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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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本日のBGM=ALL、Rサガ。
聖剣とRサガの曲は大好きです。
DQとFFも好きです。


正直、言葉が出てこない。
頭では何か話そうと思うんだけど、言葉が思いつかないんだ。
何故、ここにいるんだろう?
彼氏はどうしたんだろう、何処かで待っているんだろうか?
・・・ひょっとすると、俺はやってはいけないことをやってしまったんだろうか。
あのチケット、俺の名前が入っていた。
彼氏が見たら・・・普通は訝しむだろう。
安くないんだ、一人三万。
「そいつ、誰だよ」
なんて会話を繰り広げたのかもしれない、まさか、それで気まずくなって・・・だとすると。
・・・俺は最低な事をしてしまったんだろう、出しゃばり過ぎたんだ。
ともかく、突っ立っているマビルを座らせ、紅茶を淹れる。
紙袋から、マビルはぎこちなく土産を出してくれた。
・・・初めてマビルから物を貰った。
嬉しいやら、哀しいやら。
彼氏と出掛けた先での、土産だ。

「食べなよ、おかずになるよ」
「ありがとう。美味しかった?」
「うん、とても」

本来なら、マビルと二人で食べていたであろう料理がこれ。
マビルに千切ってパンを渡す、おかずだけではマビルとて口が寂しいだろうし。
お腹は膨れているかもしれないが、折角だ。
思いの外隣でマビルは勢い良く食べ始めていたから、つられて食べてみた。
・・・そうだね、多分これは美味しい。
美味しいんだろうけれど・・・今の俺には全く味が分からない。
マビルが美味しければ、それでいいんだ。

「美味しいね」

思わず、口からそう零れた。
美味しそうに微笑んで食べているマビルを見ながらだと、美味しく感じるよ。
マビルはこちらを見て、嬉しそうに笑ったんだ。
・・・余程気に入ったんだろう、予約して、行かせて、よかった。
なら、何故マビルはここにいるんだろう。
彼氏と、美味しい食事、雰囲気とて抜群な筈だ。
テーブルには花、BGMは荘厳且繊細な、ムード満載の・・・。
・・・そんな恋人達の日に、何故マビルは帰ってきた?
空になった皿を片付けながら、考える。
水が冷たいから、思考回路が停止せずに済んだ。
マビルはまだ出て行こうとしない、何を、しに来たんだ?
ともかく、椅子に座って足をブラブラさせていたので、もう一度紅茶を煎れてみた。
猫舌のマビルは、必死に冷まそうとカップを持って息を吹きかけながら、小さく啜っている。
おかしい。
妙だ。
何故、戻ってきたんだ。
・・・いつもなら、深夜か朝に戻るだろう。
よりにもよって、この日にこの時間に戻るだなんて・・・。

「ごめんな」

思わず、口から飛び出した。
何処となく、雰囲気もそわそわしているし・・・いつもの勢いがないから、やはり何か・・・あったんだ。

「気を遣わせて、ごめんな。
・・・邪魔するつもりは、なかったんだ」

本当に、邪魔をしたかったわけではなくて、ただマビルが喜んでくれればよかったんだ。
けれど、どう考えても今日のディナーで何かあったとしか思えない。
一緒に、居たかったろう?
傍に、居たかったろう?
俺に気を遣って土産まで持ち帰り・・・直ぐに戻るわけでもなく、ここにいる。
マビルに会えて、嬉しかったのは事実。
けれど、それ以上に罪の意識が重すぎた。
早く、戻るんだマビル。
もし、俺がその男ならバレンタインに誰かに土産を買って、帰宅する彼女は・・・嫌だ。
誤解される前に、戻るんだ。
震えそうな声を、懸命に押し殺した。
この子は、もう、誰かのものであって、俺が傍に置いておける子ではない。
元々違うけれど、保護者気取りも出来なくなった。
一つ、一つ、教えていかないといけない、多分重要性を分かってないんだ。
マビルは好きだから、一緒に居たい。
けれど、俺の感情は押し殺すべきだ。
告白も、しない。
・・・マビルの幸せを一番に考えた結果、こうなったんだ。
この子を、幸せにしなければいけない。

