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マトリックスを観ていたら(DVD持っているのに)、何も出来ずに20日終了です。
明日もケーキを作るので、何も出来ないちっくです。
予定崩壊。
今日のBGMは、あゆー♪
姫万歳。
カラオケ行きたいです。
これとこの間の横浜オフで買ったお茶を飲みつつ、絵を描いています。
眠いですね。
44→なんかユキがケンイチを気にし始めた今日この頃、いかがお過ごしですか(おい)、な話。
道場に出向き訓練をする日々。
45→頻繁に街で起こる強盗や殺人を突き止め、裏と対峙
46→アリナ達、船から降りる。
シポラ城へ
47→ミシア、魔族2人に崇められ「破壊の姫君」であると告げられる
何食わぬ顔で仲間達と合流
48→ジェノヴァへ戻り、集結
49→アサギ・トモハル編開始
風が吹く、ムーンの髪を揺らしながら花弁を舞わせながら、香りを届けながら。
うっすらと瞳を開いたムーンは、多少戸惑いがちにブジャタを見たが直ぐに笑みを零す。
「吹っ切れましたかな、亡国の姫君」
「えぇ・・・。まだ、認めたわけではありませんが。
確かに神が与えて下さった命の重みは、同等ですよね。神によって、魔族も作られた存在であるということ、忘れていました。
絶対悪であると・・・決めつける前に自身で見極めようと思います。
ご迷惑をおかけしました、ブジャタさん、ケンイチ」
深くお辞儀をしたムーンに、ほっほっほ、とブジャタが高く笑う、ケンイチが慌ててそれを制する。
「な、何も僕はしてないから別に気にしないで」
「いえ、ご迷惑をかけたことに違いはありませんわ。申し訳御座いませんでした」
「だからーっ」
丁寧に謝られることに赤面し、必死で抵抗するケンイチ。
滅ぼされたとはいえ、一国の姫君である、申し訳ない気分になるのだ。
不思議とムーンの笑みや声のトーンは耳に心地よく、思わず瞳を瞑り聞き入りたくなってしまうもの。
微笑ましく二人を見つめながら、ブジャタは小さく笑い続けている。
亡国の姫君。
元々、ブジャタとムーンとて出身の惑星が違う。
ブジャタの惑星であるクレオの姫君は、知っている限りだが皆大人しく椅子に座り笑顔を振りまくだけ。
ムーンが魔法の授業を受け、ここまで扱う事が出来るのは惑星の違いだろうか。
鼻から、何者かの襲来に備え皆戦闘訓練を行っているのだろうか。
こうしてみると、クレオは実に平和なのだな、とブジャタは苦笑いである。
魔王が存在しているとはいえ、人々の不安要素にそこまで巨大に根付いては居ない。
僅か一部の人間が警戒しているだけであり、村や街の一般市民は知る由もなく。
「さて。ではこちらを」
ブジャタは懐から紙切れを一枚取り出し、三人に良く見えるように広げる。
ケンイチが覗き込み、ユキを手招きすると「地図だよ」と、嬉しそうに話し掛けた。
古びた羊紙、皮と骨だけのような指先でブジャタを点を指し示す。
「近辺の地図じゃ、地形がよぉく解る。
盗みを街中で働き、堂々と門から出て行く馬鹿はおるまい。秘密の抜け穴でも存在するのではないか、と持ちきりじゃ。
そして街からまんまと盗んだ品物を遠くで売り払う・・・保管場所がないと不可能じゃの。
よぉく見てみぃ、印があるじゃろう? 怪しいと思われる場所じゃ」
「早く見つけないといけないね、早速行動開始だ!」
拳を握り締め力強く頷いたケンイチ、ムーンとユキも同感、と拳を掲げる。
ブジャタは嬉しそうに頷くと、先頭に立ち案内するかのように歩き出した。
高齢でありながら、若々しい態度のブジャタにケンイチは吹き出すとついて歩いた。
「ブジャタさんって、元気だよね」
