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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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00f64bc8.jpgちまちま、と。

時間が足りませんー・・・。
んー、逆ソラ、暫くお待ち下さい(土下座)。

あと一ヶ月で、慶太に会えるので、わくわくどきどき楽しみですっ。
※関係ない

画像は、あれです。
このシーンまで書きたいのですが、時間がないのです。
この外伝のアサギは結構好きですー。

気ままに過ごしているので、一番自由な時代だったかもしれません。
結構幸せですし、うん。

「お引取り願えないのなら、お相手致します」


雪が降りしきる凍える空気の中、城の一角で産声が上がる。
歓声を上げた助産婦達、悲鳴を上げた医師、天に祈る参謀。
産まれ出てきた赤子は二人、緑の髪と、黒の髪。
古来より双子は忌み嫌われてきた、ゆえに皆で悲痛な溜息を漏らしても当然だった。
城の城主は高齢だった、出産は無理だと思われていたがこうして無事、元気な双子を産み落とした。
しかし当然、本人には相当な負担がかかっており、待機していた医師が診察に直様当たる。
双子を産湯に浸からせて、不安そうに大量の汗をかきながら青白い顔で女王は唇を開いた。
制されたが、言葉を発した。

「この、世に・・・破壊と繁栄をもたらす・・・双子・・・」

皆が聞き取った、聞き辛くとも聞き取ってしまった。
苦悶の表情を浮かべながら女王はそれでも語った、今伝えなければ、遅いと悟っていたためだ。

「みどりの髪の姉は、破壊の子を。くろの髪の双子の妹は、繁栄の子を。
それぞれ、産み落とす。我国には必ず黒の、妹を・・・女王に。
みどりの姉は、他国へ嫁がせなさい、最も巨大で卑劣な敵国に送りな、さい・・・。
たごん、無用、知られれば・・・くろの我が子が、狙われる」

静まり返る一室、皆固唾を飲んで汗ばむ身体をどうすることも出来ずに聞き入った。

「みどりの姉を殺せば、その時点で我国に破滅が訪れます、決して、乱雑に扱わぬよう。
呪いの子を産む母親は、無論呪いの塊、災いの元。
くろの、妹を、妹さえ、いれば・・・」

激しく咳き込んだ女王の唇から鮮血が迸った、悲鳴を上げて皆が金縛りから解放されたかのように駆けつけた。
幼き頃から常に傍らに居た、女王の参謀の手を、僅かな力で握り締めながら、全身を大きく震わす。

「大事な、我が子を・・・お願いね」

薄っすらと瞳に涙を浮かべながら、再び吐血する。
死に際参謀の手を強く、固く、握り締めた女王。
参謀の顔が引き攣るほど、それは強い力だった。
雪が、降り積もる外。
城内は女王を失った悲しみで、皆泣き喚いた。
大地の加護を受けし国・ラファーガ。
代々女にのみ、受け継がれてきたこの国の最も偉大で恐れられた女王は双子の娘を産み落とした。
巨大な魔力を持ち、近辺から恐れられた魔女が産み落としたのは双子。
いわくつきの、双子。
緑の髪の姉は、破壊の子を産むだろう。
黒の髪の妹は、繁栄の子を産むだろう。
最期の予言だった、聞いていたものは参謀一人、医師が三人、助産婦が二人の六人だった。
六人は他言無用とし、互いに頷き合う。
この娘達を成長させ、女王の言葉通りに従うのだ。
姉はその時勢力を伸ばしている敵国へ送る、容姿さえ気に入ってもらえ、子さえ孕めば用は無い。
姉の産み落とした子によって、その国は滅亡するだろう。
妹はラファーガの女王として日々、成長させねばならない。
妹の産み落とした子によって、我国は繁栄するだろう何年も。
姉を殺したくとも、殺せない、呪われた嬰児だとしても、殺せない。
時が来るまで、育てるしかない。
助産婦は、恐々姉を引き上げた、手が震えていたので誤って湯船に落としてしまった。
しかし、誰も気にも留めない。
妹は恭しく丁重に、二重の毛布に包まれてあやされた。
毛布が二重なのは、姉の毛布も使われたからだった、姉はそこらにあったシーツで包まれた。
誰も姉を抱きたくなく、姉はただ泣き喚く。
煩くて思わず医師が頬を叩いた、が、誰も咎めなかった。
呪われた子を、誰が抱きたがるだろう、姉はそこに捨て置かれた。
女王の葬儀の支度の間も、そこに捨て置かれた。
大事な妹は直様暖かな部屋へと移されて、姉の分も皆に尽くされた。

