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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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文字数制限にひっかかりましたぁ・・・・。

がはぁっ。


「好きな竜、と言っても・・・」

トビィは一体一体、丁寧に見つめていく。
やがて下したトビィの判断は。

「暫く、共に滞在させてくれないだろうか」

で、あった。
共に過ごし、自分と相性の良い竜と共に旅立ちたい、そう告げたトビィに満足そうに笑う老竜。
真剣な眼差し、すっかりその一言でトビィを気に入った水竜達。
いくら老竜の命令が絶対であるとはいえ、無理強いはしたくないトビィのその意志を汲み取り、すでに懐き始めた幼い竜が二体。
ジュリエッタと、次に若い竜のオフィーリアだった。
トビィは、竜の背に乗り海を駆け巡り、夜は入り江で共に語らいながら数週間過ごした。
一緒に海に潜り、魚を捕まえ火を起こし食べさせると、生とは違う感覚に美味しいと連呼する若い竜。
すでにトビィは決めていた、幼いのは解るがオフィーリアかジュリエッタ、どちらかを相棒とすることを。
そして他の竜達も知っていた、この二体の竜が自分からトビィの相棒を志願することを。
ジュリエッタは泣き喚いたが、まだ幼すぎたのでオフィーリアがトビィの相棒となった。
拗ねて不貞腐れ、トビィの旅立ちを素直に見送らなかったジュリエッタであったが、オフィーリアの背に乗り、威風堂々と海を駆け巡るトビィの後姿を祈る気持ちで見守る。
5体の水竜は、トビィに向かって静かに頭を下げていた、何時までも。

トビィと離れたのが余程辛く、塞ぎこんでしまったジュリエッタ、次の位置へ移動したかったのだがそれが出来ずに居た水竜達。
暫くしてそこへオジロン達が現れた。
水竜を探しに来て、見つからないので我武者羅に5人で片っ端から海岸の岩を魔法で破壊していた頃。
伏せって入り江に一人で居たジュリエッタは、そのせいで落岩に巻き込まれてしまった。
思わず悲鳴を上げるジュリエッタ、その声をオジロン達が聞き逃すわけもなく駆けつける。

「これは・・・チビ竜だが紛れもなく水竜だなぁ、良い所に」

助けるわけでもなく、出血し啼いているジュリエッタに近寄ると見事な一角に触れながら下卑た笑い声を出す。

「助けてやっても良いが・・・ドラゴンナイトとなるワシの手助けをしてくれ」

痛手を負うジュリエッタに卑怯な交渉、押し潰ている岩を退ける代わりにと要求を出してきた。
卑劣である。
トビィと違い、ドラゴンナイトになる為だけに竜を使役しそうなこの目の前の低俗な輩に、重症を負いながらも誇り高くジュリエッタは叫んだのだ。

「断る! 認めた主は他に居る、誰が貴様らの手助けなどっ」

幼くも、その海の覇者の片鱗を見せたジュリエッタ、思わず身をすくめたオジロン達であるが目の前の竜は動けない。
厭らしくこめかみを引くつかせながらじりじりと近寄り、渾身の力で岩を跳ね除けようとしていたジュリエッタに剣を抜く。

「ならば・・・用はない」

無慈悲、身勝手。
懸命に抵抗し反撃したが、落岩での負担が大きく、また5人かかりでは幼いジュリエッタは抵抗むなしく命を落とした。
竜は手に入らなかったが、一通り不満は解消できたので優越感に浸りオジロンたちは引き上げる。
数時間後、ようやく遊泳に出ていた水竜達が、胸騒ぎを感じて戻ったがすでにジュリエッタは見るも無残な姿になっていた。
傍らに落ちていた剣を仇の物だと判断し、憎々しげに拾い上げると、岩を退かしてジュリエッタの遺体を海へと流す。
果敢に戦った形跡が見られたので、水竜達は涙し、傍にいてやれなかったことを悔やんだ。
見事な一角は老竜の手で根元から折られ、遺体は海の底へと沈んでいく。
悲しみに沈む竜達の手元には、魔族の剣とジュリエッタの一角。
何故老竜が一角を手中にしたのか、他の竜達には理解が出来なかった。