「ほほっほー。いやなに、若い頃は格闘家でもありましたからのぉ。
身体の鍛え方をそこらのジジィと一緒にされては困りますがな。
見せて差し上げましょうぞ、このブジャタの華麗なる・・・おぉ!」
「退け! 邪魔だ、老いぼれ爺が!」
突如、ブジャタの身体が地面に突っ伏した、その傍らを二人の青年が走り抜けて行く。
呻きながら倒れ込んでいるブジャタに慌ててユキが手を差し伸べ、優しく抱き起こしながら去っていく二人に「何てことするのよ、ばーかっ」と、声を浴びせたが聞いているのかいないのか、そのまま去っていった。
「酷い、謝りもしないだなんて、非常識ですわ・・・」
憤慨するムーンの傍らを、ケンイチがすり抜けて行く。
「許せない、追いかけてくる!」
止める間もなく青年達を追いかけたケンイチであったが、ユキとムーンがブジャタの様子を見ていたところで二人も慌てて青年達を追う羽目になった。
というのも、大通りから数人の警備員が雪崩れ込むようにこちらに押し寄せてきたのだ。
口々に「待てー! 止まれー!」と叫んでいたので、ユキとムーンは互いに顔を見合わせるとブジャタを座り込ませて走り出す。
何をしたのかは知らないが、追われているのならば犯罪者だろう、ただの無礼者ではないのだ。
「そこで待っていてください!」
珍しいムーンの大声、ブジャタは腰を痛めたらしく、擦りながら弱々しく手を振った。
待つも何も、行く気がないようだ。
行ったところで、足手纏いになりかねない。
杖を振りかざし、詠唱を始めるムーン、とても足では彼らにおいつけないので魔法での作戦に出る。
「煌く粒子破片となりて、絶対零度の冷気を纏い彼の者へと」
相手は人間だ、傷を与える程度の魔法で十分である。
ムーンの杖から放たれた一本の氷柱は、まるで槍のように地面と平行して凄まじい速さで青年へと向かう。
ケンイチを追い越し、一人の青年の太腿に突き刺さった。
飛行距離が相当なものだ、ユキとて氷の魔法は習っているがあそこまで距離を長く出来るものだとは思いもしなかった。
唖然とムーンを見ながら、走り出し背中を追いかける。
太腿に突き刺さっては青年も耐えられない、大きく呻いて地面に転倒し、舌打して近寄ってきた仲間の手に縋っていた。
「待て!」
追いついたケンイチ、剣を引くと二人に向けて構える。
追い詰められたかのように見えた二人の青年だが、ケンイチの姿を確認するや否や、薄ら笑いを浮かべた。
背丈も低い、可愛らしい顔立ち、生憎相手を凄める容姿ではないのだ、青年はゆっくりとケンイチに近寄ると逆に脅すように腰の短剣を二本引く抜くと、チラつかせながら歩み寄る。
「ガキはすっこめ」
威嚇のつもりなのか、本気か。
大きく振り被ってケンイチへと短剣を振り下ろした青年は、下卑た笑みを浮かべていたのだが彼は判断を見誤った。
怯みもしないで振り下ろされた二本の短剣を剣で同時に受け止めると、驚いた表情の青年を睨みつけ大声を出しながら弾き返したのだ。
よろめきながら、唖然とケンイチの姿を見た青年と、その下で忌々しそうに立ち上がった青年。
そんな二人を見比べながら、剣先を向けた。
呼吸の乱れもなく、怯みもせず、俊敏な動作である。
ケンイチは思った。
老人を突き飛ばし、追いかけられたくらいでは剣を向けてこないだろう。
ムーンの魔法といい、逃げるように走っていたことを前提に考えればこの二人、何かの犯罪者であると推測。
だとするならば、ここで逃がすわけにはいかない、というのがケンイチの本音である。
「クソっ、只者じゃないぞこのガキ」
再び短剣を構える青年、足先からケンイチを見つめ、睨みつけているが先程と違い額には汗が浮かぶ。
