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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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Image697.jpg本当は前回でもっと進める予定だったのですが、とりあえずそろそろ更新したかったので、妙なところで区切ってしまいましたー。

というか、あまり進め過ぎると。

マビルが。

DES外伝4がまだ完結出来てないので、一気に掲載が出来ないという悲惨な事態になりつつあって、もう、あれです。
わぁい、誰か代わりにこれ打ち込んでくださいー・・・。
という状態です。

今年中に絶対1章を終わらせるんだっ。

イラストはいつものごとく、友人様。
左から、スリザ、ホーチミン、サイゴン、アイセル。
・・・掲載するの初めてですよね?(おぃ)

めも

外伝4→
トモハル→
アサギ

目の前で薔薇を小道具に何やら気障ったらしい態度をとっている一応部下に、スリザは身を逆立て般若のごとき形相でアイセルを睨みつける。

「誰が『スリザちゃん』だ! 仮にもお前の上司、人の尻を揉み次第てその態度は何事かっ! この年中発情男がっ」

ほぼ垂直にスリザの右足が華麗に天を向く、ヒールが鉄製のブーツが灯りに照らされ不気味に光った。
スリザの踵落とし、基本両刀剣士のスリザだが足技にも定評がある。
それでもアイセルは余裕だった、難なく避けれると思ったのだ、瞬発力ならば魔族でも一、二を争うアイセルである。
しかし、顔が凍りついた。
背後から何者かに掴まれており、全く身動きが取れないのである。

「え、ちょ・・・うそぉっ」

スリザの高く掲げられた右足が、ギロチンのごとく光り輝く。
罪人に、死を。
逃れられないその目の前の処刑人、一瞬で楽になる筈だ。

「ちょ、スリザちゃん、待って待って! スリザちゃーん!!!」

アイセルの懇願など、誰が聞き耳を持つものか。
容赦なくスリザの右足は急降下、情けない声と引き攣った表情のアイセルの・・・股間に炸裂。

「ぎいいぃいいいやああああああああああああ!!!!!」

顔を赤から黄へ、最終的に青くなったアイセルの顔、口から泡が吹き出し当然その場に卒倒。
絶叫というか断末魔が、大広間に響き渡っていた。
天罰覿面、そう呟きスリザは忌々しそうに舌打ちして脚を踏み鳴らしながら腕を組み再度アイセルの腹を踏みつける。
唖然とアイセルを見たホーチミンと、身震いし合掌するサイゴンだった。

「大丈夫ですかぁ、スリザ様ぁ。私達がぁ、ちゃんと貴女様を御守りいたしますぅ♪」

アイセルを踏みつけ、数人の少女達がやってきた。
スリザファンクラブ会員ナンバー上位メンバーの、少女達だ。
先程、アイセルを羽交い絞めにしていたのは、彼女達である。
ツインテールに大きなリボン、フリルとレース満載の純白衣服に身を包んでいる会長。
見事な縦巻きに、漆黒のフリルと深紅の薔薇を身に纏った副会長。
他、数名。
か細い腕だが、あの体格の良いアイセルを押さえ込んでいたのだから、力量は見た目では解らない。

「助かった、お前達」

凛々しい表情で、爽やかに微笑するスリザ、途端に周囲から黄色い歓声が、歓喜の溜息が上がる。
噂では、その中の誰かとスリザが出来ているとか、いないとか。
彼女達に快心の笑みを送り、麗しく頬に触れる様子は、確かに甘い恋人同士のよう。
とても先程のアイセルとは比べ物にならない態度を、スリザは彼女達に送っている。
魔族の中で、最も女性にモテているのは、紛れもなくスリザであった。
女性から見ても引き締まった筋肉、そしてその男のように逞しく凛々しく、しかし女のように繊細で色気のあるスリザ。
中性的なのだろう、誰をも惹き付けるらしく、こと少女達には憧れの的。
男と違い、香りも良いし立ち振る舞いが美しいので綺麗なものを好む少女達には抜群の人気だった。

「スリザってば、産まれる性別を間違えてるわよね。女の子といたほうが、よっぽど楽しそう。だからまだ処女なのよ。あの歳で処女ってのも、どうかと思うけどねー。ね、サイゴン?」

相変わらずしつこくサイゴンの腕に絡み付いているホーチミン、呆れ返って少女達に囲まれているスリザに溜息を吐く。
怪訝にそれを追い払っていた筈のサイゴンであるが、もう諦めてそのまま大人しく腕を組んでいた。

「お前が言うな、それを。この男女」
「ひ、ひっどーい! どぉして恋人にそんなこと言うの? ただ、女の子と違ってあそこに玉がついてるだけよ? 寧ろ、料理だって完璧にこなせるし、掃除洗濯なんでもお任せ。スリザとかよりも、ずーっと女らしいと思うのだけど、私っ」

