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数羽の鳥に聞こえたその少年達の声。
初めて遭遇した『弓矢』というものに一羽の鳩が胴体を射抜かれ、そのまま抗う術もなく地面へと落下した。
大声で鳴きながら、山鳩達は騒然とし宙を羽音を立てて舞ったが、犠牲者を出さない為に一羽一羽と、森林へと戻っていく。
射抜かれた鳩を一瞬見つめるも、鳩達は戻った。
森林へ戻り『人間』の野蛮さを住人へと知らせる為に。
「やったぁ! 命中だよトカミエル、すっげーっ!!」
地に落下した鳩を、矢ごと拾い上げながら少年達は弓を持ったトカミエル、という少年を見た。
「ふん、思ったよりトロい生き物だったから。大したことないよ」
自慢げにそうさらり、と言ったトカミエルは鳩には見向きもしないで大人達の列に加わる。
紫銀の髪にアメジストのように光を放つ紫の瞳の少年は、風に髪を靡かせると軽く笑った。
少女達がトカミエルに歓声を上げて寄り添ってきた、確かに容姿はなかなかのものだろう。
だが容姿よりもその弓矢の腕前と、無邪気に笑う表情が、異性を虜にしているようだった。
「ちょっとトカミエル! なんてことするんだよ! 可哀想じゃないか、食べもしないのに射るなんて! 無暗に動物達を殺しちゃいけないんだよ」
少女達に囲まれ、少年達に尊敬の眼差しで見つめられていたトカミエルの元へと、二人の少年が駆け寄ってきた。
弓矢をトカミエルが構えた時点で止めるべきだった・・・と後悔の念で表情が曇っている。
悲痛そうに射抜かれた鳩を見やった。
一人はトカミエルと同じ髪と瞳の持ち主で、何処となく雰囲気も似ていた。
長髪で後ろで一つに束ねてあり、幼さの残るトカミエルとは反対に大人びた印象だ。
容姿はトカミエルよりも美しく、その切れ長の瞳に微笑まれたならば、心を軽く鷲掴みにされてしまうだろう。
もう一人のトカミエルに注意した少年は、黒髪のまだ幼さの残る少年で、左の目下の黒子が可愛らしい。
「大丈夫だよ、リュン。鳥ってのはたくさん存在するから、一羽くらいどうってことないんだよ」
髪を掻き揚げながら苦笑いしてトカミエルは、リュンを荒々しく撫でた。
その子ども扱いする手を跳ね除け、不服そうに叫ぶ。
「でもっ! 可哀想だよ、痛いんだよ!? 死んでしまったんだよ」
「・・・トカミエル、はしゃぎ過ぎだ。子供っぽい。煩い。弓の腕を見せびらかしたいのなら、もっと役に立つことをしろ。リュン、行くぞ」
リュンの腕を軽く掴んで、一瞥トカミエルに目をくれると、そのまま振り返ることなく歩き出す。
「なっ・・・! 待てよ、トリア! 今の言い方ムカつくっ」
・・・。
椋鳥からその話を聞きながら、アニスは瞳を伏せたままだった。
森林の中で死が訪れないわけではない。
生きる為に、捕食しなければいけないのだから、死というものをアニスとて知っていた。
けれども、人間とは生きる為ではなく、同じ生きているものを殺してしまうのか。
他人が生きる為に尊い命を犠牲にするのではなく、ただ、気分でその山鳩は殺されたというのか。
哀しそうに瞳を伏せ、軽く胸を押さえたアニス達を気まずそうに椋鳥たちは見た。
出来るなら話をしたくなかった、しかし、アニスに人間の恐怖を覚えさせておかなければいけなかった。
確実にこの恵み豊かな森林へと人間達はやってくるだろう。
そして街を創るのだろう。
そうなった時、好奇心旺盛なアニスのことだから、人間達を観に行くだろう。
アニスを人間達に見られたら、その物珍しさに捕らえられるのは目に見えていた。
捕らえられれば見世物小屋に閉じ込められるだろう、妖精というだけで、人は集まる。
また、人間の目から見れば稀な美少女の風貌だ、買い手も出てきて高額で売り捌かれるかもしれない。
「だからお願い、人間には近づかないと約束して、アニス」
「・・・うん、でもね」
頷いた、軽く。
それだけで椋鳥たちは喜んで、宙を華麗に舞うと可愛らしく鳴く。
けれども、打ち消された自分の言葉を言い直そうかアニスは迷っていた。
「ホントに、悪いものなのかな・・・? 話し合えば分かって貰えるんじゃないかな・・・」
困惑気味にアニスは水鏡に映る自分を見つめる。
やがて、人間達は予想通り森林近くに街を建設し始めた。
肥沃な大地に、人間達は次々とテントを張ると河で水浴びをし、今までの汚れを流し落とした。
水浴びしながら魚を生け捕り、夕飯の支度を。
森林でウサギやシカを狩り、木の実に茸、山菜を採る。
初日は土地の確保に盛大な宴を開いて、今までを労う。
自分達の街が出来るのだ、嬉しいことないだろう。
「見たか? あの河大層な大物が住んでいるぞ!」
「栄養が豊富なんだろうな。森林の茸も立派だった。まだ把握できていないけれどこの分だと薬になる植物も多そうだ」
火を焚き、深夜まで大騒ぎする人間たちを遠目に見ながら、動物達は言い知れぬ不安に身を寄せ合った。
炎の煙が空へと舞う。
宝石箱を引っくり返したような星空に、煙が吸い込まれていった。
翌朝から人間達は張り切って森林の木々を伐採した。
木造の建物、粘土で固めた家、土地の配分を決め、旅の最中で意見を言い合って決めたように、街の配置通りに事を運んでいく。
皆、自分達の住処を作ることに没頭し、子供達も親の手伝いをしている。
まだ森林の奥地へは人間達は足を踏み入れなかった。
もともと手付かずの森林だ、入り口だけでも立派な食材が手に入る。
約一年が経過した。
テンプレーターと名付けられたその街は、旅人や商人が続々と集まってくる画期的な都市へと移り変わっていく。
手を伸ばせば隣に河も森林もある。
皆が裕福な暮らしを始め、一から自分達で作った街なのだから余計に愛着も沸いていた。
移住者も増え、人口は増加を辿り、次々に街が拡大されていく。
個人経営の店が質のよい品物を店先に並べ、それぞれが売り上げを伸ばしていた。
街には学校も建てられ、子供達はそこに通い始めている。
学費は安く、誰でも通えるように設定し、未来を担う大事な子供達に字を教え、商業の成り立ちを教え、薬草の見分け方を課外授業し、大人達の有りっ丈の知識を子供達へと引き継いで行った。
学問だけでなく、友人と遊ぶことにも力を入れ、授業の一環で街の掃除をしたり、店を手伝ったり、様々なことを教える。
そして動物達の予想通り、人間の子供達は学校が終われば、もしくは授業中の自由課題で森林へと足を伸ばし始めたのである。
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