トモハルならばここで「勇者ですが、何か」くらい言い出しそうだが生憎ケンイチは軽く溜息を吐き語り出した。
「・・・悪い事はしないほうがいいよ」
言われながら、二人は尻込みした。
ただの、子供の言葉だった。
しかし、妙な威圧感がケンイチの声と瞳に宿っており、思わず身震いしてしまう。
厄介な奴に捕まった・・・呟きながら怪我をしていた青年は懐から何かを取り出そうとしている。
相手の行動に眉を潜め、剣先を更に押し付けたケンイチだったが。
「あぁもう、どれだかわかんねーよ! ・・・オラッ」
懐の皮袋から直径5センチ程の琥珀色した球を取りだし、地面に投げつけてきた二人組み。
そこから真っ白な煙が辺りを覆うように吹き出していく、思わずケンイチも軽く後退。
「バカ! それじゃねぇよ! ひくぞ、ひけぇ!」
「な、何だこの煙・・・」
ケンイチの注意がその煙に移った瞬間に、二人は必死に逃亡を図った。
無論、ケンイチにもその姿は見えていたので追うべきだと判断したのだが、動くに動けなかった。
煙の中に、影が見えたのだ。
煙が徐々に晴れていく程、その存在に緊張感を走らせ、剣をきつく握り締める。
大人の背丈の二倍ほどの・・・大蛇が妖しく蠢いてそこに、居た。
エメラルドのような光を放つその大蛇の外皮、真っ赤に燃え盛る瞳、観察する間もなく大蛇は大きく口を開き、鋭利な牙をむき出しにして何かを飛ばす。
ケンイチが後退し、剣を真正面に構えながら地面を見れば立ち上る煙と、削れた地面。
酸だろうか、思わず身体を振るわした、直撃は避けねばならない。
大蛇は尾を振り回し街路樹を一撃で折り倒しながら、舌を出し、うねりながらケンイチを見つめている。
「ケンイチ、離れて!」
「ユキ!」
振り向かずに横にそれたケンイチの後方からユキが杖を地面に突き刺し、構えている姿が現れた。
祈るような気持ちで何度も練習した通り、呪文を唱え始める。
「生命を運ぶ風よ、死を運ぶ風と変貌し、我の敵を刃となりて切り裂き給え!」
ユキの周囲に薄紫の霧が立ちこめる、一瞬耳鳴りを起こす空気の振動が起こった。
と、杖が大きく揺れ空気が宙を走りながら蛇へと向かう。
思わずケンイチに笑みが零れた、一目で分かる、呪文が成功したのだ。
かまいたちは蛇の外皮を切り裂いた、大きく数個傷口を作る。
成功の安堵、極度の緊張から足下へと座り込んだユキの後方から駆けつけたムーンは、瞬時に詠唱に入る。
先程と同じように氷の呪文だ、氷柱を幾つも投げつけ蛇へと突き刺す。
耳を裂く鋭い叫び声をあげながら、のたうち回る蛇はその身体で街路樹をなぎ倒し、塀を壊し続ける。
痛みでもがいているのだろう、このままでは被害が拡大してしまうだろう。
「ムーン! あの蛇の動きを止めることって出来ないかな、このままだと」
焦りながらケンイチはムーンへと歩み寄った、ユキの腕を引っ張り上げ三人で態勢を整える。
「・・・上手くいくかは、五分五分ですがやってみますわ。
ケンイチは敵の注意をそらして頂きたいのですが・・・お願いできます?」
「わかった、ムーンから注意をそらせばいいんだよね。 任せて」
言われるなりケンイチは蛇へと突撃していく、顔をムーンから引き離す方向で間合いを計りながら誘導に入った。
「私にも指示を!」
杖を握りしめながらムーンの隣に立つユキに、ムーンは大きく頷くと穏やかに微笑む。
「ケンイチの援護を。呪文でケンイチが危害を加えられる前に防いで欲しいの」
「分かりました!」
元気よく返事をし、ユキはケンイチの後を追うと、再度地面に杖を突き刺し呪文を放つ。
微力ながらも、確実に蛇の外皮を切り裂いていくユキの呪文にムーンは満足そうに微笑んだ。
アサギまでとは言わないが、確実にユキも呪文を素早く確実に成功させている。
