし、何からも護り通す。一緒に居てくれるだけで良い、それ以上は望まないから、こんな私の我侭を聞いてもらえないだろうか」
「・・・? えーっと、魔王と勇者が一緒にいると、良い事ありますか?」
「魔王と勇者、ではなくて。私とアサギ、と考えてみてはくれないだろうか」
「えーっと・・・」
明らかに困惑気味のアサギ。
いきなり連れてこられた魔界で共に過ごしてくれ、と言われてもはた迷惑な話である。
まさか、『一目惚れしました、好きです、付き合ってください』とは言えない。
「そのうち、順を追って話すから。今はその、なんだ。あー・・・ゆっくりしてくれ」
「はぁ・・・」
こうして。
勇者として異世界に召喚されたアサギは、何故か成り行きで魔界イヴァンで過ごす事になった。
勇者の隣に居るのは魔王ハイ、どうしても受け入れがたい事実である。
優しい瞳と柔らかな声、とても魔王には思えないのだ。
勇者として、やるべきこととはなんだろう。
目的は、世界を救うことで間違いないだろう。
世界を救うということで、魔王の存在を聞いた、魔王を倒せば世界に平和が訪れる・・・はずだった。
魔王なら、目の前に居る。
世界を破滅に導き、劣悪な者・・・魔王。
本当にそうだろうか?
そもそも、城を破壊され、仲間を殺されたというサマルトとムーンとて、魔王ハイの姿すら知らなかった。
本当にそれを行ったのは、ハイなのだろうか? 何かの間違いではないのか。
目の前で自分を抱き締めているハイを見上げながら、アサギは唇を噛み締める。
とても、魔王には思えない。
魔王なら、勇者を抱き締めたりはしないだろう。
先程まで共に居た仲間達と同じだ、優しいし、あったかい。
「もしかして・・・私達は大きな間違いをしてる・・・?」
小さく零した言葉。
心に住み着いた疑問を、消すことが出来ない。
解決するのに時間がかかりそうな疑問である。
『勇者としての、私の目的は何なのですか?』
心で、誰かに問いかけてみた、その答えを、自分で見つけようと思った。
悪行を働いているのは、もっと別の何かであって、魔王はひょっとしてただの偶像では?
とりあえず、今は。
「えーと、ハイ様。少しお時間を下さい、です。ちょっと混乱してます」
「だろうな。疲れただろう、休むと良い」
気まずそうにハイはそっとアサギの身体を離し、部屋のドアへと向った。
「何かあったらすぐ呼ぶんだぞ?」
「わかりました」
「夕食の時間になったら、また来る。おやすみ、アサギ」
「・・・おやすみなさい・・・?」
軽く手を振って離れる二人、アサギはドアが閉じた音を聴いた後、首を傾げた。
何故、魔王と挨拶を???
混乱しつつ、これ以上考えると知恵熱が出そうだ、アサギは一人くぐもった声を出しながらベッドに倒れ込む。
考えても解らない、何をすべきなのかが、解らない。
私は、勇者。
魔王ハイと、リュウが近くに居る。
みんなとは、離れ離れ。
ここは、魔界。
すべきことは、何?
『魔王を倒す事』
・・・魔王を倒す? 悪い人たちには見えないけれど、倒さなきゃいけないの?
『魔王を、倒すの』
でも、私には。
『魔王は、まだ存在するの。あなたが倒すべき相手は、もっと別の魔王』
・・・?
