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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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本編4章後半・アサギの誕生日後

最後の、最後の望みを口にしてしまう。
もし、この望みが絶たれたら、私は・・・。
咳き込みながら、アサギは必死で腕を伸ばした。

「わ、私は、トランシスとガーベラを引き合わせることが出来た、っていうことなのか、な」

必死に首を動かして、自分を見下ろしているトランシスを見上げる。
ぎこちなく、笑う。
答えて欲しい、どうか、最後の望みを。
望んだ言葉さえ貰えたのなら、もう、それでいい。
それでいいから、どうか、望んだ返答を・・・。

 


「は?」

トランシスは拍子抜けした声を発し、そのまま右足でアサギの頭部を踏みつける。
力を込めて、地面に減り込ませる様にトランシスは冷めた瞳で足を動かした。

「オレの名前を呼ぶなっつったろ? ホント、学習能力ないな、お前。その声で名前呼ばれると寒気がするんだよ」

再度、足を振り上げてアサギの頭部を踏みつけた。
鋭く声を上げるアサギを、それは楽しそうに見つめる。

「オレとガーベラは運命の恋人。解る? 解らないかなぁ? 例えお前が居ても居なくても、オレ達は出会える。運命の恋人同士は、何処で産まれて何処で過ごしていても最終的に出遭えるんだ。何? ホントお前恩着せがましいね? 自分が勇者になったから、オレとガーベラを引き合わせられた、感謝しろ、って言いたいわけ? ・・・馬鹿にすんなよ。寧ろ、お前が居たおかげで、運命の恋人同士のオレ達が出遭うのが遅れたんだよ。ある意味すげぇよ、強力な邪魔出来る胸糞悪い力を持ってる。他人を不幸に陥れられる妙な力を持ってる。力っていうか・・・呪い? お前が関わった人物、全員何かしら不幸になるんだよ。気づいてる? 気づいてないだろ?」

急にアサギの髪を引っ張って、顔を向けさせた。
痛みで顔を顰めるアサギだが、先程刺された腹部の傷が思いの他深く、血液が流れ出るのが止まらない、もはや抵抗も防御も出来ない。

「トビィもさぁ、心底迷惑してるんだよねー。オレら仲いいから」
「・・・トビィ、おにい、さま」
「優しいだろ、アイツ。お前に懐かれて、下手に切り捨てられないんだよね。お前さえ居なければ自由にもっと過ごしているのに、可哀想にお前のお守りだよ」
「・・・めいわく」
「そ。オレ、トビィ大事なんだよねー、親友だと思ってるんだよねー。お前さ、トビィから離れてくんない? アイツは人一倍優しいから、自分からお前を突き放すこと、しない。だから、お前が離れるんだ。トビィの為に」

言いながら一人、トランシスは必死に爆笑したいのを堪えてアサギを放り投げる。
親友だって、冗談じゃない、誰がアイツなんかと親友なもんか。
動揺しているのか、アサギは地面に寝そべったまま震えている。

「お前の家族だってそうだし、マダーニさんとかもそうだし。お前、なんで気がつかないの? 自分が嫌われているって何で気がつけない? ちょっと見れば解るだろ? 凄いお前の脳内って便利に出来てるよなー。感心しちゃうよ、都合良過ぎだよ」
「離れたら、みんな、少しは苦しまないで済む?」

声が聞こえた。
か細い声で情けなく、自嘲気味に声を出した。
ゆっくり、口元に笑みを浮かべてトランシスは大きく頷く。

「あぁ、そうだよ。お前がみんなから離れればいいんだ」
「・・・そっか」

満足そうに、アサギは微かに笑った。

ギ、ギィ・・・ガゴン・・・

歯車が、軋んで廻った。
歯車が廻るのを必死に止めていたモノが、無残にも壊れて歯車はもう、止まらない。

「私、ひどい、ひと。うまれてこなきゃ、よかった、ね」
「うん。遅いだろ自覚するの」
「ごめ、なさ・・・」

勇者に、なれば。
アサギは力なくとも、拳を握り締めようと手を動かす。
けれども、もはや力が入らないので、動かすことが出来なかった。

力を持ちすぎた精霊は、嫉妬を喰らって叩き潰された。
力を恐れられたので、生まれ変わったら平凡な少女になりたいと願った。

平凡な少女は、傍に居た一人の人と安心できたので共に過ごそうと思った。
けれど、後から現われた男に恋をした、敵だったはずなのに恋をした。
酷い裏切り行為だった、だから生まれ変わったらその人を見守ることが出来る存在になりたいと願った。

森の妖精は人間を見るのが好きだった。
見守るだけでよかったのに、好意を抱いた男に会いに行った。
妖精と人間は言葉が交わせず、何も伝えられなかったので次は言葉を交わしたいと願った。

王国の姫は双子の妹が幸せならそれでよかった。
幸せになった妹と、行為を抱いていた男が共に居るのをみて、満足だった。
時折男と言葉を交わすだけでよかったのだが、妹の背負っていたモノを受け入れたつもりで受け入れられなかった。
自分が我慢していたことで大事な妹が傷ついたのなら、次は素直に想いを口にしようと願った。

平凡な村の、何の力も無い少女は仲良しな人達と共に過ごすことが出来て幸せだった。
みんなが好きだった、素直に「みんなが好きだ」と言った。
好きだと言ったら、戦いが起こってしまった、何故か解らないけれど村は破壊された。
素直に口にすることで、こんな破滅を招くのなら次は声が出なければいいと願った。

