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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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111006_172553.jpgさくさく行きます。
あぁ、データさえ残っていたら、数分の作業なのに(吐血)。
打ち直しだなんてっ。

9月10日の独り言。
ハトアリ久々にプレイなう、小説更新無理なう(貴様)。
エリオットがやっぱり愛しいです。
エースも好き。
双子攻略中ですが、可愛いですよね★
クロアリで大人になった彼らも大好物です、うへへ。

でも、やっぱりエリオットが好きだーっ。



8分クオリティ。
黒髪のリュウ。
早く本編進めようぜ、私!

あ。


君に咲く花更新しました。  2011.10.6

 廊下を右往左往している火竜のバジルは、口から今にも火炎を吐き出しそうな勢いだった。苦笑し、近くで友人のヘリオトロープがそれを見つめている。先程とってきたばかりの蜂蜜を嘗めていた。
 ヘリオトロープは火蜥蜴の一族だ、リュウやバジルと同じ様に今現在は人型になってはいるが実際は違う。蜂蜜が好物だというから、非常に温厚ではあるが”生粋の戦闘種族”だった。
「全く……誰だ、スタイン様を甘やかしたのは」
「バジルも、でしょ。この惑星の皆だよ、彼は純真すぎる。事実を受け止めるには、あまりにも過酷だよ」
 蜂蜜を綺麗に嘗め終えると、ヘリオトロープはバジルに静かに歩み寄った。
 幻獣星の中央に位置する、首都ジェイムズ。そこが代々竜帝が住まっている場所である。華美ではないが巨大な宮殿の奥に現王が眠っていた。リュウの父親である。
 妻である王妃を失くしてから伏せっており、日々衰弱していくばかりだった。そこで、一刻も早くリュウの即位が必要なのだが、生憎彼には治める気がさらさらなく毎日遊んでいる。
 代々王家の教育係として仕えて来た末裔のバジルにとって、本当にリュウの教育は死ぬほど苦痛だった。嫌いではないから、困る。力さえ発揮できれば完璧な王にもなりえるのだが、甘やかされて育った為に苦労を知らない。
「いっそのこと、バジルが王位に立ったら? お前なら誰も咎めはしないよ」
「ふざけた事を言うな、ヘリオトロープ。私は王族に仕える身だぞ」
 名案だ、とばかりに嬉しそうに告げた言葉を怒涛の勢いで跳ね返された。肩を大袈裟に竦めてヘリオトロープは床に座り込む。
 水晶で出来た床だった、幻獣星は鉱物が非常に豊富である。そんなこと、住まっている幻獣には関係ないことなのだがそうもいかない。水晶で出来た、ただ広いだけの敷地、銅像はなく歴代の皇帝の肖像画がずらりと入門してから飾られている。今は、リュウの父親で止まっているが直に最後尾にリュウが飾られるだろう。
「……さて、どうする? 次の会議はスタイン様も出席させたほうが良くないか? 深刻だぞ」
 バジルは無表情で肖像画を見つめている、無言の時は深く思案している状態なのでヘリオトロープは何も言わず、それ以後口を閉ざして瞳を瞑った。
 時間が流れる、時間は重要なものだと幻獣達は知ってはいた。だが、名案が浮かんでこない。
「王に、助言を頼んでくる」
 ようやく重々しい口を開いたバジル、ヘリオトロープも付き添う為に立ち上がった。そこへ叫び声が響き渡る。水晶で出来た床、声が反響した。
「バジル様! 王が、王が!」
 廊下の奥から泣き叫びながら飛び出してきた侍女に直様バジルは疾風の勢いで、奥へと消える。ヘリオトロープはそれとは逆に王宮を飛び出していた、緊急事態である。
 国王・御逝去。
 惑星中に直様伝令が飛び、皆が溢れかえるように王宮に殺到する。
 王宮を真っ先に飛び出したヘリオトロープは、直様地を駆ける火蜥蜴へと変貌しリュウを探した。人型よりも、こちらのほうが速度が上だ。怒涛の勢いで駆ける姿は、まさに火炎の化身。
 昼寝を終えて、んごうごうと共に帰宅途中のリュウがあっけらかんとして右手を上げれば、察知したのは、んごうごうだった。リュウを背中から放り出し、ヘリオトロープに預けた。
 唖然としているリュウを連れ去るようにヘリオトロープは踵を返す。その後方からんごうごうが全速力で追いかける姿を見れば、誰しも直感していた。
 ヘリオトロープに、んごうごう。
 血相変えている二人の様子では、皆不安を覚えて仕方がない。そして皆の不安は的中したのだ。
 リュウが辿り着いた時、既に父である王は息を引き取ったばかりだった。最期の言葉を聞くことも、看取ることもできなかったのだ。
 もし、今日、バジルの言いつけ通りに王宮で勉強をしていたら?
