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絵を描こうと思ったけど間に合いませんでしたー。
わー。
私そっくりー、落ち込み方とか、思考回路低下中とか、そっくりー。
わー、わー、わー。
これが私に一番合う男性ですかー・・・。
え、ホントに!?(ないあがら滝汗)
マビルは、指輪をはめて戻ってきてくれた。
マビルの為に用意した部屋、大きなベッドはお姫様仕様。
そこに俺が寝ていてもいいものなのかどうか疑問だけれど、いつも2人で手を繋いで寝ていたから、同じ様に眠りに就いた。
何も変わらなくて、嬉しかった。
二つの指輪が互いの指で光る、それって、凄く・・・嬉しい事だ。
寝顔を見るのも日課だ、とても、可愛らしいんだ。
毎晩口付けたい衝動に駆られるけれど、我慢する。
替わりに髪を撫でて口づけるんだ、これくらいは、許して欲しい。
マビルは、嫌がるだろうか。
嫌がるだろうなぁ、だから、毎晩秘密の俺の日課。
好きだ、好きだと、何度も呟いて。
願わくばマビルに届いて欲しい、届いて受け取ってくれたら、とても嬉しい。
好きなんだ、絶対に護りたいんだ。
どうか、傍に居て欲しい。
これからも、傍に居て欲しい。
大それた願いだろうか。
けれども期待をしてしまう、指輪を素直にはめてくれたマビル、そう、素直な子なんだ。
口は悪いけれど、素直なんだよね。
極力マビルと一緒に居ようと思って、必死で勤務をこなしてせめて朝食と夕食は一緒に食べられるようにした。
仕事には参加しなくてもいいんだ、好きなことをしていて欲しい。
自由を奪いたくなくて。
でも、机の上にマビルの字で書かれたノートを見つけた。
城下町について、色々とマビルなりにプランがあるらしい。
マビルらしい、お洒落な服のお店とか雑貨とか、おまけにエステ、か。
でも、それはいいかもしれない。
地球では当たり前だけど、クレオではまだ発展途上の分野だ。
マビルに、任せてみようかそのプラン。
でも、まだだ。
発言しやすい場所を作らなきゃいけない、もっと本格的に始動したら、マビル、その時は手伝ってね。
そのノートを閉じて、今度は並べられた本を見た。
色々と歴史を学んだり、独学で頑張っているようだ。
ふふ、可愛いなぁ。
一生懸命だ、そこがとても好きなんだ。
俺の19歳の誕生日、盛大にパーティーを開くとか言い出した人がいたから丁重に断る。
今、そんなことに無駄な費用を使うわけにはいかない。
替わりに、マビルのときは豪華にしようと思ってね。
誕生日の祝いの言葉やら贈り物を貰って周っていたら、メイドさん集団に囲まれた。
みんないつもつたない俺についてきてくれる、優しい子達だ。
ケーキやらお菓子を作ってくれたらしくて、受け取ったけど・・・。
・・・た、食べられる自信がない。
でも、俺の為に作ってくれたんだよな、大事に食べよう。
夕飯は無理を言って豪華にしてもらった、今後の城下町でメインとなる料理人の技術も見たかったし、最高のものを作ってもらう。
食べているマビルは、ご機嫌だった。
口に合ったようだ、よかった・・・。
こっそり、お風呂に薔薇の花を浮かべておいた。
こういうの、好きそうだったから。
ようやく俺も大人の男らしくマビルを喜ばせてあげられそうだ、子供の頃に出来なかったこと。
徐々に、どんな我侭も聞ける男になるんだ。
マビルからプレゼントは貰ってない、いらない。
プレゼントはもう貰った「一緒に居られる」という俺にとって一番幸せなプレゼント。
マビルがお風呂に入っている間、貰ったプレゼントを開いていた。
トビィがワインをくれたから、後で2人で呑んでみようかと思ってさ。
