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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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Image433.jpg46→アリナ達、船から降りる。
シポラ城へ

47→ミシア、魔族2人に崇められ「破壊の姫君」であると告げられる
何食わぬ顔で仲間達と合流

48→ジェノヴァへ戻り、集結

49→アサギ

頑張れ、私!!!!
 
というわけで、アサギを描いてみましたー。
とても勇者様には見えませんが、勇者様です。
魔王に攫われましたが、勇者様です。
でも、攫われたので、やたら強いメンバーの指導の下、ぐんぐん成長していきます。
※剣がサイゴン・トビィ
魔法がハイ・ホーチミン


視線を男から外さずに、ムーンとブジャタが詠唱を開始、ユキも精一杯敵を睨みつけながら詠唱を開始。
鍋が吹き零れそうになりながら沸騰している、怪しい光が時折漏れ、男の背後が後光によって曝け出された。
これまでにない妙な重圧感だった、流石にブジャタとて冷や汗を出した。
ただの高等な魔術師だとばかり思っていたが体格からしても屈強であった、先程の身のこなしといい武術も嗜んでいるのだろうか。
・・・厄介だ。

「目的は何ですか?」

ジリジリと、間合いを詰めながらケンイチが問う。
顔色変えず、淡々と男は意外にも答えてくれた。

「別に。頼まれたから製作しているだけだが。
目的は依頼者に聞いてくれ、俺は雇われただけだからな」
「止めてください、とお願いしたら止めてくれますか?」
「それは断る、金が必要なんだ」
「でも、それを作っていると罪のない人達が苦しむし、殺されたりもするんです」
「俺の知ったことではないな。しかし・・・まさか、子供に老人がここへ来るとは思わなかった」

右手で剣を構え、四人を瞳を細めて見つめながら男はそれでも表情変えずに。

「他言無用。約束するならば生きてこのまま帰そう、立ち去ると良い。
が、そうでないのならば鍋に放り込む」
「どちらも断る!」
「・・・そうか」

言い終わらないうちに突進する男、舌打しブジャタが杖を振り上げる。

「ムーン殿、ユキ殿! 続けぃ!」

氷塊を男に向けて飛ばすブジャタ、ムーンとユキも風の魔法で勢いを増すように連続で追撃する。
男は右手を前に差し出した、瞬時に炎の壁が出現し氷塊を相殺、魔法を楯代わりにして突き進む。
両手で剣を構えたケンイチ、右足に力を籠めて振り下ろされた剣を渾身の一撃で受け止めた。

「う・・・わっ」

想像以上に重い、両手が一気に痺れたが、歯を食いしばりながら辛うじて持ちこたえた。
だが、追撃されればケンイチは逃れられないだろう、そんな余裕は残されていない。
男を囲むように瞬時にムーンとブジャタが左右に立つ、同時に氷の魔法を再度唱え注意を魔法へと向かせた、その隙にユキがケンイチの後方で回復の魔法の詠唱に入り始める、万が一に備えてだった。
飛んで来た氷塊、流石に左右から来ては逃れられないと判断したのか、剣を仕舞うと後方へと飛躍し逃れる。
二つの氷塊はケンイチの目の前で激突した、目を瞑り地面に転がって辛うじて余波から逃れるケンイチにユキが回復魔法をかける。
連携は、完璧だがこの四人では敵の打撃に耐えられない。

「教えてください、あの球。・・・破壊する手段はありますの?」

ムーンが杖の矛先を敵に向ける、直ぐにでも次の魔法の発動が可能だ。

「ある」
「教えてくださいまし」
「断る」
「でしょうね・・・。そこまで、貴方には悪意を感じませんから少々やり難いのですが」
「甘いな、レディ」

あまりにも、冷静なその男。
そして全力でかかれば自分達など、あっさりとねじ伏せられるような力量の持ち主である気がしてならない。
どことなく気品も薄っすらとだが持ちえている気もする、予想外だった、瞳には何か決意を宿している。

「私はムーンと申しますわ。何故、お金が必要なのですか? お金が欲しくて依頼を受け、こうして球を作っているのでしょう?」
「黙秘させていただこうか、ムーン。私は”バリィ”」

本名ではないかもしれないが、名を教えてくれた男・バリィ。

「貴方ほどの腕前ならば、傭兵でも護衛でも難なくこなせるでしょう? 何故この道を」
「巨額の金がいる、それだけだ」
「いくらかの? そちが製作を止めてくれるのであれば・・・儂が支払おう」