蛇の狙いがユキへと向く前に、ケンイチが斬りかかり、自分へと向けさせながら間合いを取り。
その隙にユキが呪文を完成させて放つ・・・二人の交互での攻撃がかなり有効な様子だ。
これならば二人に任せ、自分は長い詠唱に入れるだろう。
ムーンは瞳を閉じると、小さく唇を動かしながら意識を集中させる。
二人にすべてを委ねるしかならないこの状況、もし不安ならば自分が主力で戦うつもりであったが・・・取り越し苦労だったようだ。
アサギの為に、だろうか・・・二人の戦闘能力が皆といた頃よりも上がっているのだ。
ケンイチは逃げながらもどうすべきか考えていた、攻撃力の高いその尻尾、それを切り落とすべきではないのかと。
額の汗を拭いながら、素早く慎重に背後に回り込むと、一気に剣を振り下ろす。
切り落とせば・・・被害が減るだろうと思った、思い切り懇親の一撃。
手応えと同時に、絶叫。
切り口から吹き出した赤紫の毒々しい体液を、思わずケンイチは避けて鼻を押さえる。
強烈な異臭、そして降りかかった地面の草花が瞬時に焦げ焼ける様・・・避けて正解だった。
背筋を冷たい汗が流れる、これで暴れる尻尾の攻撃からは免れたものの、まさか体液までもが攻撃方法だったとは。
眼までもが、痛い。
強い硫酸のような刺激臭だった、なんと厄介な敵だろうか。
思わず瞳を閉じてしまったケンイチに、切れかかった尻尾での蛇のあがきが襲いかかる。
威力は落ちたものの、その衝撃は地球上では滅多に受けない。
ケンイチの身体は大きく吹き飛ばされ、宿の壁へと叩き付けられた。
昔、学校の回転型遊具で吹き飛ばされ先生達に救出された事があったが・・・当然それ以上である。
悲鳴を上げる間もなく、強い衝撃と強打で意識が朦朧とする中、声すら出せない状況でケンイチはだらり、と身体を重力に任せる。
「ケンイチ!」
慌てて駆け寄り、回復の魔法を試みるユキ、微かに呻いたケンイチに、まだ意識があることを知ると全力で集中する。
溢れ出る唾を大きく音を立てて飲み込みながら、懸命に震える手で回復を。
蛇は機動力も劣り、こちらへの心配はまだ見られないので肩の荷を降ろす。
そうしている間に、ムーンが一つの呪文を完成させた。
「大いなる大地の御手よ、そのものを絡め束縛し賜え。
そのものは全てを大地に任せ、静かに眠りの淵へと。
大地影矢!」
辛抱強く詠唱していたムーン、例えユキの声でケンイチが被害を被ったとしても意識を途切れさせなかった。
蛇の影に、琥珀色の巨大な矢が突き刺さると同時にうねっていたその巨体が不自然にぴたりと固まった。
しかし、この状況でいくらこの呪文が成功したとしても直接攻撃の可能なケンイチがこの状態ではあまり役に立たない。
ケンイチをユキに任せ、自分は足を肩幅に開くと別の詠唱に入った。
ともかくこの呪文で動きを止めている間に何かしら攻撃をすべきだろう、一定時間で呪縛は消える。
「ここは我らに任せて、お下がりなさいお嬢さん!」
緊張と焦りで周囲に気を配っていなかったが、後方から街の警備隊が馬に乗って到着したようだった。
ジェノヴァの警備隊は、皆鎧の肩部分に紋章が刻まれている。
紺碧の防具に身を包み、甲には白い羽、鋭利な槍は単調だが機動力重視である。
味方の登場に安堵のため息をもらしたムーンは、大声で叫んだ。
「有り難う御座います! 今呪文で動きを止めているのですが、正直どこまで持つのかがわかりません。
お気をつけて!」
「あい分かった!」
騎馬は槍を構えて蛇へと向かう、皆威勢の良いかけ声だった。
丁重にお辞儀をすると直ぐさまケンイチとユキの元へと駆けつける、半泣きのユキが居た。
「落ち着いて、回復魔法は完璧だわ。大丈夫よ」
