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別サイトへ投稿する前の、ラフ書き置場のような場所。 いい加減整理したい。 ※現在、漫画家やイラストレーターとして活躍されている方々が昔描いて下さったイラストがあります。 絶対転載・保存等禁止です。 宜しくお願い致します。
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31:マビル
32:トモハル
33:マビル
34:トモハル
35:まこ・りたーなー

で、終了予定です。

万歳ー。

数日、ココに滞在して、色々見せてもらった。
知らないおねーちゃんが見えたので、嬉しかった。
知らないトモハルが見えたので、嬉しかった。

ここにいようと思ったのだけど、流石にそれはあれかな。
いい加減戻ろうと思ってたけど、どうも、戻りにくくて。
気がついたら、あたしは。

それでも何故かお城に戻ってきてて、ベッドで眠っていた。
眠れないのは、広すぎるから、一人きりだから。
それでもその日からあたしはちゃんと眠れるようになったの。
トビィがくれた、この飲み物のお蔭だろう。
気が楽になるんだよね、美味しいし。
トモハルがくれるお水を沸かして、これで割って。
下手なお酒より、よく眠れる。


夢を見た。
トモハルは、毎日あたしの手を握ってくれてた。
あったかくて、大好きな手だ。

夢に思えなくて、毎朝目が覚めるのだけど、隣にはやっぱりトモハルはいなくて。
夢なんだ。

・・・あたし、夢にトモハルを出すほど、渇望しているんだろーか。
・・・わぁ、キモイ、あたし。

手を、見つめた。
・・・トモハルの手が、懐かしい。
仕方ないので、毎晩見る夢で、トモハルの手を握り返した。
強く、握り返した。

あたしは。
何をやっているんだろうか。
誰か、教えてくれない?

おねーちゃんなら、きっと、教えてくれるのに。
トビィ。
早く、おねーちゃんをなんとか元に戻して。

そういえば、出掛ける時はメモを残して行くんだっけ?
トモハルと約束してたから、適当に書き殴り。

『お出かけしてくる。・・・お空のお城に』

書いたメモを、部屋の机の上に置いておいた。
今日もトモハルはメイドに囲まれて、楽しそうだった。
何が楽しいんだか。
あたしは、横をすり抜けてお城を出たの。
後ろでトモハルが呼んだ気がしたけど・・・振り返るもんか。

天空のお城に、図書館があった。
おねーちゃんが書いた色々が保管されていると聞いて、読みに来たの。
国の特色が書いてある本とかね、色々だ。
適当にぶらぶらと、図書館を歩き回る。
ふと。

「・・・?」

気になる本が一冊、あった。

おねーちゃんが書いた本だった、各国の特色とか書いてあるけど、基本はこれ・・・。
飲食店とアパレル関係のガイドブックだ。
流石、うん、わかり易い。
でも、図書館に保管しておくものでもないよねぇ・・・。
パラパラとめくった、さらさらと、目を通していく。
本の残り三分の一、そこから急に内容が変化した。

日記。

おねーちゃんの日記だと思われるー。
真剣に読もうと思って、床に座り込んだ。
ふかふかの絨毯だから、あったかいし気持ち良いし。

『素敵なお友達がたくさーん、いるのです。
長い黒髪が素敵なのは、巫女さんで哀ちゃんといいます。
優しくて責任感が強い子なのですよ、龍に仕えているのです、真っ白い龍に。
お水のような青い髪が印象的なのは、ユーリエル様。
言葉遣いがユニセックスな感じですが、美女様なのです。
とても、仲良し、大事な子。
一見クールで、話すとお茶目な方なのですよ。
銀髪がきらきらしてるのは、みやちゃん。
大きな羽根がふかもこで、ぎゅーすると、埋もれますです。
しっかりしているのか、おっちょこちょいなのか、可愛らしいお方です。
そして、色々物知りさん。
そんなこんなで、上半身裸で目隠ししている不思議な神様のいる世界で、日々アサギは生活しているのですがー。

記憶が、思い出せませんですよ。
・・・思い出さなきゃいけない気がするのですがー。

あ、それから。
素敵な人を見つけてしまったのです、ギルザさんというのです。
仲良く、なりたいのですよ』

・・・なんだ?
上半身裸の神様?
目隠ししてるって?
何の話?

