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三万文字で収めたいけど、今何文字だろう・・・。
一斉にその場の注目を集めた。
驚いて顔を上げたアイラの上で、トライは落ち着き払って微笑するとそっと髪に触れる。
「初めまして、トライと申します」
指を軽く鳴らし、従者を呼んである物を持ってこさせた。
花束だ、桃色で統一された存在感のある花束。
動くたびに香るそれを、アイラへと手渡すトライ。
受け取って静かにそれを見つめていたアイラだが、皆が注目する中で申し訳なさそうに呟く。
「あの。・・・お花は好きです。でも」
「?」
「次は、次に、もしくださるのならば。・・・鉢植えのお花をください。一生懸命、大事に育てますから。切花の寿命は短いのです、美しいお花の寿命を少しでも長めてあげたいので」
言って、恥ずかしそうに花束を抱えて笑ったアイラに、眩暈のトライ。
口篭り、更に従者を呼んだ。
「解りました、次は鉢植えを届けましょう。それと」
銀の筒を一本、アイラに差し出す。
見たこともない代物だ、首を傾げるアイラにトライが手を触れる。
「フルート、といいます。楽器の一種ですよ」
トライが唇に当ててそれを吹けば、なんとも心地良い高音の響きが部屋に広がった。
「素敵!」
初めて見る楽器に興味津々のアイラ、目を輝かせトライを見つめている。
夢中でそれを受け取ったアイラは、自分も唇をそれにあててみた。
トライに簡単に説明を受ければ先程の沈みは何処へやら、眩すぎる光の煌き、表情がくるくる変化するアイラ。
唖然と、王子たちは見守っていた。
アイラの隣に立ち、手ほどきしているトライを見て、唇を噛み締める。
湧き上がる負の感情、三人とも気づいているが最初にその場所を手中に収めたトライに現時点では敗北。
二人は、親しげにフルートを鳴らす。
一心不乱にフルートを練習するアイラを見て、マローは笑みを浮かべた。
姉が楽しそうだったので、ほっと胸を撫で下ろしたのだ。
王子たちは数日、ここに滞在するという。
夜は晩餐、その後は庭で星の干渉をしつつ紅茶を頂く、その後は呼んでおいた歌劇団が登場する予定だ。
「楽しいね!」
「うん」
束の間の休息、アイラとマローは自室のベッドに転がって手を繋いで瞳を閉じていた。
アイラは片手でフルートを握り締め、手の内の感触を確かめている。
「ね、お姉様。どの王子様が一番素敵だと思う?」
急に起き上がり、顔を覗き込んで悪戯っぽく笑うマローに、アイラは微かに動揺し顔を染めた。
「わ、私は」
「トライ様かしら? 楽しそうだったものね、今日」
「え、えと、私は」
「私は、断然トレベレス様!」
無邪気な笑顔でアイラに抱きつきながら、そう発言したマローに、一瞬身体を硬直させたがアイラは黙って髪を撫で始める。
「可愛いのよ、なんだか不思議な瞳をしているわ。一番好き」
「・・・そう。なら、仲良くしないとね。たくさんお話出来るといいね」
「うん!」
複雑そうな表情を浮かべ、アイラはマローの髪を撫でていた。
アイラも、最初に瞳が交差したトレベレスが気になっていたのだ。
言葉を交わしてなどいないのだが、最も近寄りたかったのがトレベレスだった。
話をしてみたかったのがトレベレス、マローのよう手をひかれてみたかった。
と、何故そう思ったのかは解らないのだが。
「トライ。お前目的解っての行動か、あれ」
客室内にて。
トライの部屋を訪ねたトレベレスは不機嫌そうに葡萄を齧りながら、剣の手入れをしているトライに問いかけた。
「何が」
惚けているのか本気なのか、トライは視線をトレベレスに向けることなく剣を磨いている。
苛立ち、壁を叩き付けたトレベレスにようやくトライも顔を上げるが、こちらも不機嫌そうだ。
「惚けるな、あの娘だ。緑は呪いの娘だろう、お前とオレの国はある意味兄弟。こちらに被害が来ては困る、親しくするな」
「関係ない」
「大地の国魔女の御告げだろう、黒の娘を手に入れるべきだ。緑は捨て置け」
「関係ない」
「あのなぁ」
「・・・国に有益をもたらす黒の娘、あれにはオレの興味が全く湧かない。アイラは・・・」
