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トモハルのラスボスは、ブログを呼んでいる方なら一発で分かったのでしょうけど・・・。
アサギですー。
勝てませんー。
『もし。我等の魔力を超える程、強い想いがあったとしたら。消去の魔法が解けて、記憶が戻ってしまう。としても。決して他の仲間には話さぬように。それだけは約束して欲しい』
甦る言葉、あぁそうか、こちらから接触してはいけないんだった。
ミノルが窓から顔を出して不思議そうに俺を見ている、苦笑いで手を振ると固く唇を噛み締めた。
徐々に思い出す、三年前から今までを思い出す。
そしてようやく。
リョウ・・・三河亮の存在を思い出した。
自信満々に言い放っていた「思い出す」と。
記憶を取り戻したメンバーとなら、会話しても可能だと言っていた。
ならば。
小学校の時の文集を引っ張りだし、住所録を確認。
俺は家を飛び出す、自転車に飛び乗って一目散にリョウの自宅を目指した。
思い出したからといって、別に今後の事を話すわけでもない・・・だろう。
ただ。
三年前のあの日から、異世界と地球を行き来していたあの日までの追憶を、誰かと語りたかった。
マビルを思い出したことを、誰かに解って欲しかった。
思い出したところで、マビルが生き返るわけでもないけれど。
それでも・・・俺の中でマビルが行き続けている事を、誰かに知って欲しくて。
リョウの自宅へ向っていて、記憶が不意に戻る。
あぁ。
アサギの自宅の傍なんだ、と。
リョウの自宅へ行き、チャイムを鳴らした。
お母さんが出てきて、不在だと告げられる。
息を切らせて自転車を漕いで来た自分に苦笑い、仕方なく道を引き返そうと思った。
が、急に思い立ってアサギの家へと向う。
時は夕刻を過ぎ、暗闇が満ち始め、星が顔を出していた。
「・・・あれ、こんばんは」
声をかけられたので驚いて顔を上げると。
リョウが。
リョウがこちらを見て微笑んでいた。
「こんばんは」
「珍しい場所で会うね。誰かに会いに来たの?」
「そんなトコ」
「へぇ」
リョウはそれきり、しきりに何かを見上げて真剣な眼差しで・・・口を閉ざしている。
記憶が戻っているのか、いないのか。
あれだけ堂々と言い放ったんだ、思い出しているだろうな?
どう切り出せばいいのか解らず、立ち尽くす。
無言でリョウの視線を追った。
思わず息を飲んで、凝視する。
「・・・よくね、星空を見上げているんだよね」
ぽつり、とリョウが呟く。
「気づいたときにはもう、アサギはあんなふうに夜空を見上げていた。雨で星が見えない時は立っていないけど、晴れた日はああして、”何かを探っている”」
そう、アサギが部屋のベランダから外に出て、無表情で星空を見上げていた。
瞬きしていないのではないか、というくらいに微動だしないで。
「・・・いつ、記憶が戻った?」
静かにアサギを見ながら訊いてみる、確信した、リョウは記憶を取り戻している。
「僕は、中学一年の真冬」
思わず固唾を飲む、速い、恐ろしいほど記憶を取り戻すのが速い。
つまり、消去されてから、約一年後には取り戻した、っていうのか。
それほどまでに、リョウのアサギへの想いが深い、ということになる・・・のだろうか。
俺のマビルへの想いよりも?
こんなことで悔しがっても仕方がないが、無性に苛立つ。
見透かされたように、簡易れず言葉が飛んでくる。
「僕とアサギは特別なんだ。気にしないで」
・・・どう特別、っていうんだ。
「トモハルの記憶が戻ったのは最近だね? 媒介はマビル、ってとこかな。・・・勇者の中で、トモハルが一番最初に記憶を取り戻すと思ってたんだ」
視線はアサギのまま、つらつらと語るリョウ。
何もかも、お見通しだって?
