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・だから、トモハルはマビルにいっつも美味しいものを食べさせて、綺麗な服やアクセサリーを与えておりました。
・だから、ミノリはどうしてもアサギと上手く接する事が出来ませんでした「恐れ多くて」。
本編への、連動箇所。
つづく。
異例の若さで明らかに誰の目から見ても「工作があった」としか思えない二人の昇進ぶり、しかし追及するものはおらず。
二人の騎士は、二人の姫君にお目通りが叶った。
それはその日の昼食後、王子たちと庭でティータイム中に二人揃って姫君の前に跪く。
「マロー様、アイラ様。御時間取らせて申し訳御座いませんが、新しく護衛の任に着きました二人の騎士のご挨拶に参りました」
きょとん、とした顔で姫君達は顔を見合わせる。
マローは跪いている片方の騎士を見て、非常に嫌な予感がした。
嫌な、というか。
胸が一時跳ね上がった。
多分、知っている人物だ。
以前庭で勝手に腕を掴んできた、あの小汚い男だ。
「歳も近いです、なんなりと二人に申しつけくだされば良いかと」
「間に合っているわ、人手なら。もう下がってよくってよ」
何故か額に汗が浮かんだマローは、マスカットを摘んで口の中に入れると椅子から立ち上がる。
胸が。
・・・妙に騒ぐので落ち着けない。
じっとしていられなくて、ただ話を聞けば良いだけのはずだが・・・出来ない。
「マロー、駄目よ。話を聞きましょう、これから良くして下さる方たちですよ」
「ぅ・・・」
姉のアイラの軽い叱咤に、マローは不貞腐れて渋々椅子に戻る。
「・・・何処かお体でも悪いので?」
ベルガーの耳打ちに、マローは俯くと小声で「何でも」と呟いたが。
確かに・・・頬が熱い。
熱があるようで、動悸もしてきた。
「トモハラと申します。宜しくお願い致します」
「ミノリと申します。宜しくお願い致します」
腕を組み、平常心を保とうとしたのだが何故か、不可解だが出来ず。
どうしても、気になったのでトモハラをそっと、見てみた。
顔を上げたトモハラと視線が交差し、慌てて俯くマロー。
鼓動が速い、血液が逆流しているように頭がぼぉ、っとして。
何故か、手が震えた。
「宜しくお願いします」
椅子から立ち上がり、アイラはドレスを摘んで会釈をしたがマローは何もしなかった。
やがてその二人はこの庭から少し離れた場所で、警備の為配置。
始終、トモハラの視線を受け続けねばならないと知りマローは思わず小さな悲鳴を上げる。
何故かは解らないが、非常に心苦しく感じた。
「マロー姫、やはりご気分が悪いのでは?」
「も、もう休みますっ」
トレベレスに肩を支えられ、マローは不安そうに見ているアイラの手を握るとそっと庭を歩いた。
それでも始終トモハラは見ていて当然、庭から廊下へ、無論部屋まで一定の間隔を開けてついてくる。
アイラと部屋に戻り、ドアを開けば一礼をしてトモハラが廊下に立てば。
マローは何故かそっと、ドアの隙間からトモハラを見ていた。
不思議なことに、外にトモハラが居るというだけで。
「なんだろ」
「え?」
左胸を押さえる、心臓の鼓動に目を閉じて耳を澄ませる。
視線が合えば、見られていると思えば何故か上手く動けない。
蜘蛛の糸に絡まり、動けない蝶のように、もがくばかりで。
けれど、その視線から解放されても近くにトモハラが居ると知っていると不思議と落ち着く。
傍に居ると困るのに、居ても良い。
「なにこれ」
「え?」
マローは、部屋から廊下を見た。
先程、トモハラが立っていた辺りの壁に近づくとそっと耳を当ててみる。
当然声など聴こえないが、なんとなく。
トモハラの鼓動が聞こえる気がして、暖かい気がして。