あたし。
気になってそこから読み出したら、おかしな事に気がついた。
日記なの、これ。
日記だけど・・・。

いつ書いた日記、これ。

これ、ひょっとして・・・。

「げ、現在進行形・・・?」

気づいたと同時に、それを持って走り出す。
やりかねない、おねーちゃんなら、やりかねない。
これは、日記だ。
おねーちゃんが、自分の居場所を知らせる為に置いていった日記だ。
書かれている内容はきっと、現在のもの。
おねーちゃんが居る場所の話だと、あたし、直感したの。

「トビィ、トビィ! 見つけたの、解ったの!」

無我夢中で図書館を出て、トビィに会う為に城を疾走する。
途中人にぶつかりそうになったけど、それでも懸命に。
けど、あたし吹き飛ばされた。
壁に叩きつけられる瞬間に必死で空中で停止して、壁を蹴って地面へ戻る。
爆音。
阿鼻叫喚の混乱の場に立ち上る一筋の煙、その場に居た人達は一斉に戦闘態勢に入ってた。
舌打ち。
面倒な事になった。
煙の中に、誰かの人影。
あたし、そっと武器のフィリコを握り締める。

「・・・どうしてお前がそれを持ってるんだ?」

声に思わずあたしは鞭をふるってから、魔法を詠唱。
得意な火炎の魔法だ、”あいつ”と互角にいける・・・はず。
後方でトモハルの叫び声が聞こえた、振り返らずにはっとしたら。

「かはっ!?」
「それはオレのアサギの武器だろう? どうしてお前が持っているんだと聞いている」

何時の間に移動したのか目の前にトランシス、あたし、首を掴まれ持ち上げられていた。
宙に浮いた足でトランシスに蹴りを入れた、けど力が入らないので全く怯まない。
ちょ、くる、しっ・・・

「質問に答えろ、マビル」

頭が、ぼーっとする。
答えろって、いわれて、も。
霞む瞳で、トランシスを見た。
見下すように笑いながら、楽しそうに首を締める力が強まって。

「離せよっ」

トモハルの声を聞いた気がする、けど。
あたしは、トランシスから解放されない。

「マビルを離せよっ」

トモハルの、声が聴こえる。
凄い音がして、見れば壁にトモハルが叩きつけられていた。
も、だめ。
意識が・・・。

暖かい空気を感じてあたしは重たい瞼をこじ開けた。
目の前に、知らない顔。
口々に安堵の溜息を漏らす人々に囲まれて、あたし起き上がる。
回復魔法を唱えてくれたみたい、だね。

「くはっ! っ、はぁはぁ・・・。あんのヤロー・・・」

急に、むせた。
口の中に鉄の味、思わず口元を強引に拭うと、差し伸べられた手を払い除けて起き上がる。
お腹、気持ち悪い。
思わず顔を顰めて、擦りながらトランシスを睨みつければ。

「油断するな」
「うっさい、トビィ! ちょっと気を抜いただけっ」
「戦えるな? 封印を施す」
「当然」

トビィが来たからあたし、解放されたんだろう。
並んで武器を構える、それはそうと・・・トモハルは何処だ。
なんて奴、なんで役に立たないの!

「ねぇ、何で暴れ出したの?」
「調査中、ともかく気を抜くな」

監禁されてたんじゃないの? どうして出てこれたの?

「デズデモーナ、援護に入れ」
「心得ております、トーマ殿にも連絡済みですので、彼さえ到着出来れば封印が出来ますね」
「それまで時間稼ぎ、か・・・」

あたし達はトランシスを囲むようにして間合いをとった、何時の間にかトモハルも復帰してあたしの反対側に居る。

「・・・トビィにマビル、で、トモハル。申し分ないメンバーだ。
誰か一人、殺せば多分アサギが出てくるよね」

あたし達の顔を見渡しながら、恍惚の笑みを浮かべてトランシスは笑い出した。
本当に、愉快そうに。
それを待っていたように。
不愉快だ、ホント。
狙いはそれか、あたし達を囮にして、おねーちゃんを引きずり出すって戦法か。
・・・なんて奴だ。
っていうか、おねーちゃんの居場所は誰も知らないんじゃないの?
あたし、それで視界に入ったものがある。
本。
さっき図書館で見つけた、おねーちゃんの日記。
あれが手がかりになる・・・はず。
トモハルの右に転がっているの、あれを確保しなきゃいけない。
あたしは思わず手中の鞭を強く握り締めた、引きちぎれるくらいに。