緑の髪の姉の名をアイラ。
黒の髪の妹の名をマロー。

ミルクも存分に与えられず、構っても貰えず、まして抱いても貰えず姉は育つ。
その分妹は城中から愛されて、成長した。

「女王様も、誰も、緑の髪なんていなかったのに・・・。本当にあの子は悪魔だね」
「マロー様は美しい、お母様似の艶やかな黒髪であられる。女神のようだ」

名前すら、呼んでもらえない姉・アイラ。
六人によって守られていた筈の双子の秘密は、双子の姫が成長するに従い城中に漏洩していた。
誰が漏らしたのかは解らない、ひょっとすると六人の双子に対する扱いの差により、皆が察したのかも知れない。
妹マローには、常に何かしら贈り物が届いていた。
おやつには毎日甘くて瑞々しい果物を、蜂蜜を大量に入れたふわふわの焼き菓子を。
商人が訪れれば、こぞって皆マローに宝石を買い与え、部屋は毎日様々な可憐な花で埋め尽くされ。
何着もドレスを贈る、一日に何度も着替えては髪を梳かす。
姉アイラには、書物が贈られた。
接する事がすでに恐怖、部屋から出てきてもらっては困るので書物を贈ったのだ。
食事は毎日三回運ばれたが、マローとは違い質素なものだった。
他国へ何れ嫁がせる呪われた子には、金をかける必要など無い、ということだろう。
パンと、スープがほとんどで、稀に肉かサラダがついてきた。
それでもアイラは、一人で食事をし手元の書物を読み耽る。
部屋から外の世界を見れば、木々が青々と生い茂り、水色の爽やかな空が何処までも続き。
鳥達が稀に窓際にやってきたので、とっておいたパン屑を投げて楽しんだ。
居る場所は同じだった、けれど、風景は毎日違っていた。
流れる純白の雲は、カタチを変える。
来る鳥達も、種類が違うし囀る歌も、また違う。
下には花壇、花の香りが風に乗って部屋にも届いた。
アイラは窓辺で今日も書物を読み耽る、そう、何も辛い事などありはしなかったのだ。
そして、何より双子の妹マローは姉を慕って頻繁に部屋に来ていたことだし。

「アイラ姉様! 見て、美味しいものを持ってきたわ」
「ありがとう、一緒に食べましょうか」

アイラのドレスは、布地もそうだが縫い目も手荒でとても一国の姫君が着ているようなものではない。
一方、マローは煌びやかな深紅のドレスを身に纏っていた、宝石も散りばめられている。
こっそりとハンカチに包んでマローは、マドレーヌを持ってきたらしく自慢げに姉に見せた。
静かに息を鼻から吸い込み、思わず微笑むアイラ、甘い香りに笑みが零れたのだ。
双子の姫は、12歳になっていた。
二人とも、見た目麗しく成長した、そう、誰しもが”欲する”容姿に。
ただ、華やかなマローに比べてアイラは行動も地味で若干輝きにかけていたが。
二人して窓辺に座って、マドレーヌと紅茶を頂く。
その間、双子の会話が始まるのだ。

「ねぇ、アイラ姉様。『恋』って何か知ってる?」
「こい?」

書物を読み耽っていたアイラは、物知りだったがそんな単語は見たことが無かった。
当然だ、アイラへ届けられる書物に『男女の恋愛事』を書いたものは一冊もないのだから。
それは、下手に知識を得て万が一、ラファーガ国の男と恋仲になり子を孕まれては困るからである。
ゆえに、アイラもマローも異性を知らなかった。
城内はほぼ女ばかりで構成され、男も働いてはいたが二人の周囲にはいてはならない存在だったのだ。

