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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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Image620.jpg
アサギ編、開始。
お帰り、主人公。
さて・・・。


自分を追い込んで仕上げる計画。

ここまで進めたいところです。
イラストは、お友達ちゃん。
凄く上手で綺麗で丁寧で憧れてますが、物凄く私より年下な子で。
DESのカップル達を気に入ってくれて、こうして絵を描いてくれたのです♪

誰かというと、そろそろ出てくる・・・出てたかな・・・。

マビルの兄のアイセルと、スリザなんですが。
DESTINYをドイツ語で描くとそうなるのだそうで。
いつ見てもかっこいいなぁ・・・。

彼女が描くと、いやーんなシーンも綺麗になるので、憧れです。
いいなぁ・・・。

小説は、まだですが(FCイベが終わるまで手につかない予感)。

案内された浴室で、一人入浴したアサギは用意されていたシルクのネグリジェにローブを羽織り、待遇にうろたえ廊下を歩いて部屋に戻ってきた。

「ここは魔界・・・で、さっきのは魔王様・・・だよね? 確か」

ベッドに腰掛け、髪をタオルで拭きながら口に出して脳内を整理整頓してみる。
カーテンを閉めてみれば、ふと眼下に広がる闇。
月は先程まで顔を出していた、が、今は雲に光を遮断され。
不意に窓が揺れた、風の仕業だろうが外で奇怪な声が響いているようで。
背後で物音がした・・・気がして、アサギは思わず振り返るが別に何もいない。
脈打つ心臓、背筋の冷ややかさ。
静まり返る部屋が不気味で、微かな物音さえも過敏になって。
例えば遠方の従兄弟の家に泊まりに行って一人部屋で、眠るときのような。
誰もいない自宅の自室で、夜中留守番しているような。
一人きりの教室で、薄暗く校庭から声が聞こえてこない時のような。
ゾクリ、思わず自身の肩を抱き締める。
広すぎる部屋が更に巨大に見えた、外から何者かが覗いているような気がした。
一人。
暗闇に、一人。
見知らぬ土地に、一人。
異界に飛ばされても、傍らには常に親友が、友達が、好きな人が、仲間が・・・居た。
宿で眠るときも、馬車で眠るときも、皆が居てくれた。
だが、この場所は。
・・・誰も居ない。
震える身体、顔は青褪め、吐く息は途切れ途切れに。

「ハイ様、リュウ様っ」

アサギは、慌ててドアを探すと足をもつらせながら必死でそちらへ向かう。
廊下に出てみれば誰かが居るに違いない、そう願いながら。

一方、先程失神していたハイは勢い良く起き上がると自室の枕を一つ持ち出し、駆け足でアサギの部屋に向かっている。
寝着に着替えて、笑みを浮かべて。
向かう先は当然アサギの部屋だった、姿を見れば解るだろうハイは共に眠るつもりだった。
疚しい考えなど、ない。
純粋に、ただアサギの傍に居たいだけである。

「何処へ行くのだハイ? 枕なんか持ち出して・・・まさかアサギの部屋に行くわけじゃない・・・のだ? はははははー」

都合よく前方からやってきたリュウ、擦れ違い座間にハイに「おやすみー」と挨拶して行く。
白地に苺模様の寝着に帽子、成人男性が着用するとは思えない、というか魔王が着用するとは思えないデザインであるがリュウの一番のお気に入りである。
皆最初観た時は度肝を抜かれたが、一週間後には、慣れた。
欠伸をしながらリュウは片手を振る、「いくらなんでもハイにそこまでの度胸があるわけないのだー」と笑いながら通り過ぎれば。

「何を言うんだ、そうに決まっているだろう」

大真面目にハイは立ち止まりリュウを振り返ると、はっきりと断言。
はははー・・・と笑っていたリュウの声が、裏返る。
まるで瞬間移動、流石魔王というべきか俊敏すぎる動きだった、リュウはハイの目の前に立ちはだかると勢い良く掴みかかって身体を揺する。

「な、なんだってー!? 生涯童・・・げふんげふん、伏字伏字っ・・・貞だと思っていた、あのハイが! あんな年端もいかない人形のような幼子を!? あーしてこーして、あっはんうっふん、あああああああぁ、ご無体なっ、的なー!? ふ、普通の男だったのだー!?」