「マビルは、極力援護だ。前線に出るとは考えなくて良い」
「うっさい、トビィ。あたしもいけるよ」

トビィの意見を無視してあたし、思わず跳躍して鞭を振るう。
馬鹿にするな、あたしを誰だと思っているの?
さっきは油断しただけ、トビィの次にあたしが現時点では強いはずなの。
笑みを絶やさずに鞭を受け止めるでもなく、立ち尽くしているトランシス。
ムカツク。
叫んで思いっきり鞭を叩き付けた、手ごたえ、あ・・・。

「おかえり、マビル」

耳元で、声。
器用に剣で鞭を弾いたのか、あたしはまたもトランシスに首を捕まれる。

「学習能力ないなぁ・・・」

ぎゅぅ、って、首が絞まる。
くる、しっ!
おかしい、あたしはこんなに弱くないの、に。
耳元で、声がする。

「大丈夫だよ、マビル。殺しはしない、・・・まだ。
・・・ほら、トモハルが助けに来てくれるから大丈夫だよ。
”好きなアサギに頼まれたから、マビルを護らなきゃいけないトモハル”が、来てくれるよ」

思わず、意識が戻った。
瞳を薄っすら開けば、言葉通りトモハルがこっちへ向かってきてる。
・・・やめなよ、勝てないよ。
トビィじゃなきゃ無理だよ。
というか、来て欲しいけど。
・・・来て欲しくない気もするのは、なんで?

「あぁ、来た。忠実だな、トモハル。
アサギの為に、マビルを助けるよ」

その、トランシスの声が。
気持ち悪い、なんでそんなに楽しそうなの。
トモハルの、声が聴こえて。
トランシスの絶叫が、聴こえて。

「しっかりしろ、マビル! 解るか!?」

あたしは。
トモハルに救出されていた。
おかしい。
コイツ、トランシスに勝てるほど強くないのに。
あたしのほうが、強いのに。
心配そうにあたしを覗き込んで、必死に回復魔法をかけてくれている。
・・・あぁ、そんなにあたしが大事?
おねーちゃんの、妹だから。
自分の限界を超えて、あたしを助けてくれたの?
あたしに何かあったら、おねーちゃんに申し訳たたないから。
あたし、自力で立ち上がってトランシスを睨みつける。
誰の攻撃であぁなったのか知らないけど、腹部から流血中だ。
トビィと交戦してるから、今ならあたしだって出来る。
あたしだって、傷を与えられる。
トモハルの手を振り払い、鞭ではなくて詠唱に入った。
でも、後ろから中断させるように強い力で引っ張られて。

「ちょ! 何すんの、トモハル」
「本調子じゃない、暫く休憩。・・・狙われているんだ、危ないから」
「はぁ!? 馬鹿じゃないの、あんたのほうが危ないでしょ」

再度手を振り払って詠唱に入ろうとした、けど、振り払えない。
力が、思いの外強くて。
あぁ、イライラする。

「ウザっ! 離してよっ」
「いいから大人しく護られてろよ!」

あたしは、怒鳴り声のトモハルにそのまま引き寄せられて抱き締められて。
こ、こいつっ。
・・・こんなに、力あったっけ?
いつもあたしに振り払われていたのに、へ、変だな・・・。

「ナイト、ご苦労様」

トランシスの声が間近に聴こえた、背筋が凍りつく。
トビィはどーした、何してんのっ。
あたしを抱きかかえながら、トランシスと互角に戦うなんて無理に決まってる。
けど。
あたしは、以後怪我一つ負わなかった。
到着したトーマも含めて、四人で封印を施すまで、ずっと。
トモハルが抱き締めて護ってくれていたので、何もなかった。

嬉しいのか、哀しいのか。

トランシスを再度押し込めるべく、二人で詠唱に入った時、トランシスと目が合った。
愉快そうに、笑っていた。
あたし達を見て、笑っていた。
何が言いたい、あいつは。
・・・気に食わない。
睨みつけたら、トランシスは。
・・・一瞬だけ、悲痛な表情で何か言いかけたけど。
また、爆笑し始めたんだ。
トモハルを見たら、あちこちが傷だらけだったから。
一応回復魔法を唱えてあげた。
あたしが無事なのを確認して、力なく倒れ込むトモハルだけど。
・・・満足そうに微笑んだまま、あたしを見て。

