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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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Image195.jpg完成。
ちまちま書いていたら、ようやく完成。

次、トモハル編ですー。
本サイト、気づいたら4000ヒットでありがとうございましたー。

画像は、昔から憧れている(絵も文も共に)おねーさん。
左がマドリードで右がビアンカ。

ビアンカは、この間外伝8にも出てきました、そういえば。
マドリードは人気が高くて、私も好きなおねーさまです。
トビィに関与する美女は、皆人気高いなぁ・・・。

41→折角なので、トモハル出しますー。

42→ケンイチ編、開始。
怪しい二人組みの追跡、及び魔物との戦闘

43→ザーク、死亡。
死因を探るべく、調査。

44→なんかユキがケンイチを気にし始めた今日この頃、いかがお過ごしですか(おい)、な話。
道場に出向き訓練をする日々。

45→頻繁に街で起こる強盗や殺人を突き止め、裏と対峙

46→アリナ達、船から降りる。
シポラ城へ

47→ミシア、魔族2人に崇められ「破壊の姫君」であると告げられる
何食わぬ顔で仲間達と合流

48→ジェノヴァへ戻り、集結

49→アサギ・トモハル編開始


「オレはトビィ」

臆することなく平然と自分の名を呟き、真っ直ぐにマドリードを見返してきたトビィに、軽く瞳を開く。
が、直ぐに口元に笑みを浮かべると優しく抱き締めそのまま羽根を広げて宙に浮くと、先程指した方角へと飛び去った。
若干9歳、けれども歳に不釣合いなほど堂々とした様子のトビィに、マドリードは関心が耐えない。
見た目麗しいのは確かだが、単に怖いもの知らず、というわけでもないようだ。
トビィの奥底に、何か”違和感”を覚えたマドリード、家の庭に舞い降りる。
目の前の家を見て、トビィは隣のマドリードを見比べた。
小さな家だった、純白でカントリー調の家だ、容姿から判断するともっと派手で豪華な家を好みそうだが、これはこれで彼女に合っているな、と不意にトビィはそう思う。
庭には大きすぎず控え目な花たちが、百貨絢爛咲き誇っていた。

「・・・これはマドリードが?」
「えぇ、趣味なの。変? 魔族の人間を虐殺する女が花を愛でるのは?」
「いや、そういう意味じゃない。・・・あぁ、あの白い小さな花がマドリードには似合っている」

歩きながらさらり、と感想を述べるトビィ。
くすくす笑いながら、マドリードは玄関のドアを開いた。
普通なら自分の村を消滅させられたのだ、トビィのマドリードに対する感情・行動は真逆でも良いだろう。
しかし、トビィは大人しくついていくと慣れた様子で椅子に座り会話を待つ。
大人びているその様子に、マドリードのほうが多少戸惑った。
簡単に夕飯を作り、二人で言葉少なく口へ運ぶ。

「美味しいな」
「口に合ってよかったわ。こういった田舎料理しか出来ないけど・・・」
「いや、十分だ。温かみがある」

長く麗しい金髪に、豊満な身体、一見こういった家事とは無縁な女性に見えたが、家庭的なようだ。
手入れされた庭といい、片付けられた部屋といい、品の良い壁の絵といい・・・。
とても、人間を抹殺した女性には見えない。
焼きたてのパンに、トマトの牛肉煮込み、ワインとサラダ。
すっかり寛いでいるトビィを部屋へと誘うマドリード、ベッドに転がり、ようやくトビィは疑問を口にした。

「で? オレを魔界へ連れて来た理由は? 人間の村を消滅させ、その生き残りのオレに何か意味が?」

髪をかき上げながら挑戦的にマドリードを見るトビィ、その鋭い視線に思わず固唾を飲み込んだマドリードは、トビィに近寄ると髪を撫でる。

「私、美しいものが好きなの」
「・・・それだけ?」
「まぁ、それだけね。トビィが余りにも私好みだったから、ついつい。もちろん初めてじゃないわ、綺麗だ、と思えば過去にも何人か人間を連れて来た」
「へぇ、それはまた酔狂で」
「そうかしら? 美しいものを愛でてはいけない?」
「良い趣味だと思うけど。では、何故あの村を?」