マローは、ふ、っと顔を緩ませると嬉しそうに笑った。
首を傾げてアイラはそんな様子のマローを見ていたのだが、マローが嬉しそうなので自分も嬉しくなり、はしゃいで二人、眠りに就く。
翌朝二人は早々に引き離された、アイラは過剰なほど香水を振りまかれ顔を顰めたままドレスを着せられる。
それは、胸が大きく露出されているデザインのものであった。
ミノリがアイラの護衛についたので始終ついて回っていたのだが、流石にその胸を強調した衣装には戸惑うばかり。
当のアイラが全く気にしていないのが、幸いだろうか。
珍しいドレスだ、とそんな感覚だった。
化粧の派手な女性達が大勢居る部屋に案内されたアイラ、ミノリは外で待っているわけだが中で何が行われているか非常に気になる。
中では、街から呼び寄せた娼婦達が暗い部屋でアイラに技術を教えていたのだ。
各々の、持ちえた技術。
アイラは首を傾げつつ、勉強は好きだったので何の役にたつのかは解らず、それでも真剣に憶えた。
計画など、聞かされていないのだから。
「マッサージです」
「マッサージ?」
「今来ておられる王子達とて、長旅でお疲れでしょう。寝所でして差し上げればお喜びになられるかと」
「そうなのですか・・・」
全く、男女の閨事など知らないアイラは教えられるままにとても一国の姫とは思えないような技術を習わされる。
破滅に導く呪いの子を産む母親は、容姿は良くとも相手にされないだろう。
だが、相手は欲望と本能に忠実な男だ、流れさえ掴めばこちらのもの。
・・・それだけ。
国の方針がそういうことなのだから、仕方がない。
誰も止めるものなど居らず、止めたくとも止められない位の低い若い騎士達は見ているだけで。
部屋から出てきたアイラ、一礼をし、ミノリは不安げに廊下の絨毯を見つめていた。
「この騎士様もお疲れかしら、やってみてもいい?」
「なりません! ・・・姫なのですから王子だけお相手なさい」
「そうですか・・・」
何のことやら解らないミノリだったが、少し残念そうに歩いていったアイラを見ていると急に首を捕まれる。
耳元で年配の女性に怒鳴られた。
「アイラ様にマッサージしても良いか、と訊かれたら断るように」
「は? マッサージ?」
なんで姫にそんなことしてもらわねばならないのか、恐れ多くて出来るわけがない。
が、ミノリの知っているマッサージではない、意味が違う。
「単刀直入に言うと、決して肌に触れないようにということです」
「肌!?」
硬直したミノリを、鼻息荒く女は突き飛ばす。
「今日わかった、あの姫・・・無駄に色香が多い。全く、食虫花のごとく見た目で男を引き寄せる能力を持っているようだね」
「は・・・」
「変な気起こすんじゃないよ! 我国からは絶対に交わる男を出してはいけないのだから」
「ま、まじ!? わ!?」
赤面、ようやく意味を理解したミノリ。
全力で否定するとアイラに追いつくべくその場を立ち去った。
アイラの後姿を確認すれば、丁度窓から入った風で髪が舞い、白いうなじが露になる。
思わずミノリは立ち止まった、ゆっくりと振り向いたアイラ、視線が交差し硬直。
「とても・・・手を出そうとは思えない」
「え?」
入る日差しは、柔らかで。
緑の髪を艶めかせ新緑のように光らせるから、若葉の瑞々しい色合いを。
血色の良い整った顔立ち、優しく無邪気な瞳に、微かに口角の上がった唇。
触れてしまえば、穢れる気がする。
ミノリは、深く一礼するとアイラに先を急がせた。
胸を押さえる、大丈夫だ、と胸を押さえる。
この、目の前の姫に触れらる男などいない、と。
恐れ多くて、触れられない絶対的な、何か。
誰にも汚される事なく、この姫は成長するはずだ、と。
邪な考えなど、その神々しさで跳ね返し、いつまでもそのままで居る筈だと。
・・・ミノリはそう願った。
