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まだまだ続きますー。
別サイトの限界が3万文字なので、ギリギリまで魔界編を書いたら、第32話、トビィ君へ。
ちなみに、これで約5千文字なのです。
あと、6倍はかーけーるー。
年内で終わらせられますように(祈)。
「さて、到着したぞ。先程の怪我は大丈夫か?」
声を虚ろに聞きながら、アサギは目を凝らして状況を探る。
薄暗い部屋、床には何やら得体の知れない文字で陣が描かれている、それ以外は何もない。
強いて言うならば蝋燭が四本、壁に設置されており、影を揺らめかせている。
様子を一通り確認すると、アサギは軽く頷いてハイを見上げた。
そんな様子にハイは穏健な笑みを浮かべ、満足そうにアサギの髪を撫でる。
アサギが身動ぎしたので、丁重に地面へと下ろすと手を引いてドアへと向った。
その手はとても暖かく心地良く、ハイを安堵させる。
同時にアサギもその温もりに、僅かながら緊張を解いた。
闇に包まれ、アサギの瞳では映す事が出来なかったそのドアを押して、飛び出した先は。
眩しい光が瞳を襲う、激しい痛みを感じて顔を手で覆い隠した。
先程とは別世界の場所だった。
「ど、どうした、傷が痛むのか!?」
顔面蒼白、アサギを揺さ振るとハイは心配そうに覗き込む。
ハイはこの眩しさに慣れているようだ、何も感じなかったのでアサギが何故手で顔を覆い隠したのか、どうやら真剣に解らないらしく。
数分後、恐る恐る顔から手を外したアサギは、自分を覗き込んでいたハイと視線を合わせて軽く首を横に振る。
瞳への刺激で涙が瞳に浮かんでおり、思わずその艶っぽい表情に胸を高鳴らせたハイ、お陰様でかける言葉を一瞬忘れてしまっていた。
戸惑いがちに咳を一つ、視線を照れながら逸らして言葉を紡ぐ。
「今、アサギの部屋へと招待しよう。何か足りないものがあれば直様言うように。何でも揃えてやるからな」
足取り軽く、ハイは別のドアへとアサギの手を引き進んだ。
ようやく明るさに慣れた瞳で部屋をぐるり、と見渡したアサギ、窓から入り込んだ優しい光が部屋に飾っている観葉植物達を照らしている。
先程の闇色の部屋とは、全く持って対照的な部屋であった。
窓から不意に見えた外の景色、森林が果てなく続き、河が流れ、雄大な自然の恩恵を受けている。
その光景を瞳に映した瞬間、思わずアサギは空いた手でハイの衣服を思い切り握り締める。
興奮気味に振り向いたハイに語りかけた。
「あ、あの! ここは一体何処ですか?」
「ここ? 私の自室だ。結構気に入っているのだが・・・どうした、気に入らないか?」
余情溢れるその声に、ハイは思わず何事かと不安そうに語る。
「いえ、部屋もとても綺麗ですし素敵だと思います、が。そうではなくて、外です。外は一体何処ですか?」
「綺麗で素敵、か! よかったー。整理整頓は大事だよな。アサギにそう言って貰えて私も嬉しいが部屋も喜んでいる事だろう。外は魔界イヴァンのカピスという地区だよ」
流暢に語りだしたハイ、驚愕の瞳でアサギは手を振り払うと、窓へと余勢にかられて走った。
「こらこら、危ないから走るのはやめなさい。転んで怪我でもしたらどうするのかね」
後方から投げかけられる言葉を無視して、アサギは窓を開き、思い切り息を吸い込む。
「うそっ! こんな綺麗な場所が魔界!? 本当に魔界イヴァンですか!?」
動揺と懐疑心の籠もった声、振り返るとハイを軽く睨む。
優しく微笑みながらハイは近寄ると、難なくアサギを抱き上げて窓から外を見下ろした。
「魔界だ。驚くのも無理はあるまい、私もここへ訪れた当初は面食らったものだ。大概闇に包まれた陰気臭い場所だろう? 私の星もやたら空気がよどんでいたし、リュウが居た場所も暗雲立ち込めているような場所であったし・・・。だが、ここは自然に囲まれた雄大な場所だよ。とても気に入っているんだ」
「・・・自然が好きなんですか!?」
「え? あぁ、そうだが」