「女中がこの間庭で話していたの。好きな相手とキスしたんですって! それはとても甘美な時間だったらしいの。恋ってそういうものらしーわ」
「・・・甘美」
「うん。うっとりと話しててとても楽しそうだった」
「何かな、気になるな・・・」

双子の姫は、互いの顔を見て首を傾げるばかり。
けれど、乙女は教えなくとも本能で”誰か”を捜すものだ。
アイラとて例外ではなく、マローが帰った後書物を読み直し、恋を調べた。
けれども、出てこない。
溜息混じりに欠伸をし、アイラは月の光を浴びながら眠りにつく。
何故か、胸が踊った。
よくわからないが、その響きがとても高貴であるような気がした。
月は、アイラを照らし続ける。
部屋に押し込められ、質素な食事しか与えられずとも月光を浴びて、アイラの見事な新緑の髪は光り輝いていた。
眠れないのは、何故だろう。
起き上がって窓から顔を出した、夜風に辺り落ち着かせようと努力してみた。

「こい」

ぽつり、と呟く。
両腕を伸ばして、静かに瞳を閉じる。
口を軽く開いて、息を吸うと静かに吐き出しなら・・・歌った。

「例えばこの腕の先に 何かが触れたなら
私はそれを引き寄せて 抱き締めたい
それはきっと暖かで とても大事な物だから
麗しの月光 柔らかな光で全てを照らす
優しく包み込んで 皆に安息を
私も月光のように・・・」

なれるかな。
なりたいな。
小さな声だった、けれどはっきりとそれは風に乗って運ばれる。
人々寝静まる暗闇の中、それでも月光を頼りにし。
夜行性の動物達が、それに聴き入った。
草花が、それに耳を傾けて合唱するように身体を震わした。
アイラは歌う、眠れなくて、歌う。

「こい ってなーに?
かんび ってどんなの?
みんな好き 可愛い妹
美しい 窓から広がる自然
・・・こいって なぁに?」

一晩中、アイラは歌った。
歌といっても曲など聴いたことがないから、同じフレーズを多々繰り返すだけだ。
同じフレーズでも毎回若干、音程が違う。
だからそれは歌とはいえなかったのかもしれない、それでも。
誰かに語るように、それが次第に音色になって。
緑の髪の双子の姉の歌声は、風に乗って大地を駆け抜け夜空に舞う。

後日、庭師が気づいた。
アイラの部屋付近の植物達が、異常に急成長し害虫を払い除け咲き誇っている事に。
身震いし、城中に触れ回った。
『悪魔の呪いの子、ついに本性を現し始めた』と。

黒と緑の双子の姫君に関する予言は城内に留まらず、城下町はおろか他国にまで知れ渡り始めていた。
まして、類稀なる二人の美姫となれば求婚者が殺到している。
噂に尾ひれ、内容は捏造され大陸を駆け巡っており当然マローに会いたいと願い出る王子達が多々出現する。
城内ではこの頃になって、ようやくマローに騎士団を護衛としてつけることを決定した。
城下町にお触れを出し、健康で堅実な少年・青年の招集を行っていた。
マローは裏庭の茂みに隠れてよく女中達の会話を盗み聞きしていたので、その日も誰か来ないかと転寝しながら茂みにいたのだが、今日に限って誰も来ない。
諦めて茂みから立ち上がり、姉の部屋に行こうと顔を上げたときだった。

「や、やぁ!」
「・・・どちら様?」

反射的に身構えた、思わず逃げ腰になる。
反対側の茂みの中から現れた同年代の”異性”に、マローは眉間に皺を寄せて軽く睨みつけた。
目の前の少年は小汚い衣服に乱れた髪、思わず自分のドレスを汚すまいとマローは後退。
初めて見た異性だった、同年代の少女にも姉しか会ったことがなかった。
訝しみながら、唇を噛み締め威嚇する。
目の前の少年は赤面しながら、頭についていた枯葉を払い、綺麗に見せようとしているのだろうか、服の皺もなんとか伸ばすべく手で押し付けている。
当然綺麗にはならないので諦めて、急に顔を上げると一気にマローに近づいた。
驚いてマローは数歩後退、何故か足が震えたので上手く下がれなかった。
少年は微かに苦笑いしたが、両手を衣服で拭くと丁寧にお辞儀をする。