伏字になっていない、魔王的発言。
慌てふためくリュウを他所に、眉を顰めてハイは憮然としていた。
腕を跳ね除け、襟元を直すと枕片手に仁王立ち。

「意味がわからん。私がアサギと眠ろうが、リュウには関係ないだろう。何をそんなに・・・」
「普通、うら若き娘は・・・男と寝るのを躊躇すると思うのだが。・・・何しろ相手がハイだしぃー」

ほぼ初対面の、二倍以上の歳の、魔王。
・・・流石に一般的に考えて一緒に眠る娘は少ないだろう、多分。
意味ありげに語尾を伸ばされ、ハイは思わず顔に陰りを見せた。

「そ、そうなのか!? ・・・添い寝してもらうと、暖かいではないか。私もよく犬や猫や狸や狐を寝所に招きいれたものだ」

わぁ、獣。
リュウは思わずビシィ、とハイに突っ込みを入れたがそれどころではない。

「んー、多分数分後には『きゃあ、何するんですか、ハイ様っ。不潔、変態、あっち行ってっ』で終わりなのだ。さようなら、ハイ。短い恋を有難う」
「誰が変態で不潔なんだ。相変わらず失礼な奴だな・・・ともかく私はアサギと寝てくる」
「わぁ、もうなんていうか」

ハイはリュウを押し退け、疾風の如くアサギの部屋の前まで辿り着くと激しくドアを強打。
廊下中に響き渡るくらいだ、室内は更に五月蠅そうだ。
忠告してあげたのにー、どうなっても知らないのだー。
リュウは満面の笑みでそう言いながら、ハイの後方に立ち壁にもたれて様子を窺っている。
楽しいのだ、心底。
これでハイがアサギに殴られても、非常に愉快。
この先一ヶ月はそれで過ごせそうだ、考えるだけでワクワクが止まらない。

「アサギ、私だ! ドアを開けてくれ!」

ドアに耳を寄せ、そこまでしなくてもいいのにー、とヤジを飛ばすリュウを無視し、必死なハイ。
中から弱々しい泣き声が聞こえてきた・・・ので、有無を言わさずハイはドアを渾身の力で蹴り飛ばし(別に鍵は掛かってなかったので開いたのだが)部屋に転がり込む。

「どうしたぁ! 私の大事なアサギ! 誰に虐められたんだ、殺してくるから名前を言いなさい!!」

ハイって、思った以上に力があったんだねぇ・・・感心してぱちぱち、と気の抜けた拍手を送るリュウも、堂々と部屋に悠々と進入。
カッとこれでもか、というくらいに目を見開き猛ダッシュで床に座り込んでいるアサギの元へと。

「何があった!?」

もう少し感情の抑制が出来ないものか、と隣へ歩いてきたリュウは思いつつアサギの背中をさすっているハイを見る。
勢いで力任せに抱きしめ、よしよし、と頭を撫でるハイ。
態度が、捨て猫か捨て犬を拾って初めて接する人間のようなのだよ、ハイ・・・と思いつつ口に出さないリュウ。
身体を強すぎる力に圧迫されているが、身をよじって辛うじて声を発するアサギ。
苦しいので、手短に。
だが、それは省略し過ぎた。

「一緒に、寝て欲しいんですけど」

と、アサギ。
涙で瞳を潤ませつつ(苦しいから)、微かに頬を赤く染め(先程まで泣いていたから)、上目遣い(ハイが上にいるから当然)で。
正確には『見知らぬ土地で一人きり、ここは魔界で怖いので。眠れません、出来れば知っている人に一緒に居て欲しいんですけど』・・・である。
リュウは呆然と口を大きく広げて、だらりん、と前のめりに。
ハイは思いが同じだった、と感極まりない程の笑みを浮かべて更にアサギを抱きしめる。

「だ、大胆な娘なのだ・・・。や、まさかハイを女だと思って? ・・・や、けっこうガタイは良いし。・・・あれなのだ、最近の娘はそんな感じ?」

予期に反したアサギの反応、リュウはそれでも新たなフラグを立て直す。
・・・自主規制。

「そうだったのか、アサギ! 来るのが遅れてすまなかった、泣かせたのは私だったのだな」

ぼぐっ!

