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『元気か? 大丈夫か? 無理はしていないか? 風邪はひいてないか? 早く寝ろよ』
最愛の兄からの言葉に、アサギは笑った。
大丈夫ですよー、と返す。
「全然元気なのです。ちょっと思うところがあって、あの懐かしい山脈へ帰ろうと思って」
『そうか。また教えてくれ』
「はいなのです。では、また。そちらの状況も教えてくれると嬉しいのですけど」
『・・・変わりはない』
「そうですかー」
変わりはない。
その言葉を言う前に、軽い躊躇があったのは気のせいだろうか?
アサギはそう思ったがそれ以上何も口にしなかった。
聞いても答えないだろう、この義兄は。
不意に沈黙が訪れる。
お互い口を開かなかった、ので、アサギが切り出した。
「では、また、なのですよ、トビィお兄様」
切ろうとした、この通信機器を。
が、受話器の向こうから「待て」と声が聞こえる。
慌てて受話器を耳元に押し付けた。
「は、はいっ。・・・どうか、したですか・・・?」
『クレシダ、そちらへ寄越そうか』
唐突な単語だった。
クレシダ。
クレシダとはトビィのドラゴンで、緑色の風のドラゴンだ。
無口で無愛想、何を考えているのか一見分からない。
「クレシダを!? トビィお兄様の傍にいたほうが、クレシダも落ち着きませんか?」
『いや、クレシダが行きたい、と前から呟いてるから』
なんとなく、それは嘘のように聞こえた。
が、あえて追求しなかった。
『ゲートで待っておけ。クレシダに行かせる。面倒よろしくな』
「え、ええっと、はい、なのです」
切れた通信機器を片手に唖然と宙を見つめていたが、我に返るとアサギは城の地下へと進む。
城の地下にある、『ゲート』。
青白い光りが幾重にも折り重なって宙へと流れている、その場所から、アサギは行き来していた。
・・・本来自分の居るべき場所から、この大陸へ来るまでの手段はこれである。
見つめていると、光りが揺らめきながら何かを形作っていた。
それは徐々に徐々に人の形を模していく。
「・・・お久し振りなのです、クレシダ」
静まり返った地下に、アサギの声。
目の前のゲートには金髪に碧眼の長身の男が立っていた。
「お久しゅうございます、アサギ様」
軽い会釈、ゲートから足を踏み出す男。
カツン、と響き渡る足音。
暫しアサギと男・クレシダは見つめ合っていたが、どちらから、というでもなく階段を上り始める。
地下から、一階へ。
細い路を無言で歩いて大広間に出る。
「ギルザ!」
玄関から丁度夫が帰宅してきた。
アサギは嬉しそうに名を呼ぶと、そのままギルザに飛びつく。
おかえりなさい、の一言と口付け。
「ただいま。・・・あれ? クレシダ?」
突っ立っているクレシダに眼をやるギルザ。
名を呼ばれるとクレシダは静かに歩み寄って会釈をした。
「お久しゅうございます、ギルザ殿」
「どうしたんだ?」
「トビィお兄様がこちらへクレシダを送ってくれたのですよ」
へぇ? ギルザはそう呟くと、軽く笑みを浮かべる。
とりあえず、昼ご飯昼ご飯。
ギルザはアサギの肩を叩き、腹の辺りを擦った。
ブイサイン片手に、アサギは奥のほうへと小走りで消えていった。
「で。用件は?」
アサギの姿が消えるのを確認するとギルザがクレシダにそう問う。
「・・・特にありません。暫くの間、お邪魔致します」
「そうか、わかった。ま、適当に寛いでくれ」
「ありがとうございます」
何か言いかけたギルザだが、口を閉ざす。
深々と会釈したクレシダを見つめながら、ギルザは考え込んでいたが、マントを脱ぐとアサギの後を追った。
「アサギー、今日何だ?」
「今日のお昼は南瓜のグラタンと、生ハムとレタスのバゲットですよー」
奥の部屋からそう二人の声が聞こえる。
クレシダは一人、城の外に出た。
冷たい空気に、瞳を細めた。
※意味はないのですけど。クレシダを飼う事にしたのです。
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