しなりん、腕を絡ませて腰をくねらせ上目遣いのホーチミン。
確かに、可愛らしいし、美人だ。
だが、男だ。
正真正銘、男だ。
朝、隣で起きると髭が見えるから男なのだ。
腕を組んでいるが、当然胸がないので柔らかさもなにもあったものではない。

「四十八手も、なんでもござれよ」
「・・・」

ぱっちん、とウィンクを飛ばすホーチミン、半泣きでサイゴンはしゃがみ込む。

「女らしかろうがなんだろうが、お前は男だ! お前と姉さんのおかげで未だに彼女が出来ない俺。青春を返せ」
「やだっ、早くしないとあそこにいる年増の処女みたいになっちゃうよ? 大丈夫、男同士でも。最近人間界でも流行っているみたいだし、私が教えてア・ゲ・ル♪ あはん」

ホーチミンを突き飛ばし、いい加減にしろっ、と満身の力を籠めて叫んだサイゴン。
流石に今の台詞にはイラ、っときたようだ。

「うっさい! 俺だって・・・俺だって、可愛い彼女と・・・! トビィにだって馬鹿にされたし、散々だ俺の人生」
「トビィちゃんは度胸が有るし、そもそも彼の天性の閨事、あれは全ての女性を虜にしてしまうわ・・・」
「知らない癖に、何を偉そうに・・・」
「・・・って、友達が言ってた。相当上手みたいよ、トビィちゃん。めろめろとろろんきゅー、なんだって」
「ふ、ふんっ」

肩をがっくりと下ろしたサイゴンを尻目に、けたけたと笑い出すホーチミン。

「まぁ、トビィちゃんとサイゴンを比べても仕方ないわよね。・・・で、トビィちゃんはまだ帰ってこないのかしら? 早く会いたいわ、益々良い男になってそうだものっ、きゃっ♪」

泡を吹いて未だに床に突っ伏しているアイセルと、少女達に囲まれて満足そうに会話しているスリザ。
笑い続ける陽気なホーチミンと、落胆し床に両膝ついているサイゴン。
・・・いつものことである。

「ふー、危うく俺とスリザちゃんの子供が出来なくなるトコだったよー。そこらへん、注意して欲しいよね」
「あらアイセル、起きたんだ」
「ふっ、こんなこともあろうかと股間に鉄製のカバーを入れておいたから」

妙なことを自信満々で言わないで欲しい、とホーチミンは苦笑い。
再び薔薇を手にし、アイセルはじーっと、スリザを見ている。
・・・股間を擦りつつ。

「”ココ”は、スリザちゃんにとっても大事なものなんだけどねぇ」
「・・・あんた、一度死んだら?」

同情できず、ホーチミンはしれっ、とそう告げるとスリザの代わりにわき腹に鉄槌を喰らわしておいた。
まぁ、ホーチミンのか細い腕では、アイセルにダメージなど与えられないが。
少女達に囲まれて、男装の麗人のように振舞うスリザを、真剣に魅入るアイセル。

「・・・また。・・・無理してる」
「え?」

怪訝にアイセルを見上げたホーチミンに、返答する事もなくアイセルは唇を噛むと軽く俯いた。
何度か、俯きながらスリザを見た。

「・・・周囲が作り上げたキャラを演じなくてもいいんだよ、スリザちゃん」

小声で、小さくアイセルは呟くと軽く溜息を吐き頭を掻く。
優しそうな笑みを浮かべて周囲と戯れているスリザを、軽く唇を噛み締めて、見ていた。

数十分後、大広間に盛大なファンファーレが響き渡った。
ざわついていた魔族達が、瞬時に雑談を止めて静まり返る。
一斉に中央のステージに皆、視線を送った、重々しいワインレッドのカーテンが徐々に開く。

「やっほーん! お元気かな? 集まってくれてありがとなのだー、恐縮なのだー!」

突如、あっけらかんとした声が響き渡り、嬉しそうに手を振っている魔王リュウが現れる。
数十人が、コケた。
初めて聴いた時はその場に居た全員がひっくり返ったが、流石に数度も繰り返されると慣れる。
確かに今でも調子が狂うのは間違いないのだが、それでも辛うじて耐えられる。
今現在コケた魔族達は、慣れていないのだろう。
カーテンが全開、ステージの端から端を手を振って挨拶するリュウの後方に、右からアサギ、ハイ、アレク、ミラボーが席についている。
やや緊張した面持ちで、アサギは大人しくしているのだが、そっとところせましと集まっていた魔族達を眺めていた。