オフィーリアと共に順調な旅を進めていたトビィは、ようやく目的地であるカナリア大陸に到着。
海岸でオフィーリアと離別し、太陽が30回沈んだらまたここで会おう、と約束するとトビィは一人陸路を行く。
ここからは運も関与する、黒竜の行動範囲は広大だ、会える確率が低い。
が、トビィは懸命に山岳を歩き、時折湧き水で喉を潤し、持ち歩いていた質素な干し肉を食べ進む。
数日歩き周り、遠くに水音を掴んだトビィは喉の渇きを潤す為にそちらへ向かった。
耳を頼りに歩けば、なかなかな湖がある、山頂から水がそこへ流れ込んでいた。
自然と早足になり、トビィは喉の渇きを存分に潤すと衣服を脱ぎ水中へ入る。
水温が低かったので寄せ集めの枯れ木でなんとか火を起こし、身体の汚れを落としつつ水中の魚を探した。
槍で一突きし、久し振りにまともな食事を取ったトビィは、水面に何かの影を見る。
竜だった。
思わず見上げれば、間違いなく黒竜である。
焚き火を消し、衣服を着て荷物を豪快に詰め込むとその飛行する竜を追いかけた。
トビィに気づいているのか、いないのか。
黒竜は誘うようにほと近くの山頂へと優雅に舞い降り、じっとしている。
険しい顔つきで、荒い呼吸を繰り返しトビィはその竜の元へと山頂を登る。
確実に竜もトビィを待っていた。
威厳漂う鋭利な眼光、自分を追ってきたトビィを興味深く値踏みしながら見ていた竜は、ようやく近寄ってきたトビィに口を開いた。

「人間だな、何用だ? よもや、ドラゴンナイト志望ではあるまい。・・・身の程しらずが、立ち去れ」

こんな山岳地帯を歩き回る理由など、多くはない。
トビィの風貌を見て瞬時にドラゴンナイトであると判断したその黒竜だが、トビィに解りきった問いを投げかけた。
普通の人間であるならば、卒倒しそうな重圧感、光る瞳は深紅で口から除く歯は鋭過ぎる。
口調と声の重み、心臓に突き刺さる威厳溢れるその雰囲気に流石のトビィも足が竦む。
だが、真っ直ぐに歩み寄っていった。
瞳を細めて微かに羽根を広げ、威嚇する黒竜。

「汝、無謀と勇気は違うが、解らぬか?」

臆することなく歩み、黒竜の眼前まで来たトビィは足を止める。

「オレの名はトビィ。人間だが魔界イヴァンにてドラゴンナイトの称号を得るべく相棒の竜を探す旅に出た。
望む黒竜よ、共に来る気はないだろうか」

低く笑い、竜は口を開く。

「数奇な。イヴァンからここまでどうやってきた、人間よ」
「相棒のオフィーリア・・・水竜と共に」

鼻で笑うと、竜は羽根を広げて宙に浮遊する。
風圧でトビィの髪がなびき、その身体すら揺れる。

「一体いるのだな? ならば十分であろう。稀に竜を所持すればするほど、自分は有能だと勘違いするたわけがいるが・・・貴様もその類か?
互いに信頼し、常に共に居る関係、それこそが有能な竜使いの姿である」

帰れ。
竜はそう付け加えると眼下のトビィに以後無言の圧力をかける。
肩を竦め、トビィは意外にもあっさりと引いた。

「そうか。ならば仕方ない。オレをそう判断したのなら・・・合わないのだろうな。
オレが求める竜は心を分かち合える大事な相棒、オフィーリアと同じ様に。
・・・邪魔したな、では」

踵を返す。
これには竜が驚愕した、今まで数名のドラゴンナイト志願の魔族に出会ったが、断るとしつこく会話してきたり攻撃を仕掛けねじ伏せようとしてきたのだが・・・。
トビィに何か違うものを感じた竜は、再度岩に降り立ち声をかける。

「妙な人間だな。少し興味が沸いた」

軽く振り返り、トビィは足を止める。
無言でトビィと竜は何かを語るようにしていたが、不意に同時に笑みを零した。
竜が瞳を閉じて、小さく溜息を吐くと何かを決意したように瞳をカッと開く。