つまみになるものはないか、探していた。
俺もお風呂に入ってゆっくり身体を休める、忙しい日だった。
凄く疲れた。
大勢におめでとうございます、と言われるのも大変だ。
部屋に戻るとマビルが転がっていたけど、不意に、唐突に。
「お誕生日おめでとー。19歳ー、もう若くないねー」
お誕生日おめでとう、か。
言ってもらえるなんて思わなくて、胸が締め付けられるみたいに嬉しくなった。
こう、キュー、と。
少し照れてた気がする、抱き締めたい衝動に駆られたけど、いや、それは、まずいだろう。
ともかく、狼狽しつつワインを呑み出す。
美味しかった、なるほど、呑みやすいから・・・呑み過ぎそうだ。
「言っとくけど、あたし、プレゼント買ってないからね」
「別に要らないよ。・・・マビルが居てくれたからそれで、十分なんだよ」
本心だ。
マビルが今夜も一緒に居てくれて、おめでとう、の言葉をくれたから他には要らない。
これからも、毎年マビルは一緒に居てくれるだろうか。
指輪を外さないで居てくれるマビルがとても愛しい反面、申し訳なくもなった。
でも、きっとマビルなら。
嫌になったら出て行くはずだ、だから、それまでは。
いや、そんな日が来ないようにと祈りながら。
どうか、出て行かないで。
きっと今度こそ守り抜いてみせる。
見つけた特別な女の子、絶対に幸せにしてみせるよ。
あまり遅くなってもいけない、そもそもマビルは美容の為にあまり夜更かしせずに寝るほうだ。
早く寝かせてあげないといけない。
片づけをしてマビルを見たら小さく欠伸をしている、大変だ、眠らせてあげないと。
付き合ってワインを呑んでくれた、特別な夜に、2人でワイン。
・・・すごく、大事な時間だった。
俺にとっては非常に充実した、貴重な時間だ。
大人になった気がした。
何でも出来る気がしたんだ。
隣に、マビルがいるから。
護りたいものがあると、生活に張り合いが出る。
今日はそのご褒美なんだ。
さぁ、いい加減眠らせて、あげないと。
・・・さっきの時間を思い出したら、胸に込み上げて来た熱い想いが。
眠らせて、あげるつもりで、隣に座った。
一緒に居てくれてありがとう、と言おうとした。
ただ。
ほろ酔いのマビルが、あまりにも無防備だったのと。
あぁ、そうか俺酔っているのかな。
どうしても、抱き締めたくて。
抱き締めてキスをしたかったんだ。
子供の頃、マビルを抱き締めて眠った夜みたいに。
ずっと、ずっと、朝まで一緒に抱き締めて眠れたらどれだけ幸せだろうと。
手を繋ぐとマビルは安心するから、手は繋いでいたけれど、そうじゃない。
どうか。
触らせて。
どうか。
逃げないで。
どうか。
嫌がらないで。
どうか、一緒に。
もっと近くに居て欲しい。
どうか。
好きでなくて構わない、普通の上で構わないから。
俺の気持ちだけは、解って欲しい。
ずっと、マビルの傍に居よう。
望むものは何だって用意しよう。
何を言ってもいいんだ、それが嬉しい。
遠慮なく、言ってくれ、必ず受け止めるから。
だから、偶に、ご褒美を。
2人で食事して、会話しよう、そして笑顔を見せて、また眠りに就こう。
そんなご褒美を。
これからも、欲しい。
あぁ、でも、願わくば。
もっと、近くに、居て欲しい・・・。
・・・実は、あまりその時の記憶がなく。
気がついたら、マビルの怒鳴り声が耳を引き裂くように聞こえて、ようやく我に返った。
荒い呼吸で俺を睨みつけているマビルの顔は、真っ赤だった。
照れているとか、そんなレベルではない、怒っているんだ。
当然か、まずい、押し倒してしまっていたらしい。
「キスは、好きな人としかしちゃいけないって、おねーちゃんが言ってたっ」