勘に障るな・・・。
何も言い返すことなく、俺もアサギを見続ける。
ふと。
アサギが、マビルに見えた。
目を擦る、マビルに、見えた。
「マビル・・・?」
思わず口に出してしまう。
苦笑いでリョウが違うよ、あれはアサギだと、と嗜めるように言ってきたけど、そうじゃない。
「アサギなんだけど・・・一瞬、独りきりになった時のマビルに見えた。独りが嫌で、寂しくて仕方ない、っていうマビルに見えた」
洩らした言葉に、リョウが俺を見るのが解る。
凄く、アサギが寂しそうに見えたんだ。
あの時の、マビルみたいに。
独りで、誰も廻りにいなくて、助けて欲しいみたいな・・・そんな雰囲気に見えた。
以前のアサギとは、全く違う、まるで・・・別人だ。
「なるほどね。マビルに近いが故にアサギの異変に気づいた、ってとこかな」
リョウの声のトーンが、低くなる。
ようやくここで、リョウと視線が交差した。
何か、話そうとしていることが解って、思わず唾を音を立てて飲み込む。
額を、汗が伝った。
「あの日、僕達にかけられた記憶消去の魔法はアサギだけ、特別だったんだ。もともと、アサギを救う為に計画されたもの、当然アサギの記憶が戻っては困る。記憶が戻ると困るから、その原因になりそうな僕達も記憶を消される羽目になった」
「あぁ、知ってる」
「アサギの記憶を消去し、尚且つ封印する。二重の鍵をかけた。クレロにトビィ、あの時のメンバーが総出でアサギに携わっている。思い出せば、再度苦痛に心が悲鳴を上げるのが、解っていたから」
けれど。
リョウが小さく呟いて、アサギを見上げる。
「それでは足りない、多分アサギも思い出している。人によって記憶が操作されても、呼び起こすだけの想いと力がアサギにはあるから」
「それじゃ意味がないじゃないか」
「僕はね、遠い過去の記憶まで戻ってきちゃったんだ。・・・アサギも同じだと、厄介なんだ。せめてトビィが居てくれたら心強いんだけど、異界への路は閉ざされたまま」
リョウが自嘲気味にそう呟く、”遠い過去の記憶”が気になった。
言っている事が曖昧で意味が解らない、顔を思わず顰めると、不意に上から何か声が聞こえてきた。
・・・アサギが、何か喋っている。
というか・・・歌っている?
瞳を細めてリョウが食い入るように見つめている、俺も聞き取ろうと必死になった。
耳を澄ます、いや・・・神経を研ぎ澄ます。
「・・・の、あ・・に、ご・・・さ・・、つ・・た・・。ず・・、あ・・・す・・・・い・。お・・い」
聞き取れない、声が小さすぎて聞き取れない。
やがてアサギは一頻り歌うと、部屋へと消えていった。
沈黙がその場を覆う。
俺は深い溜息一つ、リョウへ向き直った。
「記憶が戻ったところで、特にどうにもならないけど。誰かと話がしたくて会いに着てみたんだよね、リョウに。絶対思い出すって言ってたからさ」
「トモハルはマビルに会いたい?」
唐突に、リョウが俺を見てそう言った。
・・・は?
会いたい、と訊かれたら答えはYESだ。
けれど、マビルは死んでしまった。
あの日殺された、リョウだって見ていただろ、あの場に居ただろ?
人を馬鹿にするのもいい加減にしろよ・・・。
よほど俺が怖い顔をしていたのか、苦笑いでリョウが軽く手を振る。
「怒らないでよ。トモハルはマビルに会いたいか、って訊いてるんだ」
「会いたいに決まってるだろ! でも、会えるわけないじゃないかっ」
怒鳴った、道行く高校生が驚いて自転車を停めた、近所のおばさんが家から顔を出した。
不意にリョウは微笑して、再度アサギの部屋を見る。
「会えるよ。トモハルがマビルを思い出して、会いたいと願っているから、会えるよ。その願いは叶えられる。マビルは地球で産まれたわけじゃない、クレオで産まれている。だから多分・・・蘇生も可能だ」
蘇生が・・・可能!?
そんな馬鹿な!?
