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※DES本編第四章中盤よりー
髪を乾かしながら、上機嫌でマビルは鏡を見つめている。
シャワーを浴びて気分も爽快、そして決まってこの後は美味しい食事と豪華なプレゼントが用意されているはずだから、思わず笑みが零れてしまうのだ。
バスローブを羽織って、ベッドに座っている男のもとへと、軽く飛び跳ね気味で近寄る。
「ねぇねぇ、今日は何食べれるの? 何買ってくれるの?」
ぽふん、とベッドに転がって、男の膝の上に頭を乗せて笑った。
男の手が、ぎこちなく動く。
マビルは眉を顰め、軽く唇を噛み瞳を細めて男を見る。
ぎこちなく髪を撫でてくる手が、鬱陶しく感じ、跳ね除けたいのを我慢して再度訊いた。
「ねぇ、今日は何食べるの? 何貰えるの?」
男が、儚げに笑ったのでマビルは瞳を軽く開き、唇を尖らせた。
ゆっくり、男の声が絞り出される。
「もう、お金がないんだ真昼」
未だに、『真昼』と呼ばれる事に違和感を感じるのだが、この世界では『マビル』という名前は受け入れられず、皆聞き間違えて『真昼』と呼ぶ。
あたし、マビルだもん、ホントは。
お金がない、と言った男を下から冷たい視線で見つめ続ける。
「貯金も底をついた、カードの使用金額も上限超えたし、キャッシングも使えなくなったんだ」
「それで?」
「車を売れば、お金になる。ランクは落ちるけど真昼と居る為に、中古の軽でも買うつもりなんだよ」
「それで?」
髪を撫でながら語り続ける男、苛立ちながらも必死で感情を抑えつつマビルは問う。
先程からこの男は何を言いたいのか、マビルにはさっぱり分からない。
「もう、高級な料理も食べさせてあげられない。高級なプレゼントもあげられない。でも」
マビルは急に起き上がり、くるん、と身体を優雅に回転させる。
ふわり、とシャンプー仕立ての髪が揺れ、清潔な香りが漂った。
首を傾げながら瞳に光を灯さずに、それでも笑顔で問うマビル。
「もう、食べられないの? 貰えないの?」
「うん。でもね、真昼の傍にずっと居るよ。真昼への愛を永遠に誓うよ。お金がなくても二人で居られればいいよね。毎日毎時間、君に愛を送り続けるよ」
マビルの髪を心底愛しそうに撫でながら、優しい瞳で語りかける男。
首を交互に傾けていたマビルの動きが正面で、不意に停止した。
「愛してるよ、真昼」
そっと、顔を近づけて口づけをする。
抱き寄せて、マビルの背を優しく撫でる男、もぞもぞ、とマビルが腕の中で動いた。
顔をひょこりと覗かせ、マビルは笑顔を見せる。
「何も、くれないの?」
マビルは無邪気にそう訊いて来た、小さな苦笑いをしつつ男は口を開く。
「愛をあげるよ」
「愛なんてモノは別に要らないの。あたしが欲しいのは、美味しいものとか高級なものだよ。それは貰えないの?」
愛なんて要らない、そうはっきりと可愛らしい唇で告げたマビルに、男は動揺する。
確かにそうだろう、先程から愛を語ったつもりだったが全く通じていない。
「愛なら無限に、永久にあげるよ、でもお金がもうないから何も」
「だから、あたしは愛なんて要らないってば」
怪訝に顔を歪め、マビルは腕を振り払うと男からするり、と離れてベッドから降りる。
冷酷な視線を元・恋人の男に投げかけ、忌々しそうに舌を鳴らした。
唖然と口を開いて男はマビルを見つめる、初めて見たマビルの姿だった。
いつもの天真爛漫で可愛らしいマビルではなく、怒気すら感じられる視線を投げかけてくる。
「今日はなぁんにも、貰えないんだ? いつものよーに、あたしを抱いておいて、なぁんにもくれないわけ?」
