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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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そーぃ。

 自給自足で暮らしていけなくもないが、時折干し肉は街へ購入に出向く。その際にアリンの織った布や、義父の調合した薬草などを売って換金するのだが、それらは普段トロンの仕事だった。
 見た目麗しい彼が一度街へ出向けば、女達が一斉に熱っぽい視線を向ける。店主が女であればかなり高額で引き取ってもらえることを、トロンも知っていた。ので、馴染みの店に毎回持ち込む。
 しかし、今回初めてアリンも同行することになった。義父が腰痛で寝込んでしまったので、看病すると言ったのだが、今後の為にも街へ行き感覚を覚えておいたほうが良いだろう。何れは、トロンとアリンの2人で生きていかねばならない。
 トロンが作った木の杖を片手に、もう片方はトロンの手を握り締めアリンは初めて街へ出向いた。
 城下町なので広大だがアリンにはその広さすら、理解が出来なかった。瞳に光はないが、聴力と嗅覚はかなり優れているアリンは、直様騒がしさに狼狽する。人の声が幾重にも聴こえた、小鳥のさえずりが聴こえず、ただ騒音のみが耳に纏わりつく。アリンの脚が、止まった。不安そうに周囲を見渡しているその姿に、トロンが背を撫でる。

「オレが居る、大丈夫だ」
「……はい。人が、大勢いるのですね。どのくらいですか?」
「さぁ、どうだろうな。五万人以上はいるだろうな」
「よく、解りません……。街って、凄い場所なのですね」

 街を見下ろすように古めかしい城がある、トロンは何気なくそちらを見やったが、直様アリンが人に接触しないように庇いながら進む。
 トロンの姿を見つけ、女達が黄色い声を上げたが、隣に居るアリンに首を傾げた。
 とびきりの美少女に思わず息を飲んだ。妹にしては、似ていない。ただ、気を使って大事そうに接していることからトロンの特別な相手であるということは、瞬時に理解出来る。そもそも、表情が見たことがない。柔らかな眼差しで肩を抱いている様は、どう見ても恋人同士だ。
 気になったのは、その美少女が杖を手にし、覚束無い足取りで進んでいる事である。
 盲目だ、と皆が顔を顰めた。
 アリンが何をしたわけではないが、人と違うだけで一歩周囲は引いた。
 品物を売り、換金したトロンは干し肉を買い込んだ。長時間歩き続け、疲労の色が見えるアリンを抱き抱えると街の中央にある広場へと進む。
 屋台が何軒も立ち並ぶそこで、トロンは菓子を買うことにしたのだ。空いていたベンチにアリンを座らせ、決して自分が来るまで誰に声をかけられてもついて行かないように教えると、素早く屋台に向かう。
 アリンは何度か大きく瞬きをして、そっと瞳を閉じた。前後左右から様々な声が聴こえる。まれに激しく罵倒し合っているような声も聴こえ、思わず腕を掴むと震える。が、同じ様な年頃の男女の声が聴こえてくると、アリンはそちらに顔を向けた。瞳を開く。

「喉渇いたな、なんか飲もー」
「最近金使い過ぎてないんだよなー、水でも飲むか。トラリオンはいいよなぁ、金持ちで」

 トラリオン、という単語が聞こえた。会話から察して名前なのだろう、アリンは知らず唇を動かした。
 トラリオン。名を、呟いてみる。
 紫銀の短髪に、濃紫の釣り上がり気味の瞳、大勢居る子供達の中で一際目立った容姿だった。整った顔立ちとあどけなく笑うその瞳の奥に冷たい光が見え隠れする。何処か不思議な雰囲気の少年だ。
 トロンと全く同じ髪と瞳の色だが、盲目のアリンにはそれが解るわけもない。年もトロンと同じ程度だろうが、それも解らない。ただ、声だけが鮮明にアリンの耳に残った。脳を溶かすような、甘い声。
 綺麗な声だと、思った。耳に届くと耳元で囁かれたように、妙に熱を発する。
 もう一度、聞いてみたいとアリンは思った。
 トラリオンもアリンに気がついた。子供達は皆、アリンに気がついた。
 見たこともない美少女が1人でベンチに座っている、姿勢も正しく一瞬人間ではないように思ってしまう。妙に気品があり、何処か近寄りがたい美少女にトラリオンも瞳を奪われた。

「誰だ、あれ? 居たかあんな子?」
「すげー可愛い子! 手振ってみよう」

 1人の少年がアリンに手を大きく振る、が、当然アリンは反応できない。見えないのだから仕方がない。
 全く反応しないその姿に、少年は軽く唇を尖らせた。無表情で何処か遠くを見ているアリンに、無視されたと思ったのだ。感じが悪いな、とも思った。