ムーンとバリィの会話に横からブジャタが口を挟んだ、はったりも良いところだった、巨額など持ち合わせていない。

「市民が払える金額ではない」
「言ってみな、解らんじゃろ? 何かに必要な金なんじゃろうなぁ、そち自身はうろついていた盗賊達とは違い、質素な生活で十分そうじゃ」
「何処かの貴族か国王レベルでないと、不可能な額だ」

ブジャタをつま先から頭まで見つめ、バリィはそう小さく零した、到底高貴な人物には見えなかったのだろう。
衣服とて確かに丈夫そうだが特に高価な布ではない、確かに平民よりかは上の人物には思えたが。
しかし、それにブジャタは満足そうに頷いている、低く笑った。

「名はブジャタ。現ディアス市長直々の参謀兼指導係りじゃが・・・不満はあるかの? 条件次第ではそちの言い値を払おうぞ」
「ディアス市長!?」

声を張り上げるバリィの様子でディアスという街があることを知ったケンイチ達だが、ブジャタがそこのお偉い様だとでもいうのだろうか。
はったりではないのか非常に不安を感じるムーンであったが、気にも留めずブジャタの口から次々に衝撃的な言葉が飛び出る。

「ディアスでは、近年増える魔物や魔族から大切な市民を護るべく、屈強な戦士を募集しておるのじゃ。
ただ単に強いだけではなく、賢く、品行良い戦士を、な?
そち、相当な腕前の魔法戦士と見たが、どうじゃ。
今現在の研究を全て放棄し、ディアスへ来てみては? もしくはその球、回復系にはならんのかのぉ。
その研究ならば許可を出そう、広まっているやもしれぬ球の回収にもそちが必要になると思われ」
「ディアス・・・」

混乱気味に頭を押さえるバリィ、ブジャタの言葉に相当揺れているようだった。
ムーンは思った、バリィは金さえあればこんなことはしない人物であるに違いない、と。
何度か口を開きかけてはまた紡ぎ、相当困惑しているバリィに、ブジャタは追い討ちをかける。

「いくらじゃ、そろそろ話されよバリィ殿。そちほどの者が金が要る理由はなんじゃ。
・・・家族か、恋人か」

語尾を強めたブジャタ、ビクリ、とバリィの顔色が変わり唇を噛み締める。
非常に解り易い、どちらかが原因なのだろう。

「気持ちは、有難い。そして正直甘い誘惑で条件を飲みたいのも確かだ。
だが、断る」
「何故じゃ」
「組織から抜けられるとは思えない・・・組織にはあの球が必要なのだ」
「ふむ」

やはり、組織。
髭を撫でながら組織という言葉にブジャタは目を細めた、鍋に視線を移す。

「ここを壊滅させようかの、ともかく。
そちはここで鍋を護って死んだことにしておくのじゃ、家族か恋人の為にここまで手を汚しても、それを知った人は悲しむと思うがのぉ・・・。
その球のせいで、昨日は死者とて出ておる」
「・・・」

息を飲みながらやり取りに聞き入る三人、確かに目の前の人物とは戦いたくない気持ちがあるので、祈る思いでバリィを見つめている。

「母と妹が病気なのだ、治療費が必要だ、父は同じ病気で他界している」
「ふむ、薬を買う金が要るのじゃな? どんな病気じゃ?」
「全身に発疹が出て、高熱が下がらない。・・・半年が経過している」
「はんと・・・し?」

悲痛に顔を歪め、手で覆い隠しながらバリィは続けた。

「死の30日、と呼ばれる病気だ。30日間苦しみ抜いて死んでしまう。
しかし、高額な薬さえあれば30日を突破し、生きながらえる」

眉を潜めるムーン、”死の30日”という名がついているのに、生きながらえるとは妙ではないのか。
どうにもそこが引っかかって仕方がない、ブジャタも同意だ。

「母上と妹君はどちらに? 自宅か、病院か?」
「組織が用意してくれた病院に居る、定期的に病状報告がここへ届けられる」

つまり、半年以上二人にバリィは会っていないのだろう。
胸騒ぎがしてきた、・・・本当にその二人、生きているのだろうか? ・・・そういうことだ。
静まり返ったその場、ケンイチとユキも不安そうに互いに顔を見合わせる、思うことは皆一緒だった。