「は、はい・・・でも」
ムーンも回復の呪文を詠唱する、二人がかりでの治癒だ。
苦しそうな表情が、すーっと、穏やかな笑みへと変わったのを確認した二人は、頷くとようやく笑みを零す。
「後は任せますわ、あちらの援護に向かいます」
「はい、頑張ります!」
責任感に満ちた瞳と、意志の強い返事に思わずユキの頭を撫でたムーン。
何も迷うことはない、戦場へと向かうムーンは蛇の頭部目掛けて氷柱を投げ飛ばす。
あの調子ならばケンイチも直ぐに目を覚ますだろう、心配なのはその恐怖で今後の戦闘に支障を来さないか、だ。
影縛りの呪文の効力はまだ続いている、しかし、影に突き刺した矢はうっすらと消えかけているのでやはり時間の問題だった。
体液にも効力がある敵なのだ、下手に傷口を開き続けても二次災害の恐れがあった。
「あの、離れて下さい! 呪文を!」
ムーンの声は届かずに、攻撃を加え飛び交う警備隊が邪魔で確実に大きな魔法が唱えられない。
氷柱で攻撃をしているだけでは、時間がかかりすぎる。
一気にとどめを刺すために威力の強いものを、と思ったが広範囲に渡る為、周囲への配慮が必要だった。
極限まで範囲を狭めようとしているが、正直自信はない。
焦るムーン、見れば影に突き刺した矢が・・・消えた。
「大変! 攻撃が来ます!」
動きを止められ、怒りは頂点に達した蛇は無我夢中で蠅のように飛び交っていた警備兵に体当たりを食らわす。
馬ごと地面に倒れ込んだ警備兵には申し訳ないが、お陰でムーンと蛇は対峙した。
この期を逃すまいと、杖を大きく振りかぶって直ぐさま詠唱に入るムーン、耳障りな金属音が周囲にこだまし始めた、ユキは慌てて布をケンイチの耳に押しつけると自分も必死に耳を塞いでムーンを見つめる。
薄紅の衣服をはためかせながら、ムーンの周囲に巻き起こる風。
地に倒れ込んでいた兵達も、命からがら馬を引きずり、その場からゆっくりと離れていく。
蛇すらもその気迫に負けているのか攻撃を仕掛けてこない、先に動いた方の勝ちだろう。
先に蛇が動いた、大きく口を開きムーンの頭部を飲み込もうとその容姿からは想像出来ない速度で満身創痍であろうとも身体を伸ばしたのだ。
兵は思わず瞳を瞑った、ユキは祈るように見つめた。
ムーンは、微かに・・・微笑んだ。
その瞬間を待っていた、口を開くのを待っていた。
「煌く粒子破片となりて、絶対零度の冷気を纏い彼の者へと。
全てを凍てつかせる冬の女王よ、ここに降臨し賜え!」
杖先を蛇の大きく開かれた口へと向ける、巨大な氷の塊が風に乗って幾つも蛇の口から体内へと飲み込まれていく。
唖然とユキはそれを見ていた、瞳を怖々開き始めていた兵も、見た。
失敗したのだろうか、氷の塊を蛇へ叩き付ける呪文だと思っていたのだが・・・。
「お見事ですじゃー! ムーン殿ーっ」
元気な老人の声に、皆が一斉にそちらを向けば、ブジャタが若い兵の馬に乗せられて手を振っている。
身を乗り出してはしゃぐ老人、兵達は苦笑いだった。
何が見事なのか、飲み込まれた呪文は、どうすれば?
視線を蛇へと戻し、槍を構えた兵士達は同時に絶叫する。
蛇は、天へと苦しそうにもがく断末の形相のまま凍り付いていたのだ。
「こ、凍っている・・・」
おっかなびっくり近寄った兵士は、太陽の光に反射し光り輝きながら凍結しているそれをコンコンと叩いた。
徐々に皆、その呪文の意図を理解したのだ、歓声を上げてムーンに握手を求める。
額の汗を拭い、その握手に丁寧に応えるムーンは恥ずかしそうに頬を染めている。
「何が起こったの・・・? 氷が食べられていたけれど」
ユキがムーンに近寄り、首を傾げた。
ムーンが答えるよりも先に、ブジャタの咳と声が近寄る。
「それはですなっ!