自分の頬を手加減無用で殴りつけ、それでも満面の笑みでアサギを覗き込むハイ。

「わぁ、きもいのだ」
「ハイ様!?」

リュウも流石にドン引きし、数歩後退。
アサギも身体を仰け反らせて痛そうにハイを見つめる、今のが何なのかさっぱり解らない。

「大丈夫、そのつもりで来たからな。さぁ寝よう、すぐ寝よう! もう疲れただろう、ゆっくりおやすみ。
リュウよ、さらば! ドアはしっかり閉めていくように」
「やー、ドアは破壊されてるのだー、閉め様子がないのだー」

上機嫌で、夢心地。
弾みながら優しくアサギをベッドに寝かすと、隣に自身の枕を置いて満足そうに小さく頷く。
するりん、と違和感無く隣に入り込むと、手だけ振ってリュウを追い払う。
むくり、とアサギは上半身だけ起こすと、立ちつくしているリュウに照れ笑いを。

「よかった、ハイ様が居てくれて。リュウ様も、おやすみなさい」
「え、えぇあぁ、うん・・・」

にこ、と朗らかに微笑むとぱたり、とベッドに倒れ込んで瞳を閉じる。
ハイの横で安らかに眠りすぎるアサギは、安心したのかものの数分で寝息を立て始めた。

「寝るの、はやっ!」
「まだ居たのか・・・。灯りも消していってくれな」

ハイに言われるがままに虚ろな瞳で頷くと、壊れたドアを踏みつけて廊下へと。
仕方ないので廊下のカーテンを引きちぎり、適当に部屋を覆い隠すようにドア代わりに。
一息。

「よーし、よく分からないけど、なんか魔王と勇者が一つのべべべべべっどに。初対面で」

状況把握、間違ってはいない。
深呼吸を、五回。
猛スピードでリュウは廊下を駆け抜けると、ある一つの部屋を目指した。
これは大事件である、もう面倒だから結婚してしまえばいいのにー、と思いつつ。

「おやすみなさいませ」

疾走するリュウと遭遇した魔族達が次々に声をかける、大きく手を振って挨拶しつつ、階段を上って角を曲がると二人の魔族が夜中だというのに掃除していた。

「明日は忙しくなるから、早く寝ておくのだ!」
「はぁ」

嬉しそうににこにこと愛想良く、豪快に笑いながら疾走するリュウ。
相変わらず元気で忙しい方だなぁ、と軽い溜息と共に感心。
掃除をきっちりと済ませて、二人は道具を片づけながら互いに頷いて大浴場へと。
城に住んでいる掃除担当の召使いだ、主に夜中に掃除し、朝魔王達が不快な思いをしないように働いている。

「あのリュウ様の表情・・・悪知恵を働かせた後の」
「しっ! 思っていても口にするな」

思えば。
リュウ様の悪戯のお陰でしなくても良い掃除をする羽目になったものだ、と過去を懐かしむ。

「黙っていれば、普通の魔王様なんだがな」
「口を開くと、なぁ・・・」
「あと、寝間着の趣味が・・・」
「無類の苺中毒者なのも・・・」

黙って無くとも、普通の魔王ではなさそうだが。

そんなリュウは、ようやく目指していた場所に到着。
4星クレオ、魔王アレクの部屋である。
こんこん、と一応ノックをし、ドアの両側に立っている警備達に軽く挨拶をし、返事を待たずに部屋へと足を踏み入れる。
中では静かに、窓辺に立っているアレク。
意外な来訪者に軽く目を開いたが、更に目を開くことに。

「明日。急で申し訳ないけど、魔族達に召集かけて欲しいのだ」
「明日? まぁ、伝令を飛ばせば何人かは可能だが、午後ならば。随分性急だが、何かあったのか?」
「うん、アサギが来たのだよ」
「アサギ?」
「クレオの女勇者ちゃんだよ、小さくて、可愛いのだ。ハイと一緒に今寝てるのだー、懐いてるみたい。折角だし、結婚させちゃおうかと思って」
「・・・そうなのか」
「うん、よろしくーなのだ」

にこり、と微笑んでそのまま豪快にドアを閉めて出ていくリュウ。
当たり障りのない返事しかしていない魔王アレクは、その消えた魔王リュウの姿を思い出しながら廊下に響いている彼の笑い声を聴きつつ。
蝋燭の灯を、指で消していきながらぶつぶつ、と小声で呟いた。

「勇者・・・」

来ていたのは当然知っている、アレクとて待っていた存在だ。
まさか、別の魔王が連れてくるとは思ってもみなかったが。
月の明かりだけの部屋で、アレクはベッドに入らず椅子に深く腰掛けると頭を抱えて唇を噛む。
暫し、震えていた。
様々な思案が、糸になり複雑に絡まり、解けない。