大人しく撫でられながら、質問の続きをするトビィ。
苦笑いで躊躇いがちに口を開いたマドリード、微かに表情に陰りが見える。

「魔界には様々な魔族が居るのだけど、現魔王・アレク様を守護すべく産まれながらに魔力が高い人物は、両親から離されて英才教育を受けるの。
それが私、当然魔族に敵対するのは天空の神々だけれど、人間とて侮れない。
稀に特異な魔力を持つ人間が現れ、それは魔族にも匹敵するし、数だけでいけば人間のほうが上よね。
カリスマ性の高い人間の下で、完璧な軍師、統率力の高い人間達が揃い、立ち上がれば魔族とて危険だわ。
近年、徐々に人間も魔力を高めているし、人口も増えている・・・。
私は、人間の数を一定に保たせるように指示を受けているの、稀にあぁして人間界へ赴き、村を滅ぼすのよ。
山奥の小さな村を狙うのは、そのほうがね、秀でた人間が現れる確率が高いから。
酷いでしょ、信じてくれなくても良いけど人間が目障りで抹殺しているわけではないの、自分の命の為に手を下しているのよね。
・・・断れば、私が反逆罪で処刑だもの」
「成る程ね、でも、いいわけ? 人間を連れて帰ってきて」

マドリードが趣味で人間を殺す人物ではないことは、トビィとて解った、容姿とは裏腹に繊細な心の持ち主であると判断したのだ。

「魔界で、魔族と共に生活する人間なら高い能力の持ち主のほうが大歓迎よ。・・・無論、離反すれば即抹殺だけれど」
「くわばら、くわばら」
「人間と共存を望む魔族も、少なくはないの。ただ、やはり古株の魔族や血の気の多い魔族は人間を敵視しているのよね」
「へぇ・・・大変だね、魔族も」

トビィは魔族に詳しいわけではない。
村人から一通りの知識と学問、剣術などは教わっていたが魔族に関してはある程度しか聞いていない。
というよりも、人間で魔族に詳しいものなど一握りだ、今し方トビィが聞かされている内容はほぼトップシークレット。

「私のように人間界から好みの人間を攫ってきて、共に暮らす魔族も少なくはないし」
「何させるわけ?」
「・・・色々と」
「だろうね」

喉の奥で愉快そうに笑ったトビィ、挑発的にマドリードを見やると、不意にその金髪を優しく手に取り口づける。
下からの鋭い上目遣いに思わず鳥肌を立たせたのは、マドリードだった。
若干、9歳である。
しかし、この自信と色気は天性のものだ、自分はとんでもない拾物をしたのではないだろうか、と心から打ち震えた。

「・・・あの村は近くの街で祭りがあったから半分が出払っていた。・・・マドリード、そこを狙っただろ?」
「え」

笑いながら言うトビィに、愕然とする。

「極力人を殺したくないマドリードは、数日前から見ていたんじゃない? 村を一つ壊滅させれば堂々と報告出来る、まさか人間の数までは申告しないんだろ? ・・・違う? 図星だろ」

思わず言葉に詰まった。
確かにそうだ、山奥の村に目星をつけた、極力人数が少ない村にしたのだが、様子を見ていれば数日後に人数が減る、とのこと。
近くでその日を待っていた。
言葉が出てこないマドリードに、トビィは勝ち誇ったように笑う。
無邪気で、残酷で、そして完全に掌握したような笑みを。
数分後、思わずトビィを抱き締めベッドに倒れ込むと、ようやく深い溜息のあと、マドリードにも笑みが戻った。

「賢い子ね、トビィ。ますます気に入ったわ」

トビィの唇に、そっと自分の唇を重ねる。

「で? オレのことは何、夜の玩具扱いなわけ?」

意地悪な口調でマドリードの髪に触れているトビィは、小さく含み笑いをしている。

「・・・先ほども言ったように、私は綺麗な者が好きなの」
「あぁそうだね、オレも綺麗なのが好きだけど」

マドリードは、顔を顰めた。
油断した、ただの子供だ相手は。
しかし、その内に秘めている”何か”が、尋常ではなく。
誘うような視線と、どちらが組み敷かれているのか分からない態度に狼狽する。

「いけない子ね、トビィ」
「何が?」

笑いながら二人は、そのまま、自然に身体を重ねた。


魔界で過ごし、早四年が経過。
声変わりを迎え、元々大人びていたが逞しく、けれども美しさは損なわないまま成長したトビィ。
魔性の美童は、魔性の少年へ。
成長するほど、世の異性を虜にしそうな魅力は高まる。
ある日、緑の肌に濃紺の長髪の男が一人、マドリードの家を訪ねてきた。
二階からトビィはそれを見ていたが、マドリードとは親しい様子で、特に警戒もなく。
トビィの視線に気づき、朗らかに手を振る卓越した様子の青年に、思わずトビィも手を振り返すとそのまま駆け足で一階へと下りる。
サイゴン、という名のこの青年はマドリードの弟だった。