そこまで聞いてトレベレスは舌打ちし、ドアを乱暴に開くとそのまま出ていく。
気づいたのだ、トライが名前で娘を呼んだことに。
「お前の従弟はウツケか。まぁ、自爆してくれる分にはこちらは一向に構わないが」
「喧しい。オレとあれを一緒にしないでもらおうか」
「別に一括りにしたつもりはない。面白い男だ、とは思ったが。あの娘に取り入っても仕方なかろう」
嘲笑いを浮かべ、廊下に立っていたベルガーと擦れ違ったトレベレス、眉間に皺を寄せると忌々しそうにトライの部屋の扉を睨み付けた。
「敵は少ないほうが有り難い、将来的に時間と金を浪費する価値はあるのだからこうして出向いたわけだが、あの程度の娘ならそこらに居る。傍らに置いて手放したくない、とは思えなかった。さしあたって私の子さえ、産めば良い」
月を見上げながら小声でそう呟き、挑戦的な視線を投げかけたベルガーは、愉快そうに喉の奥で笑うと大きく伸びをしている。
「私とお前の一騎打ち、と、なりそうだな。リュイ殿は城へ戻られるそうだ」
「へぇ、なんでまた」
「さぁ、幼すぎたのではなかろうか。損得だけで人間関係を動かせない男に見える」
「まぁ、若すぎるには若すぎる、か・・・」
互いに、視線を交差させて火花を散らす。
風の王子は帰国、水の皇子は戦線離脱。
光か火のどちらかが、噂の姫を手に入れるのだろう。
二人の国に噂が流れてきたのは、ここ一、二年前のことであった。
他国の情勢を探るべく侵入させていた者から得た情報であったが、いまひとつ、信憑性にかける。
そのような重大な事実を、容易く手に入れられたことが罠である気がしてならず。
しかし、探れば探るほどそれは確信へと向かっていった。
ベルガーは今でこそ、巧妙に張り巡らされた罠である気がしてならず、到着した時点で一人探りを入れている。
家臣に一人、城の者を捕獲させ先程も催眠を行い尋問したところだった。
二人、三人と催眠にかけるが、皆答えは同じだった。
『マロー様が繁栄の子を』
一端の城民ではない、位の高い者達を催眠実験しただけにベルガーも低く唸りつつ、その様を見ていた。
ベルガーの読みは、上位者にのみ真実が伝えられているのではないか、だったのだが。
催眠が失敗しているという確率は、0である。
考えすぎか? 小さく唇を動かしたベルガー、ともかく目の前のこの男よりも先にマローを手に入れなければならない。
「まぁ、適度に懐かせて国へ連れ帰る。お相手一つ宜しく頼もうか、少しは張り合いがないとな」
「こちらこそ」
どのような美姫かと多少心を躍らせていたベルガーだが、二人ともまだ、子供だった。
ベルガーは26歳である、マローとアイラは12歳、確かに・・・不釣合いだ。
ちなみにベルガーには本妻が存在するので、何人目かの妻としてマローを迎えねばならなかった、それだけが気がかり。
そのような相手に国の第一姫を寄越すかどうか、である。
少し、圧力をかけて揺さ振らないことにはベルガーが手に入れる事は難しいだろう。
小国ならば喜んで差し出すだろうが、生憎ラファーガはそこそこに力を所持している。
目の前のこのまだ若い王子は、まだ本妻を娶っていない。
大勢愛人なら居た筈だが、年齢も姫たちに近いのでその点ベルガーには不利。
二人は事務的な笑顔で握手を交わすと、夕食を摂るべく広間へと移動した。
ドレスを着替えて双子の姫は登場し、談話しながら楽しい時を過ごす。
マローにはベルガーとトレベレスが張り付き、アイラにはトライが始終隣に居たのだが、リュイは思案顔で一人黙々と食事している。
気になり、アイラはそっと立ち上がると追いかけてきたトライと共に、リュイの下へと駆け寄った。
近寄ってきたアイラを見上げ、それでも食べる事に手を休めなかったリュイに思わずアイラは吹き出してしまう。
「・・・ええと。御腹、空かれているんですか?」
「えぇ、とても」
悪戯っぽくようやく笑った同年代の皇子に、アイラも思わず笑みを浮かべる。
深々とお辞儀をし、感謝の言葉を述べ始めたアイラにリュイは面食らった。
先程と印象がまるで違う、緊張が解れたのだろうか多分今目の前に居る彼女こそ”本来の”彼女であると直感。
「明日、国へ帰られるとお聞きいたしました。せめて今晩だけでも、我国の特色を楽しんでいただければ、と思います」