じぃ、とハイを見上げて挑むような視線を突きつけるアサギに、たじろいで頬を赤らめる。
ハイの目の前に右の人差し指を一本近づけて、一言。
何事かと、頭にクエスチョンマークを浮かべるハイ。
「あなた、ハイって魔王じゃないんでしょう!? 騙されませんから。あなたは誰? ここは何処?」
気迫負けし、反論できずに居たハイだが、暫しの後ようやく口を開く。
「い、いや、私は魔王ハイ・・・と呼ばれている一応。で。ここは魔界イヴァンのカピス地区だ。間違いない」
「違うはずです! 嘘は駄目です! 私が子供だから、馬鹿にしてますか!?」
「ば、馬鹿にするだなんてそんなことは・・・」
間入れず切り返し、真剣に見つめてくるアサギに、ハイの心臓は停止寸前だった。
破裂しそうだ。
今気が付いたのだがアサギの着用している衣服が、スカートの丈が短く、抱き上げた拍子にスカートがめくれて柔らかく白い太腿が露に、おまけに上から覗き込んでいるため胸の谷間が見えそうだ。
あまりに美味し過ぎる光景である。
忘れようと脳裏に焼きついたその光景を振り払うように、懸命にハイは頭を振った。
が、免疫のないハイにとってそれは刺激的過ぎたのだ。
「ごふっ」
鼻血を吹き出しつつ、グラリ、と揺れながら後方に倒れ込む。
「えぇ!? ちょ、ちょっと、あのっ」
何故こんな状況に陥ったのか理解が出来ないアサギ、ハイに抱きかかえられたまま同じ様に床に倒れこむ。
置き上がってハイの両腕を引っ張る、が、自分の体重の約二倍の男を引き上げられる事が出来るわけもなく。
困り果てて不意に視線を感じ、ドアへと目を向けた。
「あ、のー。助けてください、この方、鼻血を出して倒れてしまったんです」
ハイの上にちょこん、と乗ったまま話しかけてみる。
ゆっくりとドアが開き、そこから黒髪の男が姿を現した。
いわずとも魔王リュウである、ハイの気配を感じ取り部屋の外で様子を窺いつつ笑いを懸命に押し殺して一部始終を見ていたのだ。
込上げてくる笑いを必死で押し殺して、アサギの手前で上品にお辞儀をした。
思わずアサギも礼をする、満足そうに深く頷くとリュウはアサギを軽々と持ち上げてハイの上から退かしつつ。
「ハイ、起きろー」
ばこん!
頬に殴りかかるリュウ、隣で唖然とアサギが目を見開いてその暴行を見つめる。
「な、何しているんですか!?」
慌てて止めに入るアサギ、お構いなしにリュウは再度逆の頬に殴りかかった。
低く呻いてハイが瞳を擦りながら起き上がる。
「やぁ、お目覚めかい、ハイ。おはよう、お久し振りでお帰りなさい、おめでとう」
「またわけのわからんことを、お前はっ。・・・はっ!? そんなことよりアサギは何処だ!?」
頬を擦りながら起き上がったハイ、傍らで心配そうに見ていたアサギを視界に入れた途端、強引に引き寄せて抱き締める。
「あぁよかった、夢じゃなかった!」
ぎゅう、と押し付けられて苦しそうにもがくアサギ、露骨に溜息を吐いたリュウは、アサギとハイを引き離した。
何をするんだ、と目くじら立てて怒鳴るハイの傍らでアサギが苦しそうに咳き込んでいる。
危うく、再び窒息するところだった。
「ともかく、ハイ。鼻血を拭くのだ、鼻血を」
リュウがハンカチをハイに差し出す、渋々とそれで鼻血を拭き始めた。
そんな2人の様子を唖然と見つめていたアサギは、交互に見比べリュウへと視線を移す。
リュウのほうが話が通じそうだと、判断したらしい。
「あの、私はアサギといいます。ここは何処ですか?」
微笑んでアサギの肩を軽く叩くリュウ、鼻血を拭きながらハイが「触るな!」と睨みつけるがお構いなしである。
「やぁ、はじめまして、おぜうさん。私は1星ネロの魔王リュウ。ここは4星クレオの南半球に位置する魔界イヴァンの中心地、カピスに存在する魔王アレクの居城の一室、三階ハイの部屋だよ。理解して貰えたかな?」
不安は募るが、確かに非常に解りやすい説明であった、アサギはリュウに詰め寄る。