「似てない姉弟だな? 髪の色とか・・・」
「あぁ、母親が違うんだ」

気にする様子もなくそう言って握手を求めてきたサイゴン、人と親しくするのが苦手なトビィだが、彼の手だけは素直に受け入れる。

「君が噂のトビィ君か、姉さんから聞いているよ。よろしく。剣士のサイゴンだ」

背負う長く大きな剣、下ろせば非常に重そうな音が床に響く。
マドリードが暫く留守になるというので、代わりにサイゴンが呼ばれたのだそうだ。
トビィの頬に優しく口づけると、笑みを浮かべてマドリードはそのまま家を出る。
男二人残され、サイゴンは不慣れながらもトビィに茶を煎れ始めた。

「姉さんのように掃除も家事も全く出来ないが・・・あれだ、男らしく豪快に生活しよう」
「・・・料理は?」
「男の料理は気合で切る、焼く、煮る! もしくは生!」
「・・・料理はオレが担当しよう、悪いなオレ、舌に煩いんだ」
「はっはっはー。任せた」

初対面ながらマドリードの弟、ということもあってか、直ぐにサイゴンと打ち解けたトビィ。
兄と弟というよりかは、むしろ友人のそれに近い。
というより、トビィのほうが精神的に大人びているようだった。
サイゴンに剣術を教わりながら、稀に家を出て二人で森でキャンプをし、豪快に生活する。
兎を獲って、焚き火で焼き、塩を振ればそれだけでご馳走だ。

「野生的だな・・・」
「男は野性味溢れないとな、面白いだろ、こういうのも」
「まぁね」

星を見上げながら、二人で暖めた酒を呑む。
無骨な性格かと思えば案外ロマンチストなサイゴンは、時折星を見つめながら伝承の話をトビィに聞かせた。

「人間界ではどうなっているのか知らないが・・・。魔族では古くから言い伝えがあるんだ。
”あの星の海の向こうに、とびきりの美少女が一人で住んでいる”・・・ってね。
まぁ、誰が考えたのか、単におとぎ話だけれど、彼女ならどんな願いも叶えてくれるんだそうだ」
「とびきりの美少女、ねぇ・・・。ありがちな話だな、魔族はもっと現実的かと思っていたよ」
「そんなことはないぞ、予言だって信じるし、結構迷信好きだ」
「・・・予言?」

聞き返したトビィに、思わずサイゴンは口ごもる、どうも口を滑らせたようだ。

「あぁ、返答はいいよ? 困ることなんだ」
「いや、うん、その、なんだ・・・。・・・そのうち話すよ」

苦笑いしてトビィはカップの酒を飲み干す、見上げた夜空は星が眩く少し切なくなった。
横顔を見ていたサイゴンは、声をかけるのを躊躇い、無言のまま二人で星を見る。

「緑の髪の女の子を、捜してるんだ」
「え?」

トビィが不意に漏らした言葉に、思わずサイゴンは聞き直した。
真顔で視線を星から移すことなく、トビィは続ける。

「気がついたら夢に出る、今でも夢に見るんだ。緑の髪の可愛い女の子。彼女を護る為だけに、オレは産まれて来たとそう思っている。
何処かに、居る筈だ」
「緑の・・・髪?」

訝しげに呟いたサイゴン、それきり、黙る。

「緑の髪、そんなに珍しいか?」

怪訝にトビィは視線をサイゴンに移した、が、今度はサイゴンが地面から視線を逸らさない。

「・・・気にしないでくれ、ただの偶然だ」
「気になるな、なんだよ」
「・・・おとぎ話の宇宙の片隅のどんな願いも叶えてくれる美少女、その子が緑の髪」
「へぇ」

ただの、偶然だ。
トビィは苦笑いして焚き火にかけてあった鍋から、酒をカップに注ぎ入れて再び呑み始める。

「・・・予言の子も、緑の髪だ」
「何だって?」

酒の煙が、星空へ舞う。
神妙な顔つきのサイゴンを、険しい表情でトビィは睨みつける。
森の木々が、風に揺すられて囁くようにざわめく。
晴れているのに、突如小雨が通り過ぎた。
焚き火の日が、瞬間燃え盛った。
月の光が、眩さを増して二人に降り注いだ。
・・・大地の小さな芽が、微かに震えた気がした。