いつしか、夢の中へと入っていたアサギは、夢で誰かと会話していた。
誰かがわからないけれど、酷く懐かしい声だった。
以前も聞いた気がする声だ、何処でだったか・・・。
つい最近聞いた気がするのだが。
思い出せない。
「アサギ、アサギ? 大丈夫か? 夕食だぞ」
揺さ振られて、重たい瞼をゆっくりと開く。
見慣れない男の人に、高すぎる天井、何処か把握するのに時間がかかった。
「・・・」
「大丈夫か? 魘されていたが。」
「だい、じょうぶです・・・」
優しく抱き起こされて、額に手を当てて考える。
徐々に思い出す記憶、ここは魔界で、魔王の城の一室。
どうも深い眠りに入っていたらしく、上手く考えがまとまらなかった。
ハイに抱きかかえられて、城を歩き回り、庭へと到着。
紫陽花が咲き乱れる庭園に、ランプの淡い光が幻想的な、ディナーの場所である。
思わずアサギは歓声を上げた。
その美しい光景に目が釘付けになる、見れば蛍も舞っている様だ。
ハイが育てて作ったというマーマレード、苺のジャムをパンのお供に。
羊の臓物を煮込んだというものやら、ローストビーフ、ポテトやニンジンの塩茹でも、パンに良く似合う。
「・・・魔王も普通に食事するんですね・・・」
「うん。お腹空くし」
「・・・ですよね・・・」
目の前で食べ続ける二人の魔王を見つつ、アサギは軽く溜息を吐いた。
美味しいのだ、この料理。
非常に場景も美しいのだ。
が。
何故、魔王と食事をしているのか、疑問である。
2人は全く気にする様子もなく、余程空腹だったのか、我先に、と食べているのだが。
料理がなくなる前に、アサギも夢中で食べ始める。
「美味しいですよね、この料理」
「気に入ってもらえたか? よかったー。料理人を叱咤した甲斐があったものだ」
得体の知れない生物の料理が出てきたら、どうしようかと思っていたのだが、その心配はなさそうだ。
食後になると、ハイがこれまたお手製の紅茶を煎れてくれたので、星空を見上げつつまったりとした時間を過ごす。
ここは、何処だ? 魔界だ。
考えるのも馬鹿らしくなってきたのだが、真面目なアサギはひたすら今の状況を考え続ける。
魔王と、お茶。
「・・・あの。この紅茶もさっきのジャムも、ハイ様が作られたとか?」
「うむ。趣味で」
「しゅ、趣味ですか・・・」
魔王の趣味に、ジャム作りとか、紅茶煎れとか。
首を捻って低く唸るアサギ、気にする様子もなく、リュウが口を開く。
「私も苺が大好きでねー、自家栽培してるのだー。今度自慢の苺畑に連れて行ってあげるのだよ」
「じ、自家栽培・・・」
美味しい紅茶を飲みつつも、納得がいかない、と不貞腐れるアサギ。
随分と魔王のイメージが変わってしまった、とても・・・倒せそうにない。
「あのー、聞いて良いのか分かりませんが、質問をいいでしょうかー?」
「いいぞ、いいぞ、どんどん聞いておくれ!」
控え目に言ったアサギだが、妙に乗り気なハイに、たじろぐ。
「普段は何をされているんですか? 魔王のお仕事ってなんですか?」
「普段?」
ハイとリュウは顔を見合わせる、軽く首を傾げて日常を思い出しているようだが。
「・・・朝起きて、畑に水をやりに行ったり、果物を収穫したり」
「木陰でお昼寝して、水遊びとか・・・」
「夜はこうして、まったりと星の鑑賞」
聞かなければ良かった、と項垂れるアサギ、嬉々として語る二人を、恨めしそうに見つめる。
魔王のイメージ、型崩れである。
紅茶を飲み干すと、アサギは多少乱暴にカップをテーブルに置いた。
「あのっ! 私は一応勇者です」
「うん、知ってるのだー。可愛い勇者だよね」
「っ!? 敵対してますよね!?」
「そうだろうなぁ、魔王と勇者だからなぁ」
「では、何故寛いでこんなふうに、星空の下で紅茶を飲んでいるんですか!?」
「そうは言われても・・・」
立ち上がって、アサギは右手に魔力を集中させる、呪文を発動させるつもりだ。
が、驚いた様子もない二人の魔王は、困惑気味にアサギを見つめるばかり。
「こ、こうやって、私が攻撃したらどうするんですか!?」
「どうしようかな、でも、アサギは攻撃しないと思うのだ」
リュウのその言葉に、思わず力が抜けたアサギ。
「敵意のない人物には、自分から攻撃出来ないよね、アサギは」
微笑まれて、そう言われる。
一瞬呆けたが、すぐに赤面すると両手を天に掲げた。
馬鹿にされたと思ったのだ、勇者なのに。
「出来ます、私、勇者ですからっ」