「似ているような気がしてきた、人間の異端児よ。いや・・・人間のドラゴンナイトよ」
「そうか? 互いにプライドが高そうだよな、下手すると触発、合わないかもしれないが?」

喉の奥で笑い、トビィは右手を差し伸べる。
トビィのその姿を見つめ、竜は頭を下げた。
その人間、奥に秘める不可思議な”何か”。
以前、会ったことがある気がしてやまない、何か。

「名は、デズデモーナ。よろしく、主よ」

共に、居てみようと思った。
何故か、この人間に妙に惹かれた。
その背に、トビィは飛び乗る。
願った黒竜・デズデモーナ。
オフィーリアと約束した海岸へ急いだ、トビィの計算が合っていれば約束の日まではまだ数日余っている。
何処まで行ったか解らないオフィーリアを、空中からトビィは捜した。
待っていてもよかったが、少しでも早く会いたかったのだ。

「オフィーリア!」
「あー! 主だぁー」

約束の海岸から離れた海域で、オフィーリアは悠々と泳ぎまわっている。
空中から現れたトビィに、初めて見た黒竜、トビィは達成できたのだ、とオフィーリアは満足そうに頷いた。
数体の竜を所持し、その竜達の仲も取り持てなければドラゴンナイトの資格は当然ない。

「すまないが・・・一度親友に報告してきたいのだが。いや、何処に居るか解らないのだが必ず後で合流しよう」
「そうか、ではイヴァンで落ち合おう、デズ」

オフィーリアの背に乗り、飛び去るデズデモーナを見送る。
眩しそうに夕日を浴びて、偉大な羽根を広げて飛び去る姿を目に焼き付けると、トビィ達はイヴァンへ引き返した。

「オフィ、仲間達に会ってから行こう」
「ホント!? 主、ありがとーっ」

以前出遭った海岸へ行けば、妙に岩が形を変えていたので首を傾げつつ、トビィ達は水竜を捜す。
反対側の海岸付近で姿を見つけたので意気揚々と手を振って近寄れば、悲しみに包まれていた。
理由は簡単だ、ジュリエッタが何者かに殺されてからまだ一月ほどである。
一族の死を簡単に受け入れられなかったのだ。
トビィ達の姿を見、若干笑みを浮かべた水竜達は事情を語る。
敵の剣を見せてみればトビィには見覚えがあった、当然である。

「オジロン!」

そう、試合で手合わせした際に、トビィは相手の剣の特製を見極める為オジロンの剣も鋭い眼光で見入っていたのだ。
憶えていた。
オフィーリアも同意し、仇は自分が、と名乗り出たトビィに、ジュリエッタもそれで浮かばれると水竜は涙する。
そうして老竜が取り出したのが、ジュリエッタの一角であった。

「どんな鉱物より硬く、そして鋭利な我ら水竜の一角、是非トビィ殿に剣として扱って頂きたい。
ジュリエッタとて、共に居られると本望でしょう」

そう、その為に。
トビィは丁重に一角を受け取ると、その眩く光を放つそれに自分の顔を映した。
ジュリエッタの無邪気な笑い声が聞こえる気がして、思わず胸に混み上がる熱いもの。
しかし、このままでは剣として全く扱えない、素材はともかく。
しかし、トビィをぐるりと水竜が囲みその一角へ向けて念を籠めれば。
その手の一角は仄かに光り、そして熱を帯び始めた。

「水竜は。生涯、主と見極めた者の為に死して尚、役に立とうと、傍に居ようと致します。ジュリエッタはトビィ殿を好いておった、相棒になれなくとも、心はトビィ殿と共に」

徐々に形を変貌させていく一角、ジュリエッタはトビィの武器として居る事を望んだのだろうか・・・。
暫しの後、呆然と立つトビィの手には剣の形を模した一角が。
水を思わせる澄んだ光、冷たさと美しさの共存する世界で唯一無二の剣。
鞘は、サイゴンから受け取った剣に不思議な事にぴたり、と嵌った。
感嘆の溜息しか出てこないトビィに、深々と頭を垂れる水竜。

