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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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とある、小学校の校庭。
現在昼休み中、校庭は生徒達で賑わっている。
色とりどりの衣服が校庭全体に散らばり、騒がしいほどだ。
その校庭の隅に、二つに並んだ鉄棒があった。支柱は赤のペンキで塗られている。
百六十センチ程のその鉄棒に、一人の少女が腰掛けていた。
風に髪を揺らす、気持ち良さそうにゆっくりと瞬きをしながら空を見上げて微笑んでいた。
柔らかそうなふわふわのセミロング、大きな瞳にサクランボ色した唇、桜色に色づく頬。
細長い手足に、小顔、幼いながらも発達して膨らむ胸、括れた腰。
非の打ち所が特に見当たらないような、完璧に近い容姿だった。
見る者を魅了し、すれ違い様に振り返らずにはいられない美少女。
容姿だけでなく、何故か彼女からは不思議な安心感を与える癒しの空気がやんわりと流れ出ているような・・・そんな雰囲気。
そこらの芸能人よりか、随分と愛らしい。
そんな鉄棒に座り込んで、空を見上げて呆けている彼女の名は、田上浅葱。
小学六年生、生徒会副会長。
当校にて、知らないものは存在しない、圧倒的な存在感を放つ娘だった。


「ねぇねぇ、見てる、友紀? 今日の空もとっても綺麗。透き通るような青空に、ぽっかり浮かんだ綿菓子みたいな純白の雲。・・・すてきーっ」
「見てるよ。綺麗だよねー」

浅葱の隣、鉄棒の支柱に凭れ掛かってうっとりと呟いた少女。
浅葱の親友の松長友紀、という。
彼女もまた可愛らしく、品の良いストレートロング正統派美少女。
瞬間的に「可愛いな」と思えるが、別に見続けていよう、とは特に思わせない普通の美少女。
当校二大美少女、である。
この二人、出会ったのは今から二年前の小学四年生の時であった。
互いに存在だけは目立つ為知っていたのだが、会話したのは同じクラスになってから。
たまたま席が近く、遠慮がちに話しかけてみたら趣味が同じ、好きなものが同じ、理解できて、言いたいこともはっきり告げられる。
初めて打ち解けあった友達・・・親友だった。
そんな二人はクラスが別れてしまったけれど、こうして時折昼休みには二人で居る時間を作っていた。
家も近い部類に入る為、登下校でも一緒になれる可能性はあるし、休日は二人で買い物へ行くこともしばしばだ。
お互いクラスに親しい友人がいない、というわけではなく、こうして二人で居ると心が落ち着くのだ。
顔を見るだけで安堵出来る、頼もしい存在。
そんな二人は空を見上げて気持ち良さそうに風に身を任せるのが、大好きだった。

キーンコーンカーンコーン・・・

校庭に響き渡る、休み時間終了の鐘の音。
それと同時に校内放送が流れ、生徒達は渋々と各々の教室へ戻っていく。

「終わりー。休憩タイム終了ー。せっかく綺麗な空だったのに・・・」

頬を膨らませ、残念そうに呟く浅葱に、友紀が小さく笑う。

「仕方ないでしょ、私達のお仕事は『学校で勉強すること』。そういう世界にいるんだから。さ、教室へ戻ろ♪」

促されて、浅葱はようやく鉄棒から滑り降りる。
明らかに不服そうだ。

「つまんない世界ーっ。私、勇者になりたいの。それで、大勢の人を救うの!」
「はいはい、そのうちね、そのうち。さ、行こっ」

無理やり浅葱を引っ張って、友紀は強引に校舎へ進んだ。
名残惜しそうに、空を見上げたまま、浅葱は友紀に腕を任せている。
余程今日の空に未練があるらしい。
やがて、校庭から人影が消えた。
先程までその場にあった笑い声が掻き消え、静まり返っている。

「あー、来た来た、浅葱ちゃんっ! 宿題見せて宿題っ。私当てられるの、絶対っ」

友紀と別れて教室に入ると数人の友達が駆け寄ってくる。
どうやら休み時間中浅葱を探していたようだが、まさか校庭の鉄棒で空を見ていたとは思うまい。
理沙が、顔を大袈裟に顰めて浅葱に詰め寄った。

「いいよー。はい、どうぞ」
「わーい、ありがとうっ♪」

浅葱は笑ってノートを差し出す。
飛び跳ねてそれを受け取ると、理沙はそのまま自分の机へ戻り、一気にノートに写し出した。
様子を見て、数人の男子が近寄ってくる。

「田上、そいつらに玉には勉強させないと・・・」
「困った時は、お互い様なんだよ」

そう言ってにっこりと笑う浅葱に、思わず同意してしまう男子数名。
常に、友達が周りに居た。
浅葱は大勢で過ごす時間がとても好きだった。
このクラスは仲が皆良く、大きな一つの輪になって会話出来る。
そんな様子を、他クラスの数名の男子生徒が見ている。
サッカーをしていた休み時間帰り、廊下を通って笑い声の聞こえる浅葱のクラス『6-1』を覗き込む。