「十分です。ここは恵まれた土地です、食べ物が新鮮だ。・・・私達の国はそうもいきませんからね」
戸惑いを隠すように苦笑いしているリュイ、アイラは地図を脳内に甦らせて風の国を探した。
山脈に囲まれた、気温がここよりも低い土地だ。
海からは遠く、高山ゆえに食物もあまり育たないのかもしれない。
「星は、我が国のほうが綺麗ですよ、多分」
「星に近い風の国、ですか。素敵ですね」
「ですが、民にとっては食料の悩みが深刻です。美しいものは心を洗う、けれどもそれだけでは満たされない場合も・・・ありますからね」
何時しか、トライとアイラは傍の椅子に腰掛け、三人で仲良く語り出す。
それは国の特色を話し、交換し、驚きと笑みを交互に。
非常に外交らしい語らいであった、二人の王子は確かに姫を値踏みに来たのだが今はそんなことどうでも良く。
そう。
二人とも風の噂で聞いた『繁栄の子を産む娘』を求めて、やってきた。
妻でなくとも、愛人でも良い、囲ってしまえばそれで良いので自分の子種さえ植えつければ。
無事に産まれれば、その子こそ覇王となるのだから。
だが、この水と風を守護に持つ王子達は『繁栄』である妹マローに興味を示さず、『破壊』として忌み嫌われている姉アイラに非常に興味を示していた。
それは、奇怪な出来事で周囲からは悲痛な溜息が漏れる。
土の国の民は、内心涙を流して喜んでいた、厄介払いがようやく出来るのだ。
知ってなのか、いや、知っていて等有り得ないと思った土の民は皆してほくそ笑み、トライとリュイに期待をしている。
早く、その姉を国へ持ち帰れ、と。
外に出て優雅にティータイム、星を見上げながら盛大に花火が上がっていた。
庭の薔薇が香るその場所で、マローはベルガーやトレベレスと踊り、アイラはリュイとトライと星を見ている。
その日、各国の主要人物が集まっていたので当然騎士団たちも十分な厳戒態勢を余儀なくされていた。
トモハラとミノリの二人も所属はつい先日だが、共に良い成績を収めていたのでこの庭の警備に当たっている。
私語厳禁、一定間隔で配置されている騎士団。
トモハラは無愛想な顔で突っ立っていた、いや、にこやかにしなくても良いのだが非常に不機嫌そうだった。
というのも、マローに張り付いている二人である。
王子だというのは聞いているのだが、下心が有り過ぎて観ていて嫌悪感を抱いたのだ。
一方ミノリは、初めて間近で見たアイラに衝撃を覚えていた。
声だけの姫、姿は・・・想像以上だった。
だが、あまりに綺麗で眩しすぎてミノリは直視出来なかったのである。
噂では聞いている、あの、姉のアイラは不吉な姫だと。
けれどもどうしてもミノリはそうとは思えず、あの可憐な歌声や遠慮がちな仕草がとても気になっていた。
二人の若い騎士は。
二人の姫を、遠目で見ていた。
王子たちの輪には入れない、騎士とはいえ一般の出の二人には。
・・・姫が遠すぎた。
「お言葉ですが!」
苛立ちながらトモハラは上官が止めるのも無視し、宰相達に直談判。
恐れも怯みもせず、トモハラは真っ向から何やら秘密の会合をしていた部屋に突撃し机を叩いて叫ぶ。
「あの王子達、欲を出しすぎてはおりませんか!? 危険すぎます、我国の姫が狙われているではありませんか!」
背後から上官に羽交い絞めされ、そのままドアへと引き摺られて行くが、それでも勢いで腕を振り払い再び机を叩いた。
静かにトモハラを見たその場に居た者達は、表情すら変えず、視線もそのままで一言。
「あの王子達の誰かには、姫を差し出すつもりですよ」
これには、上官とて駆けつけてきたミノリとて絶句である。
一瞬室内は静まり返ったが、トモハラの驚愕の声で静寂は破られた。
「なっ!?」
「・・・アイラ様を、ですけれど」
傍らの紅茶を啜りつつ、冷淡な全く感情が籠められていない声で一人が呟けば。
後方にいたミノリが唖然と、その光景を見つめていた。
「アイラ様を引き取って戴けそうなのは・・・水か風の国ですねぇ」
「出来れば・・・最近良くない噂を聞く火か光の国に押し付けたかったのですが」
「マロー様は渡せませんから、アイラ様には頑張ってあの二人のどちらかを虜にしていただきます。顔はそこそこ綺麗ですから、身体でも使えば一度くらいなら・・・」