願っていた。
そっと近寄り、床に右膝を。
アイラの手を取ることなく、腰の剣を床に置いて手を胸に。
「貴女を、必ず護り抜くと誓います」
「? ありがとう、ミノリ」
破滅の子を産み落とす、緑の姉に心酔した若き騎士。
視線を床からアイラへと、向けてみればはにかんで大きな瞳でこちらを見つめていた。
決意を、胸に。
土の国、代々女王が君臨する多大な魔力を持つその国の。
・・・平民出身の若き、いや、幼き騎士は呪われた姫君を心に抱いた。
小さすぎる力では、姫を護れないだろう。
呪われた姫は、見た目を餌にし他国の王子を誘惑し、翻弄して破滅の子を宿す。
宿った子は、父親の国を破滅に追い込むのだ。
・・・緑の姫君は、他国へのトロイの木馬。
そんな姫を護るべく、ミノリは決意を。
徹底的に、邪魔をしてやろうと。
それくらいしか、出来ないから。
アイラは、不思議そうに微笑んでいた。
ミノリは、困惑気味に、微笑んでいた。
”貴女に、守護を。穢されない麗しき花で居られるように、守護を”
その頃マローはベルガー、トレベレスと共に庭を散歩していた。
先程までは土産品の高価な宝石を差し出され、上機嫌でそれらをとっかえひっかえ身につけていたのだが、飽きたようだ。
色とりどりの光物、どれも大きく輝きも半端ではない。
トモハラが近くでそんなマローを見ていた、宝石を身につけると嬉しそうに楽しそうに鏡を覗き込み、無邪気に笑う。
全身鏡に姿を映し、くるくる回転しては皆からの拍手を集めて始終笑顔で。
あの笑顔が、堪らなくトモハラは好きだった。
そして戻る返事は決まっているのに、毎回毎回皆にこう訊くマロー。
「可愛い?」
小首傾げて、大きな瞳でそう投げかければ皆が口々に可愛い、可愛い、と大合唱。
そうすると、瞳が細まり恥ずかしそうに歯がゆそうに、口元に手をあててふふふ、と笑う。
「可愛いです、宝石をつけているマロー姫ではなく、マロー姫自身の、その仕草が」
熱に浮かされた瞳で一心不乱に、口元に笑みを浮かべてマローを見つめるトモハラ。
あぁ、あの笑顔を。間近で見られたらどれだけ素敵だろうか。
・・・庭を散歩している三人の後ろを、黙って歩くトモハラは周囲への配慮や警戒も他所にずっと考えていた。
自分も、何かを差し出してみたい。
そうしたら、姫は笑ってくれるだろうか。
あの、遠目に見ていた愛くるしい笑顔で、自分に微笑みかけてくれるだろうか。
想像しただけで、手が震えて顔がにやける。
庭の一角、ティータイムを始めた三人の周りをメイドたちが取り囲み、御茶に焼き菓子を手際よく並べた。
甘いものを口に含むと、見ているこちらが嬉しくなるような笑顔を見せる。
美味しい、と見ていて解るのだ。
幾つも手を伸ばし、最後まで美味しそうに食べる姿も愛くるしい。
自分も、何かを差し出してみたい。
そうしたら、姫は喜んでくれるだろうか。
トモハラは、静かに胸の前で手を組むと一人瞳を閉じる。
決意を、胸に。
土の国、代々女王が君臨する多大な魔力を持つその国の。
・・・平民出身の若き、いや、幼き騎士は栄華の姫君を心に抱いた。
小さすぎる力では、他国の侵略から姫を護れないだろう。
祝福の姫は、愛らしい見た目と、見守りたくなる思いで誰を彼も惹き付ける。
宿った子は、父親の国を繁栄へと導くだろう。
・・・黒の姫君は、自国への最大の防御壁。
そんな姫を護るべく、トモハラは決意を。
徹底的に、邪魔をしてやろうと。
それくらいしか、出来ないから。
マローは、無邪気に微笑んでいた。
トモハラは、困惑気味に微笑んでいた。
”貴女に、守護を。笑顔絶やさぬ時を過ごせるよう、守護を”
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