「そのような病名、知らぬ。地方によって呼び名が違うのかもしれんが・・・。
バリィ殿の故郷では有名な病気かね?」
「一年ほど前から、稀に村の人々が高熱のあげく、死んでしまう事態が起き始めた。
街から有名な医師を呼び、診察してもらったが事例がないとのこと。
村中の金を集め、様々な医師を招いたらばようやく古い文献にその記載を見つけた医師が現れたのだ。
そうこうしている間に村中で発病が始まった、俺も薬を毎晩飲んでいる次第だ。
大勢死んだ、生きている者達を救う為に皆で金を稼ぐことにし、地方に散らばったのだ。
俺を含めて、4人だがな健康体は」

社会の教科書を瞬時に思い出し、ユキは瞳を閉じた。
思い描くのは現代、地方の奇病と言えば地球、日本にも存在する。
工場排水が原因の病気が幾つか思い浮かんだ、医学ならば地球のほうが当然発達しているだろう。
あれらの原因は水を媒介にして、もしくは食料から体内へと有害物質が取り込まれたから、である。

「あ、あの。バリィさんの故郷にはその、ええと。鉱山があったりとかします? 
もしくは急激に増えた生物がいませんでした?」

控え目にユキが問う、不思議そうにブジャタはユキを見ているが一旦自分は下がる事にした。

「面白い事を言う子供だ。特にはない、普通の村だ」
「何もないのに、突然病気が流行り始めたんですか?」
「あぁ、そうだ。村の古文書を皆で読み漁ったが、それらしい記述は出てこなかった。前例がない。
医師が持ってきた文献では、その病気によって一つの村が死滅したことが書かれていた」

ユキは腕を組んだ、社会の教科書を思い出すのだ。

「病気って、何かが運ぶものなんです。
例えば汚れたネズミが病原菌を撒き散らす。・・・そうですね、動物が菌を運ぶ事が一番多いかもしれません。
もしくは汚れた水を飲んだり、その水に住むお魚とかを食べたりして菌を体内に入れる場合もあります」
「・・・何が言いたい」
「それ。・・・本当に病気ですか?」

ユキの結論、ケンイチも同意。
そして聞いていたムーン、ブジャタも結論は同じだったのだ。

「何者かが、バリィ殿の腕を買って村中に菌を撒き散らしたのではないか、ということじゃ。これを作らせるためだけに、の。大規模な人質じゃて」

静寂、バリィの顔色が変化する。

「問いますぞ。バリィ殿含め、4人の無事な方々は年齢は?」
「年齢と言われても・・・バラバラだ」
「皆、バリィ殿と同じ様に屈強な体力に自信がある方々ですかの?」
「いや、病気がちな神父に、肥えた村長、その奥方、そして俺だ」

真っ先に感染しても良い神父が無事な時点で、妙だった。

「止めじゃ、バリィ殿。あんたは早急に母上と妹君の下へ戻るべきじゃて。場所は解るのじゃろう?」
「・・・遠い」
「何処じゃ?」
「シポラ近辺だ、船がないと渡れない」

地名を聞いた瞬間に弾かれたように叫ぶ四人、気迫にバリィが一歩後ずさる。

「まずい! 罠だ!」
「バリィ殿、シポラは現在妙な邪教徒で溢れておる本拠地ですぞ!? くぅ、ここでこう繋がったか・・・!」

ムーンがバリィに駆け寄る、手を掴んで引っ張ると簡単に説明を始めた。
聞きながら身体を震わすバリィ、訝しげに最初聴いていたが必死な四人が嘘をついているとは思えない。

「推定じゃが、バリィ殿の腕を見込んでその力量欲しさに何者かが糸を張り巡らせたのじゃ。
情に厚いバリィ殿の性格を見越して、徐々に身体を蝕む菌を村に撒き散らす、じゃが一部は残しておく。
村を救おうと躍起になっているところへ、さも治すべく現れた医師ならば・・・簡単に騙せるじゃろう。
バリィ殿、一年以上前にそち、何処かでその腕を見せんかったか?」
「村から出た事はない、しかし・・・。
二年ほど前か、数人の旅人が来て魔物から護ったことがあったな。
元々、自給自足の村だから何でも出来るように躾けられている。父が剣に優れた人で母が術師だ」
「サラブレッドなんだ・・・」

ここまでくれば話は簡単だ、シポラを目指している別の仲間がいることを告げ、合流すべく四人とバリィは立ち上がる。

「あの球、世界に普及しているの?」
「・・・恐らくは」
「破壊方法は!?」
「聖水に漬け込めば・・・」
「ともかく、今ある球だけでも破壊しよう!」
「あの鍋の破壊が先決じゃ! 液体の中身は何じゃ?」
「・・・解らない。用意されていた。追加で生きた人間が必要だ」