その数時間前。
ドレスに着替えてから、アサギとハイは暫し城内を散歩していた。
昼食時間に会議がかかるが、朝食をたくさん摂った為、空腹にはならないだろう。
城内、屋上に位置する果物栽培所を訪れたハイとアサギは、合流したリュウと共にそこで果物を戴く事にした。
小腹は空いている、瑞々しい果物なら口に出来る。
甘い香りが充満するハウスの中で、色とりどりの果物が元気良く、光り輝いてぶら下がっていた。
亜熱帯性の果物が植えられているようだ、雰囲気が南国っぽい。
ドリアン、マンゴー、バナナ、レイシ、ランプータン、マンゴスチン、チョンプー。
アサギが見たことがあるものから、名前しか知らないもの、多種多様である。
畑を潤している汲み上げ式の汀の傍らで、三人はその場でもぎとった果物を頬張った。
アサギは馴染み深いバナナと、マンゴーを選んだ、迸るような甘味に思わず歓声を。
今まで食べたどのバナナよりも美味しいのは、やはり無農薬で取り立てだからだろうか。
三人で他愛のない会話を楽しんでいたが、時間になったので先程こうしてステージの上に上がったところである。

流石にあまりの多さの魔族にアサギも脚が強張り震えた、が、隣でハイが軽く頷き笑みを浮かべてくれていたので安堵の溜息と共に、震えを止めるべく深呼吸。
胸を張り、真っ直ぐに視線を、手は膝の上に。
些か落ち着いたらしく、アサギは再び魔族観察を開始する。
魔族と一言で言っても、様々な容姿をしていた。
人間に近い魔族もいれば、明らかに羽根や角が生えた魔族もいるし、肌が緑の者もいれば、人型ではない魔族も当然存在している。
ふと、黄緑の髪で額に角を施した髪飾りをしている男性と視線があったので、アサギは思わず会釈をしてしまった。
男性は驚愕の瞳でこちらを見ていたが、アサギに遅れて会釈した。
それは、アイセルである。
背筋を伝う汗は、何を意味したのか。
アイセルはアサギと視線を合わせてしまい、思わず後方に倒れ込んだ。
幸い、サイゴンが立っていたので支えられたが周囲が心配そうにアイセルを見つめる。

「顔色が良くないわよ、あんた。大丈夫?」

ホーチミンが簡易な回復魔法を唱える、怪訝そうに覗き込まれ、アイセルは思わず表情を隠した。

「ちょーっと、さっきスリザちゃんに蹴られた箇所が痛かっただけ。気にすんなー」
「あら、そっ」

ホーチミンは呆れ返って、痛そうに顔を顰めだらしなく頭をかいているアイセルに冷ややかな視線を送ると、サイゴンに軽く耳打ちする。

「ね、サイゴン。あそこに女の子座ってるけど・・・。あれ、誰? 誰かの従姉妹?」
「髪が黒いし、ハイ様の妹ではなかろうか」
「あー、確かに。なんか人間に見えるもんね」

魔族達も、アサギを見ていた。
当然だ、魔王に揃って見慣れない人物が紛れている、気にならないほうがおかしい。
小柄な少女、対して魔力がなさそうな、そして人間に見える少女が魔王の隣に座っている。
気品あるその姿から、魔王の従姉妹か妹ではないか、と魔族達は犇めき合った。

「はいはーい、静かに! 今日は、君達に重大なお知らせがあるんだけどー。
あ、でもね、その前に。質問があります。素直に答えて欲しいのだ」

ざわめく魔族達を、手を三度叩いて静まらせたリュウは再度大きく魔族達を見渡す。
視線が集まったところで、急に神妙な顔つきになって一言。

「最近、人間界に勇者が現れたと噂があるけれど。その勇者についてなのだ」

途端、部屋中で呟きが起こった。
それは、皆小声だったのかもしれないが全員が全員で口々に呟いたので、大きなざわめきとなって広間を駆け巡る。
忌々しそうに、憎々しそうに吐き捨てる者から、戸惑いながら呟く者、肩を竦めて呟く者から、今にも暴れ出しそうな者・・・。
十人十色である、リュウは微かに満足そうに微笑んだ。
大きくなる騒音、その状況にハイが慌てて椅子から立ち上がる。
アサギも息を潜めて、けれども目を逸らさずに魔族達を見ている。
そんな様子を、そっと魔王アレクが見つめていた。

「おい、リュウ! 何がやりたいんだ!?」

こんな状況で、アサギが勇者だと知られては非常に危険だ。
ハイの言いたいことも解ったのだが、説明が面倒なのでリュウは軽く笑うのみ。
ハイを椅子に強引に連れ戻して着席させると、魔族達に振り返ってわざとらしく咳を一つ。