その言葉で我に返った。
いや、俺は大好きなんだ。
好きな人だからキスしたんだ。
けれど、マビルの声と表情が胸にのしかかる、激怒してるんだ。
・・・あぁ、そうだ。
マビルにとって、俺は。
「あ、あんたはあたしのことが好きかもしれないけど、あたしは好きじゃないもんっ」
言われなくても気がついたさ、あぁ、知っていた。
マビルの好みだって随分と前に聞いた、一緒に居るとき擦れ違う男が好みだと、目を輝かせて「あの人、かっこいい」って何度も言ってたさ。
そこそこ、俺も顔立ちは良いほうだと思うのだけど、違うんだよな、マビルの好みじゃないんだ。
けれど、ずっと想い続けていればって、いつか、想いが伝わるだろうな、と思って。
好きなものは好きなんだ、だから引くわけにはいかない。
「まぁー、あたし可愛いから、好きになるのは勝手だよ、自由。でも、あたしは、好きじゃないし、おまけにさ、キス下手くそなんだもん、気持ち悪かったのっ」
・・・身体が後方へ動いた、マビルに押し返されてそのまま俺の身体はまるで紙みたいに、軽くてぺらっぺらの薄っぺらな、空気で飛ばされるくらいの。
ごしごし唇を擦って、嫌そうに顔を顰めて。
マビルの声は好きだ、可愛いんだ。
けれど、その可愛い声でキスしたいと思った唇から吐き出される言葉は。
非常に聞きたくないものばかりで。
そうか、俺キスが下手だったのか。
いや、下手なのは・・・ともかく。
気持ち悪いって・・・それは。
酷いな。
気持ち悪いのは、俺の事をマビルが好きじゃないからだろう。
好きな相手となら、そんなこと考える余裕すら与えられないと思うんだ。
気持ちだけが高ぶって、さ。
そうか。
気持ち悪い、か。
それは・・・ごめん。
考えなしだった。
自分勝手過ぎだった。
トビィが、ワインなんてくれるから・・・いや、人の好意を無下にしちゃいけないな。
酒に呑まれた俺が悪いんだ。
知ってたんだ、マビルが俺のこと好きじゃないことくらい。
利用してたんだ、アサギが居なくて俺くらいしか頼れないから、傍から離れられないから。
だから、そんな立場を利用して・・・。
見えない糸でマビルを縛りつけた、逃げられないように蜘蛛の糸みたいに、絡めたんだ。
マビルは意地っ張りでそのくせ寂しがり屋、そう、一人になるのが嫌いで、怖い。
だから。
知ってたから。
真っ先に名乗り出た、アサギからも頼まれたしマビルを手元に引き寄せた。
俺は、何処にもいかないから、って安心させて。
・・・よく考えたら、最低だ、俺。
いや、考えなくても最低なんだけど、それでも。
そうしてでもマビルと居たくて。
「・・・頭、冷やしてくるよ」
「うん、そーして。あたし、寝るから。こんな危険な男の隣じゃ気分良く寝られないから、帰ってこないでほしーくらいだよ」
信用を失った、当然か。
今までよく隣で眠ってくれていたもんだ、安心していたんだろうな。
絶対に手を出してこない、って。
男としても見られてないってことだろう、それでもよかった。
もう、一緒に眠れないんだろうか。
普通は、眠れないよな。
あぁ、でもマビルは寂しがり屋だから。
時折夜中にうなされるから、誰かいないとダメなんだ。
誰か。
・・・俺の代わり、いや、アサギの代わりが出来る人が見つかるまで。
それまででいい、もう、何もしないから。
また。
隣で眠れたらと、考えながら。
部屋を出てシャワーを浴びた。
冷水を浴びて、身体を震わせた。
寒気がした、あぁ、マビルも気持ち悪くて寒気がして鳥肌たったのだろう。
幸せな誕生日。
日付変更、最悪だ。
流れ落ちる水を見上げて、途方にくれる。
「ごめんな、マビル」