「あ、田上だ」
「いいなー、1組の奴等。小学校生活最後なら、一緒のクラスになりたかったよ」
「俺なんか、六年間一度も同じクラスになったことないんだけど・・・」

羨ましそうに、校内アイドルの近くに居る同級生を軽く睨み付けた。
しかし、そう言葉を漏らす友人に舌打ちする少年が、一人。
忌々しそうに友人達を見てから、クラスを一瞥し、再度舌打ちする。
楽しそうに大勢に取り囲まれた輪の中で、会話している浅葱の姿を確認すると、その少年はつまらなそうにその場から立ち去った。
気づいた友人が慌てて後を追う。

「待てよ、実!」
「なんだぁ、実の奴・・・」
「あぁ、実、田上のこと嫌いなんだよね。だからじゃない?」
「・・・へー・・・」

6月26日・晴れ

「行って来まーす! さ、行こう友則、久志」

浅葱は元気良く玄関の扉を押し、そのまま飛び出した。
ドアに飾ってあるバラのドライフラワーが小さく揺れ、微かに甘い香りが漂う。
浅葱の弟達が、慌てふためきながらその後に続いて出てきた。
兄の友則が眠たそうに瞼を擦りながら、大きな欠伸をして歩く。
弟の久志が平然とそれを追い越し、姉の浅葱に追いついた。
そっと手を伸ばし、手を繋いで貰って学校へと上機嫌で向かう。
その後ろを未だに寝ぼけているのか、ふらつきながら、必死で後を追う友則である。
登校中の小学生で溢れ返っている通学路は、朝から賑わしい。
そんな中でも浅葱の姿を見つけ、親しい幼馴染が駆け寄ってきた。
浅葱は例の如く、空を見つめている。
今日も綺麗な空だった、ぽっかりと浮かぶ雲が可愛らしい。

「田上、何呆けてるんだ?」

後ろからそう声をかけられ、小突かれると、浅葱は嬉しそうに振り返る。

「おはよう、みーちゃん」
「おまえそれ、答えになってないだろ・・・」

浅葱と同じ背丈の幼馴染、三河亮。
4年生の時に、この街に越してきた亮は、車を降りて新しい街を堪能しようと背伸びをしていた矢先、たまたま買い物帰りで自転車を漕いでいる浅葱を見た。
風になびく髪、ゆったりと笑みを浮かべて漕いでいる浅葱に、瞳を奪われた。
ちなみにこの時、浅葱はお気に入りのケーキ屋さんで、大好きなミルクレープを買った帰りで、食べるのが待ち遠しくて嬉しかったらしい。
不意に気がついて浅葱は自転車を止め、立ち尽くしている亮に声をかけた。
太陽のように眩しい笑顔、亮は瞬間心奪われていたらしい。
引越しして来て、不安な気持ちもあっただろうが、その笑顔で心の雲は消え去った。
この子と、友達になりたいな、亮はそう願った。

「引越しして来た子だよね。初めまして、私、田上浅葱です」
「あ、えっと、初めまして。僕は、三河亮」
「私の家はあそこなの。よかったら遊びに来てね♪ 同じ年なんだよ。話は聞いてたから、どんな子かと思って」

浅葱が指差した先は、なんのことはない、亮の家から直線で徒歩二分ほど。
あまりの偶然に亮は驚きを隠せなかった。

「よろしくね!」
「うん、よろしくな!」

風が、二人を柔らかく包み込むように吹いた、青空広がる二年前の初夏。
こんな出会いをした二人は暫くすると『喧嘩友達』になっていた。
気軽に言い合えるのだろうか、喧嘩するほど仲が良い、なのか。
それでも、亮はそんな立場である自分が嬉しかった、何故ならば浅葱と喧嘩出来る人物が自分以外に存在しなかったからだ。
浅葱にとって、特別な存在になったのである。
学校へ通いだしてみれば、浅葱のあまりの有名ぶりに驚いたものだった。
学級委員に、生徒会、友人多く、下級生から尊敬されて先生からの人望も厚い。
勉強も出来れば体育も得意、芸術関係も秀でており、苦手科目が見つけられない。
なんだ、この女・・・人並み外れすぎじゃないか!?
呆然とする亮、とても亮にはそんな風に浅葱が見えないのだが。
同時にそんな浅葱の自宅近所に引越しして来たおかげで、亮自身も一躍時の人となってしまう。
特に男子生徒から羨望と嫉妬の目で見られた。
いとも簡単に幼馴染の称号を手に入れた亮。
亮は知らなかったのだが、二人の家の建つ土地は結構高いらしく、あまり買い手がつかないのだ。
浅葱の自宅へ遊びに行くようになった亮だが、自分の家と比較して頭を抱える。
でかい。
金持ちっぽい。
亮はおどおどと浅葱の後をついて回る。
浅葱の祖父が剣道道場を、祖母が日舞教室を開いている家とは別の建物が敷地内にあっただけで度肝を抜かれた。
車が四台綺麗に並べて駐車してあり、道場に庭(池つき、うさぎ小屋つき)、これだけあれば十分豪邸だ。
部屋に案内された。
浅葱の部屋は、雑誌に載っている様なお洒落な部屋だった。
ぬいぐるみがいたるところに置いてあり、部屋は黄色のチェックで大体統一されていた。
客室も高そうな絵は飾ってあるし、置物も壊したら弁償しなければいけないような代物で。
産まれて初めて、亮は「豪邸」に足を踏み入れたのだ。
慣れなかった亮だが、半年も経てば堂々と居座れるようになったのは、浅葱の家族が優しいからだろう。
すっかり亮は田上家に馴染んでしまっていた。