「ん、このような状況では話が出来ない。重大発表は後日ということで」

途端、不服な嘆きが聴こえた。
”勇者”に纏わる何か、なのだろうが今は教えられないという魔王。

「今の君達の呟きを聞いていた限りでは・・・。困ったことに勇者を敵視していない者が中に居るようなのだ。
当然敵視している者のほうが多いだろうが、その者達は帰宅して良し。
そうでない者・・・正直にこの場に残るようにー。以上っ。移動開始っ」

ぞろぞろと出て行く魔族達、今日の招集がこれとは・・・と皆苦笑いである。
全員でていくかと思えば、馬鹿正直に残っている魔族も少ないが存在した。
集まっていた魔族の五分の一程だろうか、紛れて出て行こうかとも思ったのだがリュウが「正直に」と言ったのがひっかかった。
後で嘘がばれても仕方ない、確かに出て行った魔族もいたのだが、こうして残った者もいる。
残った魔族達はひそひそと呟きながら、リュウの次の言葉を待っている。

「だって・・・勇者っていったってなぁ・・・。こちらが侵攻しなければ攻めてこないだろうし」
「ぶっちゃけ、戦いって好きじゃないし・・・」
「和解して協定を結びたいくらいだよ」

その中には、スリザ、サイゴン、アイセル、ホーチミンも居た。
スリザはアレクが人間を好いている事を知っていたし、”勇者を極秘に探し何とか和解出来ないか相談を持ち掛けたい”と常々ぼやいていたのを聞いていた。
その為、これは勇者が見つかった知らせで、勇者を良く思っている魔族達だけにだけ知らせるつもりなのではないか、と踏んでいる。
サイゴンとて、同感である。
明確にアレクから聞かされたわけではないが、自分の姉がアレク直々に命を受けて極秘に調査していたのは勇者の事だった。
見つかった勇者をどうにか連れてこられないだろうか、とかそのような相談かとも思った。
・・・二人とも、惜しい。
ホーチミンは別に人間だろうが魔族だろうが気にしない、実際人間の友達も居る。
そしてアイセルは、アサギが何者か気づいているので乾ききった口内を必死に唾液で湿らせながら、一人耐えている。
先程まで詰まっていた広間は、急に隙間が増えて違和感を覚える程。
そんな空間に静寂が訪れる、ドアが閉まる音が響き渡った。
リュウは、満足そうに残った魔族達を見渡す。

「うん、ありがとうなのだー。今日は君達だけに特別なお知らせがあるのだー! これ、秘密なのだよ」

パチン、指を鳴らす。
広間のカーテンが閉められ、光が遮断された、暗闇で覆われた部屋。
しかしそれは、一瞬の事だった。
騒々しい派手なファンファーレと共に、眩いばかりの一筋の光が一点を照らし出した。
サァ・・・と、注がれた一本の光の先に、居た人物、それは。

「・・・私?」

無論、アサギである。
きょとん、としてハイを見上げれば、わなわなと顔を憤怒で真っ赤にしリュウを睨みつけている。
なんとなく、何がしたいかようやく目論見が解ったハイ。
アサギに着せられたドレスの意味、勇者を敵視する魔族を追い出した意味。
しかし、もはや遅いのである。
視線が交差したハイとリュウ。
やめろ、とハイが叫ぶよりも先に、意地悪く瞳を光らせたリュウが叫んだ。

「じゃじゃじゃじゃーん! この子が、魔王ハイのお嫁さん候補でクレオの勇者のアサギちゃんなのだー! みんな仲良くしてあげるのだー!」

うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおっ!

大喝采。
魔王ハイに、嫁。
嫁が、勇者。
その場に硬直したままひっくり返って、床で後頭部をぶつけても起き上がれなかったハイ。
アサギは椅子から飛び降りてハイに駆け寄るが、かなりパニックしている。
その様子に、魔族達はざわめきたった、『おぉ、仲が宜しいことで!』と。
静かに、アレクが席を立ちアサギとハイを見下ろしている。

「ちょ、すごーい! ハイ様やるぅ、嫁に勇者だって!」
「い、意外・・・どこにそんな出逢いが!? というか、非常に俺の理想の嫁さんだ・・・。物凄く可愛い子だー」

ホーチミンとサイゴンは、各々の感想を。
スリザは心配そうにアレクを見つめ、唇を噛んでいる。
そして、アイセルは。
呆然と立ち尽くしたまま、微動だ出来ずにいた。
ホーチミンに揺さ振られても、アサギから視線を外すことなく。
アサギを食い入るように見つめて、胸を苦しそうに押さえ。
額から零れ落ちる汗、背筋を流れる汗。