言いにくそうに言葉を吐いたバリィ、一瞬沈黙が訪れる。
絶句。
ユキが眩暈を起しそうになり、ケンイチに背を庇われた。

「まさか、さっき球に吸い込まれた盗賊は・・・材料?」

顔面蒼白でケンイチもユキの隣で唖然と呟く、唇を噛み締めバリィが小さく頷いた。
もはや先程の盗賊はあの鍋の中、ということか。

「禁呪に近いですぞ! やはり贄が必要だったのじゃな。ともかく、皆であの鍋を壊すのじゃ!」

液体の中身が不明だった、術師三人が前に出て一斉に手持ちの魔法で最も強力なものを発動する。
剣で叩き割ったほうが早そうだが、噴出してきた液体で怪我をしかねない。
頑丈な鍋に渾身の魔法を喰らわせた、数回続けようやく罅が入る。
ケンイチはバリィと他の情報を引き出す、バリィとてこちら側についたのだ簡単だった。

「六種ある球。一つは大蛇を出現させ、一つは人間捕獲・・・? の効果かな。残りは?」
「人間十人に対して、一つの球が完成する。
琥珀色が大蛇、あれは最後に生きた蛇を大量に鍋に投げ込んで製作可能になる。
瑠璃色が吸収、お前達が見た吸い込まれた盗賊はその球のせいだろう。これが最も難解な製作だ。
珊瑚色が大鷲、萌黄色が触手、群青色が死人、漆黒が毒霧だ」

物騒なものばかりだった、「冗談じゃないよ!」ケンイチが声を張り上げる。
しかし、バリィは責められなかった、彼は必死だったのだ。
確かに間違った選択だろう、村を救う為に他の人を犠牲にして良いわけないのだ。

「他にも近くに鍾乳洞がありますよね? そこにも何かあるんですか?」
「知らされていないので答えられない、悪い」

他の場所も念の為調査に行くべきだろう、目の前で崩壊する鍋を見つめてケンイチは決意した。
しかし、シポラ。
あまりにも行動範囲が広く、愚劣だ。
球を与えられている盗賊も、上手い話があるからと引き込まれただけで組織とは関係のないただの荒れくれ者達だろう。
鍋から幾つもの人骨が出てきた、思わずユキが胃の中のものを吐き出した、ムーンに介抱され歩き出す。
ムーンとブジャタが成仏出来るように、と犠牲になった人々へ経を唱えているのをバリィも申し訳なさそうに見つめている。
粘着ある零れた液体が恐ろしくて、流れてこちらへ向かってくる前に階段を駆け上がった。
床に伸びている四人の盗賊を縛り上げて、当然連れ出す。
縛り上げておいた盗賊二人を引き摺り、宝石を回収し。
別の部屋へ移動し、伸びている盗賊二人を更に回収し。
球を全部持ち出す、よほどの衝撃を与えない限りは球は発動しないと聞いたので少し気が楽になった。
聖水など所持しているわけがない、ジェノヴァの街へ戻りさえすれば、教会に聖水があるからと必死に目指す。
だが、盗賊計8人を引き摺ってでは非常に時間がかかった。
バリィが縄を掴んで先頭に立って歩くのだが、当然上手く盗賊達は歩いてくれない。
すでに時刻は夕暮れだ、夜中までには戻りたいところだった。

「そういえば、ブジャタさん。ええと、市長に仕えているってあれは・・・ホント?」

ずっと気がかりだったことをケンイチはブジャタに耳打ちした、ホラなのか気になっていたのだ。
苦笑いで咳を一つ、ブジャタは「本当じゃよ」と付け加える。

「アリナ様は市長の娘じゃ」
「え」
「これも本当のことじゃよ」

まぁその話は落ち着いてからで、ブジャタはそう言うと硬直しているケンイチの背を軽く叩く。
だから”お嬢”と呼ばれていたのだ、納得した。
黙々と歩き一時間以上が経過、馬車が通りかかってくれる事を期待したが未だに通らない。
夏とはいえ、周囲が暗くなり始めた頃、空腹で手持ちのビスケットを食べながら歩いていた。
不意にバリィが停止し、周囲を窺っている。

