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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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「このような人気がある場所では、あなたは魔法など使えないと思います。被害を考えてしまうでしょうから」

小馬鹿にされたような台詞に、頭に血が上ったマダーニだが言う通りだった。
万が一の為の魔法詠唱だが極力使用は避けたい、だが、勇者を護る為ならば多少の犠牲も・・・。
考え、軽く唇を噛むマダーニ。
一般人の命は、例え勇者であろうとも同等だと思う。
命の重さに変わりはない、代えの命など存在しない。


「被害を出さずにあなたを撃退する予定なのよ。・・・下手な動きをあなたがするのなら、ね」
「ご心配には及びません、下手な動きはしませんよ。私はオークスといいます」

不意に自身を名乗る男に、マダーニは拍子抜けした、俄然構えは解かないが。

「・・・私はマダーニ。あの子達と旅をしているの」

二人の間に沈黙が流れる、オークスは口を開きかけて何か躊躇している。
じんわりと額に浮かび上がる汗、マダーニは拭うことなく攻撃態勢へと入っていった。

「危害は加えません、ご安心を。あの子、やはり勇者ですか。4星クレオの勇者と、1星ネロの勇者、ですね?」
「・・・」
「彼女達の所持する勇者の石、あれを人目につかせるのは避けたほうが良いでしょう、直にでも隠させてください。事実を知りえる者とて少なくはないのですから」
「アンタ、何者?」

淡々と語るオークスと名乗った男、勇者を探していたのだという事は解ったのだが、目的は未だ不明だ。

「・・・あの子を、御守り下さい。こちらも全力で守護いたしますが、何分表立って動けないので」
「はぁ!? 言われなくても護るけど、アンタは何者かって訊いてるの」

敵ではないようだが、味方なのかが不明だ。
オークスの言葉は曖昧すぎて真意がとれない、表情が判らないので事実かどうかも判らない。

「時期が来れば、いづれ再会出来ましょう。その時には必ずお力になります」
「今は敵でも味方でもない、ってコト?」
「味方、です。信じていただけないかもしれませんが。こちらの予測と食い違いがありましたので、本来ならば声をかけることもなかったのですが」
「く、食い違い?」

眉を潜めるマダーニに、オークスは微笑した。

「はい。まさか、勇者が。・・・マダーニさん、あの子を、邪な魔族達と、卑劣な邪教徒達と、貪欲な魔術師達から・・・護ってください。決して、あの方の存在を消さない様に。あの方が消えてしまえば、全ては崩壊へと」
「ちょ、待った、待って。一から順に説明してくれない!? あの子って、どっちの!?」
「あの子は、あの方です。俺が会えたのがマダーニさんでよかった、勇者を護る為に他の人間が消えても良い、という考え方でしたら会話しないつもりだったのですが。良いですか『必ずあの方を御守り下さい』。では」

深くお辞儀をするオークス、口を開いて呆気に取られているマダーニだが、一瞬フードから彼の耳が見えた。
人間の耳ではない、もっと長くて尖った・・・。

「アンタ、人間じゃないの?」

マダーニの質問には答えることなく、オークスは再度微笑むと忽然と姿を消す。
伸ばした手が、宙を捕まえた。
行き交う人々の声はマダーニの耳を通り抜ける、何かを掴もうと伸ばした手がそのままの状態で、暫し放心。

「どういう、こと? 一体、何なの?」

困惑気味に我に返るマダーニ、背筋を汗が伝う、身体が小刻みに震えだす。
あの子、あの方。
あの方。
勇者を、あの方と呼んだのだろう、恭しく呼んだのだろう。
しかし、どうも引っかかる、『あの方』と呼んだ事が気にかかる。
不可解な言葉が多すぎた、オークスは一人で納得していたようだが、単語を並べられただけのマダーニには意図が全く掴めていない。

