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どたどたどたどたどたっ!
喧しい音を立てて、何者かがこちらへ向かってきている。
「クレシダ」
「御意」
トビィは読みふけっていた小説から目を離さぬまま、隣に居た相棒の名を呼んだ。
呼ばれたクレシダは静かに椅子から立ち上がると、ドアの前へと移動する。
ドアノブが動き、開かれようとした瞬間。
「申し訳ありませんが」
クレシダは呟くと、進入してきた人物をそのまま外へ押し返した。
「えー!?」
弾き出された人物は、勢いあまって廊下の壁に叩きつけられる。
きーっ! と、外で奇怪な怒り声を上げている。
クレシダは無言でドアに鍵をかけると、何事もなかったように椅子に戻って軽く息を吐いた。
「ちょっとー!!」
何時の間に移動したのか、ドアからではなく、窓から侵入した来た人物。
左右の羽根が黒と白、大きさも違っている奇妙な女が入ってきた。
頭を抱えながらトビィが怒気を含んだ声で人物に言葉を投げ捨てる。
「何しに来た、まこっ!」
「緊急事態発生なのでござりゅんよ。えまーじぇんしーえまーじぇんしー」
まこ、と呼ばれた奇怪な人物は何事もなかったかのように部屋に侵入すると、後ろに隠し持っていた物を二人に見せた。
トビィが興味なさそうに呟く。
「あぁ、パソコンか、パソコン」
「水晶玉でござりゅん、水晶玉」
まこが手にしていたのは30cm×40cmくらいの平たい板である。
ぱかり、と板を開くとボタンがたくさん並んでいるわけだが、そのうちの一つを押した。
ウィン、と音がして画面が光り、映像が流れる。
彼女はこれを『水晶玉』と呼んでいる。
決してノートパソコンではない、水晶玉だ。
「アサギちゃん、ピンチでござりゅん」
「それを早く言えーっ!」
まこを放り投げ、トビィは水晶玉についているボタンを手馴れた手つきで操作した。
床に倒れながら、まこは呟く。
「小説の間に、『復讐の貌』っていうのがあるでござりゅん。それで大変なことになってるのでござりゅん。このままだと、闇に落ちてまた振り出しに戻る、でござりゅん」
「あぁ、これ、か・・・? どれどれ? というか、ギルザがいるから闇には落ちないだろ?」
トビィはカタカタ、と音を立てながら水晶玉を操作した。
「そのギルザさんが死んでしまってるのでござりゅん」
「は?」
「え?」
まこの言葉にトビィとクレシダが素っ頓狂な声を出した。
むくり、と起き上がると今度はまこが水晶玉を操作する。
「ほら、ここでござりゅん・・・」
まこが指差した先をトビィとクレシダが同時に見た。
Q : ようやく辿り着けたときにはそこは赤い絨毯が広がっていた。あなたの目の前でギルザ=レイは息絶えたのだ…。
「・・・大変だな、これは」
「ギルザ殿・・・」
「でしょっ。まこのギルザさんが大変でござりゅん」
いや、お前のじゃなくてアサギのだからっ。
トビィに頭を叩かれ、まこは水晶玉に頭をぶつける。
おでこと後頭部に大きなたんこぶをつくりつつ、まこは頬を膨らませた。
「さてと、まこはアサギちゃんを助けるために、今から部屋に篭って作戦会議するのでござりゅん。一人で」
「一人で会議か」
トビィは傍らに立てかけてあった愛剣ブリュンヒルデを手に取った。
つまり、オレが助けに行くのが一番早い、よな?
薄く笑みを浮かべ、トビィはまこを見る。
が、まこは首を振った。
意外そうにトビィは剣を降ろす。
静かに、まこは重い口を開いた。
「・・・アサギちゃんは一人でこれを乗り越えないといけないと思うのでござりゅんよ。でないと、トランシスには勝てないのでござりゅん」
「一人で、ねぇ? やれるのか?」
「アサギちゃんなら、大丈夫でござりゅん。あとはまこがなんとかするでござりゅん」
そう言うとまこは、二人に向かってVサインを出す。
・・・大事な娘でござりゅんからね、アサギちゃんは・・・
「アサギちゃんが一番大事なのはギルザさんでござりゅん。ギルザさんはアサギを置いては死なないでござりゅんから、それを分からせてあげるのでござりゅん。それから、ギルザさんはアサギちゃんをとても愛してくれているので、それを不安がらないように、絶対信じれば・・・」
闇には、落ちないのでござりゅんよ。
まこは嬉しそうに呟く。
「まこ的に、あの毛皮被ってるのがギルザさんなのではないかと思うのでござりゅん。幻惑か何かを見せているのでござりゅんよ。だから・・・」
まこは水晶玉に手を伸ばす。
目に見えるものに惑わされるな、ホントのギルザさんを探し出せ・・・。
まこは大事なアサギに向けて、応援の言葉を送った。
さぁ、アサギ。
どう、進む?
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