「現魔王・アレク様。交代の兆しが・・・出ているのだそうだ」
「歳なのか、アレクとやらは」
「いや、若い。若く、賢く、有能で歴代の魔王でも相当な人気を所持する最高のお方だ。
だが、交代の兆しが出ている、と」
「それは・・・」
「成り代わろうとする謀反者が居るか、それかアレク様を凌ぐ人物が現れ王位を譲るか、或いは暗殺され・・・」
「物騒な予言だな」
「次の魔王が・・・緑の髪の娘」
「何だって?」

トビィとサイゴンの瞳が交差する、ただの偶然だろう、と二人は思った。
しかし。

キィィィィ、カトン。

瞬時に二人は傍らの剣を構え、背を合わせて周囲を窺った。
今、確かに奇怪な音がした。
まるで、歯車が軋みながらまわったような、音だった。
緑の髪の娘、そのキーワードが二人に多過ぎるほど付きまとう。
サイゴンは直感した、マドリードが人間界でトビィに出会い、連れて来たのは必然だったのではないかと。
トビィは思った、自分は緑の髪の娘を守護する為に、魔界へ連れてこられたのではないか、と。

マドリードの家に戻ってきた二人は先日の予言の事を口にすることなく、普段通り生活する。
男二人にも慣れたし、掃除もサイゴンが懸命に行っていた。
夜に二人で飲み交わす酒が楽しくて、今日もちびちび、酒を呑む。
ほろ酔いのサイゴンは、ベッドに転がりながらベーコンをつまみにして呑んでいるトビィを恨めしそうに見やった。

「トビィは、いいよな」
「何が?」
「彼女とかすぐに出来そうだよな」
「はぁ?」

子供を捕まえて恋愛相談か、吹き出すトビィ。
しかし、サイゴンは深刻だった、真顔でクッションを抱きかかえ、するめを齧りながら語る。

「身長が低くて、ふりふりのドレスとか大きなリボンが似合う子が彼女に欲しくて・・・」
「サイゴンなら引く手数多だろ? 顔だって悪くないし気さくだし・・・」
「自慢じゃないが産まれてこの方、彼女が出来た事がない」
「激震」

人間と違い、魔族は長命だ、サイゴンとて何年生きているか分からない。
それで彼女がいないとは・・・重症じゃなかろうか。

「可愛い彼女が欲しいなぁ・・・。でも、姉さんと幼馴染のホーチミンに悉く邪魔されて気づいたらこんなイイ歳に・・・」

初めて聞く名が出た、ホーチミン。

「ホーチミン?」
「あぁ。好きな子が出来るとさ、ホーチミンが彼女達を苛め抜いたんだ。お蔭で嫌われ者の俺・・・。うかつに近づけやしない・・・。最近だと、武器屋の女の子が可愛くてさ、声をかけたんだが風のように飛んで来たホーチミンによって、バイトをやめて何処かへ引っ越した」
「どうしてホーチミンがそこまで邪魔するんだよ」
「俺のことが好きなんだよ、あいつ」

落胆するサイゴン。
首を傾げたトビィ。

「ホーチミンでいいじゃないか、彼女。可愛くないのか?」
「可愛いとか、それ以前の問題だ! 男なんだよ、ホーチミン」

呆れたように言葉を出したトビィにサイゴンが返した言葉、それで全てを理解した。
一瞬の沈黙が、トビィの大爆笑で切り裂かれる。
瞳に涙を浮かべて、サイゴンはその爆笑を聞いていた。

数日後。
居場所を突き止めたのか噂のホーチミンがやってきた、追い返すべく気合で出迎えたサイゴンだが数分しないうちに家に入り込む。
巨大な荷物が、居候を決め込んだホーチミンの決意を二人に予感させる。
確かに。
見た目だけならば極上の女性だ、ホーチミンは。
マドリードと同じ見事な金髪、男性の好きそうな艶やかなストレート。
背丈が高いがスレンダーで足元までの長い丈のドレスを着用し、サイゴンの趣味に合わせてなのか頭部に大きなリボンをあしらっている。
物腰上品、知らなければただの”美女”だ、しかし、男らしい。
声が、確かに低音で男だった。