「何か居るぞ・・・」

剣を引き抜いた、ケンイチも構えに入る。
松明に火をつけて周囲を照らせば、泣き声が聴こえてきた。
女の声だった、シクシク、泣いている。

「こ、怖い・・・」

思わずユキがケンイチにしがみ付く、こんな時間にこんな場所で泣いている女・・・何者だろうか。
どちらで泣いているのか分からなくなった、盗賊達も怯えている。
ぼんやりと、前方に蹲っている女の姿を発見、バリィが近寄ろうとしたがブジャタが制する。
美しい長い髪だ、一人きりで街道の隅に蹲っている時点で普通の娘とは思えない。
裸足、灰色の長い衣服を身に纏っている。

「・・・人間には思えぬの、危害を加えてこないのであればこのまま通り過ぎましょうぞ」

不本意だがブジャタの一言で息を殺しながら隣を通過する、近寄れば手足は木の棒のようにがさついて細かった。
森で命を落とした娘の幽霊かもしれない、とブジャタは思ったのだ。
震えながらケンイチと共に歩くユキ、見ないように瞳をきつく瞑っている。
何事もなく通過し、皆で胸を撫で下ろしたのも束の間、前方にまた泣き声だ。
また、同じ女が蹲り泣いている。

「まずいのぉ・・・」

流石にブジャタが杖を掲げた、どうも無事に通す気はないようだ。
ならば先手必勝か、無駄な戦闘は避けたいのだが。
泣き声が大きくなる、聞いているだけで物悲しく、死者を哀れむ嘆きの歌にも聴こえてくる。
恐怖のあまり盗賊が暴れ出した、止めようとしたバリィだがその拍子に宝石が入った袋を背から滑らせて地面にぶちまけてしまった。
慌てて仕舞うべく松明を掲げたが。

「な・・・」

一つの宝石を手に取り、松明に照らして眺めている。
女の泣き声は更に高音に、思わず耳を塞ぐ一同、盗賊は縛られているのでそのまま聞いているが二人が恐怖で失神した。

「妹の・・・指輪だ」

バリィが呟く。
病気が治るように、魔よけの意味を籠めて有り金はたいて妹に購入してあげた水晶の指輪、内側に『妹へ』と彫ってあるのだ、間違いない。
答えは出ているのだが考えたくなくて、バリィはその場に座り込んで指輪を見ていた。
ブジャタが首を横に振る、予測はしていたことだ。
妹、母親、村の住人・・・すべてあの鍋の中だったのだろう。

カワイソウ、カワイソウ、カワイソウ・・・嘆キノ歌ヲ歌イマショウー

蹲っていた女が立ち上がりこちらを向く、皮と骨だけの老婆のようだった、しかし髪だけは本当に美しい。

「むぅ、バンシーじゃ! 人の死を予測して現れる不吉な魔物じゃよ」

盗賊達の叫び声、見れば周囲をバンシーに囲まれている、何人いるのだろうか。

「こ、こわー!」
「い、いやぁぁぁぁぁ」

流石にケンイチとユキも恐怖に慄いた、冷静なのはムーンとブジャタだ、バリィは呆けてしまっている。

イザナイマショウ、イザナイマショウ、死後ノ世界ハ楽シイヨ

合唱を始めたバンシー達に魔法を繰り出す、吹き飛ばされるが痛みを感じていないのか何度も立ち上がっては近寄ってきた。

「くー! 光属性の魔法さえあればっ」

人の死を感知し、前もって現れて嘆くというバンシー。
ここに姿を現したということは、誰かが死ぬという事なのだろうか?
不吉な思いにブジャタは首を振って大声で魔法を繰り出した、攻撃はしてこないのかもしれないが何分気味が悪すぎる。

「しっかりされよ、バリィ殿! まだ死が決まったわけではござらん」

バリィを揺するが、反応がない。

「やぁ!」

剣で斬りかかるケンイチだが、目の前でバンシーを凝視すると背筋が凍りつき、上手く剣が震えない。
おまけに、ケンイチの剣だが先程バリィとの戦闘で罅が入ったのだろう。
折れた。
舌打、ムーンから護身用の短剣を受け取ったが接近戦に持ち込まないとバンシーを斬れない。
盗賊達は恐怖で全員失神した、ある意味そちらのほうが幸せかもしれない。