「・・・ブリュンヒルデ。この剣をブリュンヒルデと名付けよう」

ジュリエッタの名をそのままつけようと思ったのだが、不意にブリュンヒルデ、という名が浮かんだ。
後方で水竜達が息を飲んだが、気にせずトビィは続ける。

「幼い頃、育ての母に聞いた話では、大地を司る偉大な精霊がブリュンヒルデ、という名だと。
敬意を、そして崇拝の意を籠めてその名をつける。・・・水の偉大な精霊の名は知らないし、な。
剣の雰囲気にも合っていると思うんだが。どうだ?」

荘厳なその剣を掲げて、満足そうにいうトビィに、老竜が言葉も出ない、と近寄った。

「ジュリエッタ・・・いえ、我が水竜の族名が、ブリュンヒルデといいます・・・。正直、驚きを隠せません」

それにはトビィとて驚いた、驚くべき偶然である。
名付けたそれは、水竜族全てを象徴するかのように、神々しく光を放っていた。
トビィの手にしっくりと馴染み、身体の一部であるかのようにすら感じるその剣。

水竜は陸へ上がると非常に弱々しい生命体である、オフィーリアがまだ若いことも察して、トビィは水竜達にオフィーリアを頼み、迎えに来るから、と自分は一人でサイゴンの元へと向かう。
数日かけて城へと戻り報告すれば、歓声を上げてサイゴンとホーチミンがトビィに抱きつく。
水竜、黒竜の二体を短期間で相棒としたというトビィの噂は瞬く間に魔界に広がった。
魔族でも類を見ない優秀振りである、当然だ。
サイゴン達に、オジロンの行き先を問えば、未だに竜探しから帰ってきていないはずだ、と教えられてトビィは経緯を話した。
呆れてホーチミンが怒りのあまり椅子から立ち上がると、爪を噛みながら空を見つめる。

「恥知らずめ・・・!」
「水竜が拒否されたのならば、風竜を捜すかもしれないな。今、魔界の東に風竜の一家が滞在中だと聞いたが・・・」
「解った、出てくる」

サイゴンの話を聞き終えないうちに、トビィは家を飛び出す。
二人も同行したいが、必死に耐え、その後姿を見送った。
オジロンが水竜を殺した証拠がないので、その罪ではサイゴン達は動けない。
同じドラゴンナイトを志すトビィならば、なんらかの事情・衝突でオジロンと対する事が可能である。
トビィの力量は承知しているが、相手はオジロン達5人、万が一も有り得るので祈るばかり。
デズデモーナは未だ魔界に到着出来ていなかった、トビィは信頼も得ていたので城の小型の竜を借り、飛べるところまで進む。
やがて空気薄い山の頂付近でトビィはこの竜と別れると、何かしらの確信を得て進んだ。
何かの叫び声、トビィは夢中で山を駆け上る。
産まれたばかりの竜を連れた緑の竜・・・風竜の母親が魔族に取り囲まれていたのだ。
思わず頭に血が上ったトビィは、大声で突進した。

「貴様! 人間の!?」
「何をしている、オジロン! ジュリエッタでは飽きたらず、また竜を!」

背の剣を引き抜く、驚愕した瞳で見ていた魔族達の目の前でトビィは”ブリュンヒルデ”を抜き放った。

「ジュリエッタの仇、とらせて貰う」
「ほざけ、青二才が! 自信過剰の人間め、返り討ちにしてくれるわぁ!」

トビィの所持する不可思議な剣に戸惑いを覚えつつ、魔族はトビィを取り囲む。
その隙に目配せし、トビィは風竜に逃げるように指示、それが本来の目的である。
トビィとその剣の姿に圧倒され、好機が掴めない魔族、しかし恐れることはない相手は人間で一人きりである。
魔法が扱える者が一斉に詠唱を始めた、使えないものが斬りかかった。
魔法は厄介だ、何が来るか検討もつかないのでトビィは斬りかかって来た魔族を紙一重で避けると、詠唱している者達に斬りかかる。
詠唱を完成させられる前に、それを中断すれば優位だ。
素早く軽やかな動きで、トビィは瞬時に魔族達を蹴散らした。