声を出せない貴族の娘は、大事に育てられ何不自由なく過ごしてた。
攫われて滞在先は、綺麗な男の下だった。
恋に落ちたけれど、声に想いを乗せることが出来なくて誤解を解くことが出来なくて。
声はやっぱり必要だから、何よりも声が欲しいと願った。

殺されかけた姫は瞳に光を灯しておらず、いつも苛めの対象だった。
けれども優しい男が居て、彼に会って会話することがとても幸せだった。
目が見えなくても彼さえ傍に居てくれればよかったが、目が見えればもっと色々な場所へ出掛けられるかと思ったので、魔女の条件を飲んだ。
瞳に光が戻ったら、待っていたのは裏切りと嘲りの現実で、現実が怖いのなら次は怖さに打ち勝てる力が欲しいと願った。

小さな国の姫君は、なんの力も持っていなかった。
五体満足だったけれど、それでは誰も救えなかった。
魔族の青年と約束をした、「勇者になったらみんなを助けられる? なら、私生まれ変わって勇者になるの。だから待ってて、必ず幸せな世界を築きましょう」。
勇者になれば、人を救える、世界を救える、何処ヘだって行ける。
良いことしたら、あの人は私を誉めてくれる? みんなの役に立てる? 嫌わない?
滅び行く国で、次は勇者になりたい、と願った。

勇者になるなら力が必要だ、誰にも負けない力が必要だ。
最初の力を元に戻す、制御していた力を解除する、あんなに嫌がっていた膨大な魔力を解き放つ。
勇者に、なれば。
勇者に、なりさえすれば。
もう、何も・・・。

ギィィ・・・ィィィィ・・・ガトン・・・

声が聞こえる、「諦めないで、今諦めたらもう終わりなの!」。
終わりで、いいよ。
居ないほうがみんな幸せだから、終わりでいいよ。
私、解ったよ。
転生しても意味が無いよ。
最初から私、意味が無いよ。
諦めるよ、元に戻るよ。

「うんめいの、こいびと。・・・いいな。わたしも、あいたいな、いるかな、どこかに、いるかな・・・」

アサギは、力なく笑いながら、それでも羨望の声を発する。
最大の願い事、アサギがここへ、産まれた願い。

「居ないって何度言ったら解るんだよ、この出来損ない」

顔を歪めてトランシスは剣を抜き放ち、そのまま剣へと渾身の力を込めて魔力を増幅させる。
灼熱の炎が剣から吹き出る、周囲の木々が熱さで悲鳴を上げていた。

「お前にそんな存在居ないって言ってるだろ!? いい加減気がつけよっ」

剣から放たれた火の柱が、緩むことなくアサギを直撃する。
別に、熱くは無い。
だって、私イノチないから、熱くない。
多分死なない、だってイノチがないから、死なない。
何をされても痛くない、死なない。
・・・死ねない。

「・・・うんめいの、こいびと、わたしには・・・いない」

ガゴン!

歯車が音を立てて勢い良く廻り始める。
・・・死なないけど、死ねないけど。
熱くないけど、痛くないけど。
でも。
涙は出るみたい。
あのね、私ね。
あのね、私ね、トランシス。
あなたが、そうだったら、いいな、って、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと・・・

「耳障りなその声、二度と出すな! オレの声を二度と耳で聞くな! オレの姿を醜い瞳に今後映すな! 」

ずっと。
思ってたの。
・・・ごめんな、さ・・・。

薄れていく記憶、記憶が塗り替えられていった。
都合よく、いや、トランシスの言葉通りにアサギの記憶が変化していく。

私は嫌われ者だった
勇者にならなければみんな死ななかった
最初からトランシスは私が嫌いだった
だから。

―――お願い! 彼のあの言葉を信じて待って! でないと、でないと!―――

誰かの声・・・自分の声が聞こえた、けれど首を振る。

『約束してくれないか、アサギ。もし今後、オレが・・・。オレはアサギが大好きなのに、無意識のうちに妙なことを口走ってアサギを傷つけたら。それでも、それでも信じていて、オレがアサギを好きだということを。愛しているということを。それが、真実なんだ。それさえ乗り越えられれば、あとはずっと一緒に居られるから。だから、信じて、オレは、アサギを愛してる』

でも、それは、もう、意味を成さない。

『はぁ? あんなバカな言葉を信じて待ってるって? ・・・お前、死ねよ。目障りだよ。あれも、嘘だっつーの。最初からお前が大嫌いなのに、どこをどうしたらその言葉を信じて待つ、って行動に出るんだよ。信じなくていいよ、最初から嘘なんだから』

嘘だったらしいので、信じても仕方が無いみたい。

目を、閉じると。
トランシスの罵声やら、憎らしげに見つめてくる表情が浮かぶ。
怖いよ。
もう、いいよ。
ごめんなさい、わかったよ。
これ以上嫌われたくないから。
私、私は。

2月上旬。
降り積もる雪の中で、雪を鮮血に染めながら一人の小さな勇者は諦めた。
勇者を諦めた。
運命の恋人探しを諦めた。
そして、生きることを、諦めた。
願う事は唯一つ。

『自分の存在を抹消すること』
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