ＤＥＳＴＩＮＹ～それぞれの路へ～④←日曜日の深夜にこれを書いていたので風邪が悪化したと思われる

低く溜息を吐き、老人は困ったような顔を見せ、返答した。

「はっきりと、『魔王を殺せ』と言ったほうがよかっただろうか？　しかし、解決策はそれだけではないのも確かじゃろう？　方法はあるのだ、しかし、それはあの小さな勇者らが決めること。自らの意思で選択し、出した答えに向かうか向かわないかは、彼ら次第」
「お言葉ですが、私にはあの子供らが勇者には思えませんでしたが。石を所持していたからこそ、そう思うより他なかっただけのこと。全く、力のカケラすら見えませんでした。・・・一人を除いて」

一人、その単語を聞き、周りがざわめく。
淡々と表情を、口調を変えることなく巫女は言葉を紡いだ。

「ですが、私にはその子の『力のカケラ』が勇者のものであるのかどうか、判別が出来ませんでした」

更にざわめきは大きくなる、眉を顰めてその巫女を皆が指差した。
老人が片手を掲げ、その場の騒音を鎮める、困惑気味に咳き込みながら老人は口を開いた。

「あの石は、クレロ神とエアリー神の意思。我ら人間には到底解り得ぬことじゃろうよ。あの子供達が内に秘めた想いをどう表していくかが楽しみじゃ。・・・預言書通り、勇者は６人であったしのぉ。４つの星を合わせての勇者が・・・６人・・・」

老人は最後のほうだけ声を微かに、そのまま小さく笑いながら去っていく。
再び広がるざわめき、今の言葉は、あまりにもその場に居た者たちにとって衝撃的であった。
そう、勇者は６人現われたのだ。
１星ネロから２人、２星ハンニバルから１人、３星チュザーレから１人、そして４星クレオから２人。

「そういえば・・・何故６人なの・・・？」

１人の巫女が全員の疑問を口にし、音として空気へと伝える。
そう、４人でも、８人でもなく、何故か６人。
互いに顔を見合わせながら、不安げに小声で会話をする。
勇者が現われたというのに、未来は明るいはずなのに。
何故かしら・・・突如空に浮かんだ不幸の星に照らされるかのように、ゆっくりじんわりと、心に暗雲が立ち込めていく。

「まさか、２人が死・・・」

言いかけて１人の巫女が慌てて自身の口を塞ぎ、肩を竦める。
縁起でもないことを、隣に居た巫女がきつめの口調で顔も見ずに囁く。

「２人が寝返る可能性もあるわよね」

先程老人と臆することなく会話をしていたあの巫女が、そう簡単に言ってのけた。
巫女達は身体を振るわせて寄り添い、その巫女を見つめる。
それらを一瞥すると、興味なさそうにその異端の巫女は１人で部屋から出て行った。
勇者は、６人。
各星から１人づつ選定されるのではなく、何故か６人。
巫女達は、顔を見合わせたまま、それでも何も言葉に出来ず、ただただ沈黙を護り続ける。
１人歩き続ける異端の巫女は、壁に描かれていた勇者の絵画を見つめて、僅かに口元を吊り上げる。
１人部屋に戻った老人は、深い溜息を吐きながら、ベッドに腰掛けると胸の前で手を組み瞳を閉じて祈った。

そんな神聖城クリストバルの様子など露知らず、勇者達一行は場所を走らせている。
変わり行く景色、大自然の色彩を堪能しつつ、アサギと友紀はうっとりとその光景に酔いしれていた。

「何か珍しいものでも？」

不思議そうに声をかけてきたアーサーに、アサギはにこりと笑顔で返答する。

「私達の世界は、こういう場所が年々減ってきているんです。えーっと。自然がなくなってきてて・・・」

電柱も看板も信号も電灯もなにも、ない。
自然、そのもの。
不意にアーサーは低く唸って腕を組む。
そういえば、先程のアサギ達の世界は、空気が異様に汚れていた。
そして不可思議な建物が聳え立ち、鉄格子のような網が張り巡らせていた場所に、アサギ達は居た。
決して新しいとは言えない校舎、敷地内は金網で包囲されており、確かにアーサーから見ればまるで囚人を入れておくための要塞のよう。
それが当たり前の世界にいるアサギ達には連想しがたいイメージだった。
途中適当に食事を取り、馬を休ませるために泉を探し、束の間の休息を取りつつ、一行はようやくここへ来て自己紹介を始めることにした。
アサギと友紀のはしゃぎ振りを見て、気が引けていたらしく、こうして自己紹介を伸ばしていたのだとか。