じゃあ、何故あの日、あの時にそれをしてくれなかったんだっ。
「トモハルがマビルを想い続けているから、その願いを汲み取って。・・・多分近いうちにトモハルはマビルに出遭える筈だよ」
視線が俺へ向く。
打って変って険しい表情になったリョウに、思わず固唾を飲み込んだ。
「トモハルは、マビルを全力で護ることだけ、考えていればいい。護る為に、何が出来るかだけを考えていればいい。・・・例え他に障害が出ても、それを救おうとはしないことだ。いいね? ・・・それは僕とトビィの役目だから」
「それがさっき言っていた”遠い過去の記憶”から予測されたのか?」
「そう、だね。全ては星が知っている。星と太陽、月が知ってる。大地の鼓動、命の叱責。全ては・・・」
キィィィ、カトン。
不意に、奇怪な音が聞こえた。
何処かで、何かが廻った音が聞こえた。
思わず辺りを見回して音の出所を探すが・・・見つからない。
「聞こえたんだ、音。・・・近いな。トモハル、マビルに会えるよ・・・もうすぐ」
「ま、待てよ! 詳しく説明してくれないか!?」
「トモハルは、マビルのことだけ考えていてくれないか。・・・あまり巻き込みたくないんだ」
そんなことを言われても、混乱するこの状況をどう把握してよいのか。
涼しげな顔で、それでも緊張した面持ちでリョウが見てくるから威圧感に襲われた。
「アサギの対であったクレオの勇者、光の加護を受けし勇者の要。・・・来るべき時の為に、今後思い出して欲しいのはマビルを守護できるだけの力。剣の扱いを、魔法の扱いを、魔力の扱いを・・・思い出していて。呼べば僕が応えよう」
そう言うリョウは、以前と全く違った雰囲気だった。
妙に大人びて、静まり返る空に吹く風のような・・・軽く背筋が冷たくなるような。
「きっと他の勇者も近いうちに思い出すから、”運命のその日”までに高めるんだ」
「マビルを、何から護れと・・・?」
リョウの言葉には些か信用出来ないような言葉もあった、というか、信じられない部分が、不明な部分が多々あった。
けれど、大人しく受け入れなければいけない気がして・・・思わず頷いたんだ。
一呼吸置いてリョウが語る。
「・・・最も、戦い難い相手。剣を向けたくないであろう、相手」
誰だ。
誰が相手だ。
頭を抱える、低く呻く。
擦れ違い様にリョウが肩を叩いた、叩いて・・・哀しそうに微笑んだ。
「後悔しないように、全力で僕は・・・頑張るよ。多分トモハルの様に僕達はいかないから」
一筋の風が吹き抜けた、唖然と後姿を見送る。
マビルが、生き返る。
マビルに、会える。
マビルを、今度こそ護る。
何から? 誰から?
俺は家に帰って、天井を見上げながら眠れなくて考えていた。
マビルを、今度こそ俺が・・・護る。
早く会いたい、会えるのなら、会いたい。
本当に会えるのか解らないけれど、お願いだ、どうか。
リョウの言う通り、マビルに会えますように。
他に何が起ころうと、今度こそ俺は・・・。
マビルを護ってみせるよ。
それから俺は時間の合間を見て、リョウと剣の練習を始めた。
近くの山の頂上が公園になっているからそこまでランニング、木刀を持っていって二人で斬り合いだ。
成績が下がっても、高校にさえ受かれば両親も文句は言わないだろう。
ついでに、リョウから”遠い過去の記憶”も聞き出す予定だった。
けれど、口が堅い。
秋になって、勉強会で図書館へ行く日にミノルが怪訝に何かを差し出してきた。
思わず受け取る。
「ラブレターだってよ」
・・・ミノルのクラスの子から、らしい。
苦笑いして図書館へ二人で向かう、ダイキとケンイチが先に来ていた。
手を振って同じ机に座ると、ケンイチが何かを差し出してきた。
ダイキも、何かを差し出してきた。
「ラブレターを預かってきちゃったんだけど」
・・・。
自慢じゃないが、確かに顔は良いほうだと思う。
身長も伸びてるし、成績も良い、けれど結構話し易いタイプの人間だから、好かれるかもしれない。
が。
最近増えすぎじゃなかろうか。
「あ、あのっ」
四人で沈黙していたら、突然声をかけられた。
制服からみて、高校生だ。
「こ、これっ」
ラブレターと思われる、可愛いピンクの封筒を手渡されて高校生は物凄い速さで立ち去った。
「朋玄、お前最近モテすぎじゃね?」