「は、初めましてお姫様。妹のマロー様だよね」
「・・・そうだけど、誰? 気安く話しかけないでくれる?」
「ま、前にさ、ここで見たから毎日通っているんだ」
「あら、そう。よかったわね」

冷ややかな視線と投げつけた言葉に、それでも目の前の少年は怯むことなくただ、にこやかに笑って立っている。
けれど、それ以上近寄る事もなく、少年はマローを見て満足そうに微笑んでいた。
何も語らないその少年に、嫌悪感を抱いたマローは唇を尖らせ聴こえるように言い放つ。

「・・・気味悪い」
「ご、ごめん。可愛いからついつい、その、見惚れちゃうんだよね」

照れながらやはり嬉しそうに、照れくさそうに笑うこの少年に、マローは心底顔を顰めた。
初めて見るタイプなのだ、対応の仕方がわからない。
少年は、純粋に嬉しかったのだ、目の前にマローが居て会話出来たことが。
だが、そんなことマローは全く知らない、解るわけもない。
別に少年から異臭などしないのだが、思わず右手で鼻と口を覆い、目を吊り上げる。

「あたし、お姫様なの」
「うん、知ってるよ」
「アンタのような得たいの知れない人となんて、お話出来ないわ」
「・・・お姫様とじゃ、身分が違い過ぎるよね」

どこか切なそうに呟いた少年だが、マローは鼻で笑い捨てた。

「あら、解っているのね。じゃーね、バイバイ」
「国の騎士団に入るんだ、俺」

踵を返し興味を持たずに去るマローに、思わず駆け寄って腕を掴んだ少年は、必死に振り向かせようと早口で告げた。
初めて、異性に触れられたマロー。
一瞬大きく身体を引き攣らせる、唖然として、硬直。
今まで腕を捕まれた事すらなかったので、衝撃は大きかった。
何故か、腕が痺れたような感覚。

「騎士団に入って、腕を磨いて騎士団長になったら。
マロー姫の護衛につくよ。・・・それなら、いいだろ?」

腕を強く捕まれ、正面からそう告げてきたこの少年。
視線が交差した、逸らそうとしたが出来なかった。
あまりにも真っ直ぐに自分を見ていた、心臓が全力で駆け抜けた後のように跳ね上がった。
脈拍が、トクントクン、と音を立てて。
瞳が、綺麗だとマローは思った。
数秒、いや、数分か。
互いに何も語らずに、ただその場でじっとしている。
やがて木の葉の音が聞こえて、二人の中心に葉が舞い降りてきたためマローは我に返った。
何故か赤面したマローは、もがいて腕を振りほどくと思い切り少年を突き飛ばす。

「ぶ、無礼者っ!」

そのまま、逃げるように立ち去るマローの背に、突き飛ばされ芝生に倒れていた少年が叫ぶ。

「君に、相応しい男になるから。待ってて!」

背に届く少年の声、言われながら必死で顔を擦るマロー。
頬が熱い、そして喉が渇いた。
全力で向かった先は、姉の部屋。
勢いに任せてドアをこじ開けて、驚いて瞳を丸くしていた双子の姉に飛びつく。

「マロー? どうしたの?」
「アイラ姉様っ」

飛び込んだ胸の中、震える身体を落ち着かせる為に深呼吸を繰り返す。
不安そうにアイラはマローを抱き締めながら、走ってきた方向を瞳を細めて見つめた。
ドアは半開きのまま、妹の髪についていた葉を摘み上げて窓辺から下へと落としながら。
アイラは優しくマローが落ち着くまで、背を撫でていた。
微かに震えながら、アイラを力強く抱き締めるマロー。
動悸が、治まらないのだ。
そして何故かあの小汚い少年が、脳裏から離れない。
声が、何度も耳に届いてしまうのだ、ここにはもういないのに。