「嘘ですよね? 魔界ってもっと、こう・・・闇に包まれて光の届かない、自然も何も存在しない世界ですよね? 魔王ハイにしても、非常に悪い人だと聞きました、が・・・そうは見えませんし。ここ、何処ですか?」
怯えず、堂々と怜悧そうな雰囲気のアサギに、思わず感嘆の溜息を漏らすリュウ。
愉快そうに笑い出したリュウに、些か眉を吊り上げるアサギ、彼女は真面目に言っているのだ。
「ここは間違いなくイヴァンだ。魔界らしくない、というのなら文句はアレクに直々にいうと良いのだ。私達は部屋を借りているだけなのだー」
納得できずに、目の前の2人を睨みつけるアサギ、だが突如騒がしくドアが開いたかと思うと緑色の丸っぽい物体が部屋へと侵入してきた。
思わず悲鳴を上げるアサギ、蛙が巨大化したような物体である。
「ミラボー! 何やってるんだ、アサギを驚かせないでくれ。おぉ、可哀想に」
子供をあやす様にアサギを抱き込むと、背中を撫でて落ち着かせるハイ。
その様子が堪えたのか、望まない冷遇にミラボーは絹の袋を一つ、リュウに手渡す。
「いや、驚かせてすまんかったー。これは我からのせめてもの祝いの品だ。宝石が入っておる、よかったらその子に」
手短にそれだけ告げると、ミラボーは再度けたたましい音を立てながら、部屋から立ち去っていった。
ハイとリュウはアサギを見つめる、ようやく我に返ったアサギは、恐る恐る2人に振り返ると。
「・・・やっぱりここは・・・魔界イヴァンですか?」
2人は顔を見合わせると、あぁ、と落ち着いた声で返答してきた。
頭を抱えて乾いた笑い声を出すアサギ、勇者になって数日、魔界へ到着してしまったのだ。
急展開についていけない、そもそも魔界へ来たら成すべきことは唯一つ、魔王退治ではないのか?
混乱気味の思考、そんなアサギを他所に、いそいそと浮き足立つハイ。
アサギの手を引き、ハイは部屋を出る。
ついてきたリュウを一喝し、アサギの部屋へと足を向けた。
どれだけ罵声を浴びさせられても、睨まれても、リュウは気にする様子もなく後をつける。
アサギの部屋はハイの隣だ、そう遠くはない。
歩きながらハイは部屋の説明を開始した、見立てをし、似合いそうなドレスばかりを何着も集めた、装飾品にも拘った。
アサギは聞きながら首を傾げるばかりである、何故に魔王が自分の為にここまでしてくれるのか、である。
敵対している・・・はずだ。
しかし、親切すぎるのだ、魔王達は。
2人の様子を窺いつつ、後方でリュウはにんまり、とほくそ笑んでいる。
諧謔に富む図柄だよなぁ、とか小声で呟きつつ。
「さぁ、ここがアサギの部屋だ。気に入って貰えると嬉しいのだが・・・どうだ?」
緊張した面持ちでドアを開く、アサギの鼻に良い香りが届いた。
興味に駆られて小走りにアサギは部屋に飛び込むと、歓声を上げた。
「す、すごいー・・・」
植物が置かれている日当たりの良い部屋で、品よく可愛らしく家具が揃えられている。
「服も用意したんだ、サイズは大丈夫だと思うが、念のため後で着用して欲しい」
照れながらハイはクローゼットを開く、ずらり、と処狭しと並んだ衣服が飛び出してきた。
「え、これ・・・。みんな私のなんですか?」
地球の自室にある衣服よりも、こちらのほうが量が多そうだ。
ここまで来ると訝しむしかない、一体魔王の目的とは何なのか、である。
「もちろん、好きに使ってくれ。アサギの為に用意したのだから」
流暢に言われ、疑心難儀の念に駆られるアサギ、そんな様子に気づいていないのかハイはそっと額に口付けた。
この時ばかりはリュウもからかう事をやめて、そっと静かに部屋の外へと出て行く。
「上手くやるのだ、折角この私が気を使ってあげたのだからー」
自然に本音が流露された。
壁に持たれて一人天井を見上げるリュウ、思わず懐旧の情に駆られる。
そして悔恨の情にとらわれた、何処か遠くを見つめ続ける。
リュウは自嘲気味に鼻で笑うと、それでも、その『想い出』に浸る。
もう、戻れない遠い日の風景、もう、何処にもない彼の地。
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