呆れたように、嫉妬も入ってミノルが睨んでくる。
・・・まぁ、確かに。
「以前もこんな感じだったの?」
「いーや、前は多くても月に3回告白されるくらいだろ? 今日だけで・・・何人だよ?」
勉強そっちのけで、何やら雲行きが怪しくなってきた。
ミノルが勝手に受け答えを始めるのを、黙って俺は聞いている。
「誰かと付き合えばいいんだよ、そうすれば女子も諦めつくだろ」
「選り取り見取りなんだなぁ」
羨望の眼差しをダイキに向けられるが、苦笑いで返した。
咳を一つ、頭をかいて三人に笑う。
「気持ちは嬉しく思うし、みんな可愛い子ばかりだよ。でも。・・・違うんだ」
俺が好きな子は、マビルっていう名前なんだよ。
と、言えずに喉の奥に押し込んだ。
「好きな子がいるのか、理想が高すぎるのか、どっちだよ?」
好きな子がいるんだ、物凄く可愛い子なんだ。
でも、今はいないし、三人とも知っているけど忘れている。
から・・・言えない。
だから俺は、冗談めかしてこう言った。
「小六の頃から、夢に出てくるすっごく可愛い子がいるんだ。その子じゃないと、嫌なんだよ俺」
なんだそれ、と爆笑されて図書館の人に怒られたけれど。
必死に笑いを堪えている三人を尻目に、俺は本を探しに立ち上がった。
数学の本を探して歩き回るが、欲しい本が見当たらない。
前回来た時に分かりやすくて気に入った本だ、誰かに借りられたのか・・・。
不意に横から本を差し出された、捜していた本だった。
「探し物は、これ?」
「・・・あ、うん」
・・・驚いた。
目の前に佇んでいたのは、アサギだった。
アサギがその本を差し出していた。
あまりのことに思わず口篭る、なんて言おうか迷ってぎこちなく受け取った。
アサギはにこりともせずに、そのまま踵を返す。
呆然とその後姿を見送っていたけれど、勝手に足が走り出してアサギの右腕を思わず掴む。
掴んで振り向かせた。
え、どうしよう。
何も言わないアサギ、ただ静かに見てくるだけだ。
「えーっと・・・ありがとう。よくこれを捜しているってわかったね?」
「解り易いものね、その本」
「う、うん、そうなんだよね! そう、いえばさ。同じ高校を受験するみたいなんだよな、驚くだろ?」
「・・・」
「ミノルも、ケンイチも、ダイキも。それからリョウも一緒だし。懐かしいよな、小学校以来だけど楽しそうだ」
「・・・」
おかしい。
妙だ。
アサギが、笑わない。
以前なら、屈託のない笑顔で人の目を見て嬉しそうに会話してくれたのに・・・何だ?
無関心とでも言うように、反応が、ない。
これが、記憶を封印されている、ってことなのか?
にしたって・・・性格まで変わるものなのか?
リョウは、気づいているのか?
明らかに、違うじゃないか。
これは、この目の前に居るのは、小学校の頃一緒に異界へ勇者として旅立ったアサギでは・・・ない。
アサギは軽く手を振って俺の手をすり抜けて、そのまま歩き出した。
「あ、あのさ! 今、ミノル達も図書館にいるんだ。よかったら一緒に勉強しないか? 三人とも喜ぶと思うよ」
「・・・もう、帰るの」
「そ、そうか。じゃあ、今度一緒に勉強しようよ! リョウも呼んでさ。番号でもアドレスでもいいから教えてよ」
ケータイを取り出してアサギに見せるが、無表情のままアサギは首を振る。
「持ってないから。ごめんね」
「そ、そうか・・・」
首を横に振って、アサギは歩きだす。
それ以上何も言葉が見つからなくて、呆然と見送る。
溜息が知らず出て、思わず受け取った本をぱらぱらと開いてみた。
?
何か紙が挟まっている。
白い紙、広げて見れば・・・アサギの字だった。
『容姿も確かに素敵だけれど、本当の原因はそこじゃないの。女の子はトモハルから滲み出る・・・一種のフェロモン、っていうのかな、それを感じ取るの。安心するんだと思う、トモハルに好きになってもらえれば全力で護って貰えるって、楽しいって、分かるの。だからね、最近異様にモテてるんだよ。そして、酷く振られたりしないと分かるから。女の子はいつだって、護って貰って安心させてもらって、傍にいて欲しいものなのです』
読み終えて思わず紙を握り潰して、アサギを・・・追う。
先程の俺達の会話の答えがそこに書いてあった、アサギに聞こえていたのか?