「会わなければ。会って私達の願いを聞いて貰わねば・・・。
ナスタチューム、ついに・・・勇者が来てしまったよ」

魔王アレクは、明け方までそこで頭を抱えていた。
魔王リュウからの願いはともかく、今後自分が”どうすべきか”を思案して。

さて、魔王ハイと勇者アサギ。
ドアがないその部屋で、月の微かな灯りに照らされているアサギの寝顔を飽きもせずに見つめていたハイ。
かれこれ、数時間経過。
月の位置が次第に変わるが、指で頬に触れてみたり、髪を撫でてみたり。

「かわいいー」

27歳の男と、12歳の少女、の図。
でれでれ、と鼻の下を伸ばしている男だ、警察に見つかったらその場でお縄だろう。
そんな世界ではないので、よかったと思う。
うっすらと笑みを浮かべているように見えるアサギのその寝顔に、吸い込まれるように魅入っていた。
それゆえに、ハイが気づいた時にはすでに月は消え、目映いばかりの太陽が顔を覗かせていたのである。
月の仄かな幻想的な明かりから、太陽の眩しい熱い陽射しへと、明かりが変わった頃になってようやくハイはアサギから視線を外した。

「なんと!? 朝!?」

血の気が引く、というのも、すでに予定が入っており体力を使う。
眠っておかねば魔王といえど、本来は人間であるから体調不良を起しかねない。

「今日はアサギと森へ出掛けるのだから・・・、相当足腰にきそうだ」

アサギの隣で布団を被ったハイ、隣で未だに眠っているアサギに、戸惑い気味に近づくと髪に口付けを。
名残惜しそうに見つめ、瞳を軽く閉じ、数秒でまた開いて見つめて、閉じる・・・。
こうしている間にも時間は過ぎていくが、ハイにとって至福の時だった。
何故か、アサギが隣に居るだけで気分が落ち着くのが不思議だ。
鼻に刺激を感じる程の強い花の香りではなく、ほんの僅かに、動くときにだけ香る、甘く爽やかな花の香りが始終している気がして。
勇者だとか、そういうことは頭から外し。

「アサギ」

名前を呼んでみる、軽く身を起し、顔を覗きこむとハイは再び名を呼んだ。
当然返事はない、小さく笑うとハイは再び布団を被って瞳を閉じると、そっと深呼吸。
胸が、甘酸っぱい香りで満たされる、時折締め付けられるような感覚、だがそれが心地良い。

「不思議な、娘だな・・・」

今まで出遭った誰とも違う、不可思議な娘。
瞳に姿を入れただけで、傍にいるだけで心が何かを急かすように。
ハイは、静かに寝息を立て始めた、窓から入り込んだ朝日が二人の顔を照らす。

『来た、のか・・・』

もし、室内に起きている誰かが居たのならば、その声を聴いた。
が、生憎アサギもハイも眠っていたので、気づかなかった。

『ここは。・・・思いの外心地良い』

声は、誰に、というわけでもなく一人で呟き、微かに喜んでいるような、いや、悲しんでいるような。
諦めにも似た、悲痛そうな声で二言だけ音を発すると、そのまま沈黙をする。
それから、一時間ほど。
外からは鳥の羽音に囀り、高く昇り始めた太陽の光で、アサギは軽く瞬きをしながら瞳を開いた。
何度も瞬き、見たこともない高い天井、豪華なシャンデリア、美しい壁紙・・・数分後にようやく頭が回転を始めたのでここが何処か、思い出す。
魔界だ。
魔界の自分の部屋、だと説明された客室だ。
右手を軽く額に当てて、数分ベッドの中で思案。
隣が暖かいので、首を動かして見ればハイが眠っている。
驚かずに、じっと寝顔を見ていたアサギはようやく昨夜の事を思い出した。
一人きりが怖かったので、助けを求めた・・・筈である。
アサギはベッドの中で大きく身体を伸ばす、腕を、脚を、思い切り伸ばして大きく深呼吸。
起さないように、そっと脚からベッドから這い出して、立ち上がって、再び伸びを。
窓辺に小鳥が二羽来ていたので、小首傾げて「おはよう」と呟けば、お礼に可愛らしい囀りが戻ってきた。
部屋を見渡す、テーブルの上に水差しがあったので、喉も渇いたことだしコップになみなみと水を注ぐ。
地球に居た時は、毎朝母が取り寄せてくれている水をコップ一杯必ず飲んでいた。
飲み干しながら、地球に戻った気がして思わず嬉しくなる。
部屋を歩き回る、大きなクローゼットの前で腕を組んで仁王立ちになりながら、数分後には遠慮がちにそれを開いてみた。
昨日も確認したが、やはりそこには大量の服が所狭しと並んでいる。
目に付いたものを一つ、手に取った。
全身鏡に当てて満足そうに頷くと、アサギはそーっと着ていた寝巻きを脱ぎ、ベッドで眠っているハイから目を離さずに服を着替える。
途中で起きられると、非常に困る。
淡い水色のワンピースだ、一回転してサイズを確かめるが、成程完璧な程合っていた。
一体どうやって揃えたのかが疑問だが、深く考えない。
アサギは部屋の片隅の洗面所で顔を洗う、冷たかったので一瞬手を引っ込めたが、慣れれば心地良い。
そして目も冴え渡る、タオルで拭きながらアサギはうろうろと部屋を徘徊。
・・・何をすればいいのかが、わからない。