「よかった、無事で居てくれて」

そう、呟いたから。
優しい笑みと、静かな声に思わずあたしは本を探しに走り出す。
や、なんか恥ずかしかったから。
・・・苦手なんだ、トモハルのあの笑顔。
本は、先程の戦いで燃えてなくなってしまっていた。
・・・トビィに詳細を話したら、おねーちゃんが見つかった事を知ったの。
でも、記憶がなくて、クレシダが今、護衛でそっちに居るらしい。
トランシスはひょっとして、それを感知したのかな。
捻じ曲がった愛情だけど馬鹿みたいに一途だから、それで、気づいたのだろうか。
だから、封印を破って、出てこれたのだろうか。
無茶苦茶だけど、凄いと思う。
・・・。
そんな傍迷惑な愛情や行為は要らないけど、さ。
強いんだよね、想いが多分。
・・・少しだけ、羨ましかった。
何が羨ましいのか分からなかったけど、さ。
誰が羨ましいのか、わからなかった、けど、さ・・・。

それは、数日後の事だった。

「マビル!来月の14日なんだけどここを予約したんだ。
ご飯食べに行こう。
ほら、マビルの好きなものばかりだろ?」
「・・・14日?」
「うん。バレンタインだよ」
「ばれんたいん? ・・・あぁ、あの、地球でチョコを渡す日ね」
「うん、ほら、これさ、コンサートもあってね、有名なシェフの料理が食べられるんだって」

にこにこしながら近寄ってきたトモハル、チラシをあたしも受け取ってじっくり見た。
・・・美味しそう。
嬉しかったけど、あたしは。

「っていうか、何? その日にトモハルもチョコが欲しいって? いっつもいっつも、勝手に予定決めて・・・」
「チョコが欲しいわけじゃないよ、マビルが好きそうなメニューだったから」

苦笑いして、頭を掻きながらそう言うトモハル。
・・・素直にチョコが欲しいと言え。

「あたし、忙しいの。気が向いたらね」
「よ、予約はしたんだ。人気があるっていうから、急いで。
・・・一緒に、行こう」
「あーもー、この間束縛しないって、言ったの、誰なわけ?」

あたしは、トモハルを突き飛ばしてそのまま部屋へ戻った。
嬉しかったんだ、嬉しいんだ、一緒にお出かけ。
でもさ、とても、恥ずかしかったから。
なんか、恥ずかしかったから。
部屋に、籠もった。
籠もって、あたしは。
慌ててクローゼットを漁る。
いや、服を・・・。
決めなきゃ、って思って・・・。
トモハルが買ってくれたドレスがたーくさん、ある。
何を着よう、どれにしよう。
あたしは、なんだか楽しかったので、一日部屋で一人で着せ替えして遊んでいた。
クロロンとチャチャが後ろで、可愛らしく、啼いていた。
し、仕方ないな、行ってあげるよっ。
ちゃんと、行ってあげるよ・・・。

夜、一人で眠っていると。
毎晩夢を見た。
トモハルが隣に居て、頭を撫でていてくれるんだ。
それが嬉しくて、ちゃんとお城のこの部屋で眠るようにした。
ここじゃないと、この夢が見えないんだ。

でもね。
あたし、見たの。
聞いたの。

「大丈夫、必ず護るから・・・!」

クロロンがさ、やんちゃでさ。
お城の裏側の変な場所に入って行ったから、追いかけたの。
トモハルが。
メイドを抱き締めていた。
正面から。
メイドは、泣いてトモハルにしがみ付いていた。
大声で、泣いていた。
何度も大丈夫だ、と囁くトモハル。

「オレがついてる、そんなに泣かないで」

・・・。
真剣に、そのメイドを励まし、落ち着かせるように優しい声で、ぎゅっと抱き締めて。
あたしは。

イライラしてしまうのは、何で?
急に足元から力が抜けたのは、何で?
唇が乾いて、手が震えているのは、何で?
すーって、頭が冷えていったのは。
何で?