「あの子、が。あの子、だ。・・・名前は、”アサギ”」

アイセルは、一際強く、胸を押さえつける。

―――あの方が! あの方が次期魔王! アレク様の後継者にして魔族を統治する偉大な女王―――

地球から。
何故か突如召喚された勇者アサギは、人々に忌み嫌われ、神からも見捨てられた魔族の住む地・イヴァンに降り立ちその姿を見せた。
魔王ハイの、嫁として。
魔族達は、小柄な勇者を観てどう思ったのだろうか。
魔王ハイの嫁なので、人間はすんなり受け入れられた、むしろ納得出来た。
勇者、という点でも皆純粋に喜んだ。
魔王と勇者で、魔族と人間の橋渡しが出来ると考えたのだ。

「平和な時代だ・・・」
「これからは堂々と人間界に行けるぞ! メイドカフェだ!」
「あぁっ、なんて素敵な日でしょう! 魔王ハイ、万歳!!!」

ばんざーい! ハイ様、ばんざーい!!
万歳、万歳、万歳、万歳!!!・・・・・・。
大合唱は、収まらず。

ハイの脳内で再生されている合唱、いつまでも響き渡っていた。
ベッドの上で低く呻きながら、身もだえしているハイ。
その様子を、アサギが心配そうに覗き込み、リュウが不貞腐れて隣に座っている。
軽い溜息、頭を掻きながらリュウは舌打ちしてハイを見る。
苛立っているのは、ハイにではない、自分にだった。
まさかハイがここまで寝込むとは思っていなかったので、やりすぎたと反省しているのである。
ショックで倒れたまま、起き上がらなくて自室のベッドに寝かせてから早数時間が経過。
悪戯好きのリュウではあるが、ここまで人を傷つけたらそれは悪戯ではない事ぐらい、理解しているつもりだ。
ハイ自身、アサギをとても好いていることなど痛いくらいに解っていた。
嫁、とまではいかなくとも恋人になれたらな、と仄かに期待していたハイ。
それを、公然の秘密にされたあげく、そもそもハイからはアサギに一言もプロポーズしていないうえに、アサギの了解すら貰っていないのに”嫁”扱い。
アサギ自身にそのリュウの発言を聞かれてしまったことが、何よりハイに痛手を負わせたのだ。
どんな顔してアサギと会えばよいのだろうか、そこである。
『どうして嫁なんですか、私』
と、アサギにあの大きな瞳で問いかけられた場合、どうすれば良いのだろうか。
なんと答えれば良いのだろうか、ハイは悪夢を見ていた。
何をどう返答しても、アサギは自分の前から去っていくのだ。
そんな夢を何度も何度も観ている、ゆえに、魘されていた。
暗闇の中、光が自分から離れて行き、静寂と暗黒が支配する世界へと。
遠くなっていく光を必死で追い求めたが、どれだけ走っても追いつけない。
魘されるハイを、懸命に水に浸した布で看病しているアサギはそんなこと露知らず。
そもそも、アサギは先程のリュウの発言を全く気にしていなかった。
ハイがそこまで考え込む必要など、どこにもなかったのだ。
それはそれで、ハイに気の毒であるが。
まず、嫁発言。
歳が、違いすぎるのでアサギ的に対象外である。
そして出会って間もないのに、何故結婚。
アサギはこう考えていた、勇者としてここにいる為に、カモフラージュで嫁、という肩書きがついたのではないかと。
それが自然だろう。
看病するアサギの後ろで、椅子から立ち上がり困ったように何をするでもなく部屋を徘徊するリュウ。
見舞いに来たものの、特に何もすることがないので立ち尽くしているアレク。
時は既に、月が顔を出し辺りを闇に覆う刻である。
部屋をぐるぐると回り、たまに椅子に腰掛けて首を捻り、意味もなく部屋の中央で踊ったりもしていたリュウだがやがて名案が浮かんだらしく嬉しそうに掌を叩いた。
名案、というよりかは悪知恵、悪巧みが閃いたらしい。
きょろきょろと周囲を見渡し、わざとらしく大声で叫ぶ。

「もうこんな時間なのだー、起きないハイは仕方ないから放置して三人で夕飯食べようなのだ、そうしようなのだー」

そうだ、そうだ! リュウ自身が返事をする。
アレクに微笑みかけ、アサギの隣に立ち肩にそっと手を置いたリュウ。
アサギは申し訳なさそうに見上げると、ハイの看病を続けるので・・・と丁重に断ろうとした。
その時である。

「くおらぁ、リュウ! 人が倒れている間にアサギを誘うとは、なんたる非常識な事をっ!」

床に臥せっていた、瀕死の状態であったハイであるが、勢い良く跳ね上がって起き上がる。
布団を投げ飛ばし、額にあったアサギが使っていた布をきつく握り締めながら、リュウを恐ろしい形相で睨み付けた。