「ありがとう、美味しかった。
おやすみ、マビル。
本当に・・・嬉しかったよ」

美味しかった・・・と、思う。
ありがとう、と思う。
嬉しかったよ、土産。
頭を撫でようかと思ったんだ、けれど、どうしても手が伸ばせれない。
本当に、感謝していることだけは、分かって欲しい。
ありったけの気持ちを込めて、ありがとう、と。
そして、早くマビルは本来いるべき場所に戻るべきだ、俺も・・・そろそろ行こう。

「と、トモハルはどうするの?」

立ち上がって歩き始めたら、マビルに服を掴まれたから・・・困った。
声が、泣きそうなんだ。
どうしたんだろう、何かが変だ。
狼狽している、何かを言いたいみたいだ。
話なら、聞こう。
何時まででも、聞いていよう。
けれど、今は、今日は、この時間は。
本来一緒に居るべき男と、居る時間だ。
必死に、説得を試みた。
丁寧に、優しく告げた。
我ながら馬鹿みたいだとは思う、どうして好きな子を他の男のところへ行かせなければいけないんだろう。
でも。
・・・アサギと約束したんだ、俺はマビルをちゃんと見守り続けてアサギの代わりに教えなければいけない。
そして、不幸な星の下生まれてしまったマビルを、今度こそ。
今度こそ楽しく暮らせる場所へ、正しく誘わなければいけない。
それが、俺のすべき事だと思うんだ。

「あ、あたしの好きな人っ」

一瞬、マビルが真剣に俺を見て言うから。
・・・錯覚した。

「あ、あたしの好きな人、さ。
・・・あたしのこと、好きじゃないのかもしれないんだ、あはは」

じゃあ、俺にしなよ。
俺は好きだよ。
その人がどんな人か知らないけれど、俺のほうが絶対マビルのこと好きだよ。
ずっと、好きだ。
途中で帰したりしない。
唇を、開きかけたんだ。
俯いて、マビルにしては気弱な笑い声で、髪を触っているその姿を。
抱き締めて「俺に、しなよ」って言おうと思ったんだ。
願ってもいないチャンスだ、今なら、まだ間に合うかもしれない。
横取り、出来るかもしれないじゃないか。
・・・手を伸ばしかけて、正気に返った。
嬉しかった、喜んでしまった。
好きな男と上手く行っていないマビルを見て、俺は・・・心躍らせてしまったんだ。
最悪っ。
なんて嫌な奴なんだ、俺。
・・・そんなんだから、駄目なんだろうな、と。
あの、プライドの高いマビルが。
この、俺に・・・相談しているんじゃないか。
考えろ、マビルの為に考えろ。
別にマビルは、誰かを捜して、求めているわけじゃない。
その・・・恐らく初めて好きになった人を求めているんだ。
元の鞘に戻さないといけない、マビルの望むことを叶えるんだ。

「大丈夫、マビルは可愛いから、大丈夫。
・・・誰も手放したりしないよ」

多分、俺が介入しなくてもどうにでもなるだろう。
正直、易々とマビルを手放すとは思えない。
・・・どういう奴か知らないけれど、それでも、この子を手放せる男がいるなら見てみたい。
初めての恋愛で、どうしたらいいのか解らないんだ、きっと。
アサギが、いないから。
アサギさえ、いればそっちに相談しているはずだ。
でも、いないから俺のところへ来たんだろう。
動揺しているだけだろうから、早く会えばいい。
会いさえすれば、上手く行くはずだ。
戻ってきたマビルを見れば、その人も安心するだろう。
二人で街を歩けばいい、夜景を見てもいいだろう。
俺より年上だろうから、色々エスコートしてくれるさ。
・・・俺なんかより、ずっと上手に。
マビルを見ていた、けれど、ずっと遠くを見ていた。
綺麗な服に、高いバッグ、手を、いや、腕を組んで二人は街を歩くだろう。
そして。
”それにキスが蕩ける位に上手でー、・・・誰かさんと違ってさ。 もー、あたしメロメロー”
未だに耳から離れない、マビルの声。
硬く拳を握る、でないと・・・正気を保っていられない。
俺と、違って。
・・・俺と比較しても仕方ないよ、マビル。
最初からスタート地点が違うんだ、マビル好みの男と情けない腑抜けとでは・・・比較できないよ。
必死で、マビルを説得した。
もし、マビルが一度でも俺の事を好きだったら、引き止めるのに。
もし、マビルが俺の事を少しでも異性として見てくれていたら、引き止めるのに。