あたしは、何処をどう走ったのか覚えてないけど。
手に、大好きなブランドの袋。
中身は、新作のバッグ。
どうしたのかって?
買ったわけじゃない、あたしが自分で買うわけない。
買ってもらったの、さっきまで遊んでいた人に。
お金持ちー。
かっこいいー。
おねだりしたら、買ってくれたー。
わーい。

深夜、あたしはお城へ戻った。
戻ったら、深夜だというのに、メイド数人とトモハルが食堂で会話中。
お茶飲みつつ、和気藹々と。
あたしの姿を見かけたら、メイド達はそそくさと散らばってさ、トモハルと二人きりになったんだよね。
これ見よがしに、あたしはバッグを大事そうに抱えてみた。
あのね、あたしね。
物凄くイライラしているの。
昼間のトモハルがフラッシュバック、良く考えたらさ、なんだ、あのメイドが本命?
静まり返った食堂、お水を飲みに来たの。
無言でお水を飲んでいたら、トモハルが話しかけてきた。
観るのも面倒だったから、視線を合わせずにお水を一気に飲む。

「おかえり。遅かったね」
「うん、まぁね」
「・・・そんなバッグ、持ってた?」

ちらり、と見たらトモハルは非常にこのバッグに興味を示しているようで、なんかさ躊躇いがちに言うから。
何だこいつ、あたしのバッグを全部把握してるの?
きーもーいー。
本命の女が誰だか知らないけどさ、非常に不愉快だ。
あたしのこと、詮索しないで欲しい、干渉しないで欲しい。
本命がおねーちゃんなら、非常に殺したいくらい、ウザイ。
ほいほい女に甘い言葉をかけて抱き締めて、胸で泣かせるなんて、さ。
冗談じゃない、叩き潰したいくらい。
あたしね、物凄く怒っているの。

「これ? 可愛いでしょ、新作なの」
「そっか、新作かぁ・・・。言えば買ってあげたのに」

買わなくていいよ、要らないから。
あんたがくれる物なんて、大事に出来ないから、要らない。

「彼氏が買ってくれたの」
「え?」

そうだよねー、トモハルお金持ちだもんねー。
バッグくらい、買えるよねー。
でもさ、あたしさ。
物とか美味しいものを与えられていれば、ほいほい傍にいてごろごろしている女じゃないんだー。
残念でしたー。
あたし、本当にイライラしているの。
だから、思わずそう言ったの。
あたし、思ったんだけどね。
おねーちゃんに護るように言われてさ、護ってるつもりで匿ってたのかもしれないけどさ。
トモハルがいないと、あたしは生きていけないとか思われてたりする?
・・・冗談じゃない、なんという侮辱ー。
目の前のトモハルを観たら、いつも通りにへらーと、笑っていた。
嘲笑いか。
あたしに彼氏なんか居るはずもない、って思っているのか。
あたし。
冗談抜きで、今、この目の前のコイツを。
・・・殴って蹴って、殺したいと思った。
あたしが昼間感じた、物凄く嫌な感情。
それをコイツにも味あわせてやりたいと、思った。
どうすれば、そう思う?
・・・あ、そーだ。

「・・・すごく、かっこいい人なの。サラサラの髪に鋭くて綺麗な瞳、唇の形が超好みでスラッとした長身、細身だけど筋肉質で逞しくて、足も長いグッドルッキングガイ」
「・・・」

あたし、思い出すように瞳を閉じてうっとりとバッグを抱き締める。

「それにキスが蕩ける位に上手でー、・・・誰かさんと違ってさ。
もー、あたしメロメロー」

瞳を開いて、鼻で笑ってやった。
コイツは大きく身体を引き攣らせて、硬直している。

「えっちも上手なプレミア級のイイ男なのー」

硬直したまま、微動だしないコイツ。
何か反応しなよ、つまんないなぁ・・・。

「眠るときなんて、ぎゅーって真正面から抱き締めて、あたしが眠るまで起きて頭を撫でていてくれるのー。
素敵でしょ? それがまた気持ちいいんだー。
手を繋がれるだけだとウザイけどさ、そうされると”大事にされてる”って感じるのー。
もー、あたし、彼氏、好き好きー、大好きー」

きゅんきゅん。
飛び跳ねてみる。
あたし、コイツの顔を覗き込んだ。
・・・なんだ、普通じゃないか。
何故か、胸に痛みが走った。
? 何で?
どうしたら、あたしは納得したんだろう。
目の前で、何も言わないであたしの話を聞いているコイツ。
余計、イライラした。
何も言わないから、イライラした。