「おい、大声出すなよ! 警備兵が来てる! 逃げようトモハラ」
「あ、うん。ミノリ、引っ張ってくれ」

ずっと、姿が消えてもマローの走り去った方角を愛しそうに見つめていた少年・トモハラは。
焦って木から顔を出した親友のミノリの手を強く握り、そのまま茂みへと消えていく。
城下町に住む、極普通の家庭に育った二人だった。
家が隣同士で、物心ついた時から兄弟のように育ったトモハラとミノリ。
薄い茶の綺麗なストレートの髪が印象的なトモハラ、瞳は少し垂れ気味だが鋭い。
漆黒の硬めの髪に、釣り上がった瞳のミノリ。
悪童として有名な二人は、大人の目を盗んでは勝手に城へ侵入しようと毎日のように企んでいた。
子供は大きなものに憧れる、必然的に。
そして駄目だと言われれば言われるほど、欲しくなるものだ。
厳重な警備態勢の城、怖いがやはり覗いてみたいという幼い好奇心が消える事はなく、幾度目かの挑戦でついに侵入に成功した二人。
子供だからこそ、侵入できた。
城下町ではすでに双子の姫君の噂は流れており、その”姫君”とやらを見るのが二人の目的だった。
隠された未知なる場所に住む、美しい姫。
これも、幼い好奇心を駆り立てた要素である。
二人は昼間に侵入しては木の上から様子を窺っていた、地面に下りようかとも考えたがそこまでの度胸がなかったらしい。
来る日も来る日も、その木に甘い実がなっていたので齧りながら様子を見ていた。
広大な庭、時折人が通るが他には何もない。
庭を駆け抜けて内部に入りたいが、見通しが良すぎて見つかる可能性が高いと、子供でも解ったので出来ない。
ミノリは時折、声が気になっていた。
姿は見えないが、本を読んでいる同じ年頃の女の声が耳に入る。
その音域が心地良く、柔らかなその声が気に入って、もっと近くで聴きたいと木の天辺に移動している。
城の高い部屋から声は漏れていた、あれがきっと姫の声なのだろうと耳を閉じて聞き入るのがミノリの日課である。
読んでいる本は面白おかしい童話から、植物の事典、小難しい研究結果と様々だ。
ある日、窓から手が伸びていることに気づいたミノリは、なんとか姿を見ようと必死に枝を掴み落下しないように身を乗り出したがやはり、見えなかった。
白くて艶やかな腕、微かに顔を赤らめてミノリは決めたのだ。
姫君の騎士団を設立するという事実は、当然知っている、騎士団になればあの声をもっと間近で聴く事ができる。
ならば、ミノリの目標はただ一つである。
トモハラは毎回上へと行くミノリと違い、木の中間で庭を眺めていた。
というのも、黒髪の同年代の少女を見かけたからだ。
それが姫なのだろう、明らかに見たことがない煌びやかな衣装を身に纏っていた。
純白のドレスに、漆黒の髪がとても映える噂の美姫である。
柱から柱を駆け抜ける瞬間しか瞳に姿を映すことが出来なかった、それでも姿が見えればトモハラは満足だった。
無論、毎回侵入して見かけられるわけもなく、姿が見えなければ足取り重く街へと帰る。
始終動き回っている姫は、見ていて面白かった。
意表を突かれたのも、目が離せなくなった原因かもしれない。
遠くからなのではっきりとは解らないが、仕草がとても愛らしく、表情がくるくる変わっているよう。
伸び伸びとした様子、好奇心旺盛な仔猫の雰囲気だった。
庭でお茶会をしていた時に、初めて間近で姿を見たのだが、想像以上。
声は高い、天まで突き抜けるような明るい声に、時折拗ねたような甘えたような。
大きな釣り上がり気味の瞳は、何かを捕らえて忙しなく動く。
甘そうな菓子を頬張りながら、何故か時折密かにテーブルの下のハンカチに包んでそ知らぬふりをしていたり。
思わず吹き出しそうになるのを必死で堪え、トモハラは見ていた。
ドレスの裾を上げて、庭を裸足で走り回り、歓声を上げる姫にすっかり心を奪われた。
もっと、近くで見えないだろうか。
近くで話が出来ないだろうか。
廻り廻って、その日トモハラに好機が訪れたのだ。
一人で姫が何故か隠れていた、その日に、高鳴る胸と緊張と恐怖を必死で押さえ、そっと木から下りた。
何度も茂みから出ようと足を持ち上げたが、踏み出せない。
見つかった場合、刑罰だろう。
けれども、一人で唇を尖らせ何かを待っている姫に、どうしても会いたかった。
意を決して静かに茂みから立ち上がる、ようやくトモハラは姫と会話出来たわけで。