「トモハルに言われても、実感湧かないよ! 腑抜けなくせして、言う事だけ偉そう!」

マビルから見たら腑抜けかもしれない、それでも、言っていることは一般論で正しい筈だ。

「出来ないくせに! トモハルだって、彼女が離れていこうとしたら止める勇気ないでしょう!? 止められないでしょう!?
だってあんた、頼りないし情けないし!」

出来るよ、やるさ。
冗談じゃない。
そこまで情けない男じゃない、下手したら相手の男を殺す勢いで殴りかかりそうだ。

「嘘だ!」

嘘はついていない、嘘はこんなところで言わない。
・・・恋愛って一人じゃ出来ないんだ、互いの想いが一致しないといけないんだ。
もし、本当にマビルの彼氏が俺の存在を知ったのなら、相手も殴りかかってくるだろうか。
それはない、か。
結婚なんてしていないし、マビルだって指輪もしていないからそうは思っていない・・・というか結婚の意味を解っていないだろう。
結婚したことになっているのか、なんとも思っていないのか。
言える事は俺の存在など、二人には皆無、ってこと。
マビルが連呼する「嘘」の言葉。
やたらと頭が冷えてくる、そこまで俺はマビルにとって、間抜けで救いようのない馬鹿だったんだろうか。
一応これでも男なんだ、けど。
声を聞きながらマビルを見ていた、必死なマビルを見ていた。
相手の男が、羨ましくなった。
相手の男が、見てみたくなった。
けれど、会ったら何か口を出してしまいそうだ。
初めて見たよ、マビルのそんな表情。
解ったから、早く戻るんだ。
もし万が一、その男が手放したりしたら、必ず俺が迎えに行く。
でも、大丈夫だよマビル。
愛しいマビルを良く知る俺が言うから、間違いないんだ。
・・・マビルの好きな男は、ずっとマビルを好きでいるよ・・・
必死で喚いて疲れたんだろう、マビルはぐったりと力を失くして目の前に佇んでいる。

早く、帰してあげよう。
今はそれどころじゃないんだ。

「寒いから。風邪を引かないようにね。・・・おやすみ。
本当に、ありがとう」
「おや、すみ」

急ごう、明日になる前に。
今日は、2月14日だ。
日付が変更する前に、あそこへ行こう。
部屋に戻って、服を着替える。
鏡に映るその隣に、マビルが居ればよかったのに。
部屋に用意しておいて貰った大きな花束を、大事に抱き寄せた。
特注品だ、五色の薔薇の、100本の花束。
マビルに良く似合いそうな花束、赤とピンクをベースに、黄色に白、オレンジ。
無意味に白のタキシード、大輪の薔薇の花束を抱えて。
本来なら、上手く行けばプロポーズする予定だった。
予定は未定、仕方がない。
向かう先は、教会を模して作らせた挙式場だったりする。
俺の対の勇者の名前は、アサギ。
この国が全力で掲げるのは、アサギ。
所持する武器の名は、”セントラヴァーズ”。
アサギのステンドグラスを正面に、アサギがそこへ訪れた恋人達に祝福を与えてくれるように。
『シポラ城で愛を誓った恋人は、永久に連れ添う事が出来る』
そんな、祝福を。
明日から、本格的にその挙式場は開始するんだ。
その前に、本当はマビルにそこを見せるつもりだった。
必ず、マビルを幸せにするよ。
・・・言う予定だった。
冷え切った外の空気、冴え渡る感覚。
寒さが身にしみる、星が・・・一つ一つ輝きを増して、綺麗だ。
挙式場についた、この時間からは人が入れないようにしてもらっているから、安心して入室。
ドアを閉める。
響き渡る、ドアの音。
ゆっくり、道を歩いた。
薔薇で装飾した場所、目を閉じれば、さ。
ミノルにダイキ、ケンイチが騒ぎ立てていて、反対側にはトビィやデズデモーナ、クレシダ。
みんながそこで、笑っていた。
一人祭壇の前で立っていると、ドアが再度静かに開いて。
・・・マビルが入ってくる。
綺麗なドレスを着て、誰よりも輝いているその子が、悪戯っぽく笑いながら入ってくるんだ。
父親がいないから、兄のアイセルが隣に付き添っていた。