聞こえていたから、答えを書いてくれたのか?
違う。
違うだろう。
違和感を感じた、計算された事のように感じた。
聞いていたのなら、話し掛けてくれればいいのに。
今も、会話してくれればいいのに。
何故、手紙として書いてくれたのか。
「アサギ!」
不意に、図書館を出て横断歩道で待っているアサギが目に飛び込んできた。
聞こえていないはずの俺の声、それでもアサギは振り返ると・・・微かに、笑った。
笑った。
瞬間だけど、笑った。
やがてまた無表情に戻ると、そのまま青になったので歩き出す。
バッグから何かを取り出していた。
・・・ケータイ。
案の定、持っている。
持っていないなんて・・・嘘だ。
「あのー、図書館では静かに」
おどおど、と声をかけてきた図書委員、無視してカウンターへ急ぐ。
「今! このくらいの髪で背丈がこれくらいの女の子、何か本を借りていきました!? 名前はタガミアサギ!」
気迫負けして、お姉さんが教えてくれた。
「ああ、あの子ね。よく星座とか天体の本を借りていくわよ? 今日も三冊ほど、観測に関する記述の本を」
声に気づいたのか、ミノル達も駆け寄ってきていた。
不審がって俺を見ている。
再度、アサギの後姿を見送ると、自然と三人もそちらを見た。
「タガミアサギ」
ケンイチが、呟く。
「あの子、熱心なのよねー・・・。この図書館にある天体の本はもう読んでいないのが数冊よ? 何時からだったか現れて読み耽っているの。余程好きなのねぇ」
お姉さんが感心した声を出して、嬉しそうに話を続けてくれた。
「星・・・」
ダイキが、呟く。
「最初はただ、星座にまつわる神話が好きな子だと思っていたのだけど、どうも違うみたいね。私も神話の中の勇者には憧れていたけど、あの子の場合は本当に星や惑星に興味があるみたい」
再度続けるお姉さん、知り合いが来たのか興味がそこでそちらに移った。
「勇者・・・」
ミノルが、呟く。
お姉さんは現れた同じくらい・・・なのか、年下なのかよく分からないけれど、その人から本を受け取っている。
「面白かったよー、ありがとー」
「読むの早いわねぇ、奈留。また何か借りてく?」
「そだねぇ。田上奈留で、お勧めの本貸し出しよろしくだよー」
アサギと、同じ苗字。
食い入るようにその現れた女性を見つめると、その人は不思議そうに・・・笑った。
「四人の時の勇者は、星の廻りで再び集結を。間近に迫りし仲間との再会、各々全力で運命の歯車を破壊すべく、大事な人を護るべく・・・準備を整えよ」
「!?」
俺だけじゃなくて、ミノルも、ケンイチも、ダイキも。
その田上奈留と言った女性を見つめた、が、不思議そうにその人は首を傾げるばかり。
「この間読んだ小説の書き出し部分、気に入ちゃってー」
あはは、と笑う”田上奈留”・・・本当に、今のは・・・偶然か!?
ここに、四人の勇者がいるのに、本当に集結しているのに、偶然なのか!?
「・・・出よう」
俺は三人を強引に押して、荷物を纏めると自転車に飛び乗った。
向かう先はいつもの公園ではなく・・・小学校だ、母校だ。
小学校の校庭、あの日異世界へ飛ばされたあの校庭へ!