「アサギー。入るよー」
「え、あ、は、はいっ」

気を抜いていたので突然声をかけられ飛び上がる勢いで驚いたアサギ、布をめくってリュウが入ってきた。
後ろにワゴンを押してきたメイド数人、空腹にずしん、と響くパンの香ばしい香りが鼻につく。

「おはよう、アサギ。朝食、一緒に食べようと思って。ハイは・・・寝てるのだ?」
「おはようございます。ハイ様は、寝てらっしゃいます」

アサギに問わずとも知っていた、部屋に姿がないが、ベッドに膨らみがあるので呆れた溜息を吐くリュウ。
すっかり身支度を整えているリュウは、ソファに堂々と腰掛けると軽く顎でメイドに指示、テーブルに料理を並べさせる。
小声で、冗談めかして呟いたリュウ。

「何、昨晩はそんなに頑張ったの?」
「ふぇ?」
「やー、なんでもないのだ」

そんなわけ、ないか。
リュウはそう付け加えて、何をしたら良いのか右往左往しているアサギを見ていた。

「まぁ、寝顔を一晩中見ていた、というオチなんだろーなー」

正解である。
手伝おうとしているアサギを呼びつけ、自分の隣に座らせるとメイド達の動きが止まるまで、暫しアサギと会話。

「よく、眠れた?」
「あ、はい。とても」
「ならよかったのだー」

にっこり、微笑むリュウに釣られてアサギも思わず微笑み返し。
やがて全ての料理がテーブルに並ぶと、部屋から出て行ったメイド達を目で追い、徐にアサギに手を差し伸べて立ち上がる。

「アサギ、お腹空いたのだ。ハイを起して食べるのだ。起してみて」
「熟睡してらっしゃるようなので、申し訳ないのですが」
「やー、多分勝手に朝食を食べたほうが後々憤慨しそうだし、多分アサギが起せばすぐ起きるから」
「ん、一人で食べるよりもみんなで食べたほうが美味しいですものね・・・。起してみます」

戸惑いがちに近づいたが、とりあえず身体を揺すってアサギはハイを起してみる事にした。
リュウはテーブルに移動、着席してパンの一つを手に取り、齧りながら様子を観察。

「ハイ様、朝です」

軽く、揺さ振ってみた。
瞬間、ハイの瞳がぱっちりと、というか、大きく見開かれ。
ばねのように上半身を垂直に起すと、爽やか過ぎる笑顔でアサギに微笑んだ。

「おはよう、アサギ。よく眠れたかな?」
「あ、はい。おはようございます」

目覚め、爽快。
二つ目のパンを齧りながら、リュウは単純すぎるハイの行動に必死に笑いを押し殺していた。
ハイだけ寝巻きで、朝食を摂る。
焼きたてのパンはクロワッサンにバターロール、手作りの夏みかんのジャムをつけて戴く。
ベーコンにトロトロのオムレツ、瑞々しいサラダに、ポテトのポタージュスープ、フルーツの盛り合わせ。
飲み物は濃いミルクだ、静かに食べている二人の魔王を見比べながらアサギは首を傾げた。
・・・一体、何をやっているんだろう。
ようやく、勇者は我に返った、というか考える余裕が出てきたのだ。
全てがとても美味しいので、アサギも疑問に思いつつ綺麗に食べたのだが、何故魔王と朝食を摂っているのか。

「今更だが、何故お前がここにいるんだ」

眉を潜めて苺を平らげているリュウを横目で見ながらも、ハイは一生懸命食べているアサギに満足そうに食後のコーヒーを。
普段、ここまで朝食を摂らないハイだが、今日はやたらと食べてしまったのは・・・。
気分が良いからだろう。