―――汝、互いに想い会い寄り添う事を誓いますか、何時如何なるときも互いを愛し抜く事を誓えますか―――

正面で、アサギがそう言って微笑した。
輝くアサギの”セントラヴァーズ”、祝福を。
俺は俺自身の武器の名に掛けて、誓おう。
マビル、生涯守り抜くよ。

キィィ、カトン・・・

妙な音で、我に返って立ち止まる。
失笑、都合の良い夢を見た。
薔薇が見せてくれた幻覚、やけにリアルな、夢。
祭壇の前で、咳をした。
ずっと、伝えたかった事を、言葉にしてみる。
マビルはいないけれど、言いたかったんだ。
だから、無意味だけれど、滑稽だけれど、言ってみる。
ただの一人芝居だよ、馬鹿みたいだろ?

「・・・だから、好きでい続けようと思う。
今は君しか見えないし、この先もそうなんだろうとは思う。
知ったら、気味悪がられるだろうけど、好きなんだ。
君を護る役目など、最初からなかったんだけど、それでも。
好きだ。
・・・愛してる。
君しか、愛せない」

長いこと、考え出して、出た答え。
急いで忘れる必要なんてない、誰も邪魔にならない想いだ。
マビルと彼氏の二人に割って入る事などない、俺自身がきっとそうだろうから、これが一番楽な方法だから、決めた。
これからも好きなものは好きだ、その気持ちは絶対に変わらない。
好きだから、笑顔を見たいんだ。
好きだから、幸せであって欲しいんだ。
一方通行でも、構わない。
だって、俺がマビルを好きな事実は誰にも変えられないだろ。
マビル、好きだよ、・・・愛しているよ。
共にいられないけれど、好きだ、愛してる。
正面の、アサギのステンドグラスを挑むように見つめた。
・・・どうか、アサギ。
マビルが生涯ずっと笑っていられるように、見守って、祈って欲しい。
些か世間知らずな部分があるから不安なんだ、俺が見ていられない時は、アサギ、どうかマビルを護ってくれ。

「アサギ」

マビルを、俺の大事な大事なマビルを。
・・・マビルに、最大の祝福を。
誰でもない他でもない、マビルに祝福を。
下唇を、噛み締める。
息を大きく吸い込んだ、震える身体を必死で押さえつけた。

「好きだよ、大好きだよ、愛しているよ。
・・・どうか、幸せに。
呼べば必ず、助けに行くから、迎えに行くから。
何処に居ても、必ず護ろう。
愛する君が寂しい想いをしないで済むように、遠いけど近くに居よう。
俺を思い出したら、その時は。
戻っておいで。
愛する君に、俺の想いを。
・・・抱き締めて、口付けを」

愛する、マビルに俺の、想いを。
大事な子なんだ、初めて見たあの日から、とても大事に想ってきたんだ。
見た目より不器用な生き方だから、心配になる。
厄介ごとに巻き込まれて、強気だけど実は弱いから不安になる。
何処かで、泣いていないだろうか。
何処かで、苦しんでいないだろうか。
何処かで、倒れていないだろうか。
笑って欲しい、喜んで欲しい、楽しんで欲しい。
笑顔が好きだ、笑う声が好きだ、小馬鹿にした表情も声も仕草も全部好きだ。
不貞腐れる顔も好きだ、無防備に手を繋いで眠っていたマビルの寝顔は・・・とても、愛おしい。
もし。
万が一。
マビル、恋に破れたら、戻っておいで。
俺はずっとここにいる。
いつでも、変わらずにここにいるよ。
安心して戻っておいで。