「あー、ねむ! 昨日ゲームやりすぎた」
「何か新しいの買ったの? 私もやりたい」
「おう、今日行くよ。久志も友則も一緒に遊ぼうな」

ぞろぞろと一列で歩く小学生達を見つめる、男子高校生達が居た。

「うっはー、浅葱ちゃんだー」
「畜生、妹に欲しいぜ」

自転車を止めて、毎朝この時間浅葱を待ち伏せしているファンクラブ・・・一歩間違えればストーカーの男子校に通う高校生。
うっとりと浅葱を見つめる数人の高校生を、井戸端会議中の主婦達が潜めき合う。
・・・そんな、日常。
浅葱は全く持って気にする様子もなく、そのまま亮とゲームの会話をしながら登校した。

キィィィ、カトン・・・。

何処かで、何かが回った音が聞こえる。
浅葱と亮が不意に顔を見合わせたが、首を傾げて気にせず歩いた。
二人は確かに、音を聞いた。

同刻。
霧に包まれ浮かび上がった、白亜の宮廷。
静まり返ったその中で、夥しいほどの鮮血が床に壁に天井に飛び散り、見れば肉の破片までもが混じっている。
生首が転がり、半分千切れた顔、眼球が引き抜かれた死体、ご丁寧にも身体を分解されて他の人間のパーツと混ぜ合わせ、パズルのように遊んでいた形跡。
内臓が引きずり出され、心臓が転がり、地獄絵図が広がっていた。
その最下部の一室に、『人間』の生存者達が数人辛うじて生き残っていた。
静寂、そして闇。
その闇の中に、淡く光輝く部分が一箇所存在した。
光が宙へと巻き上げられていく泉の中に、髪を、衣服を揺らめかせながら少年と少女が手を繋いで立っている。
幼さの残るその表情には、少年には焦燥感と緊張感が。
少女には強気で頑なに意志を決意した鋭さがあった。
蜂蜜色の髪に紺碧の瞳、少年は泉の周りを囲んで立っている人物達に堪えきれず声をかけた。
瞳が慣れないと分からないのだが、闇に紛れる程の漆黒のフードを被った者達がその不思議な泉を囲んでいたのだ。
初めて静寂が破られる。

「お前達も来るんだ! 必ず助かる。ここにいては無駄死にするだけだぞ」

焦りの声、その中に混じる恐怖、不安、怒り、そして責任感。
一番近くの者に手を伸ばし、フードを掴む。
泉から湧き出ていた光が跳ね上がり、一瞬途切れた。
その者は嬉しそうに少年を見返すと、恭しく丁重に少年の指を外していく。

「嬉しく思います、王子。あなた様はとても優しく、責任感の強いお方でした。わたくしはお仕え出来てとても光栄でしたよ」

思いのほか若い声、フードの間から一瞬顔が見えた。
少年だ、歳の変わらない少年だ。
王子、と呼んだ少年は瞳に迷いのない光を宿し自分達の運命を正面から受け止めるつもりだった。
何をするべきなのか、悟っている。

「自分の部下を護れなくていて、何が王子だ! 一緒に、一緒に!」

そう叫んだ王子は、誰か賛同者はいないか辺りを見回す、が、誰もそれに応じない。
静まり返る室内。
期待をこめて懸命に一人一人に目を向けるが、誰も頷かない。
鋭く、少女が囁く。

「いけないわ、サマルト。私達の役目は分かっているでしょう。落ち着いて」

淡い紫の長い髪を絹のように揺らして、少女は王子サマルトを見つめる。
サマルトよりも大人びた感じのするその声には、威圧感と高貴な雰囲気、迷いのない決意が込められていた。