「いいよ、やってごらん。でも、アサギには、出来ないのだ」
「出来ますっ」
「出来ない」
リュウがゆっくりと立ち上がる、ほくそ笑んで芝生を踏みながら、アサギへと歩く。
気迫負けして一歩づつ後退するアサギに、更にリュウは微笑んだ。
「やってごらん。至近距離に入ってあげるのだ。呪文、思い切りぶつけていいのだよー?」
「っ・・・!」
目の前まで来られて、視線を合わせるように屈まれて、リュウが一言。
「さぁ、可愛い勇者様。魔王ハイでも、魔王リュウでも、どちらでも。攻撃してみてごらん」
後方でハイが深い溜息を吐いている、からかいすぎだ、と言いたいらしい。
アサギは身体を小刻みに震わせながら、懸命に呪文を発動しようとした、けれど。
「・・・で、出来ません」
ゆっくりと、力なく腕を下ろす、涙目でリュウを見つめた。
「悪い人に、思えないので。・・・攻撃出来ません・・・」
「でしょー。そうだと思ったのだー」
あはは、と軽く笑うリュウ、ぽんぽん、と肩を叩かれて、手を引かれて席へと戻った。
「この際、勇者と魔王を忘れるのだ。そのほうが気も楽なのだよー?」
「では、こちらが質問しよう。アサギのこと、教えてくれないだろうか」
「・・・はぁ・・・」
2人の魔王が、子供のように瞳を輝かせて身を乗り出してきたので、アサギは苦笑いしつつも小さく頷く。
「ご趣味は?」
「趣味ですかー、お菓子を作ったりとか・・・」
「ほぅ、家庭的なのだ! 好きな男性のタイプは?」
「えーっと、笑うと可愛い人で、一緒に居ると楽しくて・・・」
「よし、ハイ、笑うのだ! ・・・可愛くない笑顔なのだー・・・」
「・・・あの、すいません・・・。この質問、何か意味が?」
「気にしなくていいのだ、アサギ。んー、恋人にするのに年齢は関係しますか?」
「えーっと、・・・別に・・・」
リュウの質問に、きちんと真面目に答えるアサギ、笑い転げながらリュウはハイを見ている。
「では、最後に。今、好きな人はいますか?」
「え」
ハイが硬直する、リュウが先程と変わらぬ笑みでアサギを見つめている、アサギが、赤面する。
「・・・あの、その質問の意図は何でしょう」
「細かい事は気にしちゃいけないのだー。で、好きな人は?」
俯いて、必死に泣き出したいのを堪えているハイ、心の中で爆笑しながら、リュウはアサギに詰め寄る。
「好きな人、というか、気になっている人ならいます」
「それは、ハイですか?」
「いえ、ハイ様ではないですけど・・・」
アサギの声を聞いた途端、ハイは椅子から盛大にひっくり返って泡を吹いた。
「きゃー!? ハイ様!?」
「可哀想なハイ・・・。まぁ、でも、気になっている程度だしねー」
慌てて駆け寄って抱き起こすアサギ、リュウはそんな2人を見つめつつ、飲み残しの紅茶を飲み干して。
明日から、面白くなりそうだなぁ、と一人呟いて、にんまり。
魔界の夜は、更けていく。
勇者が訪れたその地で、ゆったりと、時は流れる。
全ては『運命』、定められた、運命。
勇者に焦がれ、勇者になった異界の娘が、魔王に見初められ魔界へ来た。
そう、運命。
遠い昔に廻り始めた運命の歯車は、終焉を迎えつつある。
その時、魔界で。
魔王アレクがひっそりと自室からそんな三人を見ていた、微かに瞳に希望を燈し。
アサギに瓜二つな魔族の少女が、沸きあがる苛立ちで魔法をがむしゃらに連打していた。
その兄が、緊張した面持ちで親友の下へと向った。
魔王ミラボーと側近のエーアが、暗闇で笑い転げていた。
魔王ハイの側近であるテンザが、三人を見つめ歯軋りしていた。
夜空に浮かんだ星々が、唄を奏でる。
煌いて、哀しく、啼く様に奏でている。
全ては、ここへ来てしまった一人の小さな勇者の為に。
勇者でありたいと願った、少女の為に。
廻る歯車、指し示す。
『じかんが、ないの―――』
『あなたは、まちがえないで―――』
『ねがうの、おもいえがくの、いちばんあなたがしたいこと―――』
不意にアサギは顔を上げた、リュウが背負ったハイの手を握りつつ、城内で立ち止まる。
誰かに呼ばれた気がしたのだ。
魔界へ来てから、何度も聞いた気がする声である。
「・・・誰?」
問いかけにも、答えない、その声の主。
まだ、アサギには解らない。
その人物を、よぉく、知っているのに、解らない。
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