「こ、このっ!」
「いい加減自分の実力を見極めろ。・・・お前達では無理だ」

あしらう様に軽く髪をかき上げ言い放つトビィに、頭に血が上ったオジロン、威勢だけ良い掛け声と共にトビィに向かう。
しかし、突如悲鳴を上げた。
黒い影が落ちる。
猛々しい咆哮、トビィはその声の主に思わず笑みを浮かべて名を叫ぶ。

「デズデモーナ」
「主、見つけたぞ」

眩しそうにデズデモーナを見上げたトビィと、威圧感に身体を硬直させたオジロン、場を制したのは黒竜。

「主の傍に、共に。・・・下卑た魔族よ、邪魔だ」

紅蓮の瞳に睨まれ、オジロン達は盛大な悲鳴と共に山を駆け下りる。
弱者に対して居丈高な人物は、強者に対しては卑屈になるようだ。
あまりの変わり様子に、流石のトビィも呆れて追う気にもなれず、デズデモーナと再会を喜ぶ事にした。

「アレは何だ、主」
「・・・仲の良かったオレの大事な水竜を殺した、最低な魔族だ。風竜が襲われているようだったので間に入ったんだが」
「ふむ」
「・・・一応あいつらもドラゴンナイト志願なんだがな」
「無理だ、諦めたほうが身の為だがな」
「口で言って解る魔族達じゃないんだ」

肩を竦めるトビィ、おずおずと風竜が舞い戻った。
見れば数が増えている。

「危ないところを・・・助かりました」
「気にするな」

母竜の後方に、デズデモーナより多少小型の風竜が控えている。

「息子です、本来は息子か夫が居るのですが、今日は二人とも不在で・・・」
「そこを狙ったんだろう、そういうとこだけ妙に勘が働くんだあいつら」

舌打ちし、トビィが山の麓を睨み付けた、デズデモーナも威嚇するように咆哮する。

「まぁ、その立派な竜が居れば今後は安心だろう。その幼子が成長するまで、今後は片時も離れないことだ」

デズデモーナの背に飛び乗り、立ち去ろうとしたトビィに控え目で小声だったが風竜が声を発した。

「私はクレシダと申します。・・・同行しても良いでしょうか」

面食らって頭を抱えたトビィ、先程の言葉は伝わらなかったのだろうか、傍に居ろ、と言った筈だ。

「オレはトビィ、ドラゴンナイトを目指しているが既にデズデモーナと、水竜のオフィーリアが相棒だ。正直・・・」
「興味がありますゆえ」

全く話を聞かない風竜、苦笑いでトビィは母竜を見たのだが、息子を唖然と見ているのは母も同じである。

「トビィ様、と申されましたね。クレシダが自分から意見を言うのは稀なのです、よければ連れて行ってやって下さいませんか」
「いや、しかし・・・」
「もうすぐ旦那が戻りますから、こちらの身はご心配なさらず」
「む・・・」

引き下がらない風竜に、思わず困り果ててトビィはデズデモーナを見たが、苦笑いで返された。
数分迷っていたのだが、ようやくトビィは手をクレシダに差し伸べたのだ。

「よろしく、クレシダ」
「お願い致します、主」

こうして、ひょんなことからトビィは三体の竜を手に入れたのである。
黒竜・デズデモーナ。
水竜・オフィーリア。
風竜・クレシダ。

魔界ではもっぱら噂が飛び交う、もはや英雄扱いだった。
憮然としてトビィは騒がれながらサイゴンと共に魔界会議へ参加すべく街を歩き、興味はなかったのだが初めて魔王達に対面する。
銀の長髪、笑みを湛える魔王・リュウ。
漆黒の長髪、冷淡な無情の魔王・ハイ。
人型ではない、不吉な邪気を漂わせる魔王・ミラボー。
そして優美な容姿だが、今ひとつ掴めない魔王・アレク。
その姿を目に焼きつけ、トビィは然程関心なく家へ帰った。

「・・・マドリードは未だ戻らないのか? 遅すぎやしないか?」
「流石に・・・俺も不安なんだが・・・。いや、でもトビィがいるから時間の流れを感じるのであって、魔族にとって本来5年などどってことないし・・・」