「しかし、ムーン! 見殺しにするのか、人間だぞ、仲間だぞ!?」

少女・ムーンが答えるより早く、フードの男が反論した。
先程とはうって変わり、しゃがれた年寄りの声だった。

「サマルト王子、ムーン王女は我らを見殺しにするわけではございませんぞ。我らの決意をお許しに、お認めになられたのです。正直、勇者に会いに行くのには簡単にはいかないでしょう。逢えたとしても更に過酷な試練が待っているでしょう。我らはそんな困難をあなた方に託したのですじゃ。お許しくだされ。我らは最期までこの城を、愛した我が国と共に滅ぶつもりです」
「本望です。王子、無事戻られ、国を再建してください。さすれば、我らの魂も安息の地へと辿り着けましょう。それまで、お待ちしております」

中年の、どっしりとした重みのある声も、そう穏やかに語る。
思わず言葉を失い、黙り込んだサマルト。
瞳を硬く閉じ、代わりにムーンが深く大きく息を吸い込み、右手の中にある紅珠が先端に填め込んである杖を握り締めた。
ギリ、と音が鳴る。
息をゆっくりと吐き出しながら、震える声を必死で押さえ、ムーンは瞳を開いて一言。

「私達を、勇者のもとへと」

爆音。
少女がそう言い終わると同時に、頑丈な鉄で出来た、術が施してある壁を破壊し、無数の魔物が攻め寄せてきた。
サマルトが慌てて腰に下げていた細身剣を手にしたのだが、ムーンが押し止めた。
気にせずフードの者達・・・2星ハンニバルのジャンヌ城・宮廷魔導師達は一斉に魔力を解放し、詠唱に入った。
それが使命、そして希望。

「我らが守護神、精霊神エアリーよ! この者たちをあなた様の御手で優しく抱きとめ、彼の地へと導きたまえ! 希望の産まれし星、勇者の下へと!」

泉の光が二人の身体を包み込み、光が溢れ返り部屋中を照らした。
手を頭上に掲げながら、宮廷魔導師達は晴れ渡る笑顔で満足そうにその光を眩しそうに見つめる。
見える。
王子と王女は勇者に出会い、魔を打ち砕く。
希望が、見える。
二人の姿は忽然と消え、宙へと巻き上がった水が魔力を失くして音を立てて床に自然に落下した。
光が消え失せ、再度闇が支配する。
しかし静寂は戻らず、魔物の荒い呼吸が部屋に響き渡り、人間の絶叫が響き渡った。
ジャンヌ城・全滅。
暗闇に浮かび上がる無数の赤い光は魔物の瞳、血生臭く、死の香りが充満する部屋。
床が大量の血液で埋めつくされ、ぬめりを帯びている。
魔物がそれを、旨そうに嘗め、骨を噛み砕き、肉と皮を剥いで、首を投げて、遊んでいた。 

校庭では現在、朝の朝礼中である。
校長の長い話にうんざりしている生徒及び、教育者、他愛のない話をこの初夏の暑い日ざしの中、延々と聞いているのだから、仕方ない。
生徒達が不満気に校長の顔を見つめるが、瞳を閉じて優越感に浸りながら自分の演説に酔いしれている校長には生憎全く効果がなかった。
生徒の大半は話を聞いておらず、近くの友達と会話し、つま先で校庭に落書きをし、欠伸を漏らしたら。
この暑い中、せめて座らせて話を聞かせて欲しいものだ。
誰かが倒れるんだよな、こういう時って・・・亮がそう思って、何気なく隣を見た。
隣には浅葱が居た。
その浅葱、ゆっくりと苦しそうに前のめりになって倒れていく。
一瞬不意を突かれたものの、亮は顔面蒼白の浅葱を見て身体が脳からの指令を待たず反射的に動く。

「浅葱!!」

大声で名を叫んで直ぐ様抱き起こし、その額に掌をおいて、熱を確かめる。
その騒ぎが波紋のように広がっている。
田上浅葱が、倒れたらしい。
心配そうに不安そうに、徐々に声が広がっていった。
保険医が駆けつけ、亮の腕の中の浅葱を診る。
浅葱は異様なまでの圧迫感に包まれて、荒い呼吸を繰り返した。
一瞬目の前が真っ暗になった、次の瞬間誰かの声を聴いた。
思い出せないが良く知った声だった。
その声が悲痛で、涙声で、怒気を含んでいたものだから、苦しくて、哀しくて、愚かで、可哀想で。
浅葱は薄っすらと瞳を開いて、耳鳴りするまま、ぼやけた視界のまま周りを見つめる。
声は聞こえたけれど、何を言ったのか、肝心のことが分からない。
誰の声だった、あれは?
思い出して、良く聞く声でしょう?
・・・誰だった?
浅葱は胸を鷲掴みにして握る潰されたような痛みに、小さく悲鳴を漏らす。
考えがまとまるよりも先に、次の瞬間眩すぎる目に痛い光が、右から差し込んできた。
地球上に様々な光があるが、ここまで強烈な光を受けるのは初めてだった。
その眩さに慣れない瞳が悲鳴を上げる、硬く閉じて鋭い叫び声を皆が一斉に上げた。
例えばそれは、社会の時間で習った広島原爆のようなものなのだろうか?
亮は懸命に浅葱を抱きかかえながら、光から遠ざけるように覆い被さり必死で堪える。
目を開くことが出来ず、閉じても瞳に焼き付いてくる光に、全員瞳を掌で覆い隠し、叫び声を上げてその場に蹲る。
校庭の眩い光の中、二つの影が揺らめく。
ゆっくりとその影は歩み出て、辺りを見回した。
見れば大勢の人々が口々に何か喚きたてながら伏せている。
見慣れない建物、見慣れない器具、良いとは言えない空気。
二つの影の一つ、少女・ムーンは袖口を口元に当て、顔を顰め空気を吸う。