「あなたが噂のトビィちゃんね。初めましてホーチミンよ、ミンって呼んでね」

後方にコスモスでも背負ってそうな感じだ、初めて見るタイプゆえに、トビィは苦笑いで握手をする。
壁に手をつき、項垂れているサイゴン気の毒そうに見つめたが、ホーチミンは気にすることなくフリフリのエプロンを装着すると勝手に夕飯の準備を始める。

「腕によりをかけて・・・、今晩は私の手料理を召し上がれ。ついでに私も召・し・上・が・れ♪」

きゃ♪
スキップで勝手に調理を始めるホーチミンに、泣き崩れたサイゴン、引き攣った笑みを浮かべながらトビィはサイゴンの耳元で囁いた。

「もう、諦めたら? 本気だ、あの人」

手料理も完璧で、”女性ならば”土下座してでも嫁に来て貰うべき人物だ、気立てもよいし良く働く。
マドリードは田舎の家庭料理が得意だったが、ホーチミンは何でも作れた。
豚のローストも時間をかけ、丁寧に、スープも出汁から繊細に。
トビィの舌も満足し、三人での生活が始まる。
夜、隣のサイゴンの部屋から悲鳴が聴こえるのも慣れた。
ホーチミンが毎晩懲りもせず、夜這いをかけているのだ。
最初はあまりのサイゴンの喚きに眠れず外に出ていたが、慣れとは恐ろしい。
宮廷魔術師のホーチミン、そして只者ではないと思ってはいたが、サイゴンとて魔族では名の知れた剣士で普段は城の警護をしているのだというそんな二人に囲まれ。
トビィは毎日充実した生活を送っている。
ただ、マドリードが一向に帰ってこなかった。
一度、サイゴンに連れられて人間界の街へ出向いたトビィは、興味惹かれることなく街を散策し、魔界へ戻る。
そう、魔界のほうがトビィにとっては居心地がよかったのだ。
その時に、奇妙な視線に思わず背筋を震わしたが・・・それが今後トビィに降りかかることになるなど予測すら出来ず。
月日が流れてトビィは、魔界で14歳になった。

天性の才能、そして修行の成果、一人前の剣士としても十分通用できるトビィ。
人間界に戻れば直ぐにでも知名度が上がるほどの達人になれるだろう、だが、トビィは魔界で過ごすことを決意。
15歳になると、魔界では職業を選択せねばならないらしく、サイゴンからその説明を受けた。
連れて来られた人間も、無論そうして何かしらの職についているらしい。
人間と魔族の寿命が違う為、魔族は200歳程で職を選択しても良いのだが、人間は短命種なので15歳だと決められているそうだ。
緑生い茂る森の中、静かに剣を掲げたサイゴンを、じっと佇んで見守るトビィ。
サイゴンの持て得る剣術は、トビィに教え込んできた。
基礎から丁寧に、飲み込みの早いトビィに驚きつつも手を抜くことなく焦ることなく。
人に教えて事などなかったサイゴンだが、自身が師匠から教えて貰ったように、基礎を大事にして唇を尖らせるトビィを宥めてきたのだ。
マドリードの弟ということもあってか、腕を買われて現在は魔王直属の部隊にまで配属になっているサイゴン。
トビィの能力も高く評価しているのだが、一つ不安要素が残る。
魔族の多くは人間に好意的だが、ほんの一握りの魔族が、敵視してくる魔族のせいでトビィが潰されることが怖い。
大丈夫だろうとは思うし、自分もホーチミンも全力で護る予定だが・・・何が起こるか分からない。
本当の肉親以上にトビィを可愛がっていたサイゴンは、過保護気味だ。
剣先を、空中へ雲を突き刺すように掲げたまま静かに語るサイゴン。
表情が、険しい。
初めて垣間見るサイゴンの本気、思わずトビィの肌が鳥肌になり背筋に緊張が走った。

「ドラゴンナイトになりたかったんだ。だが、難しくてね、剣の腕は評価されてもそれだけでは無理だ。挫折して剣士になった」

気合一閃、剣を振り下ろすと大地が避け、目の前の大木が一気に木っ端微塵になる。
風圧だ、溜め込んだ気合だけで強力な一撃を瞬時に爆発させたらしい。
唖然と見つめるトビィ、至極真剣なサイゴンの表情が平素の温和な表情へと戻る。