「あは、おはよーなのだ」
「おはよー、ではない! 大体貴様はっ」

しかし、その勢いは何処へやら、脇にいたアサギを視界に入れた途端にハイは床に落ちた布団を拾い上げて再びベッドに潜りこんでいった。
まるで、つつかれて殻に戻った蝸牛のごとく、である。

「ハイ様! 大丈夫ですか? 何処か痛いですか?」

再び布団人間と化したハイを、アサギは揺さ振るが返事はない。
数分後「私はアサギに会わせる顔がないんだ・・・」と、低く、くぐもった涙声のハイの声が布団から聴こえてきた。
先程の悪夢が、甦る。
不安で仕方ない、こんな気持ちは初めてだったのだ。
無理やり連れてきて、嫁・・・普通激怒するだろう。
ハイの心臓は爆発寸前、その威力はイヴァン全土を巻き込むほどの凄まじい威力。
先程のハイの声は弱々しく季節外れの蚊のようだが、心臓の音だけは大きく、震えも大きいのでそちらのほうが音がよく聞こえる。
とにかくハイは不安だった、恐怖を全身で体感していた。
遥か遠い上空に瞬時に移動し、そこから真っ逆様に落下しつつ、世界は地震と火山の噴火、隕石の衝突で崩壊し、その様を見つめながら自分は空中分解・・・というような感覚。
ともかく、アサギに何か口を開かれたら人生が終わる気がして。
ハイは、布団を被ったまま断固、出ない姿勢である。
深い溜息、リュウはアレクに肩を竦めて首を振った。
非常に、臆病だという事は理解したが、度を越えている。
軽い冗談だ、で済ませば良いのだ。
・・・まぁ、ハイの性分からするとそれが出来ないのだろうが。
部屋が沈黙に包まれて、非常に気まずい空気が流れる。

「あの、ハイ様・・・。私、何かしましたか?」
「アサギは何も悪い事してないよ、私が全ての原因の発端で、元凶なんだ・・・」

分けが解らず、アサギは俯いて、布団を擦っている。
まさか、ハイがそこまで悩んでいるとは知らないので、自分に会いたがらないハイに、不安になったアサギである。
リュウとアレクは互いに顔を見合わせて小さな溜息と苦笑い、二人には、ハイとアサギの考えが手に取るように解るのだ。
無表情で、アレクはそんな二人を見つめていた。
感情が全く読み取る事ができない、その表情の奥に隠されたアレクの思いを今はまだ、誰も知らず。
緊迫感のない欠伸、リュウは空腹だったので、勝手にあったクッキーを貪っている。
ハイは、布団の中で猫のように丸くなりながら「嫌われたらどうしよう、自殺しよう」と、そればかりを考えている。
しかし、このまま布団の中で一生を過ごすわけにもいかないのだ、当たって砕けろ、飛び出すべきだろう。
しかし、行動に移すことが出来ない。
震える身体、次々に浮かんでは消える最悪な映像。
繰り返し、繰り返し、同じものを観ている。
眠っているような、醒めているような、不思議な感覚。
深い闇に堕ちて行く、ふわっと、突如浮かび上がりながら、どこまでも底がない闇を落下していく感覚。
何度も、繰り返し・・・。
暫くして、ハイは瞳を擦りながら暗い布団の中で目を覚ましていた。
どうやら、本当に眠ってしまったようだ、考え疲れたのかもしれない。
今は一体何時なのだろうか、どのくらい布団に隠れていたのだろうか。
まだ、ぼんやりとしている脳を必死で起しながら、ハイは麻痺していた腕で上半身を辛うじて起し布団から這い出る。
深い溜息一つ、部屋を見ようにも瞳が慣れず見えない室内。
真っ暗だった。
月の明かりがない、カーテンが締め切ってあるのだろう。
ハイは、自分の傍らで寝息を立てている人物が居ることに気がついた、恐る恐る近寄り、必死に瞳を擦って表紙すれば。
すーすーすー・・・。
こんな可憐な寝息を立てる人物など、ハイの周囲に一人しかいない。
アサギである。
看病していたアサギ、必死に声をかけていたアサギ、いつしか周囲の暗さと共に眠気に襲われて、あのドレス姿のまま眠っていたのだ。
今宵は普段よりも温度が低く、露出した肩が寒そうである。
戸惑いがちに触れてみれば、やはり冷たい。
ようやく慣れて来た瞳でアサギを優しく抱き抱えると、そっとベッドに寝かせて布団をかけてやる。
アサギが微かに笑って、唇を動かしていた。
聞き取ろうと近寄ったハイ、アサギの唇から聴こえたのは。