「・・・何かに汚染されているのかしら、息苦しいわ」

軽く咳き込んで、隣に立っているサマルトを見やった。
サマルトは物珍しそうに前後左右を身体を回転させて、様子を窺っている。
光が徐々に力を弱めていき、ようやく人々は頭を抑え、呻きながら起き上がった。
今の、何だった?
そう口々に言い合いながら周囲にようやく目を向けた。
校庭の端に、誰かが居た。
見たことのない髪の色、服装、手にしている武器。
二人の姿を見た者達は、唖然と口を開いて見つめるより他なく。
皆言葉を失って、二人の訪問者を見ていた。
恐る恐る、固唾を飲み込み誰一人声を発するものなく、時が止まったかのように。
サマルトとムーンは、互いに顔を見合わせるとゆっくりと足を動かし、探るように目の前の停止したような人々を見た。
弾かれたように一人の少女が鋭く叫ぶと、連呼して叫び声があちらこちらで上がった。
別に二人に恐怖したわけではない、その後ろ、空から数匹のネズミが降ってきたのだ。
もちろん小さくはない、サイズ的には中型犬程で、前足や口元に真っ赤な鮮血を滴らせて地面に唸るように身体を低くしている。
ただでさえ小さくても苦手な人々のほうが多いのに、その巨大ネズミは思いの外素早い速さで尻尾を振り回すと、唸る。

「私達についてきてしまったんだわ!?」

ムーンが唇を噛み締めながら、手にしていた杖をネズミに向ける。
サマルトが慌てて細身剣に手をかけ、そのまま勢い良く引き抜くと構える。
ムーンは両手で杖を硬く握り締め、ネズミを睨みつけるとそのまま呪文を詠唱する。

「生命を運ぶ風よ、死を運ぶ風と変貌し、我の敵を刃となりて切り裂き給え! 真撃っ!」

その言葉を言い終えると、杖の先から目に見えないがヒュヒュッと空を切る音だけが聞こえ、それはネズミの二匹を巻き込みながら、これでもか、というほど引き裂いていった。
血が、肉が、内臓が、まるでミキサーにかけた果物のようにゴリゴリと音を立てながら大雑把に砕かれていく。
その光景に卒倒する者、数名。
当たり前だ、明らかにそこらのスプラッタ映画よりも生々しかった。
生徒だけでなく、職員の女性達も悲鳴を上げることなく、その場に倒れ込む。
サマルトが手にしていた剣で、突進してきたネズミと攻防戦を繰り広げつつ、ムーンが間合いを取りながら呪文の詠唱を繰り返し。
そんな頃、浅葱は小さく呻きながら瞳を開いた。
覆い被さっていて微動だしない亮、その腕の隙間から浅葱は状況を確認しようと軽い抵抗を試みる。
隙間を作って様子を見てみたならば。
あれは、なんだろう。
日本人でも、地球上には存在しないような色の髪を靡かせている杖を掲げる少女と、剣を巧みに操りながら素早い動きで宙を舞う『何か』と戦っている少年。
目を凝らして、凝視して浅葱は宙を飛び交う物体を目に捕らえた。
紅蓮の瞳の巨大ネズミだ。
凶暴そうな鋭利な歯をむき出しにしながら、二人に襲い掛かっている。

「え・・・」

胸が、跳ね上がった。
身体が急速に熱を帯びて。
瞳がその光景を捕らえたまま、動こうとしない。
それは、浅葱が待ち焦がれた光景だった。

―――私、勇者になりたいの! 勇者になって、世界を救って人を助けて、それから・・・

幼い頃に抱いた夢は消えることなく、望んだ世界が目の前に広がる。
地球上では、決して叶えられることがないであろうと思っていた世界。
悪い奴を倒して、仲間と幸せになるそんな物語。
浅葱は急に亮を懸命に起こし、もがきながら必死でその腕から抜け出すと、そのままネズミの方向へと走り出した。