「好きだよ、大好きだよ、愛しているよ」

瞳を閉じたら、涙が零れた。
・・・これだから、マビルに情けないと罵倒されるんだ。
けれど、本当に好きな人がいる場合、人は必ず何処かで泣くだろう。
想って泣くだろう。
薔薇を祭壇に置いた、アサギを見つめる。
・・・怒らないでくれよ、アサギ。
傍にはいられないけど、全力でマビルは護るからさ。

キィィィ、カトン・・・

何処かで、また妙な音がした。
不審に思ってアサギを見た、アサギのステンドグラスが、結露かな、泣いてるみたいだ。
・・・胸騒ぎがした、圧迫感に襲われた。
泣くなよ、アサギ。
マビル、幸せなんだから泣かないでくれよ。
静かに踵を返して、その場を離れる。
眠ろう、明日からある意味別の一日が始まる。
自分も泣いている事に気がついた、思わず鼻をすする。
・・・気のせいか、二重に聴こえた。
寝よう、結構疲れた。


「トモハル様ーっ! 大変ですーっ」

翌朝、昼前。
少し風邪を引いた俺の下に顔面蒼白で駆け込んできた、近衛兵。

「マビル様がーっ! 倒れておられますっ」

手にしていた書類を床に撒き散らして、俺は城を駆け巡った。
人だかりが入口に出来ている、掻き分けて中心へ。

「マビル!」

震えながら、マビルが蹲っていた。
抱き抱えて、怒鳴り散らしながら城内へ。

「医師と薬草、薬湯! 部屋に集めろっ。毛布もだ」
「トモハル様、ミノル様方が来られておりますが」

それどころじゃない、と言い掛けて振り返れば状況を把握していない、狼狽中のミノルにダイキ、ケンイチ。

「地球へ行って、スポーツドリンクに薬、冷えピタとか栄養ドリンクとか買って来い!」

怒鳴りつけた。
返事を待たずに俺はマビルを抱き抱えたまま部屋へと急ぐ、久し振りのマビルの・・・元は二人で眠っていた部屋だ。
ベッドに寝かせる、暖炉に火をつけ、皆が持ってきた毛布をマビルへ。
熱は高い、が、異様に手足が冷たい。
意識がないのか魘されているばかりで返答が、ない。
汗はかいている、身体は震えて痙攣しているみたいだ。
時折苦しそうに咳き込んで、痛そうに顔を歪める。
りんごを摩り下ろしてもらった、スプーンで口へと運ぶが、全く口に入れない。
薬湯も、飲まない。
ようやく、戻ってきたミノル達から買い物袋を受け取って中身を確認。

「・・・誰だよ、婦人計買ってきたの・・・」
「は? 体温計だろ?」

思わず眩暈、取り出した体温計にはどう見ても温度が・・・足りない。
ミノルがきょとん、としてそれを見つめている、お前が犯人かっ。

「・・・悪りぃ、素で間違えた」

一応測ってみた、あっという間に最高温に達する。

「色々買ってみたから、使えるものがあったら使って」
「悪かったな・・・ありがとう・・・」

果物の缶詰とか、フルーツジュースとか、すりおろしりんごも口にしないようではこれらも無理かもしれないが、一生懸命買って来てくれたんだ、嬉しい。
薬の箱を手に取る、何か口にしてもらわないと飲ませられないが・・・。

「・・・おい、誰だよ座薬買ってきたの」
「俺だよ。一番熱下がるだろ」

またお前か、ミノルっ。

「誰が入れるんだ」
「トモハルが入れてやればいーじゃん」
「そんな事出来るかっ」

・・・確かに熱は下がるだろうけど、瞬殺されそうだ。
見なかったことにしよう、普通の飲み薬を傍らに置く。
暫くして、医師がマビルを見てくれている間俺達は四人で部屋の角で語る。

「地球へ連れて行ったほうが早くないか? 風邪?」
「凄く苦しそうだよね、僕も地球の病院のほうがいいと思うよ」
「ただ、俺達にとっては地球の薬が効いてもマビルは元々こちらの住人だ。こちらのほうが良いかもしれない」