 リュウに圧し掛かる、後悔の念。何も言う事が出来ず、水晶の棺に入れられ百合に囲まれて眠っている父の亡骸をただ立ち尽くして見つめる。 周囲で皆が口々に泣き喚きながら何かを訴えていた、だがリュウには聴こえない。日に日に衰弱していく父の、もっと傍らに居てやればよかったと。ただ、過去の自分を悔いて責める事しかリュウには出来なかった。
 幻獣星では火葬が常識だ。
 やがて、王の亡骸は神官達によって丁重に運ばれて火葬され骨になった。遺骨は王家の墓に埋葬され、残された者たちに悲しみの色が浮かぶ。
 次の王は、まだ若い王子。スタイン・エシェゾー、その人だった。皆に愛されている王子だった、だからこそ、辛かった。ついに隠し通してきていた事実が、彼に曝される破目になるのだから。王を失った悲しみよりも、王子にかかる負荷を皆、心配した。
 リュウは自室から出てこなくなった、外では常にんごうごうが浮遊して主人を待っていたが出てこない。部屋の中で物音はせず、ただ、ベッドに突っ伏して気力なく動けないリュウ。
 バジルはそんな様子を知ってはいたが、仮の取締役に適任されていた為リュウには会う事がなかった。
 日々、バジルを中心に今後の行く末について会議が繰り広げられている最中も、リュウは知らず一人で過ごす。いい加減、自分も皆の前に立たねば、と思い直しリュウが重い腰を上げた時は、既に父親の死から早30日が経過していた。
 やせ衰え、瞳虚ろに部屋から出ようとしたリュウ。だが、外から、んごうごうの気配を感じる。気付こうと思えば気付けたのだが周囲に目を向ける事が出来なかった、恐らくずっと、忠実な合成獣はドアの外で待っていてくれたのだろう……。
 急にリュウは自分の非常に脆弱な部分を恥じ、ドアへと脚を向けるのを止めた。暫しその場に立ち尽くす。
 んごうごうならずとも、他の皆も暖かい笑顔で迎えてくれるに違いない。バジルくらいだろうか、叱咤してくれるのは。次期王だというのに、こうして引き篭もってしまった不甲斐無い自分。
 皆の優しさに触れると余計に惨めになる気がしたリュウは、ドアから少しずつゆっくりと後退する。逃げていてばかりでは仕方がないが、急に身体が震え出した。
 両腕を掴み、爪を立てる。足元が竦む、引き攣った笑顔しか浮かべることが出来なさそうな自分に嫌気が差す。リュウはマントを羽織り、フードを深く被ると身体を反転させていた。
 真っ直ぐ歩いてそっと、窓を開く。
 リュウの部屋は一階だ、窓から十分外へと出ることが出来る高さである。枠に脚をかけてそのまま外へ飛び出したリュウは、一目散に姿を見られないよう城を離れた。逃げるように。
 城は、森林に囲まれている。
 森の中を走って何処へも行く場所などないというのに、それでも自分の部屋には居たくなかった。そして誰にも今は会いたくなかった。そんなことが許される筈がないのに。
 時折聴こえる羽音や風の音に身体を硬直させながら、周囲を窺いつつリュウは走る。息が切れれば額をぬぐって、それでも脚は動かした。絶叫すれば、このどうしようもない絶望感は取り払えるのだろうか?
 小川の水を掬い、口に運んで喉を潤す。小川に自分の情けない顔が映っている、自嘲気味に笑う。隈ができ、やせ衰えた自分はとても威厳などあったものではない。
 こんな王で、誰が慕ってくれるのだろう。いや、慕ってくれるからこそ、心痛だ。そんな人物ではないと自分で確信しているというのに。そこが、辛い。
 兄弟はいない、王家は血筋で選ばれるのでこの運命からは逃れられない。もっと、他に優秀な者がいるだろうに。
 ふと、リュウは顔を上げた。王である自分が法案を覆してみたらどうだろう、と思いついたのだ。
「バジル!」
 小さく叫んで立ち上がると、逸る気持ちを抑えて唇を噛締める。幼馴染のバジルならば知識も豊富で皆の信頼も厚い、自立した優秀な男だ。彼に王座を任せてしまえばいいのではないだろうか? 