「だ、だって僕達は恋人っ」
「うっさいっ」
手を伸ばしてきた男の手を、容赦なく叩き落す。
右手に力を込めると、大きな瞳に男を映して、笑った。
「バカにしないで、あたしはそんなに安くない。もう、あんた、要らない」
男の瞳には映らない速さで、マビルは右手を容赦なく突き刺した・・・男の胸に。
骨が砕ける鈍い音、鮮血が飛び散りマビルの顔を、髪を、純白のバスローブを染め上げた。
辺りに血生臭い特有の香りが立ち込める、シーツにも、床にも天井にも鮮血が迸っていた。
「もう、折角シャワー浴びたのに、最初からやり直しになっちゃったよっ」
心底嫌そうにマビルは唇を噛むと、渋々バスローブをその場に脱ぎ捨てシャワーを浴びる為踵を返す。
瞳を見開いたまま動かない胸に穴の開いた男に、視線を二度と移すことなく。
マビルはシャワーを済ませると、男のスーツから財布を抜き取り玄関へと向かった。
やり方を憶えた自動精算機で会計を済ませると、そのまま何事も無かったかのように部屋を出て一人エレベーターに乗る。
ホテルを出て、バッグをブラブラと振り回しながらマビルは夜の街へと消えていった。
お腹が空いたので別の男を捜さなければいけない、何処かに美形で金持ちそうな男はいないものか。
「・・・ムカつく」
歩きながら、マビルは唇を噛み締め忌々しそうにバッグを壁に叩きつける。
先程の男の言葉が甦った、愛がどうのこうの言っていた。
そんな目に見えないもの要らない。
愛を伝えたいのなら、物を頂戴。
目に見える愛を頂戴。
「あーもー、ホンット、ムカツクっ!!」
歩きながら、苛立ちを地面にぶつけた。
空腹なのも手伝って、身体を震わせる程の苛立ちがマビルを襲っているようだった。
立ち止まって、爪を噛み、爆発させられない怒気が増幅していく。
愛なんて、要らないから。
美味しいものが食べたい、高級なものが欲しい。
愛なんて意味分からないから、価値が分からない。
愛って、何だろ?
「つまんない、ホント、つまんないっ」
マビルは忌々しく舌打ちすると、そのまま宛ても無く歩き続けた。
そろそろ、勇者でも探して血祭りにあげようか、と考えながら。
でないと、この気分が落ち着かないだろうから。
不意に誰かにぶつかった、ここぞとばかり、文句を言って殴ろうと見上げる。
・・・何処かで見たことがある顔だったので、マビルは反応が一瞬遅れた。
「大丈夫? ケガしてない? なんか・・・血の香りがするから」
記憶の糸を手繰る、好みではない男、お金もあまりなさそうな男。
瞳を細めてその男を睨み続け、ようやくマビルは思い出した。
勇者だ。
勇者・トモハル。
「ケガは?」
どうやら、先程の男の血の香りが身体に染み付いたらしい、トモハルはそのことを言っているのだ。
不安そうに世話を焼いてくるトモハルに、マビルは頭をかいて鼻で笑った。
大方、アサギと間違えているのだろう。
あたしのほうが、アサギおねーちゃんより可愛いし、胸もおっきいし、魅力的だけど、なんとなくどことなく似てるから、間違えてるんだ。
そう解釈したマビルは、ゆっくりと笑みを浮かべて首を傾げる。
「大丈夫だよー? 何処も怪我してないよ」
「そっか、ならいいんだ」
ほっと胸を撫で下ろしたトモハルに、ようやくマビルは全身を支配していた苛立ちから解放された。
玩具を見つけた、勇者を見つけた。
記憶が正しいはずなので、トモハルはアサギに片思い中だ。
誑かして、アサギに近づいていこう。
マビルは小さく笑うと、お腹を手で押さえる。
「お腹空いたな。何か食べたいな」
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