積もりに積もった話を、サイゴンとするトビィ。
やはり気がかりなのは、無論マドリードである。
明日は、トビィの16歳の誕生日であった。


「ふぅ、ただいまイヴァン・・・」

マドリードは小高い丘から久方ぶりの故郷に安堵の溜息を漏らす、金髪を靡かせて腰に手をあて、立っていた。
人間界から戻ってきたのだ、悠々と翼を広げ家へと向かう。
トビィはどれほど成長しただろうか、見るのが楽しみだった。
稀な才能を垣間見せていた、弟のサイゴンに頼んだし今頃立派な青年と少年の狭間で魅力溢れることになっている・・・と、笑う。
が、すぐに周囲の様子に気づいた、囲まれているのだ。
深い溜息一つ、見せた表情は険しく瞳は金に禍々しく光っている。

「ビアンカね? 休ませて欲しいものだわ」

至極落ち着いた様子で言い放ったマドリード、黒髪の女性が木陰から姿を現し、指を鳴らせば何処に潜んでいたのか魔族達がぞろぞろと出てくるではないか。
呆れたように再度深い溜息、情けなく見渡す。

「女一人に、この様なの? 情けない」

強気な態度を変えないマドリードに、赤い唇を歪ませビアンカ、と呼ばれた女は顎で一人の男を指図した。

「なんとでもお言い、目障りなお前さえ潰せば手段など、どうでも良いのさ。オジロン!」

傍らのオジロンは、無造作に何かをマドリードへ向かって投げつけた、瞬時に青褪めたマドリード。
身体を硬直させ、震える唇から辛うじて吐き出した言葉と共に、戦闘態勢に入る。

「ビアンカ、あんた!!」

悲痛で苦悶の表情を浮かべた人間の頭部が数個足元に、身体は惨殺さればらばらだ、死臭がすることから死して数日が経過しているのだと思われたが、まだ新しい。
それは、トビィと同じ様にビアンカが以前魔界へ連れてきて育てた人間達であったのだ。
瞳に燃え上がる憤怒、両手で大きく印を結びビアンカへ怒涛の魔力を放出する。

「巡る鼓動、照らす紅き火、闇夜を切り裂き、灼熱の炎を絶える事無く。我の敵は目の前に、奈落の業火を呼び起こせ! 全てを灰に、跡形もなく・・・爆熱大火撃!」

火の属性、禁呪を省いて現段階で最強の魔法にオジロン達数名は大火傷と負いそのまま吹き飛ばされた。
舌打ちし、怪我を負ったものにもう行けと大声で怒鳴ったビアンカはマドリードと同等の呪文を唱え、解き放つ。
瞬時に焼け野原と化すその丘で、二人の女が対峙した。
三名のビアンカ直属の男が残り、マドリードを囲む。
しかし抜き放った小剣で男二人を軽やかに翻弄し足を斬り付け、その場に倒れこませると余裕の表情でビアンカを睨みつけた。
強大な斧を背負い、ビアンカがギラギラと瞳を光らせながら間合いを詰めてくる。

「昔から気に食わなかったんだ! 人間なんぞに甘いのに、地位の高いアンタ・・・。私に寄越せ!」
「私を殺しても、私の地位は得られぬ」
「喧しい!」

大事な人間の子を虐殺された怒りと悲しみがマドリードを突き動かす、飛び交う斧の攻防、とてもそれには小剣では対等に戦えない。
また、残っていた男達も厄介だった、弱いながらに非常に邪魔なのだ。
間合いをぬっての詠唱、魔界の片隅で魔力のぶつかり合いが激しく起こっている。
広野と化したその場所で、満身創痍な二人の魔族はそれでも死に物狂いで戦った。
数時間の長い間、男達はすでに息絶えていたが、ビアンカとマドリードはその場に睨みながら立っている。
互いに限界を超えていた、立っているのがやっとだ、それでも互いの嫉妬と憎悪、それだけでそこに居る。
二人が同時に手を掲げた、最後の詠唱になりそうだった。
雲が裂け、青空が見えるそこから二人同時に同じ呪文を放った。
雷撃の呪文、当たれば感電、上手く良ければ勝利である。
僅かに早く、マドリードの放った雷撃がビアンカを直撃した、絶叫が響く。
自らに落下する雷を避けようと倒れこむように地面を転がり、必死に感電から逃れるべく身体を動かす。
飛べばそれこそ格好の的だ、傷だらけでマドリードは転がった。