「中距離で一方にしか効果がいかないが・・・結構協力だろ? ドラゴンナイトを諦めた俺が死に物狂いで編み出した技が・・・これだ」

かなりの破壊力だが、決してひけらかせることなく。
ドラゴンナイトとは竜に乗り空を駆け巡る、飛行タイプの戦士である。
竜と共に過ごすが、無論地上に降りても戦闘能力が高くなければならないし、槍に剣の技術も必要だ。
そして問題の竜だが、相棒となる竜は自分で探さねばならない。
そこで挫折する魔族が多いらしい。
魔界の城にも竜が数体生息、待機しているのだが、真のドラゴンナイトは、自分で竜を説得しなければならなかった。
竜に認められること・・・それが最低条件である。
最も難関である、最低条件。
長年に渡りドラゴンナイトを目指している魔族も少なくはないらしい、サイゴンは無理だと直感し、直ぐに職を切り替えたのだという。
トビィに近寄ったサイゴンは、頭を撫でながら逞しく成長したトビィに兄の視線を投げる。

「トビィ、何になりたい?」

選択する職は、サイゴンとて解っていた。
が、一応聞いてみる。
勝気に、普段通りに微笑んだトビィは一言だけ、こう言った。

「ドラゴンナイト」

聞いた時点で決めていた、自分に最も相応しい職だと思った。
サイゴンの無念を晴らしたいとも思った、それも事実。
しかしそれ以前に興味が膨れ上がった職がそれであり、そして自分の限界を試したい職でもあり。
何より、竜さえ共に居れば緑の髪の少女を容易く捜せそうな気がしたから。
満足そうに豪快に笑ったサイゴンは、眩しそうにトビィの肩を叩いた。

ホーチミンも加え、ついにトビィは魔界の城へと出向く。
職の申請に来たのだ、物珍しそうに好奇な視線を投げかけれながらも、臆することなく歩くトビィ。
傍らにはサイゴンとホーチミン、それだけでも注目の的である。
トビィの姿に溜息を漏らす女性も多く、また、将来有望だと感心する者も多く。
そして当然、好意的な視線を投げかける者の他に、忌々しそうに見ている者達も当然居た。
同じく、ドラゴンナイトへ申請をしている者達である。
今回、トビィを含めて六人が申請届けを出していた。
容姿は標準を下回る、お世辞にも美形とは言い難い男達で、それが余計にトビィに嫉妬の念を抱いたのかもしれない。
5人の魔族の主格の男を、オジロン、という。
舌打ちしてホーチミンがトビィにそっと寄り添うと、オジロンに威嚇気味に睨みをきかせる。
厄介な男だった、妙に実力もないのにドラゴンナイトに執着し、長年に渡って申請している落ちこぼれ組みだが、性格が陰湿。
トビィが本格的に城内でドラゴンナイトと成るべく訓練を開始したので、サイゴンも長期休暇を解除し、今は城内で警備をしている。
当然宮廷魔術師のホーチミンも暇を見ては、トビィの応援に来ていた。
数ヵ月後、初の試合が行われ当然トビィはその頂点に立った。
僅か六名の試合とはいえ、人間で優勝したのはトビィが初であり、より一層トビィの注目は高まる。
腕も確かで、見た目麗しく、そんなトビィに魔族の女達は色めきたって我先にと声をかけ始めた。
その多くには目もくれなかったが、引き摺らなさそうな女で色香が高い美女の声には、トビィも応じ一夜を共にする。
閨事においても優秀だったトビィは、その点でも女性陣には非常に高かった。
だが、恋人は作らない。
そんな態度ですら、さらに彼の魅力を引き立たせてしまう。
優勝後、城に居る練習用の竜で飛行を習い、いとも簡単にドラゴンナイトへの道を順調に進んだ。
巧みに操り、魔族に慣れている竜とはいえ心を掴み懐かせ、空を駆け巡る姿に、誰しも興奮を覚える。
こと、サイゴンとホーチミンは自分の事のように喜んだ。

15歳になり、数ヶ月。
竜を探す旅に出る事になったトビィ。
魔界に生息する野生の竜も居れば、人間界に居る竜も居る。
ある程度の場所は魔族から教えられたが、常に移動している種族も多く、まず捜す事が一番難解である。