素晴らしかったですぞ、きゃつの心臓を凍らせたのですな。
内側からの攻撃ならば、外皮を傷つけずに仕留められますじゃ。
口を開いたあの隙に呪文をたたき込み、一気に氷結・・・見事としか言えませんぞ」
「呪文にも、使い方がたくさんあるんだ・・・」
ブジャタの話を聞き、ムーンを見上げれば薄く微笑んでいる。
そういうことだ、何も外側から攻撃せずとも良い。
和気藹々と戦闘の勝利を喜んでいたがそうもいっていられなかった、兵達に事情徴収される羽目になったのである。
身体を起こし、なんとか立ち上がろうとしていたケンイチにユキは駆け寄り、身体を支える。
兵に囲まれたムーンを不安そうに見ながら、そちらは任せることにした。
「大丈夫?」
「あぁ、なんとか。死ぬかと思ったけど」
ムーン達がこちらに近寄ってきたので、軽く顔を顰めつつ深呼吸をする。
そう、蛇の出現経緯はケンイチしか知らないのだ、こちらへ質問にくると思っていた。
一部の兵士達が凍り付いた蛇を処理すべく荷台の手配等を進める中で、位の最も高そうな兵士がケンイチの視線に合わせて片膝を付く。
「君が第一発見者かな? あそこまで巨大な蛇はどのようにして? 外壁は破壊されていない、まさか空から降ってきたとは・・・」
「犯罪者と思われる二人組が、妙な球を取り出し、投げつけました。すると煙と共に突如蛇が現れたんです」
「ははは・・・まさか・・・」
「本当です、球は小さかったけど・・・」
「むぅ・・・。それで、その二人組はどのような姿だったかな?」
まだ辛そうなケンイチに代わり、ムーンが前に進み出て口を開いた。
「私たち四人が目撃しております、漆黒の衣服に身を包んでおりました」
「先程我らが追っていた犯罪者で間違いはなさそうだが・・・。老夫婦の家にて殺人強盗が起きたので、犯人を追っていたのだ」
それで追われていたのだ、そしてケンイチ達に出くわした、と。
殺人、と聞き息を飲む四人。
「しかし、そのような小さな球体からあれほどの魔物が出てくるとは・・・。かなり高等な者でない限り、制作は不可能じゃ。
そしてそれを大量生産でもされて街中に投げ込まれでもしたら、・・・大惨事ですな。
屈強な城壁と警備に護られていても、内部でやすやすと放たれたら・・・」
聞きながらケンイチは”トロイの木馬”の話を思い出していた、似ている。
あれも、内部に進入するためにとった作戦で、大きな木馬を街へ送り、実はその中には兵士が入っていて、やすやすと進入できた、という戦争の話だ。
「不吉なこと、言わんでください」
心底嫌そうに兵は肩をすくめ、軽くブジャタを睨み付けるがブジャタは怯まない。
「確率は高いですじゃ、まぁ相手の真意を知らんがの。あの青年達が作ったものではなさそうですしのぅ、配布されたのではないかと。
となると、巨大な組織が絡んでそうですな」
口をつぐんだ兵、そして気づいた。
「そういえば・・・。あなた方、何者ですか?」
今更な質問である。
まさか「勇者です」と言うわけにもいかなかったので、困惑しケンイチとユキは俯いた。
剣の扱いが出きる少年に、魔法を使える少女、更に高等な魔法使いの少女に・・・妙に偉そうな老人。
ブジャタは豪快に笑いながらケンイチの肩を叩いた、芝居めいた口調で語る。
「この子は儂の孫ですじゃ。遠方の村の出身じゃがの、一通り初歩の魔法や剣技を習っているのですじゃ。
何、見物がてらきておった、ただの観光客じゃて」
些か無理のあるような気もしたが、荷台が到着したので兵達は礼を述べるとそのまま帰路につく。
拍子抜けしてユキが肩を竦めながら、その後ろ姿を見送った。
「信じられない、もっと追求してくると思ったのに」
「ふむ、しかし儂らにしてみれば詮索されないほうが行動しやすいというもの。
・・・さぁ、もう一仕事やりましょうかの」
ムーンが乱れた髪と衣服を整え、歩き出している。
「先程の者達を追わなければなりませんわね、行きましょう。何処かに身を隠しているとは思えませんわ」
「うむ、急ごうかの」
唇を尖らせて渋々座り込んだケンイチは、本調子ではないのでこの場に置いて行かれることになったのだ。
ばいばーい、と明るく手を振るユキに、そっぽをむいて手を振るケンイチ。
坂を上る、登り切れば荘厳で頑丈そうな城壁が見えた。
坂を下りて、下に位置する城壁を目指す。
宿屋地帯の反対側の丘は、芝生で日頃子供達のかっこうの遊び場になっているのだが今日は誰もいない。
あの騒ぎでは当然だろう、そのほうが都合がよいが。
思わず無言で風が吹き抜ける芝生を、三人で歩き続けた。
城壁を見上げれば、無言の圧力がかかる。
目の前で三人はそれを見上げ、唇を噛んだ。