 反対されるだろうが、今の権限を持って強引にバジルを王座につけてしまおう。そして、自分は隣で真面目に一から勉強をやり直そう……。そこまで考えてようやくリュウの表情に笑みが戻ってきた。
 不釣合いな王の代わりに、次期参謀が即位する。皆、納得してくれるだろう。
 ようやく未来が開けた気がして、リュウは自室へ戻ろうとしたのだがせっかくなので街の様子を見てみることにした。森林をやや足取り軽く歩き続ければ、城下町が開けている。
 本日の天候は曇りだ、鬱蒼とした分厚い雲が太陽を覆い隠していた。
 自分の正体がばれないようにフードを更に深く被り、周囲を見渡す。
 誰も、路にはいなかった。
 普段は誰かしら、路の何処かにいる筈なのだが。しかし不意に、声がかすかに聴こえた。首を傾け、声の方角へと脚を進める。一軒の家から、聴こえてきていた。
 リュウも知っている、水竜の一家が住まう家だった。小ぶりの窓から、そっと中の様子を窺う。
「おかーさん。おとーさんは? おにーちゃんは? 向かいのおねーちゃんは?」
「…………」
「いつになったら、帰ってくるの? どこへ行ったの?」
「…………」
 家には、母親と幼い子が一人。母親は、静かに涙を零して幼子を抱き締めていた。
 異様な状態だった。リュウにはなんのことだか、さっぱり解らなかった。病気で亡くなったのだろうか? それしか考えられないが、一度に三人も亡くなるものなのか? 妙な伝染病でも広まっているのだろうか?
 唖然と、暗い家の中を見つめていたリュウ。王が亡くなって、惑星が不安定に傾いた……という事実でもあればそれは一大事だった。自分の責任だ。
 しかし、違う。
 そうではない、リュウが今まで知らなかっただけだ。誰からも”知らされていなかった”だけなのだ。
「お父さんも、お兄ちゃんも。向かいのお姉さんも、山のおじさんも。ちょっと旅行中なのよ、きっと、きっと、帰って……うぅっ」
 床に崩れ落ちて号泣を始めた母に狼狽し、連鎖して泣き出した幼子。いてもたってもいられなくなり、リュウは思わず家の玄関に回りこむとドアを強引に開いて中に入っていた。
「すまない! 謝罪などしても断罪は免れないが……。私の無責任な行動が引き起こした行動なのだろう!?」
 真面目にバジルから授業を受けていなかったリュウは、思い込んでしまった。王という存在で惑星が支えられていたとして、各地で天変地異が多々発生しそれに皆が巻き込まれているのではないか、と。
 フードを外して姿を現した若き王に、唖然と母はリュウを見つめる。幼子が泣きながらリュウの足元にしがみ付いてきた、顔色を変えて母親が手を伸ばしかけたが、遅い。
「スタイン様! みんなを助けて。何処へみんないっちゃうの? どうして”帰って”こないの?」
「スタイン様、お忘れくださいっ!!」
 絶叫した母に、リュウとて何か引っかかりを感じた。すがりつく幼子と母親を見比べる、震えて必死に自分のマントを掴んでいる幼子と脅えて唇を紫にしこちらを訴えるように見つめている母と。
「……何か、隠して?」
「い、いえ、そのようなことは! りょ、りょこうに、りょこうに……」
「みんな、いなくなるの。どこへ、行っているの? スタイン様なら、知ってる?」
 母が無理やりリュウから我が子を引き剥がし、自身に抱き寄せて口を塞ぐように床に崩れ落ちたまま涙した。幼子は必死にもがいて、リュウに助けを求めるように小さな手を伸ばしている。
「…………。どうか、教えてくれないだろうか。私は何を知らないのだろう。何か、隠して?」
「わ、私は何も存じ上げてませんっ! バジル様に、バジル様にっ」
 ガタガタと震える母、見ていて気の毒だった。何に脅えているのだろう、何をそこまで隠しているのだろう。追求するのも気の毒だったが、知りたい。意を決してリュウは片膝つき、母に首を垂れる。
「どうか、教えて欲しい。……皆、”いなくなる”のか?」
「……あ、あぁっ! スタイン様は悪くないのです、悪いのは人間で……」
 母親の絶叫だった、聞いた単語は聴きなれない単語である。だが、聞き取った。
「ニンゲン?」
 慌てて口を塞いだ母親だが、もう、遅い。顔を上げてリュウを見つめると悔しそうに、唇を噛締める。その唇から、血が流れ落ちていた。水竜の血は、緑色だ。震えながら必死に我が子を抱きとめつつ、ようやく、ぽつり、ぽつり、と話し出す。