「おおおおおおおおおお!」

バリィの遠吠え、怒気を含んだ絶叫が響き渡る。
立ち上がると近くに居たバンシーを殴り飛ばした、怒りを露に我を失っているのだ。

「巡る鼓動、照らす紅き火、闇夜を切り裂き、灼熱の炎を絶える事無く。我の敵は目の前に、奈落の業火を呼び起こせ!」

火炎の魔法だ、全てを燃やし尽くす勢いである。

「しっかりされよ、バリィ殿!」

ブジャタの声も届かない、剣を大きく振り上げて鬼神のごとく斬りかかっている。
気休めに言ってみたが99%妹は死んでいるのだろう、気持ちは良く解る。
生きていると信じて、救いたいが為に悪事を働いてきたのだが無意味だったのだ。
泣きながら剣を振るい、猛然と突き進むバリィ、誰も止められない。

その日。
ジェノヴァの街で高い位置から一部の人々は見た。
光を放つ美しい巨大な鳥が、森の中に舞い降り、暫くして飛び去った姿を。

ケンイチ達がそれに気づいた時には鳥は急接近していた、発光する巨大な鳥、近くに来て解ったが発光というよりも電気を帯びているのだ。
それは鋭く泣き叫ぶとバリィの心臓目掛けて嘴を突き出す、突き飛ばそうとケンイチは駆け出したが目の前で鳥にバリィは・・・貫かれた。

「真実さえ知らねば。・・・死なずに済んだものを」

若い男の声、見れば鳥に一人の男が跨っている。
強烈な威圧感、ブジャタが気迫で押し返そうと魔力を全身に纏うが、相手のほうが上だったようだ。
鮮血したたるバリィから嘴を引く抜き、鳥と男はそのまま舞い上がる。
ユキとムーンが風の魔法で追ったが、羽ばたき一つで魔法を掻き消してしまった。

「さ、サンダーバード・・・!」

ブジャタの引き攣った声、瞬時に結界を張り巡らせる、皆で一塊になった。
舞い上がった鳥・・・サンダーバードから、一気に雷が降り注いできたのだ。
羽ばたくほど、雷は強力に何本も地へと落下する。
悲鳴を上げながらユキもムーンに身を寄せて懸命に魔力を結界へと送る、ブジャタを中心にその攻撃を耐えるべく。
バンシー達は雷に打たれながら泣いていた、死に行く定めは・・・バリィか。
やがてサンダーバードが去り、限界でその場に倒れたブジャタ、ムーンが必死にバリィに回復魔法を施す。
薬草を使い、手当てを開始するが・・・無理だろう。
うっすらと開いている瞳、微かに唇が動いたのでケンイチは慌てて近寄った。

「おま、えに、け、けんを・・・」
「剣!? バリィさんの剣!?」
「すまな、かった、な・・・」
「しっかりしなよ! 妹さんたち探しに一緒に行こうよ! 駄目だよ、剣も教えてもらいたいんだ!」
「わるか、た」
「喋らないで! ムーンとユキが治してくれるから、頑張ってよ!」
「ありが、と、う」

微かに笑った気がした、ケンイチの目の前でバリィは、そのまま静かに息を引き取る。
絶叫が周囲に響き渡った、人の死を間近で初めて見た。
身体中の痙攣が止まらない、ケンイチは大声で叫び通した。
これが、この世界。
地球ならば、余程の事がない限り目の前で死など見ることがないのに。
言葉をかけず、ムーンは生存者の回復に専念している。
自分とて火傷を負っていたが盗賊達の半分はまだ息があったのでそちらに専念している。
ブジャタは辛うじて起き上がり、自身で杖と薬草で手当てを。
ユキは放心状態で、動けなかった。