「マダーニお姉さん、マダーニお姉さん。服決めましたっ」

急に服を引っ張られ、慌ててマダーニはそちらを見下ろす。
観ればアサギが近寄ってきて、店先に居るユキを指していた。
ユキは両手に二人分の洋服を抱えて嬉しそうに微笑んでいる。
大きな瞳に覗き込まれて、マダーニはぎこちなく笑う。
心配をかけまいと、無理やり笑顔を浮かべたが、引き攣ってしまった。

「どうかしましたかー?」
「う、ううん。なんでもないわ。若いっていいわよね、あたしには着られなさそうなデザインよ。さ、買いましょうか」
「私は大きくなったらマダーニお姉さんみたいな服が着てみたいな」
「アサギちゃんなら着られるわよ、きっと美人になるわ。どちらが綺麗か競争ね」

・・・もっとも、アサギが成長する頃にはマダーニは三十路が近づいてしまうわけだが。
手を繋いで、ユキのもとへと駆け寄る二人を、路地裏からそっと見ているオークス。
微笑ましい光景に、口元を綻ばせて軽く溜息を吐いた。

「人間と、接触してしまいましたが・・・。さて、帰りますか」

そっと踵を返し、フードを深く被り直す。

「またお遭いいたしましょう、マダーニさん。そして、アサギ様」


一軒の宿から出てきたライアンとトビィ、人数が多い為宿の手配に些か戸惑ったが運よく安目の宿の予約が出来た。

「集合まで時間があるな。話でもしないか、トビィ君」
「少し、行きたい場所がある」
「そうか。ではオレは気になるからアリナ達と合流してくる。あの二人は無茶しそうだし。じゃあ後ほど噴水前で」
「あぁ」

一人で居たそうなトビィを察すると、最もらしい理由を並べてライアンは快く離れていく。
トビィは軽く笑みを零すと、迷うことなくライアンとは反対の道へと足を進めた。
歩くだけで異性からの注目を集めるトビィだが、周りの黄色い声など気にしている暇はない。
露店が多く並ぶ通りでは、同姓の年頃の娘や恋人達で賑わっていた。

「よぉ、そこの色男。よかったら店覗いていかないかい?」

一軒の露店の中年男が声をかけてきた、他の露店は若い者が経営していたが、この店だけは違った。
とてもトビィが探している物を売っているとは思えないような外見の主、酒場の親父にしか見えない。
トビィは眉を顰めつつも、何故か律儀に足を止めて近づく。

「・・・女の子に何かあげられる物、売ってないか?」

真っ直ぐな瞳でそう訊いたトビィ、店主は目を白黒させる。

「女の子ぉ!? こりゃ一大事だな、街中に嵐が起こるぞ! どんな子だ? さっきからあんた、女の子達の視線を独り占めじゃないか。一体どんな子が幸運を掴んだんだろうなっ」
「御託はいい、何か見せてくれ」

微かに苛立ちの意味合いを含めて、トビィは眉を顰める。
へへ、悪いなぁ、と頭を掻きながら店主は黒のケースを取り出してきた。

「ほれ、女の子用のアクセサリーだ。どうだ? 気になるのはあるか?」

ケースを開くと、成る程、煌びやかなアクセサリーが所狭しと並んでいる。
大した金額ではないのだろうが、作りは粗悪でもデザインは悪くない。
意外だった、まさかこんな店主の店にこのような可愛らしい物が売っているとは。

「これを、一つ」

トビィは暫し眺めてから、一つのネックレスを指差した。
淡水色の石が涙型に加工してある代物だった。

「まいどありー」

嬉しそうに店主は豪快に笑う、繊細なそのネックレスを丁寧に紙に包み手渡す。
不意に首を傾げる店主、しげしげとトビィを見た。

「なんだ」

じろじろと中年男に見られては、誰だって気を悪くするだろう。
トビィは不愉快そうに店主を睨みつけている、狼狽し、店主は頭を掻いた。

「や。あ、あはは。あー・・・その、なんだ。あんた以前も買ってくれたか? そのネックレス」
「いいや、今日が初めてだが」
「だよ、なー・・・。いや、あんたを何処かで見た気がして。あんたにそれを売った気がして。あんたに、何か別の物をあげた気がして」