「朝食を運んできたのだー、そんなあからさまに嫌そうな顔しないで欲しいのだ」
「手配だけしてくれればいいだろう、同席を許した記憶はない」
「連れないのだー・・・」

仲が良いのか悪いのか、紅茶を飲みながらアサギは交互に二人の魔王を見比べていた。
まったりと、各々に食後の一服中。
リュウは上機嫌でハイを、見て、アサギを見て、またハイを見て。
にんまり、と厭らしすぎる笑みを浮かべてこほん、と咳を一つ。
自分を観た二人に大きく頷くとハイを見て、にっこり。

「気味悪いな、なんだ」

思わず背筋が凍りつく、リュウが始終笑みを浮かべている時には『ロクな事が起こらない』。
・・・何だ、一体。アサギに手を出したら承知しないからな・・・
目で訴えたハイ、知ってか知らずかリュウはそ知らぬ顔して涼しげにさらり、と。

「今日は、午後から魔族会議があるのだ。出席してもらうよ、ハイ」
「聞いてないぞ、急すぎる。欠席だ、そんなもの」

ハイの顔が誰の目から見ても不機嫌そのもの、仏頂面のハイならば魔王と呼ばれてもおかしくはない雰囲気。
その表情を作っている原因は、少し置いておいて。
コーヒーを自棄気味で喉の奥に流し込みながら、ハイは断固として拒否する姿勢である。

「今日はアサギと森へ出掛けるんだ、もう、決めた」

そっぽを向きながら、ハイは両手で耳を塞ぐ。
アサギは首を軽く傾げ、『魔族会議』という単語に非常に興味を持っていた。
文字通り、魔族達の会議なのだろうが・・・何を話すのだろうか。
見てみたい、と率直な思いである。
だが、自分は魔族どころか勇者だ、見せてもらえないだろう。
内容は自分の事かもしれないし、仲間達の事かもしれない、気になって仕方がない。
ハイが会議の間、何処に居ればいいのかふと、不安になったアサギ。
もじもじ、と身体を左右に揺らしながら、何か言いたげにしているアサギに、ハイもリュウも気づく。

「リュウ、その間アサギが一人になる。私は欠席だ。
そもそも、毎回その会議は私には全く関係がないだろう・・・。いつもくだない話ばかりだ、給料の件や物価やら、昇給やら、設備投資等。この星の住人でもないのに、よくお前はその会議に毎回出席しているな?」

ハイ的、アサギの気遣い。
微笑し、アサギに軽く頷いたハイを見て、リュウはますます意地悪く笑みを浮かべる。
おどおど、と微笑んだアサギだがハイの台詞に些か疑問を。
・・・アサギが想像していた会議の内容ではなさそうだ、やはり魔族であろうとも給料等が気になるらしい。
想像では、無音で、仄暗い蝋燭が煌く部屋に集まった魔族達がてっきり人間への侵攻を話しているような。
まぁ、そんな魔族なら今頃アサギは殺害されているだろうから、違うのだろう。
首を傾げるアサギ、そもそも、勇者として呼ばれた意味があるのかないのか。
魔王二人にこうして朝食を摂らせて貰っている、一応”勇者”。
考え出したら意味が解らない、本当に魔族に人間は苦しめられているのだろうか。

「アサギは一人にならないのだ。アサギも見ると良いよ、席も用意するから。興味あるだろ? どう、アサギ」
「え? えぇ?」

上の空だったアサギ、戸惑いを隠せず思わず上ずった声を出す。
勇者に内容を見せるということは、本当に自分達とは無関係の会議なのだろう。
アサギはそう解釈、とりあえず興味はあるので軽く首を立てに振る。

「えと・・・。見させていただけるのなら、是非」
「うん、そうすると良いのだ。アサギが出席なら、ハイも当然出席だしー」

満足そうに大きく伸びをしながら、リュウはアサギに満面の笑みを。
アサギが見たい、というのならばと渋々ハイも了解をする、というか、しざるを得ない。
呆然と思案中のアサギと、軽く青筋立てて睨んできているハイを、愉快そうにリュウは笑って見ていた。