「ぐっ・・・」

地面を伝ってくる電撃に、思わず顔を顰めて身体を震わせる。
それでもマドリードは懸命にある場所を目指した、行くべきところがあるのだ。
自分の家ではない、トビィに会いたいのも確かだ、しかし。

「アレク・・・様・・・アレク・・・さ・・・ま」

声が出ないので、城の一室へ向けて念じるマドリード。
やがて城の一室から銀の髪を靡かせ、血相抱えた美男子が顔を出した。
その姿を見て安堵の笑みを零すと、そのまま息絶え絶えにマドリードは語る。

「も、もうしわけありませ・・・ん。ビアンカに・・・やれてこの様で・・・す」
―――今行く! 話すな!―――
「い、いえ。もう、無理で御座います。サイゴンに、弟のサイゴンに・・・。お役にたてず、もうしわけ、ありませ・・・ん。アレクさま、の、ゆ、め・・・が」
―――マドリード!―――

途絶えたマドリード、アレクは直様控えていた直属の部下、スリザを呼び寄せ、マドリードの元へ行くように指示を出す。
一人部屋で項垂れ、アレクは涙を零した。
魔王直属の命を受けていたマドリード、危険な依頼をしていたアレクは、自身を責める。

トビィの誕生日当日。
マドリードの亡骸が届けられ、弟のサイゴンに引き渡される。
やってきたのはサイゴンの直属の上司でもあるスリザと、親友のアイセル、そして泣き止まないホーチミン。
死して尚美しいマドリードを見つめ、トビィは吐き気に襲われていた。
育ての親が死んだときですら、こんな情は湧かなかったのに、この胸に立ち上る不可解な気持ち・・・マドリードを殺した相手に憎悪。
親しいものだけで、密やかにマドリードの葬儀は行われた。
こんなことさえなければ、特に心に残らない誕生日であったろうに。
トビィ・サング・レジョン、16歳。
母であり、姉であり、恋人であり・・・美しき気高き魔族・マドリード。
天へ立ち上る黒煙を見上げながら、トビィは呆然と死を受け入れられずに居た。

数日後、サイゴンはアレクの部屋のドアを叩く。
震えながら入室し、跪いて姉の真相についてアレクから説明をきかされて、静かに微笑んだ。

「アレク様から直属の命を受けていたのですね。そのお役目、姉に代わり是非、俺に」
「いや・・・これ以上の犠牲は出したくない。この件はもう良いのだ・・・」
「しかし!」
「それよりも、サイゴン。マドリードの残した最後の人間・・・あの子を護ってくれ」
「トビィは、護られるようなたまではありませんよ。大人しく傍らに居ると思えません、何しろドラゴンナイトの称号を得ました、自由です」

苦笑いしていたサイゴンだが、急に顔を引き締めると、さらに地面に顔を下げた。

「姉の意志を、俺に」
「本当に、良いのだサイゴン。私が謝らねばならないというのに・・・」

アレクの顔に、陰り。
秀逸な芸術品のような優美な横顔が、子供のように泣いている。
窓の外から見下ろしたその先に、魔界。
自分が統治している魔界だが、今他から魔王が三人、来ている。
・・・時間が、ない。

「勇者を。勇者を捜して会わなければ・・・。会って話を聞いてもらわねば・・・」


数週間後、マドリードの死を未だに振り切れなかったトビィは旅に出る事にした。
ドラゴンナイトの称号も得て、本来ならば隊長クラスの実力も兼ね備えていたのだが人間であった為にそれは却下された。
ならば特に居ても居なくても良いのだと、トビィは久方ぶりに気ままに人間界を旅することにしたのである。
竜三体が共に一緒なのでサイゴンも安堵していたが・・・胸騒ぎ。
実力もあるので、心配は無用のはずだが、どうもトビィを見送る際に引き止めたくなった。
不安で仕事も手につかないサイゴンに、ホーチミンとアイセルが励ますのだが、項垂れていく。
それは、魔界を出て数ヶ月。
食料調達の為、竜三体を置いて森林へ入った時であった。
三体の竜がトビィと止めた、胸騒ぎがしたらしい。
しかし、軽く笑ってトビィは離れていったのだ。
出てきた人物に深い溜息、迷うことなく剣を抜く。