 リュウは、知らなかった。
 誰も、教えてくれなかった。
 これが、今まで自分に対して皆が極秘にしてきた最重要事項だった。
 物言わず、おぼつかない口調の水竜の母親の言葉を聞いていたリュウ。
 聴き終わった時、ふらつく足取りで立ち上がるとそのまま家を出て行く。
「スタイン様っ、私達は」
「……すまない、と何度言えば赦されるのだろう? 赦してくれとは言えない、必ず連れ戻すとも言えない。だが、”助け出してみせる”から。……有難う、教えてくれて」
 ドアを出る前に、小声でそう呟いたリュウ。家の中で絶叫が聴こえる、何事かと近辺の住民達が不安そうに飛び出してきた時、そこにはリュウがマントをはためかせて立っていた。
 皆、久々に見たリュウの姿に笑みを見せ声をかける。だが、様子がおかしい。彼の瞳に、光がない。口元に、笑みがない。皆の好きな、リュウのあの穏やかな雰囲気などなかった。
 声をかけても、リュウは反応すらしなかった。ただ、静かに皆に囲まれた路を歩くだけだった。
 空には、光がない。風は、乾燥したままだ。時折寂しそうに木の葉が、落ちた。
 堂々と歩く姿は、確かに威圧感があった。今までの皆に愛されていただけの王子とは、違う。表情に、まったく感情が現れていなかった。それは意志薄弱しているようにも見えたし、自暴自棄になっているようにも思えた。
 声をかけられなくなった幻獣達は、無言で歩くリュウをただ見守るしかない。一歩後退し路を開ける様にして、固唾を飲み見守る。
「スタイン様、お待ちくださいませスタイン様っ」
 飛び出してきた水竜の親子に声に、僅かにリュウは首を動かしたが脚は止めなかった。知らず早足になるリュウ、やがて皆にあの親子が真実を話すだろう。そして自分は何を言われるのだろうか。『貴方様のせいではありません』と言われるのだろうか。
 耐えられない、どうして今まで自分だけが何も知らずに生きてきたのだろう。 
 城へと続く道程を、淡々と歩いているが腸は煮えくり返っている。冷静に見えて、何かが胸のうちで破裂しそうだった。驚くほど、冷淡で爆発的な自分のうちに秘める何か。
 それは、周囲に零れ始めた。リュウの身体から湧き上がるその魔力の破片が、小道の花を揺らす。枯らすことはなかった、ただ、変色した。純白の花は、深紅に。萌黄の葉は、灰色に。
 異変を聴きつけ、バジルとヘリオトロープが前方からようやくやってきた、そんなこと、承知の上である。
「スタイン様。部屋から出たのであればまず、私に会いに来るのが筋でしょう」
 平素通りのバジルの声、周囲では、皆が固唾を飲んで見守っているというのに。
 ただ、綺麗な瞳でリュウを捕らえて真っ直ぐに何を言うでもなくバジルは見ている。隠し通すつもりだろう、とリュウは口の端に若干笑みを浮かべる。
「そうだったな、悪かった」
「話があります、城へ戻りましょう」
「私も話がある、丁度良かった」
「んごうごうも、心配しております」
「…………」
 会話の流れに皆は胸を撫で下ろす。再び歩き始めたリュウは、バジルの傍らを通り過ぎるが見向きもしない。ヘリオトロープが全身に奇怪な汗をかきながら、後方で不安そうに見つめている民に軽く片目を瞑り笑いかけた。大丈夫ではないが、今は民を不安に突き落とすわけにはいかない。
 口元を拭い、自分の震えている右手を固く握り締めたヘリオトロープはリュウとバジルを追った。
 残された者達も、不安そうにそのままついていく。城へ、と。
 門を潜り、城に入れば浮遊してんごうごうがリュウを待ち侘びていた。直様かけつけ擦り寄ってくる。流石に笑みを零したリュウは、その丸い背を撫でた。
「食事は?」
「いや、構わない。そこまで空腹ではないから」
「全く、誰が窓から抜け出すことを教えましたか? ……子供ではないのですから」
「子供扱いしていたのは、どっちだ?」
 んごうごうが、硬直する。その背の手が若干震えていることを察知したんごうごうは、そのままバジルに視線を送っていた。微かに頷いたバジルは首を軽く動かし足をゆっくりと広げていく。ヘリオトロープがリュウの背後に回りこんでいた。
「別に子供扱いなどしておりませんよ。まぁ、確かに勉強嫌いなところがありますので手を焼いておりますが」
「白々しい」
 んごうごうからゆっくりと手を退けたリュウは、そのまま一直線に廊下を歩いた。