「待て、浅葱っ!」

亮が慌てふためきながら腕からすり抜けてしまった浅葱を追う為に足を踏み出そうとする、だが、力が入らず転倒した。
足が竦んでしまい、動けないのだ。
情けない、何やってるんだ、僕!
地面に倒れこんだまま、駆けて行く浅葱の後姿を悔しそうに見つめる。
追いかけなければ、浅葱が危ない。
追いかけて前に立たなければ、浅葱を護る為に。
浅葱を護ること、それが僕の・・・。
亮は辛うじて動く両腕で地面を這う。
亮は正常だ、情けなくはないだろう。
誰しも恐怖を感じる、まして予測しなかった事態には簡単には適応できない。
浅葱だけが、その場で・・・異質だった。
ネズミの一匹が浅葱の存在に気がついたのだが、浅葱はそれより先に右足を思い切り空へと蹴り上げ、ネズミを宙に浮かせた。
宙に浮いたネズミを追い駆けて、目の高さにまで落下した時に、両手を組んで拳を作り思い切り頭上から振り下ろして地面へと叩き落した。

「えいっ!」

威勢の良い掛け声、叩きつけられて身を硬直させたネズミを、更に浅葱は蹴り上げる。
おぼつかないが、なかなかのコンボ、浅葱は両足を肩幅まで広げながら、ネズミの前で構えを取った。
小さい身体で素早く動き、まるで舞を踊るかのようなそんな一連の流れ。
浅葱の姿が徐々に遠く、小さくなっていく。
鏡の中に吸い込まれる・・・静寂。

「・・・なんだ、この娘は?」

一人の男が小さく呟いた。
何気ない一言に含まれる様々な感情。
微かな衝撃、驚きを隠せずに思わず声を発した。
男は自分の背丈ほどある鏡を見つめていた。
二十代半ばのその男、艶やかな漆黒の長い髪、妖しく仄かに光る蒼い瞳、適度な美貌の持ち主だった。
右目は前髪が長すぎて見えないが、左目には訝しそうに、忌々しそうにその鏡を睨みつけている。
髪とは対照的な純白の衣装に身を包み、それが部屋の暗闇に良く映えていた。
薄暗いこの部屋には、その鏡しか置かれていないように思えた。
広さはありそうなのだが、中央にその鏡のみ、あとは暗くて見えないが、ただの空間。

「偵察用の魔道眼球をこの生物に取り付けておいてよかったな、思わぬ収穫だ」

魔道眼球を取り付けられた物が見た風景全てが、この男の目の前に設置されている『暗黒鏡』に映し出される。
男は腕を組み、軽く笑みを浮かべて鏡を見た。
映っているのは浅葱、別にこの男が見ようと思って故意に見ているわけではない。
取り付けられたネズミが、目の前の敵と認識した浅葱を見ているので映っている。
驚きと怒り、体勢を立て直した先程のネズミは、耳障りな啼き声を上げると猛然と浅葱へ突進する。
男は思わず自身の腕を爪が食い込むほどに握り締めた。
興奮気味に、溜息を零し、食い入るように鏡を見つめる。
ネズミの攻撃に臆することなく、大地に足をしっかりとつけ、真正面からネズミを迎え撃つ浅葱。
それは、華麗で強烈な視線だった。
そう、男は自分が見られているような錯覚に陥った。
凛々しく力強く、その愛らしい容姿が男を魅了する。
胸が跳ね上がり、男は唇を噛み締める。
震える身体、思わず鏡に手を伸ばした。
頭に噛み付こうとして跳躍したのか、浅葱の表情が鏡全体に映し出される。
思わず音を立てて固唾を飲み込み、唖然と成り行きを見つめた。
詳しくは分からないが、浅葱の放った右腕が、ネズミを横一直線に払いのけられたのではないだろうか、ふっと浅葱の姿が消え、地面が鏡に映し出される。

「早く起き上がれ、何をしているっ」

男は興奮気味に届くことのない言葉をネズミへ送った。
苛立つ声、浅葱の力量を見たいのか・・・それとも。
浅葱という存在を見ていたいのか?
男の思いとは正反対に、地面が映し出されたまま変わらない。
ネズミは、今の一撃で死んでしまったのだろうか?

「ちっ、役立たずめがっ」

舌打ちして、地面を足で踏鳴らす。
男はそれでも、鏡を見つめた。
まだ、まだ映るかもしれない。
男の思いが届いたのか、ゆっくりと地面が揺れ、視線が高くなっていく。
浅葱の足を捕らえた。
徐々に、ふらつきながらも、視線は浅葱の後姿を捕らえた。
どうやらネズミを倒したと安堵したのだろう、他の事に意識を集中させているらしく、全く立ち上がったネズミの存在に気がついていないようだ。

「何をしている、気づかないとその魔物に殺られてしまうぞ」

男はそう漏らしてから、思わず自身の口を手で塞いだ、信じられないというように、頭を振った。
殺られれば良いではないか、相手は人間だぞ!?
自分が浅葱を心配してしまったという、その事実に顔を赤らめる。