確かに城壁があれば外部からの進入は防ぐことが出きるのだがこうしてみると・・・窮屈だ。
上空から見れば、檻に閉じこめられているも同然である。
「ふむ・・・城壁を迂回して人目に出れば警備兵に見つかるじゃろうから、無難にどこかに抜け道があるとしか」
そういうことだ、城壁の下は草に護られているような状態である、小さな穴が空いていても不思議ではない。
これだけ同じ風景が続くのであれば、万が一抜け穴があるとして、必ず目印があるだろう。
三人は、分かれて探すことにした。
ユキは考えた、もし、自分が秘密の抜け穴を作るとしたら何処に作るだろう、と。
人には分かってはいけない、けれども自分たちは瞬時に分からねばならない。
ならば。
降りてきて直ぐ目に付いたのは、城壁に沿って、一定間隔で木が植えられているということ。
しかしそれでは皆同じであって目印にはならない、木の種類は皆同じ。
木の根本を見てみた、草が生えている。
木にも特に異常はない、目印となるものなど、ない。
後ろを振り返ってみた、来た方向の丘の上には宿屋の風見鶏。
はっとし、ユキは風見鶏の下を見つめる。
風見鶏は風が吹けば当然向きを変える、しかしその下の矢印は動かないので一定を指していた。
北だ、北を指している。
その矢印が正面に来る場所を探した、その付近の木を注意深く見てみれば・・・。
「ムーンさん! ブジャタさん!」
叫ぶ、歓喜の悲鳴だ。
草に被われ、壁が見えなくなっていたが、大人一人が通過出来そうな穴が城壁に空いていたのだ。
苦笑いで三人は顔を見合わせる、これでは誰でも進入可能だろう。
ともかく、警備兵に抜け穴があったことを報告するとして三人はケンイチの元へと急いだ。
そこさえ埋めてもらうか、交代で見張りをつけておけば容易く出入りしている者は捕まえることが出来そうだった。
「さぁて、次の道は決まりましたな。
先程の者達を捕まえましょうぞ、何やら怪しげな臭いがしますがのぉ・・・」
「えぇ、ケンイチの状態も見て、今夜発つか早朝にするか決めないといけないですわね」
丘を登る、意外と早く早期解決が出来たので皆は嬉しそうだった。
夕日に染まる空を見上げ、ムーンが小さく呟く。
「・・・危険極まりない人物達ですわ。早急に捕まえないと」
意志を強く持った、魔物を取り扱う人間・・・放って置くわけにはいくまい。
宿屋街の一角が妙に騒がしい事に気づいた三人、そこへ降りていけば案の定ケンイチが中心に居た。
どうやら先程の戦闘を何処かで見ていた野次馬達だろう、しきりに何か話しかけている。
その中には数名、派手で薄手の露出度の高い衣装に身を包んでいる女性が居た。
宿屋街だ、男性の夜の愉しみ相手の店もあるのだろうか、そこの従業員のようである。
照れるケンイチに触れ、抱きしめ、誘うように艶やかに会話する女性達。
童顔のケンイチは歳上受けするのだ、相当気に入られている様子である。
「可愛いわー、この子っ。強いし、将来有望よね」
「でも、もう12歳でしょう? どうお、今夜遊ばない?」
「夜のお勉強も、必要よ坊や」
顔を真っ赤にして首を降り続けるケンイチに、歓声を上げる女性達であった。
そんな様子を憮然と、こめかみに青筋を立てながら見つめている二人の女、ユキとムーン。
傍らではブジャタが首を竦ませて、見知らぬ振りをしている。
「け、ケンイチったら・・・! 何しているのっ。何、夜のお勉強ってっ」
「あ、あの人達ったら人前にあんな服装で・・・。教育に悪いですわ!」
そう言ってからムーンはふとマダーニを思い出した、似たような服装でもある。
が、この際そこには触れない。
ムーン自身も実は今日の衣服は先日ここで購入した衣服だが、ワンピースが気に入るものが無く、腹部を見せるしかないこの衣服を購入している。
確かに透けてはいないが実は十分露出はしていた、が、この際そこは気にしない。
二人は勢いよく、地面を叩き割る感じで一歩一歩、ケンイチへと向かった。
その不穏な気配に怪訝に振り返った女性達、般若のような二人の強面に喉の奥で悲鳴を上げる。
いつもの器量の良さは何処へやら、完璧に顔が変形していた。
「退いて下さるかしらーっ」
「立ってよ、ケンイチ! 行くよ」
尻込みしている人々、呆気にとられているケンイチ。
ケンイチの腕を片方互いに掴み、思い切り引っ張る、というか、引きずる。
質問から解放されたので、嬉しそうに手を振るケンイチは、まだ怒り収まらない二人の少女と共に行く。
ブジャタが苦笑いで続いた。
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