 突き当たりは、王の間だ。王の間の左がリュウの自室である。右は亡くなった王妃の間だった。
 バジルは冷静に皆に指示を出していた、こうなることなど早くから予測が出来ていたようだ。
 だが、他の者達はバジルほど冷静ではいられない。焦燥感に駆られてリュウを追う。その手に皆武器を握り締めて。
 カツン、カツン、と不気味な程響くリュウの足音。んごうごうが慌てて追って隣にぴたりと位置するが、もうリュウはそちらを見なかった。
 王の間へは、刺繍が見事な布で覆い隠されている。カーテンの様に左右に広げて中に入る仕様だ。中に入れば、王座が中央に見える。その、右手の奥から王室へと入っていける。
 数日前まで父王が床に臥していた部屋だ、何度か見舞いに訪れていた。代々使われてきた王の部屋だ。行く行くは、リュウの部屋になる筈だった。
 問題はその部屋ではない、子供の頃から気になっていた。この、王座の間に不可解な箇所が一箇所存在するのだ。天井を見上げると、中央に何か文字が施されている。
 華美な装飾をしていない王宮で、ここだけに一箇所、精密な何かが天井に。床にも側壁にも何もないというのに。
 幼い頃、あれは何かと訊いたことがあった。なんと答えが返って来ただろうか、記憶にないので大したことではなかったのだろう。
 今にして思えば、勤勉を疎かにしてきた事に腹が立つ。これに関して自身で調べてみるべきだったのだ。
 文字の真下に立ったリュウは、静かに天井を見上げる。腕を伸ばした。
「スタイン様。こちらへ」
 バジルの声に皆が一斉にリュウを囲む、その行動で確信した。やはりこの場所が鍵だったのだ。
「……見くびるなよ、バジル。確かに私はお前の言いつけを守って来なかった。だが、これでも王族の末裔だ」
 リュウは、念じた。ただ、ひたすらに念じた。それしか、思いつかなかった。何が出来るのか解らなかったが、それしか思いつかなかった。
『スタイン。願い事は強く思えば叶うものだよ』
 父親の声が聴こえる、ならばそれは今、強く願うべきだと悟った。あの日その王座に腰掛けながら、自分の頭部を優しく大きな手で撫でながら告げた父親に、心の中で謝罪する。
「私は、これしか方法が思いつかなかった」
 ボソ、と言葉を漏らし全魔力を掲げた手に集中する。全ての忌まわしき元凶を潰す事が出来るのは、自分しかいない筈だ。それを成しえてこそ……王になろう。
「恐らく、戻る事はないけれど」
 皆の悲鳴が聴こえる中で、リュウは微笑した。寂しそうに、ただ涙を浮かべて微笑した。
「不甲斐無い王子で、悪かったな。皆、元気で」
 爆音と眩い光線が水晶の床に反射する、バジルの悲鳴に近いリュウを呼ぶ声が木霊していた。ヘリオトロープが自身の鎌を投げつけるが、リュウの魔力に跳ね返され砕かれ戻ってくる。床に破片が振りまかれる、舌打ちして単身でリュウへと突っ込んだが、刃すら受け付けないのでは身体では到底無理だ。
 床に叩きつけられるが何度でもヘリオトロープは妨害を続ける。脇に居たんごうごうも、体当たりを食らわしているが、ボールの様に跳ね返されて壁に激突していた。
 天井から急に吹き荒れた風によって、リュウの姿が完全に掻き消される。解っていた事だったが、絶望しか残らない。
 舌打ちしバジルは身体を翻すと直様自らの武器を取る為に駆け出していた、だが。急に立ち止まり驚愕の眼で天井を見つめる、わなわなと身体が小刻みに震え出していた。
「王子……! 封印されましたな!?」
「どういう、ことだ?」
 ヘリオトロープの問いに、怒鳴るように冷静を保っていたはずのバジルが叫ぶ。その声は、皆を震撼させた。沈着冷静であったバジルの動揺を見れば、誰しも気付かざるを得ない。
「孤立させた! この惑星は何処とも干渉できないっ、王子が封印を解かない限り、誰しも行き来出来ない」
 我武者羅に、手にしていた腕輪を床に投げつける。宝石がとれて、煌きながら宙に舞う。
「どなたか! どなたか! 王子と同等の、いやそれ以上の魔力を持ちえるお方よ! どうか、私の声をお聞きください! 私の名はバジル=セルバ。私を召喚してください、封印を打ち破り、貴方様のもとへと召喚してください!」

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