聞きながら、脳裏を過ぎった映像。
以前マビルを病院へ連れて行った、同じく風邪で。
点滴を物凄く嫌がったんだ、怖かったんだろうな、針を刺しっぱなしだもんな・・・。
三人がまた来るからと帰宅、医師も常に外に待機中で俺とマビルは二人になった。
なんとか何か飲ませようとしたが、思うこと飲んでくれない。
毛布に何枚も包まっているのに、寒いを連呼。
それでも必死に身体を擦って、おかゆを冷まして与えたら、ようやく食べ始めた。
意識が戻ったんだ、思わず安堵の溜息、休息に張り詰めていた力が抜ける。

「病院へ行こう、マビル。市販の薬じゃ無理だよ、点滴打って貰おうよ」
「・・・嫌、あれ、痛いから、嫌」
「でも、楽になるよ。我慢すれば楽になるんだよ」
「うるさい・・・」

会話が出来るようになったので、病院を勧めるが案の定頑なに拒否。
歯をならしてまで寒がっているから、会話も出来るようになったし医師を呼ぶ為に立ち上がった。
がくん、と身体が揺れる。
マビルが・・・布団から手を出して俺を掴んでいた。

「今、医者を呼ぶから」
「いらない」
「駄目だよ、治らないよ」
「いいってばっ・・・頭痛いの、声あんまり出させないで・・・」

困った。
頭を捻って考えた、毛布ごとマビルを抱き抱えて暖炉の前へ行ってみる。
座って膝の上にマビルを乗せて抱き締めた、このほうが暖かいかもしれない。
昔、こうやってマビルと眠った事がある。
優しく背中をぽん、ぽんと、あやすように。
髪を撫でながら苦しくないように抱き締めて、落ち着かせるんだ。
くすくす、マビルが・・・笑った気がした。
それでも寒いを言い続ける、震えながらしがみ付くマビルに。
一緒に毛布に包まってみた、必死で身体を擦った。
俺は・・・物凄く熱いよ、暑いよ、マビル。
久し振りにマビルに触れるせいもあるし、無論暖炉のせいでもある。
吹き出る汗を拭いながら、それでもマビルは「寒い」だ。
どうしろっていうんだ、これ以上。
本でさ、裸同士のほうが暖かいというのは読んだけれど。
それはまずいだろ、俺。
それは、恋人の役目だろう、俺。
けれど。
まだ震えているマビルに、俺は。

「・・・どうか、嫌わないで?」

そっと、自分の衣服を脱いだ。
メイドさんが着替えさせてくれた、暖かそうなマビルのネグリジェを脱がせた。
落ち着け、俺。
そっと、触れたら、火花が散ったみたいに目の前に電撃。
身体も痺れた。
大きく深く、息を吸い込んで吸い込んで吸い込んで・・・間違えた、吸ったら吐かないと・・・動揺。
そっと、抱き締めた。

「あ。あったかーい・・・」
「・・・なら、良いんだ」

大人しく抱かれているマビル、ふと、罪悪感。
・・・本来ならば、これは彼氏の役目だ。
昨日、土産の為に戻ったマビル、あれさえなければ今頃倒れている場所は彼氏の家だろう。
あまりにも、静かに薄っすら笑顔で瞳を閉じているから、さ。
熱で苦しいのもあるだろうけど・・・大丈夫だろうか、今ここにいるのは俺だと解っているんだろうか。
嫌がるどころか、全く抵抗しないのは、そこまで体力がないからだろうけれど。
罪悪感。
本音、嬉しかったりする自分に、嫌悪。

 

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トモハルが
…不憫過ぎる(項垂)

で、外伝4? の広告が気になって仕方がないんだが
トモハル、いたんだな…
トビィの後ろ 2009/01/13(Tue)11:02:27 編集
ソンナコトナイデスヨ
・・・トランシスより良いと思うのですがー。

本編でマビルが再登場したら開始するので、早くて三ヶ月後には(遅)。

DESのHPを再開しようかと思っているのですが、・・・HPの作り方忘れてしまったですよ(途方)。
アサギ 2009/01/14(Wed)19:52:30 編集
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