「そろそろ、お互いの事を深く話しましょうか？　まずは、勇者ちゃん達よろしく」

マダーニが拍手しながら勇者達を見つめる。
その視線に他の者も興味深々で、顔を赤らめて縮こまる勇者達を見た。
それでも１人、意を決し息を大きく吸い込んで、アサギは軽くお辞儀をする。
どうやらアサギが最初に自己紹介を始めるようだ。

「えっと、アサギといいます。石の色が翠なので、４星クレオの勇者みたいです。宜しくお願いします」 

お辞儀をして、明るい笑顔。
一行は拍手でそれを褒め称えた、実に子供らしく素直な自己紹介である。
まぁ、勇者の要で間違いないわよね、この子が。
マダーニは拍手をしながら、薄らと微笑んでアサギを見つめていた。
応対が他の勇者に比べて適切で速い、肝が据わっているし状況把握も完璧なようだった。
知りたいのは現時点での戦闘能力である、それによって教える科目が異なる。
 
「歳は？」
 
アリナが口を開き、にっこりとアサギに微笑む。
 
「えっと、今１１歳です。来年の１月１１日で１２歳です」
「若いなーっ、ボク、アリナ。君みたいな可愛い子と旅が出来てうれしーよ。ボクが全力で護るから、よろしくね。マダーニ、この子にはボクが専属でつくよ」
 
四つんばいで馬車を移動し、アサギの目の前まで移動してくると頭を撫でた。
困ったような顔でアサギは大人しく撫でられていた、まぁ確かにどう対応してよいやらわからない。
あは、近くで見たほうがボク好みで可愛いやー、と嬉しそうに呟きながら、アリナはやたらアサギの身体を触りまくっている。
 
「・・・あのさ、アリナ。あんまり大事な勇者ちゃんに手を出さないでね？」
「だいじょーぶだよん。女同士の絆を深める大事な大事な愛撫だから」
「あ、愛撫！」
 
マダーニに腕を引っ張られ、アリナは不服そうに唸りながらも、アサギに流し目しつつで片目を瞑った。
乾いた笑い声で、手を振ってみるアサギ。
 
「気をつけて、アサギちゃん。アリナのストライクゾーンみたいだから」
「・・・えーと、どう気をつければ」
「決して一人にならないで。・・・喰われるわよ」
「！？　喰われてしまいますかっ」
 
悪びれた様子もなく、アサギをじーっと見つめながら、にこやかに手を振るアリナ。
彼女、同性愛者らしい。
 
「さ、自己紹介を再開しましょ。お次は？」
「あ、じゃあ俺が。俺は朋玄。アサギと同じで４星クレオの勇者らしいです。現在１１歳。預かった大事なこの剣に相応しい勇者になろうと思います」
「トモハル君、ね。了解。ところで、勇者ちゃん達は全員顔見知りなわけ？」
「あ、そうです。友達です」

馬車を操作していたライアンが何か叫んでいたので、サマルトが代わりに言葉を挟んだ。

「ライアンさんが、トモハルの剣の名前が『セントガーディアン』っていうって叫んでるよ」

セントガーディアン、判明した名を誇らしげに呟きトモハルは徐に剣を取り出すと、そっと引き抜いて輝きを見つめる。
そういえば名前は神聖城で聞いていなかったのだ、ようやく自身の武器の名が発覚し、興奮度が増す。

「アサギの武器の名前は何だろうな？　俺と対だし、似た名前の武器かもね」
「そうだね。楽しみだね♪」

アサギとトモハルは２人でにこやかに笑いあう、もともと生徒会でも一緒であるし、気が知れているのだ。
面白くなさそうに、実１人が舌打ちする。
サマルトが再びライアンからの伝言を聞いたようで、話に割って入った。

「そのトモハルの所持している『セントガーディアン』は、護るべき者が増えれば増えるほど、力を増していくという剣だと言い伝えられているらしい。４星クレオの男勇者のみが扱うことの出来る所謂『神器』で、他にも特殊効果があるらしい。属性は光、慣れてくると呪文発動の糧にもなるそうだ。・・・え？　何？　・・・このくらいしか解ってないって、後は使っていくうちに、トモハル自身がその剣の価値を見出すしかないみたいだね」
「ライアンさん、詳しいなぁ・・・」