飛竜タイプは黒竜、風竜、火竜。
水中に生息する水竜に、地上の覇者である土竜など、種類も様々な竜。
ここから先は、誰も手助けしない、相棒の竜は自分でなんとかしろ、という試験である。
身の上を案じたサイゴンとホーチミンと、暫し別れの時を向かえ、マドリードの家で休息したトビィは、未だに帰ってこないマドリードに、ふと人間界で出会えるのでは、と思ったが微かに笑った。
二人に暖かい言葉と御守り、薬草やら旅の準備をしてもらってトビィはついに旅に出た。
トビィが欲したのは、当然黒竜である。
孤高の竜、成人すると単体で生活し、多くは山岳に住まうという非常に相棒とするには難しい竜だ。
性格もプライド高く、滅多に姿を現さない稀少竜で、憧れる者も多いが皆挫折する。
しかし、空の覇者にして竜の中で最も力が強大な竜なのだ、トビィも欲した。
まず、魔界から出る必要があったので、船で人間界へ出向こうかとも思ったのだが、トビィは自らに枷をした。
目をつけたのは魔族側から貰った地図である、竜の生息区域が大まかに書かれていた。
山脈を越えて南下すると、水竜の生息区域、確かな情報ではないがトビィはそこへ向かった。
ドラゴンナイトを目指す者、安易になりたくはない。
まず水竜を相棒として、魔界を出ると決意したのだ。
それが出来なければ黒竜は無理だろう、と。
不屈の精神と鍛えぬかれた体力で、トビィは懸命に一人山脈を超え、海辺に到着。
無骨な岩がところどころ突き出る海岸を一頻り歩き、焚き火をして浅瀬で魚を捕獲しまず休憩しつつ食していたトビィだったが、妙な違和感を感じて遥か遠くの海を挑むように見つめる。
何かが、居た。
火を消し、高い位置へ登って瞳を細めて見つめると、水竜だ。
サファイヤのような煌く鱗に覆われ、頭部に水晶のような一角、6頭で遊泳している。
思わずトビィは走り出した、願ってもいない遭遇である。
静かに竜達は入り江へ入って行くので、慄くことなくトビィも続く。
トビィの存在に気づき、最も小さな水竜がいきり立って突進してきた。
初めて聞く鳴声、超音波にも取れたが、臆することなくその竜の突進を軽やかに避けながら前進する。
最も長寿だと思われる体格の良い竜が、再度トビィに攻撃を加えようとしていた小さな竜を一喝し、進んでくる人間に興味本位な視線を投げかける。

「ジュリエッタ! 見境なく襲い掛かってはいかん」
「でも、人間だよ!」

竜が流暢に人の言葉を話していた。
思わず目を丸くするトビィ。
練習用の竜は一言も話さなかったのだ、唖然と竜達を見つめた。
訝しげに見てくる竜達だったが、老体の竜だけが優美に近寄るとじっ、とトビィを眺めている。
後方でトビィが何かしようものならば真っ先に噛み付こうと、威嚇している竜達だったが、剣に手を伸ばすことなくトビィはじっとしていた。

「トビィ、という。見ての通り人間だ」
「人間が何故このような地に? ここは魔界の筈だが」
「幼い頃、魔界へ連れて来られ、数年を魔界で過ごした。今回、ドラゴンナイトとなるべく相棒を捜す旅に出て・・・という状況なんだが」

ざわめく竜。
人間で、ドラゴンナイト。
一族でも聞いたことがなかったので、密やかにトビィを数奇な目で見つめた。

「無理強いはしないが・・・オレと共に世界を廻る相棒になる竜は・・・いないだろうか」

更にざわめく。
先程トビィに襲い掛かったジュリエッタが、馬鹿馬鹿しいとばかり大声で爆笑していたが、老竜は静かにトビィを見つめている。
まるで心の底を探るように、外見ではなく精神を見極めるように。

「・・・どこか。不可思議な”水”の加護をまとってらっしゃいますな。
お好きな竜を、お連れ下さい」

その言葉に一斉に沈黙する竜達、トビィとて息を飲んで唖然と老竜を見つめる。
そんな簡単に・・・。
トビィがそう思った瞬間、脳に響いてきた声、老竜だった。

―――何者でしょうなぁ、人間殿。しかし、我らが水の眷属の根本は、あなた様に繋がっていると・・・確信してしまいました―――

思わず、自身の両手を見つめるトビィ、そのような事を言われたのは初めてだ。
魔力も特になく、魔法すら使用できないトビィだが、受ける加護は水であると言い切ったこの竜。
深くトビィに頭を垂れた老竜に、慌てて他の竜も頭を下げる。

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