何の話をしているのだろう。
自国の姫の話をしている筈だった、そうだった。
けれど、内容は姫どころか奴隷の話のようで。
一国の姫に、情婦のように振る舞い何処かの王子と寝所を共にしろ、と言っているらしい。
「あんたら、何考えてるんだ!?」
トモハラの激怒した声、盛大に机を叩き紅茶のカップが揺れてテーブルクロスに紅茶の染みが出来た。
が、その者達は冷静である。
「若き騎士。あの姫君達に惚れても無駄ですよ」
歯軋りして睨みを利かせているトモハラ、後方で身体を硬直させたミノリ。
『姫君達』と言ったのだ、トモハラだけではなくミノリもその対象に入っていると知られている。
「我国の者なら、噂くらい聞いたことがあるでしょう? マロー様は我国に繁栄をもたらす奇跡の姫気味です。易々と他国に渡すわけにはいきません」
「アイラ様は災禍の姫、我国繁栄の切り札として他国を制圧する際にはもってこいの言わば兵器です。・・・黒髪の騎士、あの姫にだけは近づかないように」
大きく唾を飲み込み、ミノリは僅かに後退した。
誰にも打ち明けた事がなかった筈の、姫への想いを何故か知られている。
思わず赤面しミノリは俯くと、震える手を必死で堪え。
羞恥心が込み上げた、早くこの場から逃げ出したいがそうもいかない。
「姫ですよ・・・? 我国の姫君ですよ!?」
トモハラだけが威勢よく噛み付くように吼えた、が、子犬同然らしく皆冷ややかな視線を送るのみだ。
「良いではないですか、あなたの姫君は我国に残るのですから」
「そういう問題では!」
一人に掴みかかろうとしたトモハラを、ようやく金縛りが解けたようで上官が羽交い絞めを再開し、慌ててそのままドアから連れ出す。
何度も何度もドアを叩いた、未だに震えているミノリには目もくれずに必死でドアを叩いた。
聞いてはいけないことを、聞いてしまった。
このままではもはや騎士ではいられないだろう、処罰が下され下手したら街にも居られないかも知れない・・・。
トモハラはそう覚悟したし、ミノリとて同じ思いで。
二人は夜勤に戻った、王子が四人も揃っているので不眠不休で皆城を警護している。
翌朝、僅かな睡眠の後宿直室にて張り紙を見つける二人。
『下記の者、本日付で姫君の第二護衛に昇進。
トモハラ・マツリア
ミノリ・カドゥン』
同僚達が喚いていた、当の二人は惚けてそれを見ていた。
姫君の第二護衛、側近ではないが、姫君の部屋の前までは近づくことが出来る。
何処かへ出向くときは共に行ける、食事中も入浴中も外で護衛する・・・。
「な、なんで?」
思わず言葉を濁して呟いたミノリ、トモハラは舌打ちすると壁を殴りつける。
「・・・気に入らない・・・」
姫直々の護衛になれたことは正直嬉しい、しかし、昨夜の話を聞いてしまっては素直に喜べない。
国の重要事項を知ってしまった以上、そぐわぬ様に働け、ということだろうか。
平民にとって、二人の姫君は宝だ。
勿論二人とて、アイラに纏わる不吉な噂を知らなかったわけではない。
それでも遠目で見ている分にはそんな事は微塵も感じさせないのだ、普通の女の子である。
それを。
同じ年頃の姫君を、娼婦のように王子の夜伽をさせるなど・・・。
そしてそんな計画を知らされて、護衛につけと。
・・・つまり公然の計画なのだからアイラがどの王子の寝所に出向くとき、トモハラとミノリは護衛として御供し、その”最中”ドアの前で待て、ということだ。
「ミノリ!」
足元がふらついて、壁に倒れ込んだミノリを抱き起こしたトモハラ。
なんとなく、ミノリの気持ちには気づいていたのだ、それはトモハラがマローを見ているようにミノリの視線の先にはアイラが居たのだから。
好きなのか、焦がれているのか、羨望の存在なのかはともかく、そんな異性を黙って誰かに渡さねばならない。
自分達は、王子ではない、到底無理な望みだがもし、王子だったら。
姫君達と対等の存在であったら・・・あの二人を助けられたのに。
ふと、二人の若い騎士はそう思った。
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