「というわけで、あたしが居ないときは彼氏と遊んでるからー。
護って貰って、可愛がってもらってるからー」

バッグに、口付け。
あたし、もう顔も見たくなくて食堂を出ようとした。

「そうか」

後ろから、声がしたけど振り返らなかった。

「そうだよ、ばいばい」

それだけ言って、食堂を出る。
部屋に戻る。
ばれんたいんとやらの食事会で着ようとしていたドレスがベッドに転がっていたから、クローゼットに投げ入れた。
要らない、というか、時間返してよ、服選んでた時間。
馬鹿みたいに浮かれていた、あの時間。
ものすごーく、無意味。
あぁ、余計イライラした。
お風呂に入った。
ベッドに入った、瞳を閉じた。
クロロンとチャチャを抱いて、眠った。
・・・イライラする。
何、アイツのあの態度は。
平然として、怒鳴りもしないし、泣きもしない。
つまんない。
あたしのこと、好きなら「何処の誰だよっ」って訊いてもいいじゃんね。
トランシスなら多分、その相手を聞き出して殺しちゃうよね。
そんなに、あたしの存在は。
どうでもいいものなの?
あぁ、イライラする。
イライラするのは、アイツがあたしに対して無関心なクセにおねーちゃんへの忠義心だか恋愛感情だかで、美味しいものと高い物、お城まで用意してくれたけど。
はっきり言って、迷惑だ。
あぁ、イライラする。
気持ち、悪い、よ・・・。
眠れないよ。
今日は夢に出てこないでね、夢の中までイライラしたくないから。
何度かベッドから出て、お水を飲んだ。
でも、眠れない。
少し寝れた。
・・・でも、起きた。
明日から、どうしよう。
彼氏がいるなら、あんまりこの城にいないほうがいいよね。
何処へ行こう。
何を、しよう。
急に、不安になってしまった。
ううん、平気だ、一人でやれる。
あたしは、気にせず生きるんだ。
あんなののコトなんて、気にしないで。
今日だって、直ぐに声をかけられた。
大丈夫、あたし可愛いからー。
けっこんゆびわ、とやらを外して放り投げる。
窓か壁に当たって、カン、って音がして転がって何処かへ指輪消えた。
だって、要らないもーん。
あたし、彼氏出来たんだからー。
思い知らせてやらなきゃね、アイツに。
あたしはこんな窮屈な場所で、飼い慣らされる為に産まれて来たわけじゃない。
そうだよね、確かにあたしとイチバン親しいのはアンタだよね。
あたし友達いないしね。
おねーちゃん、いないままだしね。
でもさ、だからって一緒に居る義理はないよね。
ベッドの上で、寝返り。
涼しそうな顔のアイツが、憎い。
本当に、憎い。
どうしてあたしばっかりが、苦しい思いをしなければいけないのか。
そもそも、何故苦しいのか。
別に、好きじゃないから。
好きじゃないんだから、絶対。
イライラする。
眠れないあたしに、イライラする。
イライラするアイツを思い出したくないのに、思い出す。

サラサラの、栗色の髪。
垂れ目だけど、瞳を細めると鋭くなってかっこよくなる目。
唇の形が綺麗でさ、一回しか知らないけどキスが上手いんだ。
足だって長いし、昔に比べたら身長も伸びた、すらっとしてて結構お洒落さん。
・・・知らないけどさ、きっと優しい抱き方をするんだろう。
一生懸命で、前向きに取り組む姿勢。
ただ、八方美人というか、女好き。

・・・。
きもち、わる、い。
ねむれ、ない。
どうして。
どうして「妻なんだから彼氏作るな」って、言ってくれないの?
あたし、何なの?
あぁ、そして、そんなこと言われたいらしいあたし、大嫌い。

仕方ないのであたしは、翌日から頻繁に戻らない日を作った。
時折帰ると、部屋にプレゼントが置いてあった。
毎回、戻るたびに何かが置いてある。
こんなことするのは、アイツしかいない。
中身は様々で、思わず失笑。
物で、どうにかなると思っているその考え、どーにかしたらどうなんだろう。
あたし、可愛いので。
色んな人がこぞってあたしに押しかけた、あは、気分いい。
貰った物を、わざとアイツに見せ付けた。
アイツは、あの日以来急に干渉しなくなって、ホント、どうでもいいみたいで。
肩の荷が下りた?
あたしの子守しないで済むから、楽なのかもしれない。
いつ見ても、メイド達と楽しそう。
肩も抱いて何か話してる。
・・・あー、やだやだ。
昔のあたしの小屋に、寝床を作ってそこに居た。
寒いし、寂しいし。

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