「許さない・・・! 許さないぞ!」

ケンイチはバリィの剣を拾い上げる、重みで腕が軋んだが鞘も受け取り背中に装着した。
剣を掲げる、月の光で剣が露になった。
・・・何か文字が彫ってあるようだ。
ケンイチは知らなかったが、バリィの所持していた剣、後に発覚することになる。
”霊剣・火鳥”
火炎属性の剣であり、火の鳥を出現させられる代物だった。
バリィの家に先祖代々伝わってきた、一種の埋もれた神器でもある。
バリィの胸元からペンダントが零れ落ちたので、形見にケンイチは装備した。
名前が彫ってあった、ブジャタが読んでくれた。
家族の名前だろう、思わずケンイチはペンダントを握り締めて大粒の涙を零しながら空を仰ぐ。
森に、バリィと名も無き盗賊四人を埋葬することになった、周囲は暗かったが松明を何個も集めて霊気のある木々を探し、火葬する。
ユキが花を手折ってそこに投げ込み、ムーンが故郷の歌を歌う。
生き残っていた盗賊達ももはや逃げる気すらないようで、大人しくしていた。
火で魔物を遠ざけ、その場で野宿し、当然疲れがとれないまま、ジェノヴァへと帰還する。
死の、重み。
胸に秘めて、ケンイチはバリィから授かった剣を使いこなす決意をした。
まだ重過ぎる大剣だ、ケンイチの背丈ほどである。
死を無駄にしないように、街へ着くなり休息もせず役所にお目通りを願った。
ユキとケンイチは休むように、とブジャタに言われたが、ユキだけ宿に寝かせてケンイチは付き添った。
盗賊を引き渡し、鍾乳洞に隠れ家が存在したこと、他も調べてみるべきだと助言。
おそらく、存在しないだろうが。
球はブジャタの発案で報告しなかった、悪用されない保障がなかったのである。
ひっそりと、神父に誘われた教会裏の聖水が湧き出ている泉に球を漬け込む。
神父とブジャタが浄化の魔法を、ムーンが鎮魂歌を歌い続ける。
不思議な事に、その球は本当に聖水で浄化され、掻き消えた。
聖水が汚染されていないか不安だったが、浄化能力が勝ったようだ影響は無い。
胸を撫で下ろし、三人はようやく張り詰めていた緊張の糸を解いて笑った。

「一先ず、本日は身体を休めましょうぞ」

ブジャタに大きく同意した二人、宿に戻ればユキが眠っているだろう。
昼食を取る為適当に屋台で食べ物を買う、ユキの好物を知らないケンイチは適当に選んだ。
無難にサンドイッチだ、ノックしユキに手渡すと、ケンイチはブジャタと共に部屋に戻る。
温泉に浸かれるこの宿、しかしケンイチはそんな気力も残っておらずに床に転がるとそのまま眠りに入った。
苦笑いでブジャタが軽くタオルをかける、ブジャタは温泉に一人で出向き始終考えていた。
仮眠を取り、夕刻に起床して故郷のディアスに手紙を書く事、明日はマダーニと出向いた店へ再度行って見る事。
他の鍾乳洞には手がかりも痕跡もないと踏み、出向くのは中止にした、後は警備に任せるのだ。
万が一、探索に向かった警備兵が戻らなかったら・・・出向くとして。
思いの外山積み、そしてユキやケンイチに教育も施したい。
シポラへ向かっているアリナやクラフトが心配になってきた、不穏な動きがこうも集中して起こるとは。
ブジャタは、夕食もとらずにその後眠り続けた、結局温泉に長いこと浸かっていたので出てからすぐに手紙を書きとめて郵送を頼みに街へと出たので、疲労で夕刻に眠ったきり。
ケンイチが入れ替わるように目を覚ました、寝ぼけて温泉へ行きようやく目覚める。
眠っていただけだが空腹だ、ムーンとユキは十分睡眠を取ったらしく起きており、宿の夕食を三人で頂く事にする。
流石に口数も少なく、ユキはほとんど残していた。
空腹だが、胃が受け付けないらしい。

「駄目だ、食べないと」
「・・・」

必死に元気付けようと話しかけ、食事を皿に取り分けてくれるケンイチを眺めているユキ。
実際ムーンも食欲がなかったのだが、ユキの為にも自分が率先して食べねば、と無理やり胃に押し込んでいた。
随分と長い時間をかけて夕食をとり、その後紅茶で一息を入れる。
塞ぎこんでいるユキに、見かねてムーンが声をかけた。

「まだ明るいしお散歩してきたらどうかしら? 私は少し調べものをしてくるから、ほら、近くに公園があったでしょう?」

ケンイチに視線を投げかけた、ユキを誘ってくれ、という意味合いらしい。
強引にユキの腕を掴んで、手を振って宿を出る。
ムーンが小さく手を振っていた、自分も立ち上がるとそのまま宿の主人に図書館の場所を確認してそこへ向かう。
ケンイチに腕を捕まれて、渋々公園へ来たユキはブランコを見つけたのでそこに座り込んだ。

「・・・怖かったね」
「そうだね」
「帰りたいね」
「帰りたいけど、帰らない。・・・バリィさんの敵を討つんだ。アサギだって救わないと」
「でも、怖い」
「僕だって怖い、けど、やらなきゃいけない」
「ケンイチは、強いんだね」
「そんなことはないよ」