「何故この私が、初めて見た人間の娘の心配をせねばならんのだっ」

腹が立った。
今の自分の言葉で自覚してしまい、腹が立った。
その鏡に映る娘が、魔物に怪我を、殺されるところを見たくなかった。
寧ろ・・・生きたままの姿を、もう一度見たいと思ってしまった。
歯軋りして、胸を押さえる。
なんだ、この感情はっ。
鏡に、浅葱とは違う人物が映し出された。
男は忌々しそうにその見覚えのある男に舌打ちし、右手を硬く握る。

「サマルト王子、やはりそうか・・・。となると、この娘は、もしや」

鏡に映る浅葱とサマルト。
サマルトの手が浅葱の手を握り締め、何か興奮気味に会話しているようだ。
声までは聞こえてこないこの鏡、何を話しているのかが気になった。
というよりも、胸に渦巻くこの苛立ちを隠せない感情・・・浅葱の手を優しく握っているサマルトに腹が立った。
サマルトの手に、何か淡く光る物がある。

「勇者の石か!?」

碧色の珠が填め込んである腕輪、それをサマルトが嬉々としてアサギの腕へと填めようとしている。
と、それがいきなり眩い光を放った。
鏡越しとはいえ正面からその光を受け止め、男は低く呻くと思わず瞳を硬く閉じ、鏡に背を向ける。
その光の波動に、男は耐えられなかったのだ。
光が弱まったことを背で確認すると、男は再度鏡に振り返る。
浅葱が不思議そうに空に透かして、腕輪を見つめていた。
サマルトが男に・・・いや、ネズミに近寄り、手にしていた剣で躊躇せずに身体を貫く。
鏡に映る映像が大きく歪んで、次の瞬間掻き消えた。
どうやら、サマルトがネズミに止めをさしたらしい。

「勇者に、辿り着いたのだな王子達よ。泳がせておいた甲斐があったというものだ」

勇者。
口にした単語と、浅葱の表情が重なる。

「あの娘、勇者なのか・・・」

信じられぬ、というように落胆し、瞳を伏せる。
哀愁漂う声、男は覚束無い足取りで部屋の片隅の壁にもたれた。
冷たい壁が、思考回路を正常に戻してくれる。
あの娘は勇者だ。
可愛らしいと思ってしまった、心配になってしまった、護りたいと、そう思ってしまった。
瞳を閉じると浮かび上がる浅葱の表情。
真剣に真っ直ぐな瞳で見つめてくる、その姿が目に焼きついて離れないのだ。
何だ、この感情は。
男は苦しそうに何も映し出さない鏡を見つめると、息を大きく吸い込んだ。

「テンザ」
「私はここにおります」

何処からともなく、漆黒の闇を思わせる衣を身に纏った男が、まるで控えていたかのような速さで呼びに応じてくれた。
室内には、この男以外存在しなかったはずなのだが・・・。
長いストレートの金髪を揺らしながら現われた男は、跪き次の指令を待つ。

「三人に連絡を取ってほしい、早急に」
「承知いたしました」

答えるなり、音もなく消えるテンザ。
一人になったその部屋で、男は瞳を軽く閉じる。
暫しして、男はゆっくりと立ち上がると、足を引き摺って鏡の前に立つ。
その冷たい鏡に触れてみる。
切なそうに、悲痛な叫び声を漏らす男。
浅葱の凛々しい表情が見たい、ふわふわの髪に触れてみたい・・・。

「美しい娘だ・・・名は、名はなんという?」

男は届きもしない台詞を、鏡に向かって呟いた。
先程の無謀なほど勇敢な小さな娘、その瞳に心が射抜かれて。
勇者だと分かった、自分とは敵対する立場の娘。
男の名はハイ・ラゥ・シュリップ。
2星ハンニバルの魔王と呼ばれる男。
魔王は、勇者に恋焦がれた。
眩しい程の存在感と、真っ直ぐな瞳に囚われた。

ネズミの身体を一突きにしたサマルト、見ればムーンも粗方敵を一掃したようだった。
興奮気味でサマルトはアサギの手を取り、力強く振り回す。

「お会いできてよかった、オレはサマルト。2星ハンニバルのシーザー城第一王子・サマルトと申します」
「初めまして、私は田上浅葱といいます」

宜しくお願いします、飛び切りの笑顔で浅葱はぺこりんと深々とお辞儀をする。
その笑顔に、思わずサマルトも笑顔になる。
姿を見た時は、あまりにも小柄な少女だったので勇者ではないと思った。
というか、勇者であっては困ると思った。
が、勇猛果敢に、怯むことなく敵へと突撃し、見事な連鎖攻撃を繰り返した。
あれだけ見れば、信じざるを得ない。
そして、サマルトが自国より丁重に運んできた「碧い勇者の石」が、浅葱に反応したのだ。
勇者にのみ、反応するといわれている伝説の石。
銀細工の腕輪に石が填め込まれている為、一見装飾品にしか思えない。
サマルトが懐からそれを取り出すと、真っ直ぐに石は浅葱を指し示し、腕輪はサマルトの手によって浅葱の手首へと収まった。