息を切らせ街を疾走する二人、笑いが込み上げ互いに爆笑。
始終笑顔、特にトモハラは何故か泣きたい気分で笑い続けた。
嬉しかったのだ、大声で叫ばないと身体の奥に何かが溜まって突っ伏してしまいそうだった。
何も言わずとも、二人の決意は揺ぎ無く。
”必ず、騎士団に入ろう。あの姫に会う為に”
黒のミノリが目に留めたのは、姉のアイラ。
姿は知らない、けれども声が好きだった。
茶のトモハラが目に留めたのは、妹のマロー。
愛くるしい全てに魅了され、傍に居たいと願った。
二人は揃って志願書を提出し、剣技に明け暮れる。
就中姫に惹かれたのだ、互いに双子の姉妹の姫に。
どうしても、あの姫に会いたい、傍に居たい。
幼くとも、異性を護りたいという男の本能が働いたのか。
合格できたら、支給額とてその辺りで働くよりも高額だったので家族の反対すらなく二人は進む。
二人は見事、揃って騎士団に入隊出来、厳しい訓練や見回りをすることとなる。
彼らがマローの騎士団として、立派に姫の為に忠誠を誓っていた頃。
密かに噂されていたのは他国の王子達だった、何処も魅力的な王子達だが野心家で、近年無理やり吸収されている小国もあるという。
光の加護を受けるファンアイク帝国の若き第一皇子、ベルガー・オルトリンデ。
深緑の艶やかな短髪に、凍りつくほど美しい漆黒の瞳で冷淡で虚無の瞳は畏怖の念を抱きつつも、惹かれてしまう美貌の皇子だった。
水の加護を受けるブリューゲル国の第一王子、トライ・ウィーン。
紫銀の眩い長髪を後ろで一つに束ねており、瞳を合わせると嬌声を上げたくなるような綺麗な瞳の、これまた美貌の王子だ。
火の加護を受けるネーデルラント国の第一王子、トレベレス・ウィーン。
紫銀の眩い短髪に、悪気のない率直な性格ゆえか瞳は常に煌き何かを追い求め、痛めつけられても近寄りたい娘が後を絶たない王子だ。
水のトライとは同日に生まれた従姉妹同士である、過去は本来一つの大国であったが仲違いし現在は二国存在するのだ。
風の加護を受けるラスカサス国の第四皇子、リュイ・ガレン。
漆黒の瞳と髪の幼さが残る、まだ可愛らしい皇子だが器量が最も兄弟で良く、目が離せない天真爛漫ぶりの皇子。
この四人の王子・皇子達が一斉に城へ来るという噂に、皆色めき立っていた。
自国の姫を如何に才色兼備であるかを見せ付ける為に、連日二人に対し猛特訓が課せられる。
とりわけ、アイラは厳しく指導された。
というのも、他国に嫁いで貰わねばならないからだ、皇子達に気に入られる為に、マローと同等のドレスも用意された。
初めて見る高価なドレスに、多少胸を躍らせて袖を通したアイラだが、すぐに脱ぎたくなった。
窮屈なのだ。
鏡に写った着飾った自分を観て、眉を顰める。
化粧も施されたが、どうにも息苦しい。
やがて二人は、四人の皇子が同日に来るということで城内が慌しくなった頃。
初めて毎日同じ部屋で同じ時間を過ごす事が出来た、それが二人にとってはとても幸せな事で、楽しい事だった。
手を繋いで眠りにつく、夜中も二人で会話出来、何をするにも一緒だった。
マローは、姉が好きだった。
勉強も丁寧に教えてくれたし、物知りで何より傍にいて心が落ち着いたのだ。
手の温もりを、離したくなかった。

 

 

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