三人も無言で、それでも後をついてくる。
静まり返った懐かしい小学校の校庭、何も言わず俺達は空を見上げた。
「みんな、どうしているんだろうな」
ぽつり、とミノルが言った。
・・・思い出したんだ。
「記憶、戻ったみたいだ」
ダイキが、魔法の詠唱をしている。
「全員、思い出したってこと?」
ケンイチが俺を見つめる。
「トモハルは、マビルのことを心の奥底で憶えていたから、誰とも付き合わなかったんだな?」
ミノルの問いに、微笑んで頷く俺。
それから今までの事を三人に話して聞かせた。
リョウも思い出しているということ、アサギの行動が腑に落ちないということ。
そして、マビルが生き返るかもしれない、ということ。
更に・・・何かと戦わなければいけない、ということ。
そうして、冬になって受験をして、春。
リョウとも合流し卒業まで、五人で剣の腕を磨き続けた俺達は。
1星ネロの勇者ミノル。
2星ハンニバルの勇者ケンイチ。
3星チュザーレの勇者ダイキ。
4星クレオの勇者トモハル。
5星マクディの勇者にして、神候補のリョウ。
口を閉ざしたままのリョウから何も聞くことが出来ないまま、卒業式を迎えた。
五人で桜が舞い落ちる道を歩いていた。
未だ、異界への扉は開かない。
このまま異界への扉が開かなければ、俺はマビルに会えないと思う。
泣き喚く女子達、誰かが決めたのか俺の第二ボタンが争奪戦になっていて。
そして。
「アサギ・・・」
桜が舞い落ちる、ピンクの色彩の中、アサギが一人佇んでいた。
空を見上げて、ただ、立ち尽くしていた。
あまりにも、美しく、けれど・・・儚すぎる光景に言葉を失う。
泣いているように思えた、花びらが、涙に見えたんだ。
声をかけようとした、その瞬間。
眩い光と共に俺達は・・・懐かしく、もはや御伽噺でしかなかった・・・あの。
異界の天空城の、大広間に。
俺達五人と、そしてアサギは・・・戻ったんだ。
みんなが、居た。
変わらず、みんなが居た。
アサギが、無表情で立っていた。
トビィに駆け寄ったリョウ、しきりに何かを話していた。
俺は、やるべきことがある。
戻ったこの世界、4星クレオで、マビルを。
マビルを探し出さねばいけない!
リョウの言葉を信じて、俺は・・・すぐに駆け出した。
「トビィ!」
「なんだ?」
「竜貸してくれないか!?」
「唐突な奴だな・・・。デズデモーナ、付き合ってやれ」
春休みの期間、俺は必死にマビルを捜した。
確証なんてないけれど、リョウの言葉を信じている。
マビル。
俺、高校生になるんだ。
お金も溜まった。
免許はまだとれないけど、バッグを買ってあげられるんだよ!
必死に街を渡り歩いて、そして。
大都市ジェノヴァ、高い建物が立ち並ぶその一角、まるで地球で出会った時と同じように。
隙間に。
隙間で。
見慣れた女の子が。
綺麗な黒髪、大きな猫みたいな目。
触りたくなるようなピンクの唇の。
何処に居ても目立つ・・・その子は。
「マビル・・・」
思わず名前を呼んで、腕を掴んでこちらを向かせる。
「マビル!」
間違いない、マビルだ。
全く変わってない、どこも、変わっていない。
抱き締めたくて、本物だと確信しているけど、消えてしまわないように、抱き締めたくて。
涙が込み上げて来たんだ、でも拭う暇がなくて、両手でマビルの腕を掴んで。
「・・・何すんの、あんたぁ!」
「ほげぁぁぁぁっ!」
抱き締めようとしたら、マビルが物凄い勢いで腕を振り払って平手打ちをかましてきた。
吹っ飛んだ。
痛い。
痛い。
痛いけど・・・。
あぁ、間違いない、マビルだ。
「マビル」
「ちょ、寄らないでよ! 気持ち悪いっ」
「マビル!」
「いやぁぁ! 誰かーっ、誰かーっ! 変態ーっ」
「俺だよ、トモハルだよっ」
「きゃー! あたしがちょー可愛いからって、攫うつもりなのねっ!? 誰かーっ!!」
ふざけている様には、見えなかった。
本気で嫌がっているようにしか見えない。
ひょっとして・・・記憶が、ない?
「おまわりさーん! 助けてーっ。美少女のあたしが、さーらーわーれーるーっ!」
!?
周囲の雰囲気が怖い、俺は無理やりマビルを担ぐと、本気で殴りかかってくるマビルを他所に集まってきた警備隊から逃げるようにしてデズデモーナに飛び乗った。
「トモハル殿!? その人」
「飛んでくれ、デズ! 追われてる!」
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