「ハイ様」

・・・自分の、名前だった。
ドアをノックする音が、ハイの耳に届いた。
控え目な音、起さないように気を使っている来訪者。
ハイは静かに立ち上がると、寝返りをうったアサギに微笑し、軽く頭を撫でるとドアへと向かう。
アサギは疲れているのだろう、深い眠りに落ちているらしい。
ドアノブに手をかけたハイは、一瞬表情を曇らせた。
手を離し、宙で停止したハイの右手。
恐らく、ドア向こうに居るのは間違いなく”あの男”だろうが。
しかし、油断は出来なかった、アサギの存在が魔族の多くに知られてしまったからである。
確かに、勇者を敵視していない魔族にのみ、だがそんなものは解らない。
『勇者の命を狙う者』ならば、躊躇せずにこの部屋に来るだろう、魔王が護衛についていようとも。
あの、リュウの傍迷惑な召集のお蔭でアサギの命は危険な状態に曝されているのだ。
アサギは、魔族ではない人間だ。
ハイとて人間だが自分は2星ハンニバルにて悪霊を統治し、破壊と虐殺を行い、魔物を従え破滅の象徴として君臨したわけだが。
絶対的な権力、そして他を畏怖の念に陥れる威圧感。
だからこそ、人間でありながら魔族達と肩を並べてこうして優雅に暮らしているのである。
魔王であるから。
人間でありながら、魔王なのだから。
しかし、アサギは。
アサギは勇者だ、人間であり、更に勇者だ。
ここは魔界、魔族の住まう土地、勇者とは敵対関係にある場所である。
命を狙われないほうが、おかしいというものだ。
そもそもハイとてほんの数週間前は勇者を探し出して、抹殺するつもりだったのだから。
狼の群れの中に放たれた、生まれたての子羊のごとく。
餓えたライオンの折の中に投げ込まれた、ウサギのごとく。
勇者といえども、まさかそんな魔族達を相手に一人で立ち回りが出来るとは思えない。
気分が億劫なまま、ハイは再び叩かれたドアに怪訝に目を向ける。
まぁ、現時点で何者かがアサギを狙ってきたのであるならば自分が返り討ちに出来るのだが。
ただ、アサギを起したくないだけである。
魔王なのだから、どんな相手が来ようとも、退けられる自身は当然ある。
ともかく、深い溜息を一つ、ハイはようやくドアを多少開いた。
ドアから、強烈なランプの光が差し込んできた、瞳に痛い。
思わず瞳を瞑りかけたが、敵だとすると非常に危険だ、ハイは必死に瞼を開いて相手を見る。

「リュウか」

予定通りの顔だが。
その後ろに、アレクも控えていたのでハイはドアを半分ほど開いた。
ランプの明かりで、アサギが起きてしまわない様に、という配慮である。

「ハイ。・・・落ち着いたようだな」

アレクの柔らかな声に、素直にハイは頷く。
リュウも微笑んだ、何時ものような悪巧みの厭らしい笑いではなく、純粋に穏やかに。
しー、と指先を口元に当てて、アサギを見つめながら語る。

「あのね、ハイ。アサギちゃんは何も食べずに、ずっとハイの傍に居てくれたのだー。食事に誘ったんだけど、ここにいる、って。私たちはさ、先に少し食べさせてもらったのだ」
「なんと、アサギが・・・」

申し訳なさそうに顔を歪めて振り返ったハイ、アサギは寝息を立てて眠っている。

「ごめんなのだ、ちょっと調子に乗りすぎたのだー。謝る」

と、頭を下げようとしたリュウを、ハイが制する。
代わりにハイが、深々と頭を二人に下げた。
そのハイの態度に、微かにアレクは眉を潜めて驚愕の瞳でハイを見たが、一瞬だ。
再びそんな素振りなど見せぬように、ハイを見つめている。

「いや・・・。私も悪い。アサギに恐れずに説明すべきだったんだ。・・・あの子は、しっかりと私を待っていてくれたのに、な。嫌われてしまったのではないかと、疑心難儀に捕らわれていた」

リュウとアレクは顔を見合わせ互いに頷き、小さく笑うとハイの背を叩く。

「食事、作らせておいたよ。夜更けだけど何か腹には入れたほうが良いと思ったのだ。アサギも起してあげてよ、皆で庭で待ってるから」

しっかり、なのだー。
耳元でそう付け加えて、リュウとアレクは静かに去っていく。
残らなかったのは、ハイへの配慮。
二人きりのほうが説明もしやすかろう、というところか。
ハイは頷き、二人を見送ると手馴れた動作で自室のランプに灯りを、息を大きく飲み込んでからやや躊躇してアサギを揺さ振る。
光で目が痛いといけないので、ランプは離れた場所へと。
熟睡しているのに起すのも可哀想な気がしたが、今ならば今日の魔族会議でのこと、そして先程の自分の態度を素直に謝罪し、説明出来そうだった。
明日には、その勇気がなくなってしまいそうな気がして。
やがて、ゆっくりと眠たそうにアサギは瞳を開いた。