後悔しても遅い、激怒したマビルの顔が目を閉じると浮かぶから。
朝日が昇るのを庭でぼんやり見つめてた。
朝食を一足先に食べた、マビルと毎日食べていたんだ、日々の俺の日課で守り抜きたい自分なりの決まりごとだった。
でも、顔を合わせ辛いし、何より。
マビルがそれを望んでいたのかどうかさえ、疑問だ。
何も思わないで居てくれるのなら、それでいい、でも、一緒に同じ食卓につくのが嫌だったら。
そう少しでも脳裏を暗い考えが過ぎったものだから、トーストにゆで卵、コーヒーとサラダを軽く食べて仕事に入る。
土地の有効活用方法、入店者への許可、住居許可、書類に目を通していたが休憩したくて庭へ出た。
ぼんやりまたベンチに座っていたら、最近世話をしてくれるメイドさんが来たから軽く苦笑い。
「どうされたんですか、朝から様子がおかしいですよ? 誕生日ではしゃぎ疲れました?」
「・・・キスが下手らしくて、俺」
思わず口から言葉が飛び出た、いや、この人従姉妹のお姉さんに似てるんだよね。
俺のことも弟みたいに思ってくれているらしいし、安心感からか、言ってしまった。
情けない。
「じゃあ、私で練習します? トモハル様なら私構いませんけど」
「え」
軽く笑って、戻ってきた答えがそれだ。
思わず言葉に詰まったが、表情を見て冗談だと解った、多分俺が落ち込んでたから笑わせるつもりで言ったんだろう。
悪戯っぽい目でこちらを見ている、笑いを堪えている感じで。
ふ、と唇から苦笑いと共に息を吐く。
心の靄も吐き出した気がする、若干だけどさ。
不意に、カサカサ、と背後の植木が動いた気がした、なんだ? 風もないのに。
「・・・ありがとう」
今ので幾分か気が楽になったというか、解れた。
”何そんなことで落ち込んでるんですかー、国王のクセに。”
彼女の瞳がそう投げかけている。
だから、精一杯の気持ちを籠めて「ありがとう」。
言ったら、二人して吹き出した。
笑うって、大切なことだと実感。
笑うだけで、そう、苦笑いでもいいから、口角を上げるだけで気分がスッ、と落ち着く。
ガサガサ、とまた背後で何かが動いた。
? 何かいるのかな。
「うん、本当にありがとう。心配してくれる気持ちは受け取ったよ」
「つまり、マビル様にキスをしたら下手だと言われたから落ち込んでいるんですよね」
「・・・当たり」
「ふふ、本当にそうでしょうか?」
「何が?」
くすくす笑いながら彼女は俺を観る、年も7個も上だ、俺と同じ歳の弟がいるって言ってたし、放っておけないんだろうな。
「上手なんですよ、本当は。マビル様、びっくりしてそう言っただけだと思いますけど」
「・・・だと、いいんだけどね・・・」
そうだとしたら、どれだけ嬉しいことか。
びっくりして、か。
確かに驚きはしただろうな、身構えてなかっただろうし。
キスなんてしてなかった、いや、頬にならしたことあるけどさ。
もし、恥ずかしくて、夢心地で、マビルがあんなことを言ったのなら、そうだとしたら。
・・・夢のまた夢、都合の良い俺の夢、願望。
あるわけが、ない。
ベンチから立ち上がって彼女を振り返る、軽く礼をして職場に戻った。
「気分が優れたかな、ありがとう。今夜はさ、マビルの好きなもの作ってくれないかな? 夏野菜の冷製パスタに、ふわふわのオムレツ」
「えぇ、解りました。
・・・上手かどうか信用出来ないのなら、私が試してあげますけど?」
「ははっ、ありがとうね。気持ちだけ受け取っておくよ」
本当に、子供扱いして俺をからかう人だなぁ・・・。
手を振って、そこで別れた。
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