ぼそり、と呟いたトモハルの独り言に、ライアンが叫んだ。
この言葉はサマルトを介さなくても、皆に届いた。

「オレは一応元騎士なんだ、趣味でそういった武器の事を調べた時期もあったんだよ」

元、というところが気になったが、あえて皆口には出さない。
マダーニが視線をうつす、次は。

「私、友紀といいます。アサギちゃんとは親友です。１星の勇者みたいです、よ、宜しくお願いします」

聞こえないような小さな声で、顔を赤らめながらアサギの服にしがみ付き、そう友紀は告げる。
勇者というよりは、囚われの姫役のほうが似合っている気もするのだが、石に選ばれたのだし彼女にも秘めたる力があるに違いない。
震えている友紀に、多少の不安を覚える一行。

「ユキちゃん、ね。了解。じゃあ次は同じ１星の勇者ちゃん、よろしくね」

マダーニが実に視線をうつしたので、全員そちらを見つめた。
不機嫌そうに、腕を組みながら、暫しの沈黙後、語りだす。

「実。・・・よろしく」

それだけであった、シンプルな自己紹介である。
慌ててトモハルがフォローに入る。

「俺の幼馴染で、ええと、口が悪いんだ。態度も悪いけれど、強がりだけは一人前で」
「うるせぇっ！」
「えー、ホントのことじゃんか」
「お前はイチイチ、口を出すなっ」

馬車の中で方膝立てて、言い争う２人を見つつ、解ったことは『この２人の仲が悪い』ということだった。
一緒に勉強させないほうが良いのか、それとも刺激させるために敢えて一緒に勉強させるべきか・・・マダーニは２人を悩ましげに見つめている。
言い争う２人を尻目に、淡々と語りだしたのは大樹である。

「３星の・・・チュザーレ？・・・の、勇者らしい。大樹です、どうぞよろしく」

困惑気味にそれでも落ち着きながら語りだした、大樹。

「よろしくね、ダイキ君。君が一番大人びてる感じね。・・・みんなと同い年よね？」
「あ、はい。歳は一緒ですね。まぁ、良く・・・大人っぽいとは言われます。そう言われるのが苦手ですけど」

身体つきもだが、口調が浮ついた感じがしない為、他の勇者よりもニ、三年上に見えた。

「最後は僕かな。健一です、よろしく。２星ハンニバルの勇者です」

ダイキの影から顔を出して、にっこり笑う健一、人懐っこそうだ。

「はい、よろしくケンイチ君。君はなんだかすばしっこそうだわ」
「うん、足なら自信があるよ。サッカー部だから」
「・・・さっかー？？」
「あ、そうか、この世界にはサッカーないんだ・・・」

ケンイチは困ってトモハルに助けを求めた、トモハルとミノルもサッカー部である。

「・・・二つのチームに分かれて、ボールを蹴りあいながらゴールまで運ぶゲーム・・・みたいな感じ？」

サッカーを説明しろ、なんて言われたことがなかったので、トモハルは首を捻りながらなんとか説明を形にした。
勇者達も、首を傾げながら個々に「サッカー」と呟いていた。
苦笑いしつつ、、マダーニがそれを制する。

「そのうち、実演してみてちょーだい。さ、勇者ちゃん達の自己紹介は終わりね。軽くまとめるわよ？
勇者ちゃんたちは、みんなお友達。お友達ならば助け合い、励ましあいながらこれから頑張っていけるわよね。
１星ネロの勇者が２人で、ミノルちゃんと、ユキちゃん。
２星ハンニバルの勇者が、ケンイチ君。
３星チュザーレの勇者が、ダイキ君。
４星クレオの勇者が２人で、アサギちゃんと、トモハル君。
さぁ、何か質問のある人いるかしら？」

見渡しながらマダーニが全員の顔を探るように、瞳を光らせている。
暫しの沈黙の後、控えめにアサギが手を上げる。

「・・・ひとつ、気になっていたんですけどいいですか？」

表情が曇り、困惑気味に戸惑いつつ、マダーニを見つめる。
マダーニは優しく頷いた、質問が上がるということは、話を真剣に聞いて理解した証拠でもある。
質問してくるのならこの子だろうな、と思っていたのでマダーニは大して驚かなかった。

「どうぞ、アサギちゃん」
「あの。・・・１星ネロの人はいないんですよね、ここに」

そう、誰しもが思っていた事だった。

「２、３、４星の人達はこうしてやってきて、今一緒にいますよね。１星の人は？　来ていないのに何故石が存在して、勇者が２人も居るんですか？　」
「ソレを言うなら、どうして２、３星は勇者が１人なのか、も気になるな」
「うん、私もそう思ったの。やっぱりトモハルとは気が合うね」