「というわけで。もーしわけないけど出掛けるのは明日にして欲しいのだ」
「・・・だな、森へ行くには半日では無理だ」

不貞腐れて、最後のコーヒーを流し込んだハイは口元を拭きながら軽く首を回している。
寝不足気味なので、体調が思わしくないから明日のほうが都合が良い、とも思うが。
納得したハイと、首を傾げて何やらずっと考え込んでいるアサギ、椅子から立ち上がったリュウは軽く指を鳴らした。
二人の視線を集めたところで、両手を大袈裟に掲げてその場で一回転。

「いっつあしょーぅたーいむっ!」
「!」
「!?」

リュウの声に、布を押し退けてどやどやと数人が部屋に雪崩れ込んできた。
その数、七名。
アサギと同じ位の歳頃の少年やら、中年の男性やら、年齢も性別も様々だ。

「な、何だ貴様ら!?」

慌てるハイと、唖然と見ていたアサギ。
七人は何やらがらがらと引っ張ってきている、どうもアサギが見るからに移動式の試着室のようだが。

「我ら!」
「リュウ様七人衆!」

びしぃっ!
意味不明なポージング、中央にいそいそと歩いていったリュウが揃えば完璧。
思わず戦隊モノのノリに拍手したアサギと、脱力感丸出しで項垂れたハイを他所に、愉快そうにリュウは再び指を鳴らした。
手品の如く、アサギの前に大きな箱が置かれる。
リュウのどんな我侭かつ無謀な要求に応えられる様に、日々訓練されている無駄な俊敏さの賜物だ。

「直感で決めたのだ。見立てに狂いはないと思うのだ」

パチン、再び指が鳴る。
部屋から出て行くリュウと擦れ違い、女性三人が狼狽するアサギを取り囲む。

「失礼致します」
「え? え?」

ワンピースに手をかける女性、ハイが怒涛の勢いで止めさせるべく立ち上がる。

「あぁっ、何してんだ貴様らぁっ!」

激怒、顔を真っ赤にしてアサギを救出すべく進むハイを、残りの四人が懸命に必死の形相で押さえ込み部屋の外へ連れ出す。
絨毯に跡をつけながら、引き摺られていくハイ。
無残にも部屋の外へと連れ出されたハイは、仕方なしにというか、無謀にも魔法の詠唱を開始した。
両腕から電撃が迸る、流石に顔を引き攣らせ喉の奥で悲鳴を上げるリュウ七人衆の四人だが、余裕の笑みでリュウがハイの前に立ちはだかる。

「心配しなくていいのだ、きっとアサギもハイも喜ぶのだ」

爽やかな笑顔、そして声。
しかし。

「ええいぃ、やかまし、ゴフゥ!」

暴れるハイの鳩尾に、目にもとまらぬ速さで二、三度拳を叩き込んだリュウ。
憂いを帯びた表情で、困ったように天井を見上げながら芝居めいた口調を。

「やだなぁ、大人しくしてれば痛い目合わずに済んだのだー。物理的には私のほうが断然力も上、ともかく悪いようにはしないから、見ててよ」

溜息を一つ、そして笑顔のリュウ。
ハイは苦し紛れに悲鳴を上げた、アサギの名を呼んだ、廊下に響き渡った声。
数分後。
部屋からは騒がしく走り回る音がしていたが、それが急に止まり、徐にカーテンが開かれる。
部屋から出て来た女性三人は跪くと優雅に頭を垂れて、微笑していた。
苦痛の表情、脂汗を額に浮かべて部屋を見たハイ、悪戯っぽい目つきで、子供のように胸を躍らせリュウも部屋を見た。

「・・・えーっと」

髪に、大きな純白の花を。
可憐な花柄の光沢のある薄紫の生地をベースに、幾重にもレースが重なったセミロングのドレスを着用したアサギが、照れながら出てきた。
見た瞬間、歓喜の雄叫びを上げるハイ。
勝ち誇ったようにピースサインのリュウは、拍手でアサギを出迎えた。

「はははのはーっ、どぉだぁ、ハイ。私の見立ては」
「見事だ、リュウ! 素晴らしい、素晴らしいぞぉっ! お前、イイ奴だったんだな・・・。美しすぎて眩暈が」

先程の苦悶の表情など何処へやら、羽交い絞めにされていた身体を解放されて、ハイは一目散にアサギに駆け寄る。
髪を撫でながら、困惑して赤面して、おろおろとしているアサギにそっと、耳打ちを。