「…………。オレ達を無視するなんて、イイ度胸してるよな。ちょっとからかってやろうか」

 トラリオンがぼそ、とそう呟いたので子供達が一気にいやらしい笑みを浮かべる。くすくすと笑いながら、アリンに近づいた。取り囲むようにして進むが、それでもアリンは何処か違う場所を見ている。

「おい、お前。何処から来たんだよ? 手を振ってやったのに、随分なご挨拶だな」

 トラリオンが含み笑いでそう告げるが、アリンは宙を見たままだ。小首を傾げ、ゆっくりと顔を動かす。
 好きな声が聴こえた、近くから聴こえたので位置を掴もうと必死に耳を傾ける。
 その様子にトラリオン達も気付いたのだ。「あぁ、目が見えないのか」と。
 トラリオンに耳打ちした少年が、面白そうにアリンの髪を軽く摘む。空気の振動にアリンが首を上げた。
 と。偶然真正面に居たトラリオンと瞳が交差した。無論、アリンには見えていないが、大きく吸い込まれそうな緑の瞳に見つめられ、トラリオンの呼吸が止まりそうになる。鼓動が速まる、血が逆流するように身体中がざわめいた。

「なぁ、お譲ちゃん。名前は?」

 硬直しているトラリオンの隣で、少年が髪をひっぱりそう言うのだが、自分に言われているとは思わないアリンは返事をしなかった。ただ、髪が揺れるので手を伸ばしてひらひらと動かす。

「トラリオン、コイツ面白い」
「……そうだな、面白いな」

 静かにそう言ったトラリオンは、アリンの髪を引っ張っていた少年の腕をはたいた。小さく悲鳴を上げたので、アリンも驚いて悲鳴を上げる。びくっ、と肩をすぼめ、不安そうに周囲を見渡した後、右手を動かし杖を硬く握り締めて俯く。

「……面白いな」

 酷く怯えた様子にトラリオンが喉を鳴らした。妙にそれが可愛らしく、加虐心を煽られたのだ。
 思わず、手を伸ばしていた。アリンの頬に触れようとした瞬間に。

「アリン、待たせたな!」

 後方からやって来た声に、手を引っ込めたトラリオンは気まずそうに振り返る。何度か街で見かけたことのある男が立っていた、少女達が歓声を上げた。酷く目立っていたので、以前から気に入らなかった男が菓子を片手に立っている。互いに視線が交差すると、挑むような目つきで威嚇し合う。
 トロンは一瞥した後、何事もなかったようにアリンの前に立つと隣に座り菓子を差し出した。

「ほら、菓子を買ってきた。甘い香りがするだろ? アーモンドを炒って、砂糖をまぶしてある。お食べ」
「トロンお兄様、お帰りなさい。……戴きます! とても香ばしいですね」

 トロンの声に強張っていた緊張を解いたアリンは、差し出された温かい菓子の香りに誘われて手を伸ばした。そっとその手を取って誘うと、菓子をつかませてやったトロンは、まだ立ち尽くしていた子供らに軽く睨みを利かせた。
 邪魔だ、と威圧感を与えると、皆で顔を見合わせ渋々去っていく。トラリオンだけが何度も躊躇しながら2人を振り返り、仲良く菓子を食べている姿に苛立ちを覚えながら爪を噛む。

「おっさん、ワインくれ。その上等なマスカットのやつ」
「金持ちだなぁ、トラリオン」

 喉が妙に渇いていた、掻き毟りたいくらいに、乾いていた。トラリオンは無我夢中でワインを奪い取るとこぼしながら一気に、口へと流し込む。周囲が呆れて勿体無い、と嘆こうがお構い無しにそれを飲み干したトラリオンは、アリンとトロンを見て悔しそうに拳を握り締めた。

「……相変わらず、腹立たしい」

 小さく漏らすと、口元を拭い乱暴にワイングラスを店に突っ返す。
 足らない。マスカットが足らない。もっと、もっと豊潤で甘い香りがするマスカットが必要だ。
 アリンの口元に菓子を運び、微笑みながら食べているトロンを見て唾を吐き捨てたトラリオンは、沸きあがる妙な感覚に身体を小刻みに振るわせた。
 気に入らない、見ていたくはない、けれどもアリンは見ていたい。トロンが邪魔で邪魔で仕方がない、あの視線が気に食わない。

「なぁ、誰かアイツの名前知ってる?」

 抑揚のない声でそう呟いたトラリオンに、気にした様子もなく少女が返答した。

「トロンよ。カッコイイよね」

 少年達が舌打ちする中で、少女達は手を取り合ってうっとりとトロンを見ている。

「ふーん、トロン、ね。アリンと、トロン……ね」

何気なく呟いたトラリオンの瞳に、光が灯っていないことなど誰も気がつかなかった。
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