「ハイ・・・さ、ま?」

寝ぼけ眼で、瞳をこすりながら、アサギは静かに伸びをして起き上がる。

「あぁ、そうだよ。おはよう」

小さく、頭を撫でながらそう告げたハイ、声は柔らかだ。
安心したようにアサギは、ようやく会話が出来た事に喜び、嬉しそうにハイの胸にもたれて再び目を閉じた。
頭を撫でながら、ハイは静かに、それでいて晴れ渡った空の澄み切った様な明るい声で語る。

「心配を、かけてしまったな・・・」

その言葉だけで、アサギには十分だった。
瞳を開けて、見上げて笑うと謝罪しようとしたハイの唇を、そっと指で押さえるアサギ。
驚いて微かに赤面したハイに、くすくす、とアサギは明るく笑うとお腹を擦った。
稀に、突如として色香のある仕草をする子だ、とハイは思わず跳ね上がった胸を紛らわすように慌てて言葉を発する。

「行こうか、リュウとアレクが食事を用意してくれたそうだよ」
「私、お腹ぺこぺこです!」

くすぐったそうに笑う二人、空気の入れ替えで開いた窓から風が吹きぬけ、雲隠れしていた月が顔を出し、部屋にも光を届ける。
夏の星座も夜の空に、燦然と輝いていた。
庭への階段を下りながら、ハイは心地良い空気の中に混じっている胡蝶蘭の香りを嗅いでいる。
恐ろしいほどの、至福の時。
やがて、庭には簡易だが立派なパーティ会場が設置されており、目に入った瞬間にアサギは歓声を上げてハイの手を引いて走り出す。
庭の大きな木に、丸い虹色の光が幾つも幾つも瞬いており、純白のテーブルクロスの上には水に浮かべた蝋燭と共に食事が並べられていた。
リュウにアレクが手を振っている、そして。

「初めまして、アサギ様」

見慣れない魔族四人がいたので、アサギは微かに戸惑ったが慌てて礼をする。
スリザ、アイセル、ホーチミン、サイゴン。
この四人だった、人は多いほうがよいだろうと、リュウがアレクに選抜してもらい、この四人を叩き起こしたのである。
熟睡していた四人だが、不思議と不機嫌さは生まれて来なかった、魔王直々の命令でもあり、何より興味の対象の勇者のアサギに会えるのだから当然か。
すらり、とした女性が一歩前に出て、会釈をする。
凛々しい女性、軽快な短髪の黒髪が良く似合う美女である。

「私はスリザと申します。一応このような女の身ではありますが、魔族の隊長として、アレク様にお仕えしております。宜しくお願い致します」

濃紺の長髪に、緑の肌、漆黒の瞳の長身の男が次にアサギの前に出る。

「俺はサイゴンと申します。スリザ隊長の部下として、アレク様にお仕えしております。剣士です、ご用命があれば、なんなりと」

見事な金髪、碧眼で長身、何処かのスーパーモデルのような美女が穏やかに微笑んで会釈をする。

「私は、ホーチミンです。魔術師なの、宜しくお願いしますね」

そして、魔族会議で視線が交差した黄緑の肩までの髪に、額に角を象った飾りをつけた濃緑の青年だ。

「アイセルと申します。武術師です、サイゴンとは親友です。宜しくお願いします」

二人の視線が交差した、アサギは不思議そうにアイセルを見ていたが、アイセルは急に引き攣った笑みを浮かべると地面に平伏してしまう。
驚いた周囲、アイセルはがはは、と豪快に笑いながら頭を掻いて起き上がった。

「いやーすいません、丁寧な言葉は苦手でしてー。何より、あまりの美しさに身体がついつい反応を。思わず平伏してしまいました」
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兄貴出た(爆笑
アイセルも結構好きなキャラかもしれん

やはりこのあたりの話が好きだな…
トビィの後ろ 2009/04/17(Fri)10:40:54 編集
次が外伝4になるので
トモハルには申し訳ないけれど、もう少し待っててもらうのですよ。

私もこの辺りの話が好きー、好きー、魔族達、好きー。
一章だけだよね、アサギの平穏って(悲惨)。
まこ 2009/04/17(Fri)14:03:19 編集
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