「しつこいな、オジロン。その火傷はどうしたんだ。オレを追う暇があれば、もっと精進すればいいだろ」

そう、オジロンである。
未だにトビィを付けねらっていたのだ、数名の部下と共にトビィを取り囲んでいた。
森とはいえ、多勢に無勢とはいえ。
トビィは負ける気すらなく、見事に倒していくのだが、オジロンが投げた髪に見覚えがあった。
金髪。
見た瞬間、頭に血が上る、沸騰する。

「マドリード!」

冷静なトビィならば、難なく倒せただろう、しかしその瞬間にトビィはオジロンしか目に入らなかったのだ。
緊縛の呪文を唱えた二人の魔術師に、思わず避けそこなったトビィは地面に見えぬ糸で絡め取られる。

「お前にはプライドがないのか!?」

足元まで来てトビィの顔を踏みつけるオジロンに、情けなく怒りを籠めて叫ぶトビィ。

「はっ、プライド? そんなもん、ないね、わしの求めるものは勝利と名声。貴様に勝てば見事この俺様もドラゴンナイトに昇格だ! 
わははは、なんだ、少しくらい能力が秀でているからってただの・・・人間のくせに」
「それでドラゴンナイトが務まると思ったら、大間違いだが」
「減らず口を!」

オジロンを筆頭に動けぬトビィに暴行を加える魔族、反撃出来ないと解った途端に急に勢いを増して魔族達はよってたかってサンドバッグのようにトビィを甚振る。
命乞いもせず、喚きもせず、トビィは耐えた。
マドリードが目の前のこのような卑怯な魔族にやられるわけがないので、他にも仲間が居たのだろうと判断、決して屈しないトビィの強い瞳が気に食わないのだろう、オジロンは顔を何度も強打する。
トビィのブリュンヒルデを気に入り、オジロンは意気揚々と触れたのだが、瞬間眩い光を放ち一気に周囲に冷気が漂う。
持ち主を選ぶのだ、当然であるもとはジュリエッタの一角、仇のオジロンに触れられれば反発もするだろう。
やがて、トビィの心肺が停止した。
ブリュンヒルデが持ち帰れないと悟ったオジロンは、詰まらなさそうにブリュンヒルデを破壊する。
森に、トビィの亡骸。
森に、ブリュンヒルデが原型を留めず。
木霊する、オジロンの笑い声。

・・・起きて、起きて、トビィお兄様。助けに、来ましたっ。

月明かりが、トビィを包む。
デズデモーナの背に乗っていたトビィは、はっとして我に返ると月を仰いだ。
過去を思い出していた、懐かしい場景だった。
忌々しそうにオジロンを思い、次に会ったら息の根を止めるべく再度誓いを。
トビィの手にあるのは、無論”ブリュンヒルデ”。

「アサギ。待っていろ? 今助けに行く、あの時助けてくれたように、必ずオレがアサギを助けるから・・・」

紫銀の髪を風に流して、月を背に孤高のドラゴンナイトは三体の竜と共に魔界を目指す。
アサギという名の娘を助ける為に。

キィィィィ、カトン・・・・

歯車が、回った。
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長!
クレシダ出番少!(笑)
トビィの後ろ 2008/10/31(Fri)11:48:46 編集
それは(視線逸らし)
時間がなくて、これ以上延期するわけにもいかず。
仕方なく、あぁなったのでござりゅんよ?

たーぶーんーねー(おぃ)。
まこ 2008/11/01(Sat)00:37:27 編集
トビィお兄様ファン、急増ありがとうございます編
コアなファンが多いトビィ。
でも、一位は奪還出来ずー。

トビィの見せ場は作者的に四章からだと思っているので、ちょっとわくわく。

・・・主人公の彼氏、出番ないのが気の毒なので実はそのうちトランシス出動したりとか。
※作者御贔屓につき

ともかく、アサギ編を進めないとどーにもなりませんな。
まこ 2008/11/05(Wed)00:02:24 編集
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