夕焼けを見ながら、二人はぼそぼそ、と会話をしている。
子供達を迎えに来た母親の姿が目立ち始めた、黙ってそれを眺める。

「正直、もっと楽だと思ってたの」
「うん、僕もだよ」
「でも、でもっ! 人が、死んでっ!」
「うん」

泣き出したユキ、ケンイチはそっと頭を撫でた。
怖いに違いない、自分だって怖いのだから。
何も語らずに、ずっとケンイチユキの頭を撫でている。
どのくらい泣いていたのか、周囲は暗く、星も幾多も顔を出していた。
二人は静かにブランコから離れて、手を繋いで宿へ戻る。
その手が、ユキにはとてもありがたかった。

「一緒に、頑張ろうよ」

小声だがそう言ったケンイチに思わずユキは大きく頷いて、赤く腫れた目を擦って鼻をすする。
ありがとう・・・小さくユキは囁いた、それはケンイチには届かなかったが、満足だ。
宿に戻り、再び眠りにつく。
明日からも、頑張ろう。
互いの存在で、重荷が軽減したような気がしていたユキとケンイチ。

四人が安堵し、眠っている時に街では事件が起きていたのだが。

翌朝、四人は居酒屋”最後の夢”へと足を進めていた。
マダーニが話をしてくれている筈だから、情報を聞く為に早朝でも入れてもらえる筈なのだ。
だが、店は静まり返っている、呼んでも誰も出てこない。
不審に思ったが、こういう日もあるだろうと踵を返した時だ。

「マダーニの知り合いの・・・!」

歩いてきたのは店の店主、四人を見るなりいきなり店へと引きずり込んだ。
その焦燥ぶりに眉を潜める四人、いきなり不安である。

「・・・ザークが。昨晩殺害されました」

突拍子も無いいきなりの発言に四人は言葉を失う、店の奥へ押し込まれて声を潜めてそう告げた店主。

「気晴らしに、出掛けると言い残し。闇に紛れてザークは街へ出たのですが・・・今、死体を確認してきたところです。戻らないので不安でしてね、そうしたらば警察が死体を見つけて身元の調査を急いでいる、と朝近所で耳にしました。
野次馬に紛れて観に行けば・・・川に浮かんでいたそうで、ザークの死体が転がっており」
「・・・酔って溺死した可能性は?」
「その線で警察は調査しているそうですが、違うと思います」

主人の顔色には疲労が浮かび上がっている、根拠は無いが、確信に近い気がする、と。
確かに、他殺のほうが可能性が高いだろう。
ブジャタは洞窟内でのことを一部始終店主に話した、何を聞いても驚かない、と言ってはいたが流石に動揺している。

「シポラ関連の人物が、同日に二人死んでおる・・・偶然とは思えんのぉ」

ブジャタの低く呻いた声に、皆が同意した。
結局真相はわからぬまま、数日が経過。
檻に入れられたあの盗賊達の下へと出向いたが、ここでも更に驚愕である、なんと牢内で皆死んでいたらしいのだ。
そう、あの日に。

「口封じ。・・・関わったもの全てを抹殺、か」

決まりだ、敵にはこちらの行動が見えているとしか思えない。
考えすぎかもしれないが、あまりにも順調にシポラの事が解って来たので罠ではないかとも勘繰りたくなった。
数週間後、宿に一通の手紙が届いた。
それはアリナ達からで、トビィがドラゴンに乗ってアサギの救出に向かったこと、自分達がドゥルモに到着したことが書かれている。
その間、ケンイチ達は街の道場に出向き剣の訓練を、魔法の練習を。
例の鍾乳洞は何も見つからず、あの鍋があった場所の入口は何者かによって封鎖されていた。
土砂崩れを起し、内部に侵入が不可能とのことである。
四人は、大人しく皆の帰りを待ち侘びる。


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ユキが
役に立って無くて、余程動かすのが面倒なんだなと思いながら読んでいた(素

頑張れ、もう少し(?)で待望の魔界編だ
トビィの後ろ 2009/01/25(Sun)20:06:10 編集
そして手抜きへ
・・・ちゃっちゃとケンイチ編を終わらせてしまいました(おぃ)。
わーい、もうこれであとは集合を待つだけー(えぇぇえ)。

早くアサギーアサギー。
・・・余程、ユキを書きたくないという私の思い、伝わったみたいで何よりです(笑)。
まこ 2009/01/25(Sun)23:24:54 編集
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