「とても似合う。先程の服も良いがこうした正装もとても、良い」
「えと、ありがとうございま・・・す」

そんな二人を見ながらリュウも、満足そうに頷いてリュウ七人衆に労いの言葉を。

「では、会議にはその衣装で出席すること、なのだー。うん、私からも一言。『とても、似合っているよアサギ』」

思わず頷いたアサギ、しかし、何故会議にこのようなドレスで出席しなければならないのか。
アサギにドレスを着用させたリュウ、ここまでは完璧に自分の描いた予定通りの図である。
涙を流しながら、アサギを見つめているハイに失笑したリュウは、今後の計画を脳内再生。
ハイなど、目の前の美味し過ぎる光景に見とれて何故、アサギがドレスを着ているのか考えもしなかったのだが、何の計画もなしにリュウは無駄なことなどしない。
これは決してハイを喜ばせる為の衣装替えではないのだ、計画の一部なのである。
普段のハイならば疑うところだが、頭が現在廻らないので仕方なく。
去っていったリュウを見つつ、浮き足立っているハイの隣でアサギは。

「・・・魔王様方、よく解らない・・・」

当然の感想を、小さく呟いた。
しかし、このドレスは気に入ったらしい。

魔王二人と勇者が戯れている頃、城内の大広間には多くの魔族達が集まってきていた。
リュウがアレクに願いを伝えたその後、ドラゴンナイト達が魔界イヴァン全土を夜中から駆け巡り、午後からの召集を言い渡した。
各地に居る連絡用の魔術師に連絡を飛ばし、そこからも情報を流したのだが、あまりにも急すぎて多くの魔族達は当然何事か、と今も広間で憶測で会話中である。
魔王交代、魔王危篤・・・等、全くでっち上げの噂が溢れ放題だった。
それは、夏の始まりを身体で感じ始める季節のこと。
魔族達は自然の懐に抱かれるように、のんびりと過ごしていたのだ。
海辺の近くに住居を構えている者達は、打ち寄せてくる潮の波の音を聴きながら、うとうとと思わずハンモックで居眠りを。
森を住居にしている者達は、小鳥の囀りに耳を傾け日中の照り返る陽射しから木の葉で身を護り転寝を。
自然の雄大さを支配することなく、まるで身体の一部のように自然に身を任せて過ごす。
木漏れ日を浴びながら、森を歩いて。
青い草原を歩きながら、小動物と戯れ。
太陽と紺碧の空、波の白飛沫と藍色の海。
歌を歌い、静かで小さな自然の独り言に耳を傾け、語りかけ。
そうして過ごしていた、初夏。
魔族達が最も好きな季節だった、まだ夜中とて寝苦しくはない。
そんな中で緊急に告知された本日の会議に、緊張している者も少なくはなかったのだ。
溢れそうな程混み合ってきた大広間、次々と何事かと到着して来た魔族達で埋め尽くされる。
そんな中に、一際目立つ集団が居た。
魔族騎士団を取り締まる女隊長・スリザ。
その一番部隊隊長・サイゴン。
その幼馴染で男だが女にしか見えない宮廷魔術師・ホーチミン。
サイゴンの親友にて武術師・アイセル。
当然目立つ、脚光を浴びる。
この四人は平素も仲が良く、常に一緒と言っても過言ではない。
隊長であろうとも、席は用意されておらず広間の前方にて窮屈そうに四人は身を置いていた。
緊急すぎて、席が用意されなかったのだろう。
サイゴンは、腕を絡ませてくるホーチミンを露骨に嫌そうな顔で、なんとか振り払おうとしながらスリザを見た。

「一体何事だと思われますか、スリザ殿。この前の給料値上がりの件が、上手くいかなかったのでしょうか」

話しかけられ、口を開いたスリザだが、その整った凛々しい表情を固まらせる。
わなわなと身体を震わしながら、僅かな隙間しかないのに赤面しつつ強引に左足で強烈で俊敏な回し蹴りを放った。

「馬鹿者! 誰の許可を得て貴様は人に尻を触っておる!?」

怒鳴られたのは、アイセルだ。
華麗に避け、颯爽とポーズを決めたアイセルだがスリザの蹴りの犠牲者は無論無関係の魔族。
骨が折れる鈍い音が響いた、絶叫し倒れ込む魔族に、面倒そうにホーチミンが回復の魔法を。
慣れているので、気にしないらしい。

「やだなぁ、スリザちゃん。触られて減るものでもないし、むしろ喜びなよ。うん、形の良い俺好みの尻だった今日も」

何処から出したのか、アイセルは右手に薔薇を一輪、手にしている。
花弁を一つ咥えて、スリザに流し目を送るとアイセルはその薔薇を自分の胸元へと。

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