「タガミ、アサギ。アサギ、と呼べば良いのでしょうか」
「あ、はい、アサギで良いのです」

アサギは再度深々とお辞儀をした。
一度整理してみる。
突然光の中から、サマルトとムーンが現われた、追うような形でネズミが降って来た。
ムーンは魔法を唱えて攻撃し、サマルトは細身剣で攻撃をし、今勝利した。
とくん・・・
アサギの胸が跳ね上がる、今になってようやく『戦った』という実感が湧いて来る。
ネズミを素手で攻撃した時は然程気にならなかったのだが、急に足が震え始めた。
これから起こる際の武者震いなのか、恐怖を我慢していたのか。
不意に訪れた異世界からの訪問者、そして。
・・・自分は勇者らしい、ということ。
願っていた事だった、勇者になったら、やりたいことがあったのだ。
地球上には魔物もいないし、魔法も使えない、友達に夢を話すと笑われて頭を撫でられた。
ほら、やっぱり、実在したでしょこんな世界。
アサギは思わず不敵に笑った。

「お会いできて光栄です、共に戦ってくださいますね勇者」

ゆっくりとした口調、柔らかな物腰のムーンが歩いてきた。
なんて、綺麗な人。
アサギはそう思ってムーンを見つめる。
お嬢様、とはこういう人物の事をいうのだろう、行動全てが気品に満ちている。

「私の名は、ムーンと申します。サマルトとは幼馴染です。ジャンヌ城の第一王女でした」

傍まで歩き、ムーンが丁寧にお辞儀をした。
慌ててアサギもお辞儀を返す。

「一先ず、説明いたしましょう。この場所は私達の住んでいた場所と違う様子ですから、上手く話せられるか分かりませんが」

ムーンは軽く咳き込むと、口元に手を当てたまま語りだす。
神妙な顔でアサギは頷いていた。

「私達は2星・ハンニバルと呼ばれる惑星出身です。ご存知ですか? ・・・知りませんね、続けます。数年前から急に『魔王』と呼ばれる存在が現われました、名をハイ・ラゥ・シュリップ、と申します。彼の残虐性の高い愚行によって、五国存在した大国が滅ぼされていきました。先程、私の国ジャンヌが落城いたしました。サマルトの国だけが辛うじて残っているはず・・・です」
「オレ達はそれそれ国に同年の仲間が居たから、仲間に術く片っ端から捜しに行ったのだけれど・・・オレ達二人しか・・・」

2星ハンニバルの魔王、ハイ・ラゥ・シュリップ。
アサギはそう脳裏に叩き込むべく小さく呟いた。

「勇者の石はムーンの国に保管されていたので、そこが集合場所となったのです。予言がありまして。『世界が混沌の危機に陥った時、伝説の勇者が石に選ばれ世界に光をもたらす』」

「私とサマルトは、その予言を信じてここまで辿り着きました。大勢の命が消えましたが、共に魔王を倒せば救われると信じています。どうか、勇者アサギ。私達と共に魔王ハイを倒し、世界に平和を」

大体話は理解した、アサギは神妙に頷くと二人の手を取る。

「私、頑張ります! 魔法も使えないし、剣も使ったことないけど、頑張りますっ!」

その台詞に二人は思わず眩暈を覚えたが、先程の戦闘を見ていると素質は十分だからすぐに覚えられるだろう、と思った。
三人はその場で笑みを零した。
勇者が見つかった安堵、素質があり、受け答えがはっきりしている目の前の小さな勇者。
成長するまで誠意一杯見守ろう、彼女とならば何でも出来る気がしてくる。
サマルトとムーンは空を仰ぎ、死した仲間達を思い出した。

―――勇者に、逢えたよ

静かに祈りを捧げる。
勇者に会う為に払った尊い犠牲を無駄にしないように、祈る。

同刻。
4星クレオ、神聖城クリストバルに集結した者達。
服装も年齢も区々で、全く共通点が見つからなさそうな6人だったが、唯一の共通点は『勇者を探すこと』。
大きな水晶玉に映っているアサギとサマルトを見つめ、一人が神官に叫んだ。

「早く、早く! 勇者が奪われる前にお願いします!」

そう叫んだ少女の手中には、翠色した石の填まった腕輪が二つあった。
言うなり、6人の姿が掻き消える。

更に同刻。
3星チュザーレ、ボルジア城内。
紅石を手にしている頭の回転の速そうな男が一人、魔方陣の中に立っていた。

「急ぎませんと」

それだけ呟くと、瞬間的に姿が掻き消えた。 

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