腕を組んで低く唸る店主、トビィは無言で踵を返すと立ち去る。
が、迷いもせずに振り返るとこう付け加えた。

「奇遇だな、オレもそう思った」


時は過ぎ、ジェノヴァに鐘が鳴り響く。
噴水前にぞくぞくと集まってくる一行は、ライアンに連れられて宿へと向かった。
地球の衣服を脱ぎ捨て、すっかりファンタジー世界の住人になった勇者達。
着ている物が違うだけで、気持ちが高揚してくる。
ユキは地球と変わらず、レースが大量に施されたワンピースを買って貰っていた。
全部パステルカラーで、膝下10cmの貴族の娘風の衣装だ。
アサギは対照的に、比較的露出が高い衣装を買って貰っていた。
動きやすさを優先した結果、そうなったらしい。

「せ、折角だから、地球じゃあんまり着られない服にしようと思って」

暑いこともあって、ホルターネックで胸を覆い隠しているだけの上半身、下のスカートもやたら短い。
どちらかというと水着のような感覚だ、似合ってはいるのだが勇者らしくはない。
マントを羽織れば、それらしくも見えそうだが。

「いーよ、いーよ! 似合うよアサギ、サイコーっ」

興奮気味に捲くし立てるトモハル、中年親父のようである。
苦笑いで宿のダイニングルームに到着した一行は、そのまま夕飯の用意をして貰った。
歩き疲れてお腹も空腹気味、料理が運ばれるまで昼間の情報交換である。
一行以外に客は未だ到着していないようで、気楽に会話が出来る。
先程のオークスの忠告の件もあり、マダーニは直様勇者達に石を隠すように促した。

「じゃ、まずボク達からね。ジョアンへも、コスルプへも現在休航中。コスルプ行きの航路に、三体の竜が目撃されてる。特に襲ってきた事実はないらしいけど、動かないみたいでさ。危険視されてて当分出航しないってさ。で、ジョアンへは早くて二ヵ月後みたいだよ」

トビィが微かに顔を上げるが、誰も気にする様子もない。
低く呻いてライアンが首を傾げる。

「竜か、厄介だな。海路での旅は難しいということか。当初の予定通り、陸路で行くか・・・」
「しかもそのドラゴン、三体とも種類が違うらしくってさ。まぁ真相はどうだか知らないけど、黒竜、風竜、水竜らしくって。三体が一緒に行動してるらしーんだな、これが。ボクは竜には詳しくないけど、種族違うのに行動を共にするなんてこと、あるんだね」
「ほほー、珍しいですな。本来竜は同種族でしか行動しないのですがのう。こと、黒竜に関しては成人すると単独で行動する筈ですじゃ」

運ばれてきたパンに手を伸ばしたアリナは、以後口を開かない。
焼き立てのパンにオリーブオイルと塩を振り掛け、ジャガイモを挟んで食べている。
食事に夢中になったアリナに代わって、サマルトが口を開いた。

「とりあえず、時間が余ったからアリナがストリートファイトっていうの? それに参加して数人ぶっ飛ばしたから賞金貰ったんだけど」

ライアンに硬貨が入っていると思われる袋を渡すサマルト、悲鳴を上げるクラフトとブジャタ。
どうりでアリナの衣服に汚れが目立つと思った、苦笑いする一行。
アリナは無心でパンを頬張りつつワインで流し込んでいる、悪びれた様子もない。

「宿代くらいは稼げたと思うよ」
「うん、十分すぎるよ、これなら」

どれだけの相手を叩きのめしたのか見当がつかないが、袋は重い。

「こちらは順調に買い物を終えました。なかなか質が良い薬草が売っていますね」

アーサーがミシア、ムーンと共に頷く。
その後、一行は夕食をのんびりと取り、暫しの休息に浸る。

「今後の予定だが。明日から再び旅が開始だ、次は街まで遠いので馬車での生活が苦になるだろう。今のうちに羽を休